Huとかいうストレスばっかり溜まるクラスのレベリングが辛い。
やっぱBrが一番良い。テッセン最高。
ラティオスが目覚めた、その報を聞き、サクラを連れてポケモンセンターへと向かう。
「にーちゃ!」
病室に入り、ふわふわと浮かぶラティオスを目にしたサクラが声を挙げると共にラティオスへと飛びつく。
「しゅわーん」
自身に抱き着く妹の姿を見たラティオスが幾分か空気が緩めながら一つ鳴く。
どうやら妹とは違い、兄のほうはヒトガタではないらしい。
と、思っていたのだが。
――――む、この姿では話し辛いか。
脳内に直接響いてきたかのような声に、一瞬気を取られていた間に。
ラティオスの体が光に包まれ、ぐにゃり、と歪み。
光が収束すると、そこには白の着物に青の袴を履いた、白い髪の少年が現れる。
そうして自身に引っ付いたサクラを抱き上げると、抱えたままこちらへと視線を向け。
「アナタがこの子を捕まえたトレーナーか?」
「……………………」
「む、違ったか?」
「え。あ…………ああ、そうだよ。俺が
目の前でポケモンがヒトガタへと変化する。サクラで一度見たとは言え、こうして間近で見るとやはり目を疑う光景である。
というかサクラだけかと思っていたし、そもそもサクラだってヒトガタになってから一度もポケモンの姿へと戻っていない。だからもしかしたらあれは見間違いじゃなかったのだろうか、とすら思っていたのに。
ラティオス、やはり目の前のこの少年も、ポケモンとヒトガタとの姿の切り替えができる、ということなのだろうか。
「サクラ…………なるほど、花の名か。良い名をもらったな、ラティアス」
「ん?」
呟くラティオスの言葉に、サクラが良く分らないと首を傾げる。
そんなサクラの様子にラティオス苦笑する。
というか今、さらっと桜が花の名だと呟いたが、ホウエンに桜なんて存在しない。否、この世界のどこにも存在しないはずだ。ましてラティオスがそれを知っているはずも無い。
さらっと人の頭の中読み取ったな、このドラゴン。
「ん…………ああ、済まない。人と会話する、ということ慣れていなくてな。つい読んでしまう」
済まない、と言いつつそれほど申し訳無さそうにはしていない。
まあ多少バツは悪いが、そもそもサクラを仲間にしている時点で読まれること自体は仕方ないと思っているので、スルーしておく。
「というか、少し意外だ」
「む? 何がだ」
「サクラを捕まえたこと、もっと怒るかと思ってた」
そんな自身の言葉に、ラティオスが僅かに目を丸くして、それから心外だ、とでも言いたげな表情で口を開く。
「トレーナーが野生のポケモンを捕まえたところで、そのポケモンの家族が仲間を返せと迫ることがあるか?」
「……………………なるほど」
道理ではある、それを野生のポケモンであるラティオスから言われるのが正直何とも言えない気まずさを産み出しているが。
「それに、ラティアス…………いや、
最も、と呟きながら口元を歪め。
「嫌がるこの子を無理矢理に捕まえたり、捕まえたこの子に酷いことをするならば容赦はしないがな」
「…………しねえよ」
自身は一体どれだけ非道な存在だと思われているのだろうか、とぴくぴくと顔を引きつらせながら返した言葉に、ラティオスがだろうな、と呟く。
「サクラがこれだけ懐いた人間なのだから…………私も信じるさ」
こいつ、意外と良い性格しているかもしれない、そんな風に思った。
まあ、それはさておくとしても。
「調子は、良さそうだな」
運んでいる時には今にも死にそうな怪我だったが、こうして見ると包帯こそあちこちに巻かれたままではあるが、顔色は悪くない。
「ああ…………ハルカが私に飲ませた『げんきのかけら』のお蔭だ」
「…………ハルカちゃんそんなことしてたの?」
重体のポケモンにそんなもの劇薬になりかねないというのに。いや、準伝の潜在能力を考えた結果なのだろうけれど、それにしても危険な賭けだ。とはいえ、それが功を為した、ということは逆に言えばそれがなければ危なかったかもしれない、ということにもなるが。
とにもかくにも、無事で良かった、という言葉だけで終われば、良かったのだが。
「一つ、聞きたいんだが」
そうはしかない事情がある。
「一体、誰にそこまでやられたんだ?」
つまり、この件の犯人。
「それは…………」
その質問に、ラティオスが一瞬言いよどみ。
口を開こうとして、再び閉じ、
