視線の先に佇む、氷の巨体にミツル、ハルカ、そしてシキが息を呑む。
「これ、が」
「図鑑、図鑑…………」
「……………………」
驚きの様子のまま呆然とレジアイスを見つめるハルカとミツルに、下がっているように声をかける。
「それと、ミツルくんはサーナイトとエルレイド…………あとハルカちゃん、念のために
「え、あ…………うん、分かったけど」
二人が頷き、後方へと下がって行き、ポケモンを出すのを確認して。
「シキ…………悪いけど、一緒に戦ってくれ」
「…………ああ、なるほど、そういう事ね」
数秒の思考。そして自身の狙い、に気づいたのか、シキが納得したように頷く。
「一度しか見せてないのに、良く覚えてたわね」
「そりゃあね…………けっこう印象深いし」
「分かってるとは思うけど、三十秒も持たないわよ?」
ああ、それだけあれば十分だ、と思いつつ。
「…………行くぞ、ルージュ」
ボールを手に取り、構え、投げる。
そしてそれを合図にしたかのように。
がちん、と。
レジアイスの足元から音が発せられ。
「ルイっ!」
咄嗟の叫びに、けれど極めて冷静に、シキがボールを投げる。
同時に。
「オォォォォォォォォォ」
どこから、と無く声を挙げながらレジアイスが動き出す。
そうして、その両腕を大きく開き。
“ぜっとうりょういき”
「ぐっ…………やっぱこいつ!」
フィールドを一瞬で支配してきた。
かつてダイゴと共に戦ったレジスチルと同じように。
レジスチルの場合、灼熱の溶岩を辺りに沸き立たせていた。
正直、それだけでトレーナー側が死ぬんじゃないかというレベルだが、自身はエアに、ダイゴはメタグロスに掴まって空中に退避。リップルで雨を降らせて溶岩を固めながら戦うという、非常にリスキーな勝負だった。
同じレジ系だけあって、どうやら全員動き出すと同時に周囲を自身の得意な状況にしてしまうらしい。
「気づいてる? ハルト」
「ああ…………分かってる」
そしてこいつもレジスチルと同じ。
ただのフィールド支配じゃない…………性能が一段階狂ってやがる。
吹雪いているのはこちらレジアイスの外周のみ、中心にいるレジアイスの周りには一切の吹雪は止んでいる。
否。
あれは止んでいるのではない。
「
レジアイスの体はマイナス200度の冷気を発し、マグマでも溶けないとかいう話が図鑑説明であったはずだ。
つまり。
「
ルージュを出しはしたが、迂闊に接近戦は出来ない、か。
ルージュに視線を送り、指示を出す。
同時にシキもハンドサインでジバコイルへ指示を出し。
“ミラクルバリアー”
こちらの目前に張られた透明な壁。その後ろへとルージュが後退し。
“わるだくみ”
『とくこう』を積み上げる。
正直、レジアイスとかいう『とくぼう』の怪物相手に、特殊技というのは勘弁して欲しいところだが、あんな触れただけで凍り付きそうな相手に“ダイレクトアタック”なんてかましたら、結果が目に見えている。
いや、それでもなあ…………と思わず思ってしまう。
レジアイスの『とくぼう』種族値は200だ。
もう一度言う。
種族値200だ。
頭悪すぎだろ、と思わなくも無い。
うちのリップルに匹敵、どころか数値的に見ると完全に上回っている。
ただリップル…………ヌメルゴンとの差別化をするならば、一つにタイプ相性があるだろう。
『こおり』タイプ、というのは半減タイプが同じ『こおり』だけなのに、弱点タイプは『ほのお』『はがね』『いわ』『かくとう』と四種類もある。
逆に『ドラゴン』タイプは『ほのお』『みず』『くさ』『でんき』が半減で『こおり』『ドラゴン』『フェアリー』が弱点となる。
受けとしての性能を見るならば『こおり』タイプというのは実はそれほど良いとは言えない。
『ほのお』ならば『だいもんじ』や『ほのおのパンチ』。
『はがね』ならば『ラスターカノン』や『バレットパンチ』。
『いわ』ならば『いわなだれ』に『ストーンエッジ』。
『かくとう』タイプならば『ばかぢから』や『インファイト』に『きあいだま』など。
