「シキ、頼む」
短くシキに合図を送り、直後。
「りょうっかい!」
“さかさまマジカル”
シキの異能が周囲を覆い
「ローテーション、ルージュ、交代、アース」
指先でくるり、と空間に円を描くと同時に。
「あいよっ」
場に出たアースを交代するように、ルージュがその後方に下がり。
“とうしゅうかそく”
「アース…………飛ばしていくぞっ!」
「あい…………よっ!!!」
ゲ ン シ カ イ キ
場に出たアースがゲンシカイキし、その姿を巨大な竜へと変貌させる。
「グルオオオオオォォオオォオォォォォォォ!!!」
竜が咆哮を上げる、そうして。
“さじんのおう”
アースを中心として、大規模な砂嵐が巻き起こり、吹雪とぶつかり合って入り混じる。
だが吹雪が消える様子は無い。やはり、というべきかあれは天候扱いにはならないらしい。
だがそれでも良い。
「場面は整った…………ブチかませ、アース!」
「グルアアアアアアアアアア!」
“ じ し ん ”
どん、と。
竜が地を一蹴し、直後に、ゴゴゴゴゴゴゴと洞窟が揺れる。
「ォォオォォォォォォォ!」
『こうげき』六段階のゲンシガブリアスの一撃だ。
まともに受ければとてもではないが耐えられるものではない、そのはずが。
“てっぺきひょうざん”
激しい地震の中だがレジアイスは反撃しようと動いている…………致命傷にはまだ遠い。
準伝説は伝説種ほどではないが、HPがかなり高い。
実機で言うならば大よそ1000を超え、レジスチルと同じならば、レジアイスのHPは大よそ3000弱といったところだろうか。
かなりのダメージは与えているだろう、恐らく実機ならば即死するレベルの威力だが、現実の準伝説種はそれほど脆く無い。
それでも二割…………いや、三割は通っただろうか?
どうにも表情、というか感情というものが見えないから効いているのかどうか分かりづらい。
だが、反撃にとレジアイスの目の前に光が収束し。
“げんとうせっか”
“はかいこうせん”
放たれた光が線となり、帯となり、柱となってアースへと降り注ぐ。
「ローテーション! ルージュ“きあいだま”」
「せいっ!」
指先を縦に振る。それに応えるように、ルージュが手の中にエネルギーを収束させ、
“きあいだま”
放たれた光と玉が中空で激突し、“きあいだま”が光を押し返して、レジアイスに激突する。
「ローテーション、アース! もう一発“じしん”」
さらに空間をなぞるように指先をスライドさせ。
“じしん”
二発目の“じしん”がレジアイスを襲う。
レジアイスがさらなるダメージに、僅かに体を揺らした。確かにダメージが通った手ごたえに、拳を握り。
「追撃! ルージュ! “ナイトバースト”」
現状シキの異能によってさかさバトルが発生しているため、弱点タイプは逆に半減されてしまう。
となれば、等倍技のほうがダメージが大きいだろうと予想し、指示を出す。
“ナイトバースト”
アースによって最大まで上昇された能力ランクがルージュの力を大きく増し、凶悪な一撃をレジアイスに叩きつける。
さすがの『とくぼう』で、ほとんど効いた様子を見せなかったが、それでもほんの一瞬仰け反らせ、反撃の出鼻を潰せた。
そうして―――――。
「アース!」
「グルオオオオオオオオオオオオオ!!!」
そろそろゲンシカイキが解除される頃合いだろう、と予想。
HPは体感半分以上は削れている…………と思う。
ならば、これで決めて見せる!
