カイナで建造されていた調査用潜水艇『かいえん1号』。
その開発にポケモン協会を通して口出しして、改造に改造を重ねた結果『かいえん1号』は当初の予定だった五十メートル級をゆうに数倍する
「いや、改造し過ぎだろ…………なんで室内プールにレストランまであるんだよ、なんだこれ、どこの豪華客船だよ」
「アクア団の開発部とカイナ造船所のやつらが徹夜で作ってたこんなことになっちまってな」
「そ、そう…………」
どこか遠い目をしたアオギリに様子に、思わず引いてしまう。
アオギリさん意外に苦労人なのかもしれない、などと思いながら船内通路を進んでいく。
話によると、カジノも取り付けられる予定だったらしいが、アクア団総員が猛反対し、取りやめになったらしい。
「…………カジノだけは許せねえ…………カジノだけは、絶対にだ」
…………キンセツカジノの件で軽くトラウマ刻み込んでしまったらしい。あれ本気で一時期カジノの売り上げが昨年と比べて倍増してて、支配人の顔が緩んで戻らなくなってたからな。
ま、まあカジノにトラウマがあるならそれはそれで良いことではないだろうか、貯蓄的意味で。
「それで、予定は?」
「今、ホウエンリーグが各地のジムリーダー並びに各シティのトップに呼びかけて、東側の避難を進めているところだ。以前から準備を進めていたから今日明日中には終わるって話だぜ」
「なるほど」
「俺たちはこのままこの『かいえん1号』で『128番水道』を目指す、そこで一夜を明かし、早朝『かいていどうくつ』を目指す
「問題は、無さそうだね」
――――今のところは。
そんな言葉を飲み込んだ。
* * *
たいりくポケモングラードン。
かいていポケモンカイオーガ。
ホウエンに眠る二体の伝説の最大の特徴はやはり、天候支配、だろう。
自然災害の化身のような二体の伝説は、ただそこに存在するだけで全ての生物を滅ぼす大災厄となる。
故に絶対にやらなければならないことは、周辺住民の安全確保だ。
ただこれはそれほど問題ではないと思っていた。
実機でも二体の伝説の猛威にルネシティの住民が家から出て来なくなったシチュエーションがあったが、逆に言えば家に閉じこもっていれば免れる程度の物でしかない、ということ。
ただ問題は、それは
ゲンシカイキによって力を取り戻した二体の伝説の猛威がどれほど膨れ上がるか、それこそが最大の問題だった。
これもまた実機では『天気研究所』である程度の予測データが観測できることは分かっている。だからポケモン協会経由で予測と測定の依頼をし、そのデータに基づき、どの程度までやっておけば安全なのか、それを徹底した。
ここは現実だ。実機のように行き当たりばったりで、それでも誰も死なずにハッピーエンド、なんて都合の良いことがあるわけがない。
周到に策を練り、予想外一つ起こさず、全てを予想内に落とし込む。決して取り返しの付かないものを失くしてはならない。
何故なら自身にとってこれは、今後の平和な生活のための行動であり、喪失感を抱えたまま余生を生きるなど御免だ。
幸い、と言うべきか。
自身がリーグチャンピオンになり、二年の時間が与えられた。
それまでに打った手は幾重にも渡る。
そして実機との最大の違いは。
正直、後のことを考えれば、グラードンとカイオーガの目覚めは必然だった。
だがこの二体の復活は大きな被害をもたらすだろうことは容易に予想できる。
だから被害が出る前に住民を避難させることで、人的被害を極力減らすようにした。
物的被害に関してはどうしようもない。ぶっちゃけた話、自分が蘇らせなくとも、いずれ蘇っただろうし、その時になって壊滅的被害を被るよりはマシだろう。
後の問題は。
「…………勝てるか、どうか」
それだけだ。
* * *
一つ。
「はー…………ホント、久々ねえこの面子も」
二つ。
「お久しぶりです、マスター…………ちょっと寂しかったですよ」
三つ。
「あわわ、何か久々にご主人様の前だと思うと緊張してきた」
四つ。
「にしし、何をいまさらって話だヨ」
五つ。
