ポケットモンスタードールズ   作:水代

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日常話 イナズマとリップルの場合


 とても珍しい組み合わせだ、と少女、イナズマは思った。
「いや、単なる余り物組ってことかな?」
「そーかもねー」
 間伸びした声で、頷くリップルに苦笑しながら、並んで商業の街を歩く。
 キンセツシティはホウエンでも一、二を争うほどに発展した街だ。
 街一つをそのまま商業ビルに改造しているのだから、その巨大さは規格外といっても良い。
 こと一つの施設としての規模としては世界でも一、二を争うのではないかと思えるほどだ。
「エアはシアと一緒になって料理作ってるし」
「シャルもちーちゃんもカイナに行っちゃったし」
 要するに暇なのだ。

 いや、自身たちの主からの言葉もあるので、決して遊んでいるわけではないが、けれど矛盾しているようだが暇なのだ。

「やっぱこうしてみると凄いよね、人の街って」
「そーだねー」
「この街は色々なところに電気が通ってるから、何となく安心感があるんだよね」
「そーだねー」

 『でんき』タイプのポケモンの性だろうか、身近に電気の感じられる環境というのはどこか安心する。逆にいつかの洞窟の中や森の中、水の中など電気が感じられない自然環境の中というのはどうにも落ち着かない。
 だが自身と同じ種は普通に草むらにいるし、電気の無い場所でも普通に暮らしている。それはつまりそれだけ自身が人間の生活範囲に慣れて…………適応してしまっているということなのかもしれない。
 今更野生には帰れないな、と思うと同時に、主の元を離れて野生に戻るだなんて想像すらできない。電気がどうとかいうどころの話では無い。

「うん、マスターのためにも、がんばろっと」
「そーだねー」
「……………………リップル?」
「そーだねー」

 先ほどから同じ返答ばかり繰り返す仲間に、ふと視線を向け。

「……………………何してるの?」

 こちらに背を向けて歩く少女の姿に違和感を覚え、思わず尋ねて。
 ふと、鼻孔が甘い香りを嗅ぎ取る。
「って、何か食べてるでしょ!」
「食べてない、食べてないよ」
 振り返る少女の手には何も持ってはいない。

 ただ、口の端に白いクリームがついていたが。

 視線を後方にやれば、通り過ぎて来た道の脇に『自家製モーモーミルク使用の特製ソフトクリーム』と書かれた屋台があって。

「……………………リップル」
「なーに?」
「私も買ってきていい?」
「じゃあ私ももう一つ」
「やっぱり食べてた!!」

 しまった、と口に手を当てるリップルに頬が引きつり。

「仕方ないなあ、私が奢ってあげるよ」
「え、いいの、かな?」

 いーよいーよ、と言いながらリップルが自身の手を引いてきて。

「自分で歩けるよ」

 苦笑して、その手を離す。

「いこっか、リップル」

 笑みを浮かべ、逆にリップルの手を引いて歩く。

 それがいつもイナズマがチークと居る時と逆の光景なのだと、本人すら気づいていないままに。

 引っ込み思案な少女のそんな成長に、リップルが優しい笑みを浮かべていることに。

 イナズマは終ぞ気づくことは無かった。




ひっさつ! はっけいアッパー!

 

「ようこそムロタウンジムに!」

 

 ジムトレーナー二人に勝利すると、そのままジムリーダーに挑戦するかどうかを尋ねられたので、挑戦すると頷く。

 ジムに備え付けられた回復装置にポケモンを預けて三時間。

 それほどダメージを受けてなかったエルとサナの二体は先に回復が終わり、奥へと通される。

 ヴァイトとルドの回復はまだ終わっていなかったが、元々ジムリーダー戦で二体を使うつもりも無かったので構わなかった。

 そうして通された先は、スポーツジムか何かのような場所だった。

 

 その最奥で自身を待ち構えていた男が、こちらを向いて先のように告げた。

 

「久しぶりのジムへの挑戦者だったからね、ボクもうずうずしているよ」

 ぽん、ぽん、と手元でボールを弾ませながら、男、トウキが笑顔でこちらへと視線を向ける。

「それに、あのチャンピオンの唯一の弟子だっていうんだから、手加減はいらないよね?」

「ちょ、ま、待ってください」

 それじゃあ、始めようか、と告げるトウキに、思わず口を挟む。

 そんな自身の様子に、トウキが首を傾げ。

「いや、そんな不思議そうな顔しないでくださいよ…………()()()()()()()()()()()()()?!」

 

