ポケットモンスタードールズ   作:水代

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滅びの魔海⑨

 

 ゲンシカイキ

 

 

 目の前で姿を変えていくカイオーガを見ながら。

 

「先手もらいだ」

 

 ぴん、と右手を上げ、指を一本立てる。

 

 “つながるきずな”

 

 “とうしゅうかそく”

 

 瞬間、アースが飛び出す。

「ぶっ飛べええええええええええええ!!!」

 

 “ファントムキラー”

 

 振り上げた拳が、そこに握られた短刀が、変化を続けるカイオーガへと突き刺さり。

 ぼん、と一瞬爆音がしたかと思うと、次の瞬間、カイオーガが吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。

 

「グオ…………ォォォォ…………オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「うるせえ」

 

 完全に変化を遂げたカイオーガ…………否、()()()()()()()()が咆哮を轟かせ。

 ぴん、と二つ目の指を上げる。

 

「ちーちゃん!」

「オッケーさネ!」

 

 “10まんボルト”

 

 イナズマがその全身から雷を()()()()()()()

 

 “れんけい”

 

 “ボルトエンチャンター”

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「二つ重ねりゃ、アチキだってやれるサ」

 

 “かみなり”

 

 ゲンシカイオーガへと束ねられ巨大となった電撃の奔流が迸る。

 弱点タイプのその一撃にゲンシカイオーガが小さく呻き。

 

「タッチ、サ。イナズマ」

「はい、ちーちゃん」

 

 イナズマが、チークが、手を伸ばし、繋ぎ合う。

 

 “れんけい”

 

 “そうごはつでん”

 

 その両方からバチバチと電撃が溢れ出し、循環するかのように互いが互いに電撃を発しあう。

 そうして。

 

 “むげんでんりょく”

 

「いつもの、行っときますね?」

 

 “レールガン”

 

 放たれた極光が、洞窟内を白に染め上げる。

 一瞬、ゲンシカイオーガも仲間たちも、何も見えなくなるほどの莫大な雷撃がカイオーガを飲み込んだ。

 

「そろそろ反撃来るかな」

 

 逆の左手を上げ、一つ指を立てる。

 

「あーい!」

「了解です」

 

 そうしてサクラが、シアが、自身たちの前に飛び出して。

 

 “おおつなみ”

 

 ゲンシカイオーガが反撃の一撃を解き放った。

 

 

 * * *

 

 

 人形劇(ドールズ)、と自身は名付けた。

 

 同じ名前のトレーナーズスキルを作ったこともあるが、ある意味それの流用のようなものだからだ。

 この世界は現実だ。それは何度も言った通りである。

 だからゲームのシステムに縛られない行動ができるのは裏特性やトレーナーズスキルなどを見れば分かるだろう。

 そうして、だからこそ、試してみたいことがあった。

 

 ポケモンを複数出してのバトル。

 

 ダブルバトルやトリプルバトルと違うのかと言われると違う。

 ゲームにおいて多対一の一とは常にプレイヤー側だ。それはそうだろう、多のほうにプレイヤーを置いたバトルをすれば速攻型アタッカーを並べて上から叩けば数の暴力で大概の相手は押せる。

 だがこの世界ならば、現実ならばそれも可能となる。

 

 勿論簡単なことではない。

 

 当然ながら数秒の間に複数のポケモンに指示を出すというのは至難の業だ。

 トリプルバトルは非常に高度な戦いとされているが、実際本当に難易度が高い。

 何せ十秒にも満たない間に三体のポケモンの行動を決め、相手のリアクションを見て、それに対する自分のポケモンの状態を把握し、相手のポケモンの状態を見て、次の指示を決め、また三体に指示を出す。

 思考時間などほぼ零だ。一瞬で指示を決め、互いに矢継早に指示を出し合っている戦い。

 

 ましてそれを六体で行おうとするならば…………少なくとも自身の脳では追いつかないことがすぐに分かった。

 

 けれどそれは指示を一つ一つ出すからそうなる。

 例えば『攻撃しろ』『防御しろ』『交代しろ』この三つに絞れば、選択肢は三択だ。それくらいならばどうにでもなる。

 ただこの場合、何の技で攻撃するのか、防御とはどの行動を指すのか、誰と交代するのか、など事前に決めておこなければ、ポケモン自身でそれを判断するならばてんでバラバラな行動になってしまい、一対一を六度繰り返しているような状況にしかならない。それでは六体で戦っている意味が無い。

 

 故に、事前に対象を決めた。

 

 例えば以前戦ったレジアイス。

 

 あの時、指の動きだけで指示を出したが、実際のところ最初の二手までは()()()()()()()()()()()()()()()()

