ポケットモンスタードールズ   作:水代

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おにびとか漂ってそうな山

 

 そこは家だった。館だった、屋敷だった。

 

 『オトウサン』が各地から集めたマシロの名を失った少女のような孤児たちを集めた場所。

 

 そこは監獄だった。そこは牢獄だった。

 

 三人の少年少女がそこにいた。すでに全員がその名を失い、名も無い誰かでしかなかった。

 

 そこは訓練場だった。そこは研究所だった。

 

 血でなく、強さで繋がる家系。

 ただひたすらに強くあることを求め続け、弱者を切り捨て強者だけが残る生の極致地点。

 与えられた一匹のポケモン。それをひたすら強く、強く、強く、育て続けること。

 そして戦い、闘い、トレーナーとして強く、強く、強く育つこと。

 

 それが少年、少女に与えられた使命だった。

 

 始まりは十人だった。

 

 『オトウサン』が用意したポケモンと戦い、勝てば褒められた。負ければ激しく叱咤され、負け続ければ見捨てられた。そも孤児など他に行く当ても無かったから孤児なのだ。見捨てられれば…………どうなるかなど、火を見るより明らかだった。

 

 一年で半数になった。

 

 居なくなった彼らのポケモンは残った彼らが引き継いだ。

 座学も学んだ。知識を詰め込み続け、頭が痛くなるほどに学んだ。それをバトルに活かせなければ生き残れなかったから。

 二年目になれば『オトウサン』が用意したポケモンの質がより上がった。

 中でも全身を黒に染め上げられたポケモンたちは凶悪で、凶暴で、他のポケモンと違い、トレーナーまで襲われた。

 

 二年目で更に二人居なくなった。

 

 三年目まで残ると『オトウサン』は少年、少女たちに優しくなった。

 よくやった、と言って彼、彼女たちを褒めた。

 上機嫌な『オトウサン』の語る言葉をマシロだった少女は無感情に聞いていた。

 それはきっと、残った二人も同じだったのだろう。

 

 人間らしさ、なんてその場所では必要無かった。

 

 ただ残忍と冷酷と生への渇望だけが必要とされた。

 

 たった一つ信じられるのは己がパートナだけだった。

 

 二年、共に生きて抜いてきた最愛のパートナーだけだった。

 

 

 ――――クロ。

 

 

 呟く少女の声に、ジヘッドが鳴いた。

 

 

 * * *

 

 

 およそ二十年以上前の話になる。

 

 当時のホウエンは今ほど開かれた地域では無かった。

 

 決して閉塞していたわけではないが、けれど他所の地方の人間など極少数であり、それも交易関係の仕事で時折港町にやってくる、という程度のものだった。

 

 現代との最大の違い、そして理由として。

 

 ミナモシティが発展していなかったこと。

 

 即ち、これにつきる。

 今でこそ、ホウエン最大規模の観光都市として発展したミナモシティではあるが、当時はまだホウエン唯一の交易、そして漁港の街。その交易だって今ほど盛んでは無く、規模の小さなものだった。

 ホウエンは自然の多い土地柄のせいか、技術的にまだまだ未熟だった。そのため、輸出に使えるものと言えばその大自然の中から取れる物ばかりであり、キンセツシティもまだ今ほどの発展を見せていなかったため、それを製品加工する技術も低く、高度な技術が必要な品は専ら輸入頼りの、技術的にも、文化的にも後進した地方であった。

 

 ホウエンが文明的に進歩した転換期は主に二つ。

 

 一つはカナズミシティに勃発し、飛躍的成長を見せたデボンコーポレーションの台頭。

 

 そしてもう一つが、()()()()()()()()()

 

 その原因となったのが。

 

 

 ()()()()

 

 

 『おくりびやま』から大量の『ゴースト』ポケモンたちがミナモシティへと降り、町が冗談抜きで半壊した近年における野生のポケモン被害の中でも最大規模の事件である。

 

 ホウエンにおいて、ポケモンバトルを競技とし、スポーツとする風潮を粉々に打ち砕き、トレーナーを戦力、ポケモンバトルは戦い、とする風潮をより一層強めたのもこの事件が切欠である。

 遠くイッシュやカロス地方において、ポケモンバトルはスポーツであり、競技であり、闘いである。それは技術発展に伴い自然を崩し、人の世界を切り開き、人の領域の安全を確保したが故の物であり、それ故イッシュやカロスのポケモンリーグと、カントージョウトやホウエンリーグのルールというのは異なってくる。