 バトルフィールドというのは、基本的に大きな長方形型をしている。

 手前側にトレーナーの立つトレーナーゾーン。そしてそれ以外の部分がポケモンが戦うバトルゾーンとなる。

 フィールドは基本的に固められた土で作られる。

 地面を掘るポケモンなどもいる上に、地震を起こす技などもあるのでスタジアムなどでは特に、地底深くまで固められポケモンが掘り進める以外ではフィールドが壊れたりしないようにされている。

 まあ場所によっては例外もある。

 ルネシティジムなど、足場が不安定な水の上だったりし、ジムごとに違いは確かに存在する。

 

 ただ基本的にフィールド自体の変更はあっても、フィールド上に障害物は存在しない。

 例えば、土で固められたフィールドでも岩が転がってたりはしない。

 水の張られたプールのようなステージでも、水が濁っていることも無ければ天井が低くて水に潜らなければ移動できない、などということも無い。

 ポケモンジムにおいて、一方的にジム側に有利な条件というのは基本的に公平性を欠くという理由でリーグ側から忌避されることが多い。

 ジム側としてもそんな条件で勝ち続けても、挑戦者が減って行く一方であり、何の得も無い。

 

 だからこそ、理解できない。

 

 目の前に広がるフィールドに散らばる()()()()()()が。

 

「なんでフィールドがアスレチック化してるんですか!?」

 思わず叫んだ自身に、トウキがあれ? と疑問符を浮かべ。

「チャンピオンに聞いていないのかい? 今回試験的にジム戦にフィールド効果を導入してみようっていう話になってたんだけど」

「ナニソレ、聞いてない…………」

 原因が自身の師だと知り、思わず肩を落とす。

 

「普段とは違うフィールドでのバトルも良い経験さ」

「まあ…………そう考えることにします」

 

 朗らかに笑うトウキに、渋々といった感じで頷く。

 というか、師匠がそう言ったのならば、この条件でやれ、ということなのだろう。

 意識を切り替える。

 同時に先ほどまでの感情を引きずらないようにきっぱりと断ち切って。

 

「行きます」

「応ともさ!」

 

 互いにボールを投げた。

 

 

 * * *

 

 

「なにあのフィールド」

 観覧席で珍しくジム戦についてきた…………単に田舎過ぎて他にやることが無かったとも言う…………ハルカが目を丸くして呟く。

「アスレチックフィールドだよ。障害物をフィールド上に設置することで、互いの視界や動きが制限されるんだよ」

「見えないと指示出せないよね?」

「そこが今までのバトルとの違いだね。それに、アスレチックが邪魔になるから、動きも制限されるし、当てれる攻撃も当てれなくなったりね」

 

 吊り橋、とかターザンロープとか、足場は細い木板だし、下は水の張られたプール。ネットが階段のようになっているところもあって、試しに作っては見たけど、挑戦者が来ないせいで、ムロタウンの子供の遊び場にしかなってなかったらしい。

 通路にはところどころに高い壁があり、互いの視界は完全に遮られてしまっている。

 そのため、野外迷路のような細い足場を伝って相手に接近し、攻撃する。時には逃げて相手を撒くという今までのバトルとは全く違う戦い方を展開できる。

 

「フィールドカバーリング…………?」

 ぽつり、と呟いたシキの言葉に、ハルカがえ? と首を傾げる。

「シキはやっぱ知ってたか。元はカロスのほうが主流らしいしね」

 カントーやホウエンのバトル方式において、トレーナーというのは基本的にトレーナーゾーンに立って指示を出すだけだ。

 まあリーグなどに行くとどこも同じなのだが、カロスでは一般的にフィールドを半分に区切り、それらを上下としてそれぞれのトレーナーはフィールドの外周を移動しながら指示を出すことができるらしい。

 分かりやすく言うなら、ドッジボールの外野のポジションのような範囲で動きながら、内野、つまりポケモンに指示を出す。

 カロス地方でトレーナーの指示とはつまりポケモンの動きの補足(カバー)

 総称してカバーリング。フィールドを使って行うカバーリングだから、フィールドカバーリング。

 元々フィールドが平坦でなおかつ何も無い状況というのはカントーのほうからの伝統らしい。

 あちらは基本的に一対一で向き合って互いの技を出し合い、ぶつけ合い、比べあう決闘方式が主流だ。

 対してカロスでは通常のシングルバトルに加えて、ダブルバトル、トリプルバトル、ローテーションバトル、さらにはスカイバトルなど様々なバトル方式が広く普及しており、そこにフィールド効果、つまり地形の違いやフィールドカバーリングなどによる指示方式の違いなど、まるで別のバトルであると言えるほどに異なった環境らしい。

