『オトウサン』が集めた子供たちは性別も年齢も出身地もバラバラだったが、一つだけ、ある共通点があった。
それは、異能を持つ、ということ。
異能とは不可思議な物だ。
ポケモンでも無い人の身でありながら、ポケモンでもできないよう不可思議な現象を起こす奇跡の業。
マシロだった名も無き少女の異能は『逆転』。
全て“さかさま”に“ひっくりかえす”こと。
この異能と信頼するパートナーと力を合わせ、少女は二年の間生き延びた。
三年目に行われたのは、異能の強化。
そう名目付けられた拷問だった。
優しかった、そう思えたのは最初だけ。ここまでの結果に満足がいったから喜んだだけ。
…………まだ何も終わってはいない。それだけの話だから。
十にもならない小さな体で、与えられたのは意識が飛びそうな苦痛。全身を焦がす電流。こんなことに何の意味があるのか、けれど『オトウサン』がやれと言うならばやるしかない。
一寸の光も差さない闇に包まれた部屋の中で一週間、飲むことも食べることもせず、放置されたこともあった。
音一つ聞こえない静寂。自身の鼓動だけを感じながら、見えず、聞こえずの闇の中で気が狂いそうになる精神を繋ぎとめていた。
他人が聞けば目を剥くような虐待の数々だと言われるだろう。
だが当人たちはそれを虐待だとは認識していなかった。
それを辛いとも思わなかったし、嫌だ、とも思わなかった。
まだ子供であり、常識、なんてものを知らなかったこともあったが、何よりも。
『オトウサン』がポケモンを使って無意識にそれを普通だと思うように催眠していた。
子供というのは純な生物だ。あっさりと無意識にそれを当然のことと刷り込み、何の疑問も持たずにそれを熟す。
例えその過程で気が狂おうと、死のうと、『オトウサン』からすれば弱者が一匹、居なくなっただけ程度のこと。
居なくなったらまた補充すれば良い。異能者というのは突然のごとく生まれる。そしてその異常性から親に気味悪がられ捨てられることが多い。
どんな世界、どんな場所であろうと、人間という種の根本は変わらない。
人間は異物が嫌いだ。異物を見つければとことん排斥しようとする。
腐っているのだ。
根本からして。
性根が根腐れしている。
だからこんなにも多いのだ。
異能持ちの孤児、というものが。
『オトウサン』と呼ばれる男は、他人が捨てたそれを
ああ、本当に。
ナンテクサッテイルノダロウカ、オレモ、オマエタチモ。
だから『オトウサン』は今日も止まらない。
強く、強く、強く。
求めるのはただそれだけ。
そしてその果てにあるものだけなのだから。
* * *
異能と霊能は似ている。
正確には、異能の中の霊能、であり、同一では無い。
ただ分類されている通り、根本的には似通ったものであり、だからこそ、異能を持つ人間は皆、通常の人間には無い感覚が備わっている。
しいて言うならば第六感、とでも言うべきか。
物理的には何ら存在しないはずの物を、けれど異能者は敏感に感じ取る。
それが強大であるほどに明確に、強く感じ取る。
「つまりね…………テレビのチャンネルやラジオの周波数みたいなものよ」
横になったからか、心なし先ほどよりかは体調が戻っているように見えるが、けれど未だに青い顔をしたままシキがそう呟いた。
「異能者はその存在が理から
『おくりびやま』はホウエン最大の霊山と呼ばれる。
「だから墓場とか曰く付きな場所に行けば、おかしな感覚を覚えるし、時には見えたりもする。同じ外れたモノ同士周波数が合ってしまっているから」
前世でもあった概念だが、龍脈だが霊脈だか、そんな概念がこちらの世界にもあり、『おくりびやま』や『テンガンざん』、『シロガネやま』などそういった不可思議な力のたまり場になる場所、所謂パワースポット、というやつだろうか。
そしてそういう場所に漂う空気は確実に異能者に影響を与える。
否、異能者で無くとも影響は免れない。
その際たる例がフヨウだろう。
フヨウは異能者でも何でもない一般人だったはずだが、この『おくりびやま』で修行する内に『ゴースト』タイプに対する極めて高い感応能力を身に着けている。
有り体に言えば、霊と周波数を合わせることができる能力を身に着けている。
本人曰く、見ることも聴くこともできる、のはそのためなのだろう。
異能者ならざる自身には良く分らない感覚。
だが少なくとも、シキの体調不良の原因がこの場所にある、というのは理解できた。
「少しここで待ってて、すぐに用事を済ませるから、そしたらミナモシティまで
弱々しくシキが頷くのを見て、立ち上がり、目前まで迫った頂上へと足を急げた。
* * *
――――夢を見ていた。
――――――――遠い、遠い、昔の夢。
四年目。
三人で共同で野生の領域へと足を向けた。
海、山、草原、森、洞窟。
『オトウサン』から命じられ、一年かけてどこにでも向かわされた。
行った先々で、新しいポケモンを捕まえたり、野生の主と戦った。
十にもならない子供たちが、そう考えれば無茶無謀にもほどがあった。
最初はどうにもならないことの連続だった。どれだけトレーナーとして強くなろうと、子供一人には限界がある。それでも死者が出なかったのは彼らの実力の証であると言えよう。
だから最初に覚えたことは、協力することだった。
そうしなければ生き残れない、そんな打算的な協力関係を十にもならない子供たちが築き上げていることそれ自体が最早異常としか言い様が無かったが、けれどそれを指摘する人間は一人としていない。
それでも、例え最初が打算から始まったとしても。
一年も共に激闘を潜り抜ければそれなりに情も沸く。
一年が終わる頃には、残された三人はすっかり仲を深めていた。
それでも、マシロだった少女だけは、心の底にどこか冷めた目で彼らを見る自身がいることを自覚していた。
五年目。
『オトウサン』の命令によって、
三人で百度にも及ぶポケモンバトルをし。
どこに?
