基本的にORASのハルカそのままなイメージで書いてる。ただし少し幼いけど(少し=七年)
名前をくれないか、と。
男はそう言った。
瓦礫の山を前にして休んでいると、すぐさまトウカジムのトレーナーたちがやってきた。
そしてその先頭に立つのは当然。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ハルトオォォォォォォォォ!!! 心配したぞおおおおおおおおおおお!!!」
森中に響き渡るのではないかと思うほどの絶叫を上げながら、自身に抱き着いてくる親父殿である。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ、髭がああ、じょりってするうううううううううううううううううううううう」
じょりじょりと擦れる髭に、思わず悲鳴を上げる。
そんな親子の姿にトウカジムのトレーナーたちが毒気を抜かれたような表情でぽかん、と呆けて。
やがてくすり、と笑う。
そうこうしている内に。
「ん…………んー?」
シアに任せていた少女が目を覚ます。
「んー? ここどこ? ってあれ? ハルトくんに…………それにセンリさん? なんか楽しそうだけど」
少女…………ハルカが首を傾げ。
「どういう状況?」
それは自身が聞きたい、なんだこの状況。
* * *
そうしてハルカが無事見つかったことにみな安堵しながらジムトレーナーたちを父親が先に返し。
「何があった?」
ふと、真面目な顔つきになってそう尋ねてくる。
その問いに、どこまで答えたものだろうかと考える。
そもそも何故あのスリーパーがハルカを連れて行ったのかさえいまいちわからないのだ。
シャルとあのスリーパーの関係性も良く分らないし、肝心のシャルは今、ボールの中で気絶中だし、そもそも恐らく何も覚えていないだろう。
だから答えれる範囲で言うならば。
「ハルカちゃんを誘拐したのはスリーパーだよ」
「スリーパー? どうしてこんなところに」
そう言われると確かにそうなのだ。スリーパーやスリープと言ったポケモンは…………そもそもこの辺りに生息すらしていないはずなのだ。
それがどうしているのか、しかも。
「そのスリーパー…………ヒトガタだった」
「…………なに?」
その言葉に、親父殿が目を細める。
「エア…………その辺の瓦礫ちょっとどかしてみてくれる?」
自身の言葉に、エアが頷き、
改めて目の前の小さな少女の凄さが分かる。実際ハルカなどほえー、と口ぽかんと開けたまま呆けている。
そうしてエアが次々と瓦礫をどかしていき。
「…………ぐ、う」
やがて瓦礫の下から一人の男を見つける。
瓦礫のダメージで動けない男の首を背中側から掴み…………そのままぶらん、と持ち上げる。
「言っとくけど…………余計なことをしたら容赦しないわ。不審な動きを見せたらその時点で殺すわ」
ドラゴンタイプ特有の凄み、とでも言うのか。他者をひれ伏せさせるプレッシャーのようなものを感じる。文字通り、命運を握られた男からすれば、猶更だろう。
「あれだよ」
「…………そうか」
父さんが腰からボールを取りだす。
「こい、ケッキング」
そうして出したのは、ケッキング。
出現しただけで、どすん、と周囲を揺らすほどの巨体。
「さて、質問をしようか」
父さんがそう告げた瞬間、ケッキングが地面を叩く。
ズダダダダァァァァァン
手のひらで叩いただけで爆発でもしたかのように地面が弾ける。軽くクレーター状態である。
「質問には正直に答えてもらおうか」
でなければ…………どうなるか、それを暗に後ろのケッキングが示していた。
* * *
意外にも、と言うべきか。それともやはり、と言うべきか。
スリーパーは大人しく全て話した。
その話の大よそを語るのならば。
スリーパーは元はとあるトレーナーのポケモンであった。
そのトレーナーがトウカの森の奥、館へと迷い込んだことから全てが始まる。
この館が何なのか、スリーパー自身にも分かっていない。
だが一つだけ分かることがある。
