「エア!!!」
咄嗟に叫ぶ。理解していた、認識していた。
作ったのは自分だ、そういう風に調整して、そういうコンセプトで生み出した。
だから初手、種族値を考えればエアならば先手を取れる。
「りゅうせいぐん!」
轟々と、館の天井を突き破って、流星が降り注ぐ。
「キシャシャシャシャシャシャシャ」
シャンデラが…………シャルが嗤う。
直後、流星がシャルへと降り注ぎ、轟音と共に、完全にその姿を飲み込んでいく。
「…………シア、ハルカちゃんを」
「分かりました、マスター」
シアが階段の脇にいたハルカを連れて戻って来る。
それから視線をスリープへと向け…………切り捨てる。
少なくとも、助ける義理は無い。
生きていたら助けるが、途中で死んだならばそれはそれで片づける。
現状最も優先すべきは、ハルカの安全であり、二番目はシャルを大人しくさせることだ。スリーパーのことはその次で良い。
「…………マスター」
エアが、苦々し気な表情で、自身の名を呼ぶ。
「
その言葉と共に。
「キシャシャシャシャシャシャシャ」
「…………最悪だ」
「…………エア、当てれる?」
「まだギリギリなら、ってことね」
「やれ」
「了解…………ね! じしん!」
全体攻撃故にハルカを確保せずには使えなかった技だが、もう遠慮する必要も無い。
一番命中率の高い技を狙っていき…………。
ふわり、と大地が揺れるポイントからするりするりとシャルが抜け出していく。
そうして。
「キシャシャシャシャシャ」
また一回りか二回り、
シャンデラと言うポケモンを使ってみると分かるが。
圧倒的な高火力の割りに意外と耐久も高い。だがそれは相手のエースの攻撃を受けたり、タイプ一致で放たれた弱点攻撃に耐えれるほどでのものでもない。
だから、そもそも攻撃を受けない、被弾を極力減らす方向性で自身は彼女を作った。
積んでいる技はかえんほうしゃ、シャドーボールの攻撃系と。
そして持たせたのはひかりのこな…………無条件で相手の命中を0.9倍にできるどうぐ。
積めば積むほどに害悪となっていくシャンデラ…………それが自身がコンセプトとしたシャルと言う少女だ。
最終的に命中100の技を7割弱の確率で回避しながら、みがわりを張って、伝説並の種族値から来る火力をもってして一方的に相手を叩くことができる、そう言うコンセプトを持ってして生まれてきた少女だ。
故に、真っ先に、最初の一手目、速度で勝るエアで叩くのが唯一の正解だったのだ。
たった一度積ませるだけで、命中100の技が途端に六割を切る。
だからこそ、この展開は分かり切っていた。
最初の一撃、りゅうせいぐんを外した瞬間。
たった19%の敗因を引き当てた瞬間に。
この展開は分かり切っていたのだ。
* * *
「…………自分で作ったポケモンだけど」
改めてその脅威を実感する。
自身の目の前には、すでに幾度もの攻撃を受け、ズタボロになったエアの姿。
これまで自身のエースとして絶対的な強さを見せつけてきた少女が一方的に負けている姿と言うのは中々に来るものがある。
「…………仕方ない」
そう、仕方ない。これはできればやりたくなかった方法だ。
だが、はっきり言ってこれは無理だ。
極限までミニマム化した上にみがわり状態の今のシャルに攻撃を当てることのできる想像ができない。
リアルな世界になったことで、システム上は命中100技ならば3割程度の命中率があるはずなのだが、それすら無くなっている。そもそも小さすぎて視界に映すことすら困難になっている状況だ。
このままでは全滅は必須だ…………エアを信じたいが、けれどこの状況で任せるのは信じているのではない、ただ投げ出しているに過ぎない。
「エア、積め…………シア、悪いけど、前に出て」
指示を出す。エアにりゅうのまい、そしてシアにはその間の時間稼ぎを。