「また知らない子が増えてる…………あ、久々です、マスター」
六つ。
「ぬふ~、おひさだよ~」
七つ。
「騒がしい連中だね…………まあ嫌いじゃないけど」
八つ。
「あはは、相変わらずだね、アンタたち」
九つ。
「うゆ? にーちゃ、みんなだーれ?」
机の上に置かれたボールの数は九。
そして自身の部屋に出てきたポケモンの数も九。
つまり。
「狭いんだよお前ら!!!」
「だったらもっと広い部屋にしなさいよ」
思わず叫んだ一言に、エアが反論する。
「シャル、“ちいさくなる”」
「え、あ、はい」
どんどん収縮していくシャルだったが、途中ではっとなって。
「って何やらせるんですか」
「技出す前に気づきなさいよ」
「だって、ご主人様に言われたら咄嗟に動いちゃうし」
「にしし、調教の結果だネ」
「え~マスターってば卑猥~」
「うるせえバカども!!」
「にーちゃ!」
「あーほら、サクラはこっち来な、今ボスは取り込み中だから」
「あっはっはは、懐かしいわね、この感じ」
「…………くそ、お前らいい加減にしろよ!」
一夜明けて、一晩を超すために潜水艦内に与えられた自身の部屋で、最後の確認と全員を出したのだが、何とも混沌とした状況になってしまっていた。
このままではさすがに収集が付かないので、一旦全員ボールの中に戻す。
途端、一気に部屋が静まり返り、広くなる。
だが同時に、先ほどまでの騒がしさに安堵を覚えている自身がいることに気づく。
「…………まあ、確かに。久々だったよな」
ミシロを出てからまだ一月も経って無いはずなのだが、随分と長く会ってないような気もする。
こつん、と指先でボールを突く。
同時にボールの中からポケモンが開放され、赤い光と共に飛び出してくる。
「っと…………急に出し入れしないで、驚くじゃない」
「だってお前らうるさいんだよ」
「アンタ入れて十人もいれば静まり返ってるほうが不気味でしょうに」
この狭い部屋に十人居て、静まり返っている…………確かに不気味過ぎる。
「何の宗教か儀式かって話だな」
「でしょ…………生活音だとでも思って諦めなさい」
「生活音ちょっと激しすぎじゃないですかねえ」
ジト目で見つめるも、鼻を鳴らしてスルーされたので、嘆息一つ。
そんな自身を見て、エアがふっと笑う。
「何さ」
「いえ…………思ったより緊張してないみたいだと思って」
何言ってんだこの
「もうすぐ伝説のポケモンと戦うかもしれないって言うのに、思ったより飄々としてたから拍子抜けしただけよ」
「あー…………そんなことか」
「そんなこと、ねえ」
まあ昔あれだけ伝説のポケモンどうしようどうしようと悩んでいたのを知っているエアからすれば、そんなこと、と言っている自身の姿は笑えるのかもしれないが。
「なるようになる…………そう思っただけだよ」
いや、なるようにする、だろうか?
こつん、と机の上のボールを指で弾きながら。
「エアが居て、シアが居て、シャルが居て、チークが居て、イナズマが居て、リップルが居て、アースが居て、ルージュが居て、サクラが居て」
机の上を転がるボールが全部で九。
「一人じゃ到底敵わない。二人でもまだ足りない。三人でも無理だとしても四人集まれば、五人いれば、まして九人、お前たちと繋がっている、それだけで何だって大丈夫、そう思えるから――――」
だから、そう続けようとした自身の口元に、エアの指が付きつけられる。
「九人じゃないわ…………アンタだって、一緒に戦ってくれる。だから、十人よ」
いつもの鋭い表情とはうって変わった、優しい笑みに、自然と自身もまた笑みが零れてくる。
「ああ…………そうだな、十人。俺たちは十人と一つのパーティだ」
大丈夫、大丈夫。
「大丈夫…………簡単な仕事だ。俺たち十人なら、伝説だってぶっ飛ばせるし、ホウエンだって救える」
“なんでハルトがしないとダメなの?”
昔、エアに問われた言葉を思い出す。
“マグマ団とか、アクア団とか、グラードンとかカイオーガとか、ホウエンの危機だとか…………何でそんなものにハルトが関わる必要があるの?”