使い勝手の良いサブスキルが多く、多くの相手から弱点を突かれやすい。
特にエース級のアタッカーならば『ストーンエッジ』や『ばかぢから』などは持っているポケモンが多い。
『とくぼう』の高さに比べれば『ぼうぎょ』は種族値100とそこそこ、でしか無いのでアタッカーに『ストーンエッジ』で急所でも抉られればタイプ一致技でなくとも落ちる可能性もある。
実際、アースには“ストーンエッジ”が仕込んであるので、狙えなくは無いが。
『こおり』4倍のアースをこの空間に出すには、少しばかり
「ん…………? ハルト、
バリア越しに“わるだくみ”を積んだルージュがこちらへと振り向き、首を傾げる。
「前にそれで痛い目見たからね、様子見」
レジスチルを捕獲した時のことを思い出す。
迂闊に絆を繋げて能力上げた瞬間、こちらの能力上昇に反応して『ぼうぎょ』『とくぼう』がこちらの上昇量に応じて上がるという最悪の能力を持っていたせいで、ただでさえ硬いレジスチルが最早無敵要塞と化していた。
『こうげき』を2ランク積んだエアがメガシンカして“ガリョウテンセイ”を叩きこんでほぼノーダメージという時点でもう白目を剥きたくなるレベルである。
幸いダイゴのトレーナーズスキルに能力ランク等を無視するスキルがあったので、なんとか倒しはしたが。
…………あれ、ダイゴに持っていかれたんだよな。
いや、自身の本来の目的はグラードンとカイオーガを止めることだ。
故に、自分以外の戦力の増強というのは決して悪いことではないのだ。
自身と仲間たちが分裂して各地に行けるわけではないし、何より、いざ、というとき。
そう、伝説たちが目覚めてしまった時、頼りになる仲間がいることは重要だ。
だったら『はがね』のエキスパートたるダイゴにレジスチルを育成してもらえば、相当な戦力になると期待はしているのだが。
…………グラードンとカイオーガの件片づけたら、改めて挑戦しにくるって言ってたんだよなあ、ダイゴ。
伝説種の件が片付くまで、一番理解の深い自身が指示を出しやすいチャンピオンであることは望ましい。
後から聞いたのだが、そのことをダイゴも理解しているのか、去年のリーグ戦では出場してこなかったらしいのだが。今年で一応片が付く予定だと言うと、じゃあ今年は挑戦しようかな、なんて気軽に言ってくれたものである。
因みに去年はシキは出てきた。まあシキはシキで事情があるようだし、何より最悪負けてチャンピオン交代となっても、シキは伝説種の捕獲に協力してくれる仲間だ。
故に、こちらから指示が出せる状況、というのには変わりない。
まあ勝ったけどな、ギリッギリだったが。
まあそれはさておき。
捕まえてみて初めて分かったのだが。
レジ系は、どうにも自身とは相性が悪いらしい。
ここまで長くポケモントレーナーやってきたからだいたい分かったことだが。
自身はヒトガタ、というより
ヒトガタというのは特に感性が原種より人間に近く、何より言葉で意思疎通ができる。
そういう意味で、ヒトガタの育成が得意、という風に思っていたのだが。
ミツルのサーナイトやエルレイドの育成を受け持った時に才能の問題でヒトガタほどではないが、通常よりも大分育成がしやすいことに気づいた。
それはミツルとサーナイト、エルレイドたちの間で思いが通じ合っていたからであり、要するに相手は関係無く絆を結んだポケモンならば、普通よりも育成しやすいということらしい。
その前提で考えてみると。
レジアイス、レジロック、レジスチルというのは
食べることもしないし、寝ることもしない(状態異常は除く)、声は出るらしいが呼吸している様子も無いし、そもそも口が無い。
モチーフからしていわゆる『ゴーレム』らしいし、まともな生物ではないのは確かだ。
ゲームではなつき度は確かに存在していたが、軽くレジスチルを見た限りだと、上下関係は出来ても絆は無理そうだと判断した。
恐らく命令を受けるのにトレーナーを判断する程度の思考はあるのだろうが、