「ねがいごと」
指示通り、ねがいごとをしながらシアが前に出る、当たり前だがこおりタイプのシアとほのおタイプのシャルでは完全に相性が悪い。
すでに五度、六度とかえんほうしゃを受けてエアがまだ立っているのはドラゴンタイプの半減効果のお蔭と言える。
「キシャシャシャシャ」
シャルがこちらを嗤いながら指先から炎を生み出す。
かえんほうしゃ
吹き出た炎がシアへと降り注ぐ。
上から下への一方的な蹂躙。繰り返されているのはそれだ。
「シア」
れいとうビーム
射出された冷気が炎をぶつかり合い…………
ターン制のゲームならばこんなことはできない、だが現実にターンなど無い、相手は待ってくれないし、自身だって待つ必要も無い。命中100の技だからって当たってやる必要もないし、命中が低い技だからと外してやる必要も無い。
攻撃に攻撃をぶつけて相殺しても良いし、今のように火力が違えば打ち破ることも打ち破られることもある。
リアルだからこそ、できること。リアルだからこそ起こりうる状況。
必然、トレーナーに求められるものはゲーム時代とは異なってきている。
故に、これもまたその一つに過ぎない。
「エア」
「……………………おーけい!
りゅうのまいを、限界いっぱいまで積んで、積んで、積んで、積んで、積んで、積んで。
そうして。
じ し ん !!!
放たれるのは限界を超えた一撃、対象はシャル…………
「全部、全部、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ…………
轟々と大地が脈動する。揺れている、などと言う生易しいものじゃない。
大地から館を引き抜かんばかりの振り上げ、そして振り上げた館を叩きつぶさんばかりの振り下ろす。
単調な上下運動ながら、その規模は、威力は凄まじいの一言に尽きる。
最初の一振りで、あっさりと、館の屋根が崩れ堕ちた。
次の一振りで壁に亀裂が走り。
トドメの一振りで柱が崩れ。
そうして
崩れ落ちていく館から次々とゴーストポケモンたちが逃げ出していく。
そうしてそのまま天に昇るように、虚空へと突如消える。
次々と、次々と、次々と。
そんな中で、シャルは完全に硬直していた。
上から落ちてくる瓦礫の山。
右へ行こうと、左へ行こうと。
しかもこの数と大きさ、みがわりなど本当に時間稼ぎにかならないことを理解しているかのように。
「…………よう、シャル」
そして階段下で呟く自身の言葉に、シャルがぴくりとこちらを見る。
「知ってるか? ちいさくなる使うと、特定の技が必中かつダメージ2倍になるってよ」
瓦礫が迫る。瓦礫の山に押し潰される。
「
その言葉と同時、瓦礫の山がシャルに降り注いだ。
* * *
「…………はは、生きてるや」
思わず苦笑してしまう。そしてそんな自身の笑みに、エアが一つ、ため息を吐く。
「あのね…………私が助けなかったら本気で死んでたわよ」
「分かってるよ…………ありがとう、エア」
崩落する天井や壁を弾き、逸らし、そして一瞬の隙をついてハルカと自身を連れて飛んでくれた少女に礼を告げる。
宙を浮遊する感覚に、少しだけ戸惑うが、エアがしっかりと掴んでくれているので、それほど恐怖は無い。
ゆっくりと高度を下げ、地面が足と接すると、それでもやはり少しだけ安堵してしまうものがある。
「ハルカちゃんは…………大丈夫そうだね」
「寝こけてるわね…………この状況で。随分と大物になりそうだわ」
やれやれ、と言った様子で呆れた声を出すエアに、くすりと笑う。
「アンタも…………気をつけなさい、本当に死んでたかもしれないんだから」
「それは大丈夫さ…………だってエアのことは信じてたから」
「はあ?」
何言ってんだこいつ、みたいな目でこちらを見てくるエアに笑って告げる。