「口で伝えるより、
「は?」
言葉の意味を理解するより早く。
「少し眩しいぞ」
呟きと同時、目を焼きつくさんばかり、病室内に光が溢れていき。
「な、なっ」
思わず目を硬く閉じ、腕で覆って。
「ふむ…………もう大丈夫だ」
聞こえたその言葉に、ゆっくり腕をどかし、目を開いて。
――――そこは島だった。
「…………は?」
先ほどまでいた病室とはまるで異なる。足元に広がるのは緑生い茂る草むらであり、周囲に見えるのは小さな滝がいくつも流れた川に囲まれた緑の高台。
下って行けば森が広がっており、さらに向こうには崖と海が見える。
島だった。
空を見上げれば陽気にキャモメたちが飛んでおり、燦々と太陽が照り付けていた。
時折吹き荒ぶ潮風が肌に心地いい。
誰がどう見たって島だった。
「……………………なにこれ、どうなってんの」
「これは」
呟く自身の疑問に、いつの間にか隣にやってきていたラティオスが答える。
「私の記憶、それをアナタの頭に映像として送り込んでいる」
その言葉にふと思い出す。ラティオスという種族は確か見たものや考えたイメージを映像として他人に見せる能力を持っていたことを。
『エスパー』タイプのポケモンは大なり小なりこういった不可思議な力を持つが、ラティオス、ラティアス種族は特に記憶や心といったものに強く起因する能力を持っているようだった。
ラティオスの記憶の中にある島、ということは。
「これが『みなみのことう』か」
「知っている?」
「知識としては、ね」
意外だ、とラティオスが驚きの様相を見せる。
『みなみのことう』は実機時代にも存在したマップだ。
とは言え、三世代ならば通常プレイでは行けず、ORASになってようやくストーリー中で一度だけ訪れることができる場所なのだが。
もし、ここが『みなみのことう』なのだとするならば。
…………もしかすると、そういう事なのか?
とある仮説が自身の中に浮かぶ、と言ってもそれが事実かどうかの確認はこれからではあるが。
視界に映る穏やかな世界。
自然に囲まれた島の中でのびのびと暮らすラティオスたち兄妹の生活風景。
――――そして、突如として破壊される森。
炎に包まれ、燃え盛り、灰に帰す森の風景。
そして燃える森の中を歩く一人の女。
――――あハァ♪ ミツケタぁ
狂乱するほどの怒り、けれどそれを無理矢理に抑え、妹を逃した。
逃した、というよりは隠したと言うべきか。
ラティオスやラティアス種は光の屈折を操ることで自身の姿を誤認させることができる。
その力でラティオスは妹を風景の中に隠し、自ら住処を飛び出し、女へと襲い掛かった。
ラティオスは幻のポケモン。その潜在能力は並のポケモンを遥かに凌駕しており、トレーナーに育てられたポケモンであろうと、降すことは容易い事ではない。
けれども。
――――お願いね、バクーダ。
バクーダと、女に呼ばれたソレは、確かに見た目だけならばバクーダと言うポケモンと同じだ。
目算だが全長15、否、20mはあろう巨体がずどん、ずどん、と地響きを立てながら女の前に立ちはだかる。
デカイ。
女の姿を完全に隠してしまうそれは、まさしく一つの山だ。
ラティオスの全力の放つ“サイコキネシス”を受けながら、まるで揺るぎもしないその不動の有様。
お返しとばかりに背中のコブから放たれる“ふんか”がラティオスを撃ち付ける。
タイプ相性で言えば半減相性のはずの『ほのお』技だが、凄まじい威力でラティオスの体力を大きく削る。
余りにもバカげた威力だが、ラティオスもまた負けじと“ラスターパージ”を放ち。
――――バクーダ。
女の声に、バクーダが一つ鳴く。
ゴゴゴゴゴ、とバクーダの背中のコブから地鳴りがごとき音が響きだす。
何か不味い、それを悟ったラティオスがさらに攻勢を強めるが、その巨体故のタフネスぶりに、ついにその時を許す。
“かつかざん”
“カルデラふんか”
轟音。
最早筆舌に尽くしがたいほどの光景。
たった一撃だ。
たった一撃で。
半分無事なのは、ラティオスが守ったからだ。
全力のサイコキネシスで守り。
代償として表層部分は地獄と化していた。
いくつもあったはずの小さな滝、として滝から零れ落ちた水が流れていた川は全て蒸発し、
木々も全て灰と化し、地面には黒い焦げ跡だけが残っている。
妹は…………住処は地下部分にあったためギリギリで守られた、だが。
その代償は余りにも大きかった。