 最初に積み技で相手が反応するか様子を見る。

 そこからパターンが分岐する。

 反応して相手も能力を上げてきたら絆を繋げずルージュで戦う。アースは相手の攻撃を撃ち落とすほうに回る。

 反応せず相手の能力が上がらないならば絆を繋げてアースに引き継ぐ。攻撃はアースに任せてルージュは相手の攻撃を防ぐほうに回る。

 

 技に技をぶつければ相殺される。

 

 アニポケなどでは良くある話だが、実機には絶対に無かった話だ。

 防ぐだけでいいなら比較的難易度は低くなる。

 くるり、と指で円を描く運動を合図に攻撃と防御を入れ替えるのは、実機でいうところのローテーションバトルから得た発想だ。

 あれで一度試してみて、実際に()()()()()は戦える、ということは分かった。

 

 ただ実際、伝説を相手にするにはまだまだ難があるとも。

 

 その直後に出合ったのが…………サクラだった。

 

 同調と共感(シンパシー)こそを最も得意とするラティ種のヒトガタ。

 そこに目をつけた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これを最終目標とした。

 元々絆の深さで阿吽の呼吸で指示を出せていたのもあり、それ自体はそれほど難しくは無かった。

 まあ自身が他者と思考を共有しているという状態に慣れるのに時間はかかりはしたが、それでも決して不可能な事では無かった。

 

 いや、それどころか、さらに一つ、想像の上を行った。

 

 “れんけい”アビリティこそが、この戦法の極致の一つだと思っている。

 

 技と技を組み合わせる特技の発想は元からホウエンにあったものではあるが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのはこれまで存在しなかった。

 先も言ったが、基本的に技と技をぶつけ合えば()()されてしまう。

 相性が良いとか悪いとかそれ以前の話、そのポケモンの力はそのポケモンだけの物、それが原則なのだ。

 

 ただ、一つだけ例外的な物がある。

 

 “テレパシー”

 

 実機にも存在する特性で効果は『味方の技のダメージを受けない』だ。

 方向性としてこれは同じなのではないだろうか、と考えた。

 そしてラティ種はその方面に秀でていた。

 

 そうして完成したのが。

 

 ()()()()()()()()()()()()“れんけい”アビリティ。

 

 それから。

 

「しーあ」

「分かってます!」

 

 “がったいわざ”

 

 “ぜったいぼうぎょ”

 

 サクラと、シアの二人が同時に出した“まもる”の技が重なり、広がり、巨大な津波から仲間たちを守り抜く。

 

「次っ!」

「行くわよ、リップル!」

「任せなさい、エア」

 

 “がったいわざ”

 

 “だいりゅうせいぐん”

 

 エアとリップルが同時に放った流星がゲンシカイオーガを次々と打ち付ける。

「グゴオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」

 けれどさすがのタフネス、さすがにレベルの高さ、ほとんど効いた様子も見せず。

 さらに動こうとして。

 

 “かげぬい”

 

「こ、これでいいの、かな?」

「ばっちりじゃ…………このまま行くぞ?」

 

 “がったいわざ”

 

 “ねんどうのこぶし”

 

 シャルが“かげぬい”と“サイコキネシス”の両方を使ってゲンシカイオーガを一瞬止めた、直後に水中を進んだラグラージ…………アクアがその拳を振り上げ。

 

「久々じゃのう、カイオーガァ!」

 

 喜々として殴りつけた。

 一体その細腕のどこからそんな力が出て来たか、殴りつけられたカイオーガが念動力も影も全て薙ぎ払いながら再び洞窟の端まで吹き飛ばされた。

 

呵々(かか)、愉快よのう」

 

 口元に弧を浮かべながら、アクアが岸に戻って来た。

 

 “がったいわざ”。

 

 この人形劇の肝となる要素。

 見た通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 利点は二つ。

 

 一匹のポケモンが放つ技は結局一つなので、ポケモンのリソースに関わらず使うことが出来ること。

 そして組み合わせ次第でいくらでもバリエーションが増やせること。

 

 と言っても当たりまえだが、現実的な組み合わせしか効果を発揮しないのでバリエーションもある程度制限はあるが、それでも普通に特技を作るよりも実際に使える組み合わせは多くなる。

 

 特技は一匹のポケモンの才能(リソース)を喰い潰しながら作る必要がある。

 当然ながらリソースが有限である以上、使った分は減ってしまう。

 才能(リソース)の共有化、なんて反則的なことができるダイゴが一番上手く使えるのも当然と言えば当然なのかもしれない。

 だが二体以上のポケモンに一つずつ技を使わせて特技とするならば、それは才能の多寡を必要としない。やってることