ポケットモンスタードールズ   作:水代

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桜花乱れ青葉茂る

 

 ――――ああ、やっぱりか、という思いが胸をついて出て、ため息となった。

 

 記憶の中の女に、自身は見覚えがあった。

 と言っても一度も会ったことは無い、それでも知っている。

 

 ――――マグマ団のカガリ。

 

 六世代でゲームと共にキャラクター性までリメイクされたオメガルビー屈指の電波女。

 マグマ団の中でもリーダーであるマツブサ、実質上のナンバー2であるホムラに続く地位にある女であり。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それはつまり、自身の想定よりイベントの順番が前後している、ということであり。

 

 ……………………。

 

 ………………………………。

 

 …………………………………………。

 

 ラティオスの記憶を見終わる、と同時に戻って来る病室の景色。

「…………というか、なにあれ」

 見上げるほど巨大なバクーダの背中のコブが噴火したと思ったら、島が半分消え去っていた件。

 それほど大きな島では無かったが、それでもなんだそれ、と言いたくなる。

 というかまずサイズがおかしすぎる。十メートルは軽く超えている、十五メートル…………ないし二十メートル級と言ったところか。

 

 ポケモンバトルにおいて、サイズとは単純な有利には繋がらない。

 

 デカイ、というのはそれだけで強くはある。元のサイズに比べれば、『HP』『こうげき』『ぼうぎょ』あたりの物理的な部分は強くなる。装甲が厚ければそれだけ『とくぼう』も高くなるだろう。そしてあれだけ巨大なコブだ、『とくこう』も上がっているのは察せれる。

 だがそれらで補っても足りないほどに『すばやさ』は下がる。死角も多いので『かいひ』も下がる。狙いが遅いので『めいちゅう』も下がる。

 実際、あのバクーダが一撃攻撃を放つまでにラティオスは三度は攻撃していた。

 だがそれを底なしの耐久力で耐えて、カウンターで放たれる一撃一撃が重すぎる。

 あれはまさしく絨毯爆撃と呼べる代物だろう。範囲一帯全部吹き飛ばせばそれはもう必中技と同義だ。

 

 そして最後の一撃。

 

 島半分を消し飛ばすほどの超威力。エアの“シューティングスター”よりも威力の高い技など初めて見た。

 しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただ分かったこともある。

 

 あれを受けてラティオスが生きている、ということは、タイプ相性が軽減可能、そして技での軽減も可能。

 恐らく『みず』タイプで受けができるポケモンがいれば、あの技のダメージは大きく減らせるだろう。

 それでも“だいばくはつ”、うまくやって“じばく”を喰らった程度のダメージは残るかもしれないが。

 

 それからもう一つ。

 

「ボール、一つしか持ってなかったな」

 

 記憶の映像を見たかぎりだが、腰にボールが無かった。咄嗟に出せないようなところに普通はボールを仕舞うようなこと無いはずだし、となれば持っていたボールはバクーダ一つだけ、ということになる。

 持ってきていなかった、ということは無いだろう。何せラティオス、ラティアスを捕獲しようと用意周到に仲間を周囲を囲っての上での攻撃だ。

 

 と、なれば。

 

「あの一体だけ、か?」

 

 レベル100のポケモンを一体育て上げるのと、レベル50のポケモン六体育てるのでは、基本的に後者の方が容易だ。ポケモンバトルは確かに個々の強さも重要だが、究極的に言えば数が重要になる。

 どれだけ切り札を残していようと1対6の状況では息切れが先に来てしまう。6縦、なんて普通そう簡単には出来ないのだ。

 とは言え、それは実力差がそれほど大きく無い場合に限られる。

 極端に言えば、レベル1のポケモン百匹集めても、レベル100のポケモン1匹には勝てない。

 だから理論的には圧倒的な実力差があるならば、タイプ相性の不利や数の差などある程度無視して戦える。それを突き詰めていけば六縦、というのも決して無理ではない。

 無いが、けれどそんなことできるならとっくにやっている。

 

 ポケモンにはレベル上限というものが存在するのだ。

 

 その辺りを説明するとなるとレベルってじゃあなんだよ、という話になってしまうのだが。

 レベルというものを専門的に説明するとなるとかなりややこしい話になるので、大雑把かつ簡潔に言うならば、レベルはその種族が理論的に発揮できる最大能力を100とした時のパーセンテージだ。

 つまりレベル100というのはその種が発揮できる最大の力を発揮できる、ということ。

 少なくともこれに関しては実機時代と全く異なっている。

 

 実機をしたことのある人間に分かりやすくいうならば、キャタピーがトランセルに進化するために必要なレベルは最低90以上だ。

 何を言っているのかと思うかもしれないが、それがこの世界の人間の常識だ。

 キャタピーという種のポケモンが発揮できる能力の最大の内九割以上を発揮できるようになればトランセルへの進化が始まる、という風に思えば良い。

 そしてトランセルに進化するとレベル1に戻る。そこからまた今後はレベル100にするとバタフリーに進化する。

 実機ならレベル7でトランセル、レベル10でバタフリーに進化していたが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という話になる。

 キャタピーのレベル1とバタフリーのレベル1は同じレベル1なのか、と考えれば現実的には違うに決まっている。実機ならレベル1はレベル1だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが現実ではその絶対基準が存在しない。だから理論的最大能力値を100としてそこからパーセンテージ付けするしか評価方法が存在しないのだ。

 

 実機のように明確な絶対的な数値基準、というものが存在しない現実ではそうやって基準を作っている。

 

 パーセンテージで表すから余計に分かりにくいが、実際のところ実機でキャタピーをレベル7にする程度の労力でキャタピーはレベル90以上になりトランセルに進化するし、そこからさらに実機でレベルを3つ上げる苦労で現実ではトランセルはレベル100になりバタフリーに進化する。

 

 ナビの図鑑機能で、野生のポケモンのレベルが表示されるが、あれはポケモンのサイズや外観などの成長度合いから大凡の数値を読み取っている。個体差というのは読み取ってくれないので、同じポケモンなのにレベルが低く表示されていても強いポケモンはいるし、レベルが高くても弱いポケモンもいる。あくまで目安程度にしかならない。

 

 となると、色々とおかしな話が出てくる。例えばヒトガタだとか、準伝だとか。

 まあその辺りは話すとさらに専門に突っ込んだ話になるし、面倒なので要するにレベルは理論値限界をパーセンテージで表したものだと分かっていれば良い。

 

 そう、ポケモンのレベルには限界があるのだ。

 基本的に100が上限。何せ100%で理論的にはその種の持つポテンシャルを全て引き出しているはずなのだから。

 

 故にどれだけ強かろうと、通常のポケモンがレベル差で圧殺、というのは不可能だ。

 それこそ伝説のポケモンでも連れてこない限りは。

 だがあれはバクーダだ。規格外に巨大だし、色々と火力がおかしいことになっているが、所詮はバクーダだ。

 だから普通に考えればバクーダという種の枠組みの中にいるはずなのだが。

 

「ラティオスを圧倒してる時点でバクーダといって良いのか分からんなあ」

 

 特異個体、というのは時々いる。少なくとも6V、ヒトガタよりは見かける確率は高い。

 異常に大きい、異常に小さい、種族値がやたら尖っている、本来持っていないはずのタイプを持っている、などなど色々とパターンはあるが、自然の中で生まれ、育つ中で特異性を持つに至った個体というのは意外と多い。

 特異個体というのは、単純な突然変異によるものだけでなく、環境に適応したが故の異常というのもある。

 単純に異常、というと悪いもののように聞こえるが、ある種それは進化にも通じるものであり、決して悪い物ではない。

 例えばチャンピオンロードの地下に適応し視力が退化したガブリアスの群れ、あれこそまさに特異個体の群れとも言える。

 通常のガブリアスも基本的に視力というのは悪い。砂嵐が吹き荒ぶ環境下で育つため、視界の悪さは常にあり、視界を頼ることができないからだ。

 それを極端に特化されたのがチャンピオンロード地下のガブリアスたちだと言える。

 

 そしてサイズの異常、というのは一番ポピュラーであり、多い。

 

 理由としては、簡単で()()()()()()が一番多いからだ。

 

 食べる物の変化や、生息地の変化、単純な個体差に年齢の差、などなどそうなる原因は複数あり、しかもそれらが重複することもある。

 ただポケモンバトルで使用するなら最大5メートルが限度だと言われている。

 完全に受けポケとして活用するなら10メートル、それでもそれ以上のサイズというのは中々居ない。

 理由としては簡単で、割りに合わない、からだ。

 

 十数メートルの巨体を住まわせる場所を用意し、巨体を養う食事を用意すること自体がまず難易度が高い。

 ポケモンだってずっとボールの中に入っていればストレスも溜まる、最長でも一週間に一度は解放してやらねばストレスで体調を崩すかもしれない、最悪死ぬかもしれない。

 そこまでして保持しても、受けポケとしての技を仕込むための育成だってそれだけのサイズならば一苦労だ。

 そうしてようやく受けポケとして育て上げても相性が悪ければワンパンでやられることだってある。

 

 割りに合わない、というのはつまりそういう事だ。

 それこそ他所の地方では超巨大サイズの特異個体専門トレーナーみたいなのもいるらしいが、そういうトレーナーたちはそれ専用の施設のようなものを作り上げ、効率化を図っているからこそできるのだ。

 並のトレーナーが手を出してはただでは済まない。

 

 だから、普通ならあんな巨大なポケモン育てない。

 

 普通なら、だが。

 

「盲点だったかもしれない」

 

 そう、()()()()()()()()()使()()()()かもしれないが。

 そもそも()()()()()()()()使()()()()のなら関係無い。

 

 マグマ団は別にポケモントレーナーを目指している団体ではない。

 あくまで手段としてポケモンを使っているだけなのだ。

 だから、正々堂々ポケモンバトルをする必要などどこにもない。

 

 そう考えればあの動く火山のようなバクーダは凶悪だ。

 

 あれだけの巨体だろうとモンスターボールは問題無く収容してしまう。

 それはつまり、ボール一個であの巨体をどこにでも運べ、そしてどこにでも出せるということ。

 その上であの圧倒的な火力。

 

 そんなもの、一種の兵器だとすら言える。

 

 そんな兵器紛いのポケモンをテロリスト紛いどもが持っている、という状況に思わずため息を吐きたくなる。

 

「…………取りあえずポケモン協会に連絡。それからこっちでも早めに動かないと不味いかもね」

「アナタは、私を襲ったニンゲンたちについて詳しいようだな」

 

 思わず出た独り言に、ラティオスが反応を返す。

 そう言えば心が読めるのだったか、と思いつつ。

 

「ああ、まあそうだな…………あいつらはマグマ団。当面の敵だな」

 

 アクア団をこちらで抑えたことで、当面の敵はマグマ団となる。

 だが思ったよりも厄介そうなのが困りものだ。

 

「…………ふむ」

 

 と、そんな自身を他所に、ラティオスが下顎に手を当てて、僅かに考え込み。

 

「もし、アナタが良いならば…………私を連れていって欲しい」

 

 そう告げる。

 

「……………………どういうつもり?」

 

 眉根を潜める。

 生憎こちらは心など読めないのだ、その提案の意図を質問する。

 だがそんな自身へとラティオスが視線を向け。

 

「アナタが今どんなことをやろうとしているのか、大よそだが理解した。そしてそれが失敗した時、私たちにどれほどの影響があるのかも」

「……………………そこまで読めるのか」

 

 まだ一言も語ってないし、ここに来てから考えても無かったはずなのだが、伝説のポケモンたちのことまで読み取られたらしい。

 少しだけ不快な感覚を覚えるが、すぐに飲み込む。そういうポケモンなのだから仕方がない、と思うことにする。

 

「済まない、つい癖のようなものでな」

「分かったから、続けろ」

 そうして自身が続きを促せば、ラティオスが一つ頷き。

 

「理由は三つ…………グラードンとカイオーガ、伝説へと挑もうとするアナタの傍にいる妹が心配だから。アナタが失敗すれば私たちの住処がホウエンから消え去るから。そして」

 

 すっと、ラティオスが目を細める。

 先ほどまでとは違う、冷ややかな視線で、こう告げた。

 

「――――私たちの島を破壊したやつらを追いかけるため」

「…………復讐ってこと?」

「いや、報復さ」

 

 大して違わないだろ、と言いたいが言いたいことも分かる。

 住処を破壊されて怒らない野生のポケモンがいるだろうか。

 そしてこれから起こることを知ったならばそれに対して不安になるのも分かる。

 分かるからこそ、悩む。

 

 正直、これ以上は手一杯だ。

 エアたち殿堂入りメンバー六体に、旅を始めてからのメンバー三体で計九体。

 そして、後一匹確保しておきたいポケモンがいる。

 それを考えれば、これ以上居られてもこちらが扱いきれない。

 

 その思考を読み取ったのか、ラティオスがなるほど、と一つ頷き。

 

「ならば、ハルカの手持ちになる、というのは?」

「…………ハルカちゃんの?」

 

 その提案に僅かに悩む。

 確かに、育成するだけならこちらでして、後はハルカちゃんに使ってもらう、というのはアリだ。

 何よりここから先ハルカちゃんもついてくるなら戦力は多いに越したことはない。

 それが幻のポケモンラティオスともなれば、十二分な戦力となるのは間違いないだろう。

 

 そう考えて。

 

「――――アオバ」

 

 ぽつり、と呟く言葉に、ラティオスが一瞬首を傾げ。

 

「キミの名前だよ」

「…………では?」

「ハルカちゃんの了承はちゃんと取ってね」

「問題無い…………すでに取っているからな」

 

 にっ、と不敵な笑みを浮かべるラティオス…………アオバに、用意周到だ、と呆れ。

 

「まあ、何はともあれ、これからよろしくね」

「ああ、よろしく頼む」

 

 差し出した手を、アオバがぎゅっと握る。

 

 

 …………ところで、サクラはいつまで引っ付いているのだろうか?

 

 

 ふとそんなことを気にした。

 

 




「周りの火力が足りてない」という動画が衝撃的過ぎて二時間くらい放心してた。
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