「
その言葉に、エアが数秒、絶句し。
「…………そう言うの、卑怯」
少し不貞腐れたように、けれど少しだけ頬を赤らめながらエアが顔を背けた。
「っと…………そうだ、シア大丈夫?」
咄嗟にボールに戻したシアを再び出すと、少しぐったりした様子のシアが顔を上げた。
「ええ…………まあ、なんとか、と言った感じはありますが」
「そっか…………良かった」
シアの言葉に安堵し、笑みを浮かべ…………そうして崩落した館へと視線を向ける。
直後、ぼごっ、と瓦礫が動くような音がする。
「?!」
「!!」
「待った」
エアとシアが咄嗟に臨戦態勢に入り…………それを手で制する。
「ハルト!」
「マスター!」
二人の言葉を無視しながら、一歩一歩、歩きながら動いた瓦礫の元…………。
シャルの元へと歩いていく。
ごとり、と瓦礫がずれながら脇へとどけられ、中からシャルが姿を現す。
だがその動きは精彩を欠いていた、当たり前だが建物の崩落に巻き込まれたダメージは甚大だ。
多分大丈夫だろう、と言う予測はあったが、それでも一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
だがそうでもしなければ、シャルを止めることはできなかった。
「仮にも…………仮にも自分のポケモンなんだ」
仮にも6Vポケモンだ。
「この程度で死ぬなんて、思ってなかったさ」
どうにかして生き残るだろう、とは思っていた。
シャルが、光の無い瞳でこちらを見つめる。
その指先に炎が宿り。
「シャル、捕まえた」
それよりも先に、自身が投げたモンスターボールがシャルを捉えた。
* * *
シャルは無事捕獲された。
面白い話だが、ナビで捕獲したエアやシアの情報を見ると、親の名前に自身が登録されている。
つまり、一度野生に還った状態でも、
つまり自身が投げたボールは
現に、シアと言い、シャルと言い、ボールに入れたら一度の抵抗にあうことも無く捕獲が完了している。
恐らくこの辺りの考えは正しいのではないかと思う。
つまり、本来ならば戦う必要は余りない。だが一度大人しくさせなければ、大人しくボールを投げさせてはくれないだろうし、そもそもボールを
この辺りはゲーム時代との違いだろう、ポケモンもボールを投げられれば捕獲される可能性を知っているのだ。なのでむざむざ投げさせないし、投げてもすぐさま避けようとする。なので捕獲と言う作業自体はゲーム時代よりもやや厳しくなっている。
つまるところ、やることは今まで何も変わらない。
一度倒すかどうかして、身動きできないようにして、ボールで捕獲する。
つまり、ゲームでの捕獲と同じようなものだ。
「しかしこれで三匹か」
エア、シア、シャル。
今まで一度もそんな話聞いたことも無かったし、遭遇したことも無かったはずなのに、探し始めた途端に次々と戻って来るこの都合の良い展開は何なのだろう。
いくら考えても答えは出ない。
だったら、今は良い。どうせ考えても分からないなら、分かるまで待つ。
とりあえず今は…………。
「疲れたあ」
どさり、と全身を投げ出し、森の土の上に寝転がる。
森の中を複数人がこちらへと走って来る音が聞こえる、近い。
恐らくは父親が連れてきたジムトレーナーたちだと思う。
あれだけ派手に館をぶち壊したのだ、さすがに分かりやすい目印となっただろうことは予想できる。
これでようやく一件落着。
そう考えれば途端に全身を気怠さが襲い、思わず欠伸が漏れ出た。
「だらしないわね」
「ふふ、お疲れさまです、マスター」
二人もどうやら大分回復してきたようだし。
とにもかくにも。
「お疲れ、二人とも」
一歩、また前進だ。
シャンデラちゃん、ゲットだぜ(ロリ可愛い)。
そして忘れ去られた男ロリ―パー。