あの時、自身は何と答えたのだったろう。
ピンポン、と船内アナウンスが流れる。
――――間も無く、指定水域に到着いたします。
全てのボールをホルスターに納め、沈むベッドの上から起き上がる。
「…………さあ、明日を守りに行こう」
呟き扉を開け放つ、エアが何も言わずにその後ろを歩いた。
* * *
海底の奥深く。
岩間に埋もれたその奥に、その場所は存在する。
潜水艦の先端から飛び出した掘削機が轟音と共に岩を削りとり、見る間に穴を広げていく。
そうして広げた穴だが、さすがに二百メートルを超す『かいえん1号』では入ることはできないので、さらに探索グループを結成し、少人数で小型探査艇に乗り込み、進んでいく。
とは言っても、入ってすぐに行き止まり、今度は行きと逆に上へと昇って行く。
そうして百メートル近く浮上し、やがて水面へと出る。
探査艇を浅瀬へと付けると、内扉を開いて外へと出る。
感じたのは背筋を凍らす寒気。
さすがは陽も届かぬ深海の洞窟。空気が冷え切って全身が震える。
見れば一緒に来たアクア団の団員たちも一様に肌を震わせていた。
周囲を見渡してみるが、見覚えは無い。まあさすがにこんな洞窟で実機と現実を重ねて見るのは難しい。アニメ絵と現実の様相では大きく違ってみるのは当然だろう。
けれども。
「……………………間違いない、ね」
バッグから取り出した、手の中で輝く『あいいろのたま』の反応を見て、ここが目的地だと確信する。
「ついにここまで来た…………海底洞窟だ」
全国的に見て、ホウエンの海は比較的浅い、と言われているが、一番深いところで、千二百メートル程度と言われている。
深海五百メートル。まだ下へと続く深い深い海の底の途中に海底洞窟は存在する。
途中とは言ったものの、生身では決して到達することのできないそれは、まさしく異世界の光景と言える。
この領域に住む生物などほぼ居ない、水面付近と比べれば水圧が段違いだからだ。
否、水圧のみではない、陽の光も届かぬこの暗い深海では水温も非常に低く、陽の光が届かぬから植物の光合成も起こらず海中の酸素濃度も非常に低い。
この世界のどこよりも過酷な環境であり、これ以上を探すならば逆に空を上へ、上へと昇って行くことになるのだろう。
こんな深海に棲む生物など、限られており、精々がハンテールやサクラビス、あとはジーランスやランターンなどだろうか。と言っても、どれも非常に珍しいポケモンで、一度や二度、潜ったくらいで見つかるようなポケモンでも無いが。
実機だと海底洞窟の中にはズバットやゴルバット、ゴローンなどがいたが、普通に考えてあいつらどこからやってきたのだろうか。
まさか海を潜ってここまで入って来たわけでもあるまいし。大昔からここに住み着いていたのだろうか?
餌とかどうしているのだろう、本気で疑問だが、現実だとどうやらそれらはいないらしい。
それはそうだろう、こんな寒さの中で平然と生活できるのは『こおり』タイプのポケモンくらいだろう。
そんなことを思ったからだろうか。
ひゅうん、と風を切る音。
「っ何かいる!」
即座に全員に叫ぶと同時に、ボールを取り出し。
かさ、という物音に振り返った瞬間。
「エアっ!」
「邪魔ァ!」
ボールから飛び出したエアが腕で振り払うと、ソレがはじけ飛ぶ。
レベル差のせいだろうか、一撃でそれが洞窟の壁面に激突し、動かなくなる。
雪の結晶をモチーフにしたかのようなそのポケモンは。
「フリージオか」
本来いるはずの無いポケモン。ただ現実的に考えれば、確かにこれだけ寒ければ居てもおかしくはないかもしれない、とも思う。
「おい、何がでやがった?」
後続の探査艇でやってきたアオギリが、騒然とする場の空気を察してか、こちらへとやってくる。
「フリージオ…………どうやら『こおり』タイプのポケモンがいるみたいだ、気をつけたほうがいいかもしれない」
自身の言葉にアオギリが重々しく頷く。
緊張しているように見えるのは、野生のポケモンが出るから、ではなく。
…………この先に居るはずの存在が原因だろう。
そう、ここが海底洞窟ならば、必ず居るはずなのだ。
この道の先に、アオギリが長年探し求めたポケモンが。
そして、自身が長年その対処を考え続けたポケモンが。
居るはずなのだ、そこに、確かに。
――――カイオーガが眠っているはずなのだ。
久々に初期メンバー6人書けたのがちょい嬉しかった。
実機との変更点⇒海底洞窟内のポケモン
なんで海の底、ジーランスがいるってことは深海だろ?
深海って定義的に海底200メートル以上らしいので、そんなところにある洞窟になんで生物がいるんだよって話。
まずどこから入って来たのか、そして餌はどうしているのか、何よりも酸素供給も無いのに、長年生きてたら酸素枯渇して非生物系以外全滅するだろ、むしろ主人公たちが洞窟きたら酸欠で全滅とかあり得たかもしれない。
とか色々考えた結果、ズバットとかゴルバット、あとゴローンなどは無し。
代わりに、深海ってことは寒いよな?
だったら『こおり』ポケモンいてもいいんじゃね?
でも設定的に出せそうなのいるっけ? 取りあえず非生物系じゃないとまた餌問題だしな、ということでフリージオさんゲスト出演。