 ホウエンリーグが()()()()()()()()と言われる所以はこの辺りにある。

 あの過酷なまでのチャンピオンロードもそうだが、ホウエンリーグがチャンピオンに求めるのは()()()()()()だ。安全なフィールドの上でルールで縛ってその上でだけ勝てるような制限された強さは必要ない。ただ自然の脅威が人の世界を脅かした時、真っ先にその先頭に立って戦うことのできる王者(チャンピオン)がホウエンには必要だった。

 

 騒霊事件とて、元を正せば()()()()()()()()()()()()が原因だ。

 けれど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために規模が拡大、結果がミナモシティ半壊。

 最終的に当時の四天王、チャンピオンが招集され、ミナモシティでの()()()が行われ、この一件で『おくりびやま』の『ゴースト』ポケモンの半数が()()()とされる。

 それ以降『おくりびやま』には管理者が配置された。実機でいうところの『あいいろのたま』と『べにいろのたま』を管理していた老夫婦がそれに当たる。実機ではそれらしい背景は一切無かったが、現実だと割とそういう実機には無かったバックストーリーというのが溢れている。

 否、ポケモンという野生の脅威が存在し、そして現実なのだ。それによる被害があるのは当然なのかもしれない。

 

 そうしてミナモシティが半壊すると、それを復興しようと各地から資材と人が集まる。

 資材を運ぶための船を入れるための港も増設され、集まった人を対象とした商売が始まる。

 それが今のミナモシティの原型、始まりとでも言うべきか。

 騒霊事件では人的被害より物的被害のほうが圧倒的に大きかった。元々が悪戯だったからか、人への被害は実のところそれほどでも無い。とは言っても死傷者は決してゼロでは無いのだが。

 それよりも壊された町を再建するよりも、いっそ下地から作り直していこう、これを機にミナモシティをもっと大きく、規模を拡張し、開かれた街にしていこうとそういった運動が起こり、時を経るごとに人が集まり、物が集まり、船が集まり。

 今ではホウエンの玄関と呼ばれるまでの大規模な交易都市となった。

 

「と、まあこんなの現代じゃほとんど知られてないんだけどね」

 

 ホウエン地方最大の霊山『おくりびやま』。

 『ゴースト』使いの修行場にして、数多くの死者の眠る地。

 人もポケモンも死した時は半数はそれぞれの町で墓を作られるが、残りの半数はこの『おくりびやま』に葬られる。

 『おくりびやま』は送り火山の名が示す通り、死した人やポケモンの魂を送り出す場所として過去よりホウエンの霊山として崇められている場所だ。

 正直『ゴースト』だらけで全然送りだせてない気もするが。

 

「…………見てるだけで気分が悪くなりそうだわ」

 

 自身の隣でぽつり、とシキが呟く。

 視線をやれば、こころなしか、顔色が悪いようにも見える。

「どうしたの、シキ」

「…………ちょっと雰囲気にあてられただけよ」

「…………ふーん?」

 そう言うのならそうなのだろう、と納得しておくことにする。

 シキと二人歩きながら『おくりびやま』へと入る。

 実機もそうだったが『おくりびやま』の麓のほうは墓場となっている。中腹辺りまでは整備された道で歩いていけるが、それより上に行くとなると山道を歩く必要がある。

 とは言っても実機でもそうだったように、管理人夫妻がいるため、頂上まで一応道はある。麓のほうと比べると土を固めただけの乱雑なものだが、それでも道なき山よりかは大分歩きやすい。

 

「それで、ここに何しに来たの?」

 

 墓場を抜け、山の中腹を歩く。

 見下ろす景色は山を囲う湖とその向こう岸に広がる自然。

 ホウエンというのは自然が多いため、高いところから見渡す限りの大自然が広がって見える。

 とは言っても、こんな雰囲気の暗い場所から見たところで、さほど気分も良くはならないが。

 そうして景色を見ていると、後ろでシキが一つため息。

 

「大丈夫?」

「…………ええ、大丈夫よ」

 

 そう、とだけ呟きながら横眼でシキを見やる。

 どうにもここに来てから顔色が悪い。

 

「……………………頂上に用事があるんだよ」

「頂上?」

「そうそう、この『おくりびやま』の頂上には、昔から二つの珠を保管した場所があるんだよ」

「珠?」

 いまいちイメージが掴めないのか、首を傾げるシキに。

 

「『べにいろのたま』と『あいいろのたま』、だよ」

 

 答えた言葉に、シキが目を丸くする。

「え…………でもそれって確か、キンセツシティのカジノにあるはずでしょ?」

「あれ精巧に作った偽物だよ」

「……………………は?」

 ぽかん、と口を半開きに固まるシキに笑みを浮かべる。

「いや、折角本物手元にあって、協会から人手も借りれて、時間もあるんだからわざわざ本物出さなくても偽物作って飾っとけばいいじゃん、ってことだよ」

 因みに二つの珠はゲームだとそうは見えないが、自身が両手で抱えなければいけない程度のサイズはあり、しかも本物のルビーとサファイアの原石を使って作ってあるので、現代ならかなりの値段になるが、以前にも言った通りこの世界宝石の値段というのが大分低い。決して安かったわけではないが、それで釣りだした両団への被害を考えれば費用対効果はかなりのものだったと思う。

 

「正直、俺の手元に置いておきたい気もするけど、下手に動かすと気取られそうだったんだよね。だから偽物作ってそっちに目を向けさせたんだよ」

 

 そもそも二つの珠をどうにかして両団に渡さないことが、伝説のポケモン復活阻止の一番手っ取り早い方法であり、自身がチャンピオンを目指した理由の半分でもある。

 だから当初の予定としては二つの珠をこちらで管理しようと思っていたのだが。

 

「こっちの想定以上にアクア団の動きが速かったんだよね」

 

 借りること自体は管理者から了承を得ている。

 『おくりびやま』の管理者と二つの珠の管理者は本来別の話なのだが、そこは四天王のフヨウに話をつけてもらった。実機でもあった設定だが、管理者の老夫婦はフヨウの祖父母だ。それを知っていたので、ポケモン協会を通してポケモンリーグを動かし、フヨウに話を持ち掛け、フヨウに祖父母を説得してもらうと言う手間を取ったが、最終的にはやはりチャンピオンという肩書のお蔭で信用を得られた。

 まあグラードンとカイオーガ、二匹の伝説と珠の関係性を知っていたことも多少の説得力を持たせる要因となったのもあったが。

 そうして『べにいろのたま』と『あいいろのたま』を借りようと思ったのだが。

 

「ミナモシティの近くで迂闊に移送させれば、それだけで感づかれそうなくらいアクア団が広がってたから急遽予定を変えたんだよ」

 

 『おくりびやま』というのはミナモシティに非常に近い。

 正直、ミナモシティのどこからでも見えるくらいに近く。

 ミナモシティに根を張るアクア団に気づかれないように二つの珠を移送するのはかなり骨が折れた。

 マグマ団とアクア団が何時の時点で二つの珠の存在を知ったのか、分からないが、当時からすでに『おくりびやま』周辺に手を伸ばしていたことから考えると、珠の存在自体は知っていた、だがそれがどこにあるのかは分からない、と言ったところだろうか。

 すでにホウエン中でマグマ団とアクア団は活動していた。そんな両団の目を潜り抜け、密かに珠を運ぶのは難易度が高いことも分かっていた。

 

「だったら、いっそ移さなければ良い」

 

 本物があるのだ、偽物を作ることも決して不可能ではない。

 第一マグマ団もアクア団も()()()()を見た事が無いのだ。

 特徴らしい特徴さえ押さえておけばまずバレないだろうとは思っていた。

 

 問題があるとすれば、()()()だろうが。

 

 …………いや、彼女に関しては今は良いだろう。

 

 偶然か必然か、これまでまだ出会っては居ないが、けれどいつかは出会う、それは最早決定された未来だ。

 

 特に()()()()()()()()()()()彼女を欠かすことは不可能だろう。

 

「…………まあ、今は目前に迫った伝説の対処で手一杯だな」

「何か言った?」

 

 いや、なんでもない。と首を振って答える。

 長々と歩いてきたが、山頂はもう少しだ。

 

 ――――マグマ団が動き出している。

 

 その情報はすでに掴んでいる。

 過日、『えんとつやま』にマグマ団がやってきていた、という情報にすでにダイゴ含めた幾人ものリーグトレーナーが動き出している。

 あちらはあちらで任せておいていいだろう。

 

 そうこう考え居る間に、頂上にある二つの珠を安置した祠が見えてきて。

 

「シキ、ほら、あれだよ」

 

 言葉と共に同行していた少女へと振り返り。

 

 

 …………蒼褪めた顔で蹲る少女を見た。

 

 

 




プロナントシンフォニーってゲームがくそ面白すぎて毎日徹夜しながら遊んでたらいつの間にかこんなに空いてしまった(

そろそろシキちゃんについても話進めたいと思う。

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