「抉れ! アース!」
“キズナパワー『きゅうしょ』”
“しゅくち”
“ファントムキラー”
その巨体が一瞬にして掻き消え、その剛腕を振り上げた姿でレジアイスの正面に現れる。
轟、と振り下ろした一撃がレジアイスを吹き飛ばす。
“ぜっとうりょういき”
けれどそこまで近づいてしまえばレジアイスの冷気からは逃れられない。
一瞬にしてアースが『こおり』ついていくが、けれど最早放たれた一撃はレジアイスに命中している。
『きゅうしょにあたった』
“キズナパワー”の効果で、アースの一撃がレジアイスの急所を抉り。
“よろいくだき”
「オオオオォォォォォオオオオォォォ」
「オオ…………オオオオォォォォォ!!!」
ギリギリのところで持ちこたえる。
あと僅か、ほんの一刺しほど。威力が足りなかった…………否、レジアイスの耐久が上回った、ということだろうか。
そしてアースの攻撃はこれで終わり…………。
「な、わけないだろ」
呟くと同時に。
“きっておとす”
ぶん、とアースが凍り付いたその腕をレジアイスへと叩きつける。
瀕死の獲物を逃さない狩人の嗅覚が止めの一撃を見舞い。
「オオ…………ォォ…………ォ…………」
レジアイスがその機能を止めていく。
同時にアースのゲンシカイキが、解除されていき。
「良くやった…………」
構えたボールを投げる。
「十分だ」
ころん、ころん、とレジアイスを捕らえたボールが揺れ。
「仕上がりは上々…………てか」
かちん、と音が鳴った。
* * *
氷の床の上に転がるボールを掴み、ほっと一息吐く。
終わった、ということが分かったのか、シキやハルカ、ミツルもそれぞれボールにポケモンを戻していく。
「ふう…………お疲れ、シキ」
「いきなり遠足に行くと言ったかと思えば…………こういうことだったのね」
そうして呆れたように嘆息するシキに、手の中のボールを差し出す。
「…………何?」
差し出されたボールの意味が理解できないのかシキが不思議そうに首を傾げ。
「シキにあげる」
「……………………はい?」
眼鏡越しに分かるくらい、目を真ん丸にし、きょとんとした表情。
そんな年上のはずの少女の成熟しきらない幼さに苦笑しながら、シキの手を取ってボールを握らせる。
「同じレジ系でもこっちはまだ育成しやすいと思うから、それでコツ掴んでギガスのほうも育成してみたら?」
「……………………いいの?」
僅かに躊躇いながらこちらへと視線を向けるシキに、いいよ、と頷く。
たっぷり十秒近く悩んだように百面相するシキだったが、やがて顔を上げて。
「ん…………ありがとう、ハルト」
手の中のボールを一瞥し、微笑してそう告げた。
実のところ、シキのレジギガスには大層期待しているので、自身では使えないレジアイスで味方の戦力が大きく上昇するならば、安いものである。
実際のところ、凡百のポケモンを百体育成したところで、どう足掻いてもグラードンやカイオーガ戦で使えるとは思わない。
現状のままならば、復活の阻止もできる、とは思うのだが、最悪の場合、というのは常に考えておくべきだろう。
厄介なのは天候だ。
一応対策らしきものは立ててあるが、正直被害の予防線にしかならない気がするため、結局は近づいてグラードン、カイオーガと戦うための策がいる。
一番手っ取り早い方法がレックウザを捕まえてくる、という辺りでもうなんか…………と言った感じだ。
実機でもあったマグマ団とアクア団の特性スーツを使うという手も考えたが、この世界でも開発しているのか、そもそもそれで耐えられるのか、色々と問題は多い。
グラードンの“おわりのだいち”とカイオーガの“はじまりのうみ”の前では、だいたいのポケモンが戦うことすらできない。
「んー…………ちょうどいいから、少しだけ話をしようか」
街中だとマグマ団やアクア団の耳がある可能性を考慮して極力その話はしなかったが。
「シキ、それにミツルくんとハルカちゃんも聞いておいて…………これから先の話」
少し寒いが、壁画のあったほうへと抜ければまだ大分マシだ。
四人で適当な岩に腰を下ろす。
「まずこれ、ミツルくんとハルカちゃんに言うの初めてだと思うんだけどさ」
一呼吸分ほど、溜めて。
「このままだと一年内にホウエンが滅ぶんだ」
告げた言葉に、ミツルとハルカの目が点になった。
* * *
黒か、白か。
――――――――悩む。
黒…………いや、むしろここは白を選ぶことこそが、正道であると言えるのではないだろうか?
――――――――悩む。
だが待って欲しい、白という基本の上に存在するのが黒だ。黒こそは全ての色を集めた究極と言えるのではないか。
―――――――悩む。
選択は二つに一つだ、この状況において選択に妥協は許されない。だからこそ、思考を働かせる、
悩んで、悩んで、悩んで。
「こっちにするわ」
白濁色のバニラを諦め、ブラックチョコ配合の黒っぽいチョコ味のアイスクリームを片手にし。
毎度あり、と小銭片手に手を振るアイスクリーム屋台の親父にまた来るわ、と告げながら少女、エアは街中を歩く。
実のところ、チャンピオンというのは職業ではなく、地位だ。
とは言っても、ポケモン協会からの要請を受けて仕事をすることもある。
だから、それに伴い給料も発生するわけだが、基本的に地方で最も強いトレーナーを使うわけであって、その給料というのも一般人のそれと比較しても明らかに莫大な金額となる。
因みに四天王は職業だ。チャンピオンリーグのためにポケモン協会が雇ったトレーナーであり、ポケモンリーグとの間にれっきとした雇用関係が存在する。
まあそれはさておき、要するにチャンピオンというのは割と大金が転がり込む地位なのだ。
そしてヒトガタポケモンとは、文字通り人の形をしており、人間社会に非常に溶け込みやすい。
まあこの際、その辺りのどうでもいい講釈は捨て置くとして。
ハルトはチャンピオンになる以前から、自分の手持ちたちにお小遣いを渡していた。
最初は一人辺り千円かその程度だった小遣いは、チャンピオンになり手に入る金額が増えることで急増。
「っても…………三千円じゃ食べ歩きもできないわね」
三倍である。それはもう太っ腹…………と見せかけて、稼いでいる金額を考えれば相当に溜めこんでいるなアイツ、と内心思う。
ハルトの両親もその辺りは本人に完全に任せてしまっているので、通帳の残高が凄まじいことになっていそうだ。
恐らく世界で一番金を持っている十二歳児なのではないかと思うが、トレーナーという職業の平均年齢の低さを考えると、もしかすると上には上がいるかもしれない、とも思う。
まあ別にそれは良いのだ。正直、食べる物は食べさせてくれるし、言えば追加でくれる。
必要ならば、必要なだけ出してくる辺り大金で金銭感覚が狂っているような気もする。
そもそも自身も含めてそれほど金銭を浪費するタイプでも無い。
「実際のとこ…………そこらの飲食店行くより、シアに作ってもらったほうが美味しいのよね」
あれで何気に七年、ずっと家事経験を積んできたのだ。しかも常に腕を磨き続けているせいで、舌が完全に慣らされてしまっているような気がする。
まあさすがに
「ま…………遊びに来てるわけでも無いし」
半ば誰に聞かせるわけでも無く呟いた言葉は、けれど街の雑踏に消えていく。
このアイスクリームは…………そう、カモフラージュ、カモフラージュだから、と内心で誰に対するものか分からない言い訳をしながら。
街に東へ、東へと歩いていく。
そうして街の中心から外れるほどに人ごみが減って来るが、構わず歩き。
街路の適当なところにあったベンチを見つけると、ひょい、と座る。
半ば呆けるようにさ迷わせる視線。
街中のベンチに座りながらアイスクリームを食べているその姿は、どこからどう見ても子供にしか見えないのだろう。
その子供がぼうっとしながら街行く人々を見ていたとしても、誰も気にも留めない。
だからこそ、見つけやすい。
「……………………ああ、いたわね」
にぃ、と口元が歪みつりあがる。
最悪半日かそれ以上待つことも考えていた。もし余り時間がかかるようならば場所を変えないといけないかもしれない、などという不安も杞憂だったらしい。
思ったよりも早かったわね、と独り呟き。
「っと…………さて」
ベンチからひょい、と飛び降り、クリームを食べ終わり残ったスコーンをひょい、と口に放り込む。
ばりばりと口の中で音を鳴らしながら。
「それじゃあ行きましょうか」
ミナモシティ東端。
街外れの海岸線へと向かう全員が右腕に同じ青のスカーフのような布を巻きつけた数人の男たちを追った。
そろそろ話を加速させようと思う。
アースのデータ忘れてた。
名前:アース(ガブリアス) 性格:いじっぱり 特性:さめはだ 持ち物:オリジンクォーツ
わざ:「じしん」「ファントムキラー」「どくづき」「ストーンエッジ」
特性:さじんのおう(ゲンシガブリアス時)
戦闘に出ている限り天候が『すなあらし』になる。天候『すなあらし』の時、自分の『すばやさ』ランク、回避率ランクを2段階上げ、タイプ一致わざの威力を2倍にし、『じめん』『いわ』『はがね』タイプ以外『すばやさ』ランク、回避率ランクを1段階下げる。
特技:ファントムキラー 『ドラゴン』タイプ
分類:きりさく+ドラゴンダイブ
効果:威力120 命中95 優先度+1 自分の『すばやさ』が相手より高いほどきゅうしょに当たりやすくなる。攻撃が外れると自分の最大HPの1/8のダメージを受ける。
裏特性:とうしゅうかそく
味方から能力ランクを引き継いで場に出た時、引き継いだ能力ランクを最大まで上昇させる。
専用トレーナーズスキル(P):よろいくだき
自身の『こうげき』の能力ランクが最大の時、相手の“まもる”“みきり”などを解除して攻撃する。特性“くだけるよろい”のポケモンに攻撃が命中した時相手の『ぼうぎょ』を12ランク減少してダメージ計算する。また攻撃が急所に当たった時、相手の裏特性、トレーナーズスキル等を無効化してダメージ計算する。
専用トレーナーズスキル(P):きっておとす
自身の攻撃で相手のHPが1%以下になった時、相手を『ひんし』にする。
固有スキル:しゅくち
相手に直接攻撃する技の優先度を+3する。