そもそもがレジギガスが氷や岩や溶岩から生み出した存在だし、こう表現するのが正しいかは疑問だが、何というか
同じようなポケモンでも、メタグロスなどはまだ感情のようなものが見えるので、やろうと思えば育成は可能だが、レジ系は完全に専門外。恐らくゲームデータの通りくらいにしか育成できないだろう。裏特性やトレーナーズスキルは見込めない。
そうなると、正直な話、捕まえても完全に持て余してしまう。
無理にパーティに加えようとしても、恐らく交代した瞬間に
そこまでして入れたいとも思わないし、そもそも扱い切れるとも思えないので、レジスチルはダイゴに譲ってしまったのだ。
だからレジアイスも、捕まえても使うことは無いだろう。
誰に渡してしまおうと考えて、まず最初に思いついたのがプリムだったが。
「まあ、全部捕まえてからの話か」
まずは捕まえてしまおう。
実のところ、準伝説というのはそれほど強く無い。
いや、強いのは強いのだが、伝説と比べるとどうしても霞む。
といっても自身が戦ったのはギガスくらいだが。
特徴として挙げるならば、ステータス数値自体は600族より多少強いくらいだ。
これはラティ兄妹などの種族値合計600と、レジ系などの600未満を比較した時でも同じように600族よりは高い。
といっても恐らく、種族値が高いのではなく、レベルが高いのだと思っている。
準伝説級のレベル上限は大よそ120~130、高いものでも150ほどだろうか。
それほど多くの準伝に出会ったわけでも無いので、確かとは言えないが。
ラティアス、ラティオスなどの複数存在するポケモンというのはだいたい120前後で収まっていることが多い。
逆に、以前に出会ったスイクンや、レジスチルたちなど世界中探しても一体しかいないような特殊なポケモンはレベル上限がもう少し高い。
レジスチルの例を見るに、レジアイスのレベルも140といったところか。
ステータス的に見れば、恐らくゲンシカイキすればアースのほうが高くなるだろうが。
問題は。
準伝説種以上が持つ
いや、アビリティというのも結局、自身がそう呼称しているだけなのだが。
どんなものなのか、簡単に言えば。
裏特性は技術だ。
トレーナーズスキルは指示だ。
そしてアビリティは
ポケモンが本来持つ能力であり、もっと分かりやすく言えば。
「シキ…………『ほのお』タイプの技撃てる?」
「了解…………ルイ」
こちらを見て動かないレジアイスに、シキが指さし。
“めざめるパワー”
『ほのお』タイプの“めざめるパワー”が放たれる…………そして。
“ぜっとうりょういき”
「やっぱり、か」
つまりこういう事だ。
図鑑説明にもあった、レジアイスが体から発するマイナス200度という冷気。
別に技では無いし、特性でも無いし、技術でも無い。
ただそういう体の構造、というだけの話だし、そういう生態であるというだけの話。
故に、
ポケモンが本来持つ、実機時代データには反映されていなかった力。
だいたい伝説種や準伝説種は
伝説となるだけのことをしたからこそ
だが実機時代その伝説に由来する力というのは、データ的にはほぼフレーバーと化していた。
グラードンを捕獲しても陸は作れないし、カイオーガを捕獲しても海は増やせない。
レジギガスを捕まえても大陸は動かせないし、ダークライを捕まえても悪夢は見ない。
だが現実では、この世界において、それらは実際に効力を持つ。
そう言ったポケモンが本来持つ能力を総称して、アビリティと自身は呼んでいる。
そしてアビリティは、準伝説以上のポケモンが持つ。
これこそが準伝説以上のポケモンが特別である理由であり、600族以下のポケモンたちと隔絶する理由でもある。
ただ先ほども言った通り、準伝説級までならばまだいいのだ。
アビリティは厄介だが、ステータス的にはランクを積めば余裕で追い抜くことができる。
後は数に任せて叩けば、それほど問題にはならない。
だが、伝説のポケモンたちは違う。