それはマシロだった少女には分からない。
一つだけ分かることは。
彼らは自らの生存を賭けて、少女を蹴落とした。
それだけのことだった。
そして、六年目。
六年目の始りと共に、かつてマシロだった少女は十歳になった。
それはつまり、公式トレーナーとしての必要年齢を満たしたと言う事実。
そして。
――――――――最後の選別が行われた。
* * *
薄っすらと目を開く。
視界の中に映るのは、見覚えの無い天井。
もぞり、と手を動かせば柔かな布の感触。
ぼんやりとした意識の中で、けれども自身がベッドの上で布団を被って寝ていたことを理解する。
頭がくらくらする。
異能者であることは、自身にとって当然のことだ。生まれた時からそうなのだ、物心ついた時にはすでに手を動かすかのごとく自然に異能を操っていた。
だから、異能者でない自身というのは想像することも出来ないし、想像しようと思ったことも無いが。
異能者であって不便だと思うことは時折ある。
異能者でない人間から見れば、意思一つで理を塗り替える強大な力に見えても、使っている本人からすれば人間の体に腕が生えていてそれを動かせることと同じくらいに使える力であり、羨まれる感覚も良く理解できない。むしろ、異能があるからこそ感じ取ってしまう物を考えれば、無い方が得なのではないか、と思うこともある。
『おくりびやま』は死者の埋葬された山だ。
普通の人間ならば、その暗い雰囲気に少し寒気がする、程度の物なのかもしれないが、異能者からすればその少しの寒気、が何倍、何十倍にも敏感に感じ取れてしまう。実害は無い、無いのかもしれないが気分が良い物ではない、というか実際にこうして不調を起こしてしまうほど強烈なのは本当に久しぶりに感じる。
「…………弱ったわね」
本当に久しぶりの感覚だ。死の気配が何よりも近い感覚、昔ならば何の気無しに涼し気な顔で流せていたはずのそれを、今となっては青い顔して卒倒してしまうとは。
否、それを弱った、と言ってしまうのもおかしいような気がするが。
人間らしくなった、というべきか、人間性を取り戻したというべきか。
いや、あの場所より以前だってそれほど人間らしい人間だったかと言われれば首を捻るが。
もぞり、と寝かされたベッドの上で体を動かし、上半身を起こす。
電球色の優しい色合いに照らされた薄暗い室内を見渡せば、ここがどこかのホテルか何かの一室だと理解する。
最後の記憶は…………頂上へと向かうハルトの背を見送ったところまでか。
どうやらその直後に気絶してしまったらしい。
多分その後ハルトに運んでもらったのだろう。少なくとも『おくりびやま』のどこかということは無さそうだ、あの薄ら寒い気配を全く感じないためそれは分かる。
まあ何はともあれ、起き上がろう、と体を動かそうとして。
ふっ、と力が抜ける。
「あ、あれ…………?」
とすん、と軽い音と共に分厚いクッションのような枕の上に頭が落ち、柔らかい感触に受け止められる。
目を丸くしながら、未だに眠気からかいまいち感覚の通らない体をもう一度起こす。
そのままゆっくりと、ベッドサイドから足を延ばし、起き上がろうとして。
「…………ダメねこれ」
足に全く力が入らない。
というか上手く動かない。まるで自分の足でないみたいに。
嘆息一つ、まだ体調が戻り切っていないようだと諦めてベッドに倒れ込み。
とんとん、と扉をノックする音。
「…………はい」
短く返事をする。
「シキ…………? 起きたんだ、入って良い?」
「…………どうぞ」
短く返せば直後にドアが開き、片手にお盆を抱えたハルトがやってくる。
「ああ、良かった…………用事終わらせて戻ってきたらシキ、気を失ってるから本気で焦ったよ」
柔らかく、ハルトが笑む。心底安堵してくれている、というのが伝わって来る。
その笑みを見ていれば、自身まで安心できてくるのだから、不思議だ。
「…………体調はどう?」
ベッドの傍の机にお盆を置きながら、ハルトが尋ねる。お盆の上にコップが二つ置いてあるのは、どうやら飲み物を持ってきたらしい。
「問題無いわ…………山から離れれば後は勝手に治るから」
「…………そっか」
嘆息一つ漏らしながら、ハルトが持ってきたコップを一つこちらへと渡してくる。
上半身だけ起こしながら、そのまま受け取り、一息に中身を飲み干す。
少し冷えたお茶が喉を通る爽快感に、少しだけ気分が良くなる。
一つ息を吐きだし、中身の無くなったコップを返す。
「ありがとう、お蔭でちょっと気分も良くなったわ」
「そっか…………うん」
呟きながら笑みを浮かべるハルトの表情に違和感を覚える。
先ほどと同じはずの笑みは、けれどどうしてだろう、今にも泣きそうにも見えた。
「…………どうか、した?」
思わず口にした言葉に、ハルトが一瞬、表情を崩し。
「…………うん、そうだね」
一歩、近寄って、ベッドの端に腰かける。
そのままこちらの様子を伺うように、手を伸ばし。
「…………え、え?」
呆けている間に、手が伸び、自身の頬に触れる。
とくん、と一瞬鼓動が跳ねた。
「…………ごめん」
感じていた気恥ずかしさも、高鳴っていた鼓動も、その一言で途端に沈静した。
「…………俺は…………知っての通り、異能なんて欠片も才能無いからさ。知らなかったんだ、異能者がこんなに強く周りの影響を受けるなんて」
知っていたら同行を頼んだりしなかったのに、そう告げるハルトの表情に浮かび上がっていたのは後悔だった。
「本当に…………大丈夫?」
頬に触れる手が温かい。その手の上から手を重ね、きゅっと包み込むように、ハルトの手を握った。
「…………大丈夫よ。私も、ここまで強く影響受けるとは思わなかったけど。それでも、ついていったのは私の選択だから、だから、謝らなくいいわよ」
そもそもの話、最初から一人で行く気だったハルトについていったのは自身なのだ。ミツルもハルカもコトキタウンでハルトの母親の見舞いに行っており、自身も本来ならそこに加わるはずだったのをこちらへ着いてきたのは自分の意思だ。
だから正真正銘、これは自業自得であり、そもそも麓の時点でやばいのは分かっていたのだからそこで引き返せば良かっただけなのだ。
それをどうしてついていったかと言われれば。
「…………むしろ、謝るのはこっちかもしれないわね」
その言葉に、ハルトが、えっ、と呟きを漏らし、驚いたような表情をする。
「…………私は、
口から出た言葉に、ハルトが硬直する。
初めてハルトに話を持ちかけられた時から、ハルトが全てを話してはいないことは分かっていた。
それでも、初めて出会った時、手を引いてくれた彼を信じようと思った。
けれど、カイナシティでのアクア団との一件でその信頼は揺らいだ。
何のために伝説を捕まえるのか、その理由を考えれば積極的に伝説を蘇らせよようとする、しかも、敵にそれを渡そうとするハルトの行動はどう考えてもおかしい。
信じて良いのか、少なくともこの二年の間で、その人柄は分かっている。決して悪人ではない、むしろ善性の人であることは分かっている。
だからこそ、言動の矛盾にシキは迷った。
「…………でもね、もう止めるわ」
そう、もう止めよう。仲間を疑うような真似、これ以上したくはない。
何より、心配そうに自身を見ていたハルトの表情を、嘘だと思いたくない。
「だからね、もう疑うのも、悩むのも止める」
もしそれで裏切られたのならば、それすら仕方ないと思う。
そう、仕方ない、本当に仕方ない。
だから、真っすぐに
「
そう告げた。
二月の終わりから予約してたキャッスルマイスターようやくDL販売開始だあああああああああああってやってたら全く執筆終わらないの(
しかもグラブルは次のイベント始めるし。全くけしからん、誘惑が多くて困るわ(意思薄弱
ご報告が一つ。
ティアマグ、ソロで勝てました(初心者感
今更ながら活動報告にフレコ晒しとくので、もしよかったらフレンド申請くださいな。