 

 とは言ってもポケモンリーグだけはどこの地方も共通している。

 というかポケモン協会が共通させているため、カロスリーグはカロス地方のバトル方式とマッチングしていないことが割と向こう側では問題視されている。

 とは言え、地方チャンピオン同士での戦いの時、地方ごとにルールが異なると問題が多くなるため、こればかりは簡単には変えられないのも事実だ。

 カロスにおいて、カントー、ジョウト、ホウエンなどのバトル形式は、バトルシャトーやカロスリーグ内でしか行われないため、カロスのトレーナーが他所の地方、特にカントーやホウエンに来ると、そのギャップに相当に戸惑うらしい。

 

「そうね、私も野良バトルしてみて、認識の違いに相当困惑したもの」

 実のところ、二年前のリーグ戦において、シキは予選から出ていたのだが、その最大の原因というのがこのバトル形式の違いに慣れるため、であったらしい。

「文化のギャップよね、今でこそこっちのやり方にも慣れたけれど、動かずに指示を出すって最初に知った時、見えない場合にどうやって指示を出せばいいのか全く分からなかったもの」

 

 例えば、相手のポケモンと互いに重なって互いが一瞬両トレーナーの視界から消える、ということも稀にだがある。カロスの場合、トレーナー自身が移動することでその死角を消すのだが、ホウエンの場合、そもそも相手との接近を最小限にし、互いの距離を取りながら攻撃の瞬間だけ近づく、などの工夫によって補われている。

 これらのような地方独特のやり方、というものは他所の地方から来たトレーナーを大きく困惑させる。

 まあ自身の場合、ゲーム時代のイメージとホウエン地方でのバトル方式が同じだったので、それほど現実と理想の乖離は無かったのだが。

 だからもし、自身がうっかりカロスにでも転生していれば、イメージと現実の差に相当困惑していたに違いない。

 

「やっぱ慣れたスタイルが一番だよね」

 

 今更このスタイル変えろとか言われても割と困るかもしれないなあ、なんて。

 適応力無いよな、俺。とか思いつつ。

 

 視線の先、バトルフィールドでは初っ端から激闘が繰り広げられていた。

 

 

 * * *

 

 

「エル! “ストーンエッジ”」

「ニシキ! “はっけい”アッパー!」

 

 “ストーンエッジ”

 

 “かくとうぎ”

 “アッパー”

 “はっけい”

 

 エルレイドの放った岩石の刃を、けれどハリテヤマは軽々と砕いて払う。

 レベルは互いに上限いっぱい。

 威力が拮抗する、ということは能力も同じくらいなのだろう。

 となれば相手の弱点を突ける技で勝負をかけたいところではあるが、ゆらゆらと揺れる吊り橋の終端に立つハリテヤマに接近しようとするのはさすがに危険だということは分かる。

 故に遠距離から攻撃できる技をチョイスしたが、そんなものどうしたと言わんばかりに軽々と払われてしまった。

 

 さて、どうする? ミツルは考える。

 

 説明はされたものの、このフィールドを移動しながら指示を出すというやり方は正直ミツルには向いてないのは分かる。

 そもそもミツルはそれほど体が強く無い。この数年で大分回復し、昔のようにすぐに体を壊すようなことは無くなったが、それでも同年代の子供が外で遊び回っている時期に自宅で本を読んでいたような子供だ、体力などあるはずも無い。

 こうしてフィールドを横から見て回るだけでも手一杯であり、先ほどから思考に揺らぎを感じている。

 

 正直、『かくとう』タイプジムのジムリーダーと体力勝負している時点で、相手の土俵に登ってようなものである。

 

 その時点で最早不利とかいうレベルではないのだろう。

 

「…………だったら」

 

 足を止め、一瞬の思考。

 

 時間を引き延ばしたかのような超高速の思考は、ミツルの持って生まれた技能(スキル)だ。

 思考を回し、回し、回し、加速させ、加速させ、加速させ。

 ほんの一秒にも満たない時間で思考をまとめ終える。

 ミツル自身は気づいていない彼だけの能力(トレーナーズスキル)

 

「橋を切って、エル!」

 

 トレーナーの指示にエルレイドが“サイコカッター”で吊り橋を切り、どばん、と水音を立てて橋が落ちる。

 

「戻ってきて、エル!」

 