館の中はゴーストポケモンが大量に集まっており、そうして集まったまま解放されない。
そしてトレーナーは、この館の中で殺された。
館の最奥にいたポケモンの手によって。
スリーパーもまたその時戦ったが、まるで歯が立たず、瀕死となった。
目を覚ましたスリーパーが見たのは、床に倒れ伏したトレーナーの死体と、主の消えた館の最奥の部屋のみ。
それからスリーパーは“さいみんじゅつ”によって館に捕らわれたゴーストポケモンたちを浄化し続けていた。世界へ還る、その意思さえあれば霊はいつでも輪廻に戻る。ゴーストポケモンたちを見る中でスリーパーはそれを知った。
スリーパーがそんなことをしていた理由は簡単だ。
どれが、なんて分からない、分からないから時間をかけてでも全ての魂を送り返すつもりだった。
そこにシャルがやってきた。
魂を燃やす悪夢のキャンドル。
だがどうにもならなかった。
同じヒトガタ、6Vと言う条件であってもスリーパーとシャンデラでは種族としての強さが違い過ぎる。
だがシャンデラ…………シャルもまたスリーパーの防御性能を厄介視していた。
スリーパーは全ステータスの中でもとくぼうがひと際高い。特殊アタッカーとしての役割を任せていたシャルの攻撃を大きく軽減させてしまう。そしてアタッカーだけに防御性能に努力値を振られていないシャルでは、下手にきゅうしょに当たったりなどしたら大きなダメージを受けてしまう。
シャルは臆病な性格をしている。裏を返せば、用心深いと言うことでもある。
だからこそ、シャルはスリーパーとの正面対決を避けた。
スリーパーもまたゴーストポケモンたちを燃やさせないように立ち回った。
シャルが代わりに求めたのは人であった。
それは恐らくだが、トレーナーを探す、シャルの無意識だったのだと自身は推測する。
だが人が一人消えれば人間社会と言うのは騒ぎになる、と言うのは元トレーナーのポケモンだったスリーパーは分かっていた。
だから。
独りの人間を狙う。
特に旅をしているトレーナーなどは狙い目だ。トウカの森でキャンプしているトレーナーを夜こっそりと
トレーナーが居なくなっても誰も気づかない。何故なら旅の途中である以上、何が起こってもおかしくはない、それこそ野生のポケモンに敗北し、殺されていてもおかしくは無いのだ。
そうして連れてきたトレーナーを、シャルは拒否した。自身で無い以上それはある意味当たり前の行動だったのかもしれない。
困ったのはスリーパーだ。シャルを満足させられなければゴーストポケモンたちが…………中にいるかもしれない、自身のトレーナーだった人間の魂までも燃やし尽くされるかもしれない。だが言われた通りに人間を連れ来ても彼女は拒否する。
どうしたものか、と思いながら足を延ばした先にミシロタウンがあったのは偶然に過ぎない。
そして夜中にさ迷っているところを、
結論だけ言うと。
ハルカの誘拐は自発的な部分と他者による部分がある。
少なくとも、
無くなっていたモンスターボール。お守り代わりと言ったが
ハンガーから一つだけ無くなっていた服。寝る前だった状態から
最後の開かれたカーテン、夜は普通カーテンを閉めるだろう、部屋の明かりで中の様子が外からでも見えてしまう、だから二階だろうとカーテンは普通閉める。だが開いていた。つまり
そして最後に部屋にかかっていた鍵。つまりそれは。
夜に偶発的か理由あってか、カーテンを開けたハルカは窓の外に何か…………恐らくスリーパーかそのお供のゴーストポケモンかを見た。そして好奇心かそれともそれ以外の理由からか、それを追いかけることにしたハルカはいざと言う時のためのお守り代わりに大事にしていたモンスターボールを手に外着を着て部屋を出た、鍵をかけたのはこの時だ。マメな性格なのはクローゼットを見れば察せられた、だから、自身が外出する時に部屋に鍵をかけた、と言うことだろう。
そしてここからが他者によって行われた部分。外に出たハルカは目的のポケモンたちを見つける、だが逆にスリーパーにさいみんじゅつにかけられて連れ去られてしまい、この森の館までやってきてしまう。