伝説に語られるようなアビリティを持ち、尚且つ
そもそも種族値自体が伝説級は全て600を遥かに上回るのに、さらにレベルも倍以上違えば一山いくらのレベル100ポケモンではいくら数を揃えても毛ほどにも通用しない。
シキはかつてレジギガスを捕獲するのに、主力六体を含めて全五十のレベル100以上のポケモンを揃えたらしいが、それでも捕獲できたのはほとんど奇跡のようなものだ。
その気になれば
レジギガスは基本的に桁外れの『こうげき』力以外にそれほど伝説らしい強みは無く、何よりも多数よりも少数との戦いを得意としていることも一因だろう。
だが自身が捕まえようとしているグラードンとカイオーガは違う。
陸を自在に生み出し、海を思うがままに操る。
明らかに多数を相手取るほうが得意なポケモンたちだ。
故にシキのように
ならばどうするのか。
つまり目の前の
ただの精鋭では足りない、精鋭の中からさらに選りすぐったほんの一握りだけが、伝説を相手に戦うことを許される。
――――故に。
“ぜっとうりょういき”
“こごえるかぜ”
放たれる凍てつく風に、ジバコイルが“めざめるパワー”で威力を削る。
だが削り切れなかった風がルージュとジバコイルを襲い、両者が身を震わせながらその『すばやさ』を下げる。
「問題ない、かな」
――――こいつは試金石だ。
もう一つのボールを手に取り。
「ルージュ」
「了解」
“つながるきずな”
絆を紡ぐ。
“かさなるおもい”
思いを重ね。
“つうずるこころ”
心を繋ぎ。
“むすぶえにし”
縁を結ぶ。
“ドールズ”
以上を持って。
“にんぎょうげき”
「
――――自身の今までがこれから先の
「ローテーションスタート」
手の中のボールを投げた。
トレーナーズスキル(A):にんぎょうげき
詳細不明。ただ『ポケモンバトル』だと使えないらしい。ほとんど野生のポケモン専用。
ついでにもうあんま意味ないので、レジスチルとレジアイスの
レジスチル 特性:クリアボディ、ライトメタル 持ち物:無し
わざ:アイアンヘッド、ばかぢから、アームハンマー、はかいこうせん、だいばくはつ
裏特性:せいれんてっこう(精錬鉄鋼)
相手の能力ランクが上昇した時、上昇した能力ランクの合計値分自身の『ぼうぎょ』『とくぼう』ランクを上げる。『かくとう』『じめん』タイプの技の威力を半減する。
アビリティ:たまはがね(玉鋼)
『ほのお』タイプの技を受けるとダメージや効果はなくなり、『ぼうぎょ』『とくぼう』の能力ランクが1上がる。
アビリティ:ゴーレム
状態異常を受けなくなる。
アビリティ:しょうねつりょういき(焦熱領域)
場にいるかぎり、味方の場の状態を『しょうねつりょういき』にする。
場の状態:しょうねつりょういき
味方を対象に含む『みず』技が使えなくなる。毎ターン開始時『はがね』タイプの味方の『こうげき』『ぼうぎょ』の能力ランクを1上げ、相手に最大HPの1/8の『ほのお』タイプのダメージを与える。
レジアイス 特性:クリアボディ、アイスボディ 持ち物:無し
わざ:こごえるかぜ、チャージビーム、れいとうビーム、はかいこうせん、だいばくはつ
裏特性:てっぺきひょうざん(鉄壁氷山)
自身が受ける物理技のダメージを半分にする。『いわ』『はがね』『かくとう』タイプの技の威力を半減する。
アビリティ:げんとうせっか(厳冬雪華)
自身の攻撃技が全て『こおり』タイプになる。
アビリティ:ゴーレム
状態異常を受けなくなる。
アビリティ:ぜっとうりょういき(絶凍領域)
場にいるかぎり、味方の場の状態を『ぜっとうりょういき』にする。
場の状態:ぜっとうりょういき
味方を対象に含む『ほのお』技が使えなくなる。『こおり』タイプの技の威力を1.5倍にし、『全体』を攻撃する『こおり』タイプの技の威力をさらに2倍にする。直接攻撃する技を受けた時、技を無効にし、相手を『こおり』状態にする。天候『あられ』の時に発動する特性や技の効果が使えるようになる。