 たん、たん、と短いステップを取りながらエルレイドがボールの認識距離まで戻り。

「戻れエル、行って、サナ!」

 エルレイドとサーナイトを交代する。

 橋を落とされたハリテヤマはそれを追えない。

 

 足場が悪くなるのを覚悟で水の中を渡るか、それとも迂回するのか。

 

 トウキの僅かな逡巡、だが時は止まらない。

 

 エルレイドと違い、サーナイトは特殊技…………つまり遠距離からの攻撃を最も得意としている。

「ニシキ、壁に隠れて! サーナイトの視界から外れるんだ!」

 ミツルの狙いにトウキが気づき、咄嗟に指示を出すが。

 

「ハイパーボイス!」

 

 “ハイパーボイス”

 

 放たれた爆音が迷路の壁を反響し、ハリテヤマを襲う。

「~~~~~!!!」

 耳鳴りがし、ぐわんぐわんとハリテヤマの視界が揺れる。

 自身で何かを叫んだような気がするが、一体どんな声が出たのか自分自身で認識できない。

「そのまま倒れるまで“ハイパーボイス”だ!」

 

 “ハイパーボイス”

 

 『エスパー』『フェアリー』タイプのサーナイト故に『ノーマル』タイプの技は、決して得意、とは言えないがけれどその『とくこう』の高さと相手の『とくぼう』の低さを考えれば、何度も耐えられるものではない。

 正直一度耐えたのだってハリテヤマの体力(タフネス)の賜物だ。トウキと日々鍛えてきた底なしのタフネスで耐えていただけ。

 だが二度目の爆音に意思よりも先に体が悲鳴を上げた。

 

「………………っ」

 

 言葉すら無くし、ハリテヤマが倒れる。

「戻れニシキ…………ありがとう」

 トウキがハリテヤマをボールに戻す。

 同時に考えるのは、アスレチックフィールドを上手く使われたな、ということ。

 ハリテヤマは鈍重だ、速度ではエルレイドには敵わない。

 だから橋の手前で待ち構えた。

 だが相手は逆にそれを利用し、橋を落として()()()()()()

 交代で出てきたのはサーナイト。

 距離を開けた状態で、しかも容易に進むことすらできないあの場所で、こちらの弱点を突けるサーナイトだ。

 なるほど、と一つ納得する。

 アスレチックフィールドはこちらが有利かと思っていたが、こういう使い方もあるのか。

 

 アスレチックフィールドのコンセプトは()()()だ。

 

 高い壁で死角を作り、水の上に板通路を張っただけの細い足場。

 そこにネットやロープで()()()()()()()()()()()()をジム内に再現しようと作られた施設だ。

 当然作ったジムに地の利はある。トウキはそれを生かして戦おうと思っていた。

 足場の悪さや死角は上手く利用すれば一方的に有利な状況を作れる。

 だが相手はこちらの意識の盲点を突いてきた。

 それは今まで練習相手が同じジムのトレーナーしかいなかった。つまり同じ『かくとう』タイプばかりを相手してきた故の思考の偏りとでも言うべきものか。

 

 実際に挑戦者相手に使用するのは今回が初めてだけに、これは大きな収穫と言えるだろう。

 

 ここだけでは無い、将来的には各ジムにフィールド効果は実装されていく可能性もある。

 

 これはホウエン地方ジムの歴史における、初めての試みである。

 

 その最初のテストとしてこのジムが選ばれたことは喜ばしいことであり。

 

「…………あ、そうだ」

 

 ジム戦中にも関わらずだが。

 

 ふと、村長へのアイデアが思いつく。

 

「…………まあそれも後か」

 

 バトル方式は二対二。

 二体目からはトレーナーズスキルの使用も解禁するつもりである。

 

 先手は取られてしまったが。

 

「勝負はここからだよ」

 

 口の端を釣り上げながら、そうして二つ目のボールを投げた。

 

 




Q.4月1日からネット開通じゃなかったの?
A.違う、俺は騙されたんだ、全てはN○Tが悪い! オレは悪くねぇ!

Q.それで? なんで昨日更新しなかった?
A.二週間分のスレとアニメとぷそのチェックしてたら時間足りなくて(



というわけで今回よりどっかのスレでもやってそうな『フィールド効果』というものに少しだけ触れていく。
今回のアスレチックフィールドはデータ上効果は無い、言わばフレーバーフィールドだけど、今後少しずつだが各ジムでフィールド効果増やしていきたいと思い中。
そしてここでカロスの文化ということにしておくことで、次回作で同じような設定を使いまわs…………げふんげふん。

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