「…………まあ多分、全部総合した推測だけど、こんなとこだと思うよ」
合ってる? と視線の先のハルカに尋ねると。
「え、えへへ」
苦笑いで誤魔化された。まあそれはつまり正解と言っているようなものだが。
「あのね…………不用意に家を出なかったらこんなことにならなかったんだから…………反省しなよ?」
「はーい…………えっと、ごめんね? ハルトくん、それに、ありがとう、助けてくれて」
はにかみながらそう告げるハルカ。これはさすがの原作ヒロイン、と言いたい。可愛い、あざとい、だがそれが良い(ぐっ
「それで父さん…………スリーパー、どうするの?」
すでにスリーパーは解放されている、だが動かない。動けない、と言うよりやることが無くなった、と言った感じか。
スリーパー曰く、館の崩壊と共に束縛されていたゴーストポケモンたちは全て天へと還ったらしい。
恐らくスリーパーの元トレーナーだった魂も。
完全にやることが無くなってしまった、とは本人の談。
放っておいてももう悪事は働かないだろう、故にこのまま野生に返すのも一つの手。
どこか知り合いに預けるのも一つの手。
今回の事件の犯人として処断するのも一つの手。
…………ああ、一つ言っておくと。
野生のポケモンが何らかの事件や犯罪を起こしても、
代わりに、そのポケモンが今後何か問題を起こしても、その全ての責任をトレーナーが負うことになる。
つまり、シャルはすでに無罪だ。だがスリーパーは元トレーナーのポケモンであって、実質的な野良だ。
人を誘拐している以上、危険なポケモンとして処分されてもおかしくはないが…………。
「それなんだが…………」
親父殿が口を開こうとした、瞬間。
「おじさん」
それを遮って、スリーパーに話しかける少女が一人…………と言うか、ハルカちゃんだった。
「行くところが無いなら、一緒に行かない?」
告げられた言葉に、スリーパーが驚きに目を見開いている。
と言うか、自身も父さんも驚いている。
「…………キミは、私を恨んでいないのかな?」
「なんで? 確かにここまで連れてきたのはおじさんだけど、それも理由があってのことだし」
それに、おじさんけっこういい人っぽいし。
ふんす、と鼻息を荒くしながら両手にぐっと力を込めるような構えをする。
「あたしはハルカ、おじさんは?」
「…………名前、ね。
「なら、スリーパーのおじさん。あたしね、いつかトレーナーになってお父さんのお手伝いをしたいんだ、お父さんはね、とってもすごいポケモンの博士なんだよ」
爛々と、輝く瞳で、夢を語る少女に。
スリーパーが口元を緩ませる。
「今はまだポケモンを連れてないから、一人じゃフィールドワークもできないけど、それでもね、十歳になったらお父さんがポケモンをくれるって言ってくれたんだ、だからそれまではトレーナーの勉強中、あとポケモンのこともいっぱい勉強してるの」
段々段々と、スリーパーの目が少女に惹きつけられていく。
「ポケモンバトルとかは…………あんまり興味ないんだけどね。あたしは別にそう言うのやりたいわけじゃないし」
それが傍目にも分かる、だから父さんへと目配せし。
「あとあとね…………」
父さんが頷く。
「それで」
「ハルカちゃん」
ハルカちゃんの言葉を遮るように、名前を呼ぶと、ハルカちゃんが我に返ったように顔を上げる。
「あ、いけない、また喋りすぎてた…………えへへ、ごめん、ごめん」
「それはいいけど、まだスリーパーの返事、聞いてないよ?」
そう言うと、あ、と少し間の抜けた言葉を返してきた。どうやら忘れていたらしい。
「おじさん、どうかな? 一緒に来てくれない?」
そんなハルカの言葉に、スリーパーが少し黙り込み。
懐から振り子を取りだし…………握りしめる。
「名前を」
「えっ?」
何かを振り切るような、決別するような、そんな寂しげな表情を男が見せ。
「名前をくれないか?」
目の前の少女にそう問うた。
①おっさん生きてた
②ハルカちゃんぐう天使
③ハルカちゃん可愛い
④次回大天使シャルちゃん登場
⑤明日は休日よ(四話は更新したい所存)