ラティオス自身、ほとんどの力を今の一撃で失っていた。さらに体中に傷を作り、血が流れる。
特に羽へのダメージが甚大だ。半ば焼け焦げている。
そもそもラティオス種の羽は飛ぶことに向いていない。それでも浮遊しているのはサイコパワーのお蔭である。そのサイコパワーが底を尽きかけていた。
最早飛ぶことに全力を尽くさねばならないレベルであり、けれど羽へのダメージのせいで浮かび上がってもバランスが取れない。
それでも、逃げなければならない。
最早ラティオスではあの化け物に対処することは不可能だ。
あの女が地下の妹に気づく前に、少しでも早く女の注意を引きつけなければならない。
妹を守る、その一心でゆらゆらと空中をふらつきながらもラティオスは進んでいく。
――――ダメ、逃がさなあい♪
にぃ、と女が笑い。
すでにこの島が囲まれていたのだと、気づいたのが遅すぎた。
次々と降り注ぐ攻撃の雨をそれでも掻い潜り、包囲網を突破しようとする。
飛びかかり噛み付かれ、体中に傷を負い。
死を覚悟する。
最後の力を、生きる力すらをも振り絞り。
捨て身で反撃をする。
いくつもの船を沈め、いくつものポケモンを海へと叩き落とし。
けれどそうしている内に女が再びやってくる。
不味い、と思った。
このままでは、またやられる。
いや、死ぬだけならば良い。だが島の近くでラティオスが死ねば、妹がそれに気づいて出てくるかもしれない。
そうなれば妹は…………それだけはダメだった。
「妹は…………サクラは、
映像として再現されていく記憶の中、隣に立つラティオスがぽつり、と呟いた。
「ラティオス、ラティアスという種族の中で、脈々と受け継がれてきた才の全てを備えた…………言ってみれば、種の完成系。それが
6V、と自身が呼んでいるそれ。
「ラティオス、ラティアス種は数がとにかく少ない。並のポケモンを凌駕する力を持つが、けれどだからこそ個体数が増えない。だから
だが現実にはそれは難しい。
記憶の中の女のように、たった一匹のポケモンでラティオスを圧倒する、というのは相当に困難だ。実際のところ、自身だってエア以外じゃ無理だと思う。
だが、六匹、フルに使うことができるならばラティオスを倒す、ないし、捕まえるというのは決して不可能な芸当ではない。
実際ラティオス、ラティアスたちを捕まえているトレーナーというのは非常に少ないが居なくは無い。
「妹はいずれ種族の頂点に立つだけの力を持った、種の希望だ。何物にも負けない最強の力を持ち、種を率いてくれると将来を
準伝の6Vともなれば、確かに圧倒的な力を持つだろう。
実際、たった一日でいとも容易く
「その妹を、捕まえちゃったわけだけど…………本当に良いの?」
返せと言われても返さないけれど、余りにもあっけなく良いと言われるとそれはそれで不安になる。
「問題無い…………ヒトが生きる尺度など高々百年足らず。私たちの種族はそれを悠に倍する時を生きる。ならばアナタの死後、妹が群れに戻ってきて私たちの王となってくれるならば何も問題は無い」
「…………スケールが違うわあ」
要するに、お前が死んだら返してもらうからいいよ、ってことだ。
百年を高々と言える時間感覚の違い。『ドラゴン』ポケモンというのは割と長命なのは知っていたが、こうして実感すると驚くばかりである。
映像に終わりがやってくる。
逃げて、逃げて、逃げて。
最早反撃の力すらも無く、無様なほどに逃げ落ち、隠れ潜み、やり過ごし。
それでも数の暴力には敵わない、見つかり、追い立てられ、それでも逃げて。
幾度となく再生し、傷つけられた体はすでに限界に達していた。
全身から血が溢れ、血を紅く染めていく。
雨が降っていた。
しんしんと、雨が森に降り注ぎ、地面をぬかるませる。
浮遊する力すら残らないラティオスには、最早そんなことは関係無かった。
木々の根元に腰を下ろし、幹に寄りかかる。
せき込み、血を吐き出し、力尽きる。
そこで記憶が途切れ。
――――っ!
無意識の中で誰かの声が聞こえる。
直後、ぶつり、と映像が途切れた。
記憶(メモリアル)映画(シネマ)@ラティオスな話。
まあもうこの女が誰とかみんなわかってるんろうけど。
つかまじこのヒト口調が分からん。分からんというか想像しづらい。
強キャラというか狂キャラになってるが、この記憶見てる最中もサクラちゃんはお兄ちゃんにぶらーんしてると思えば今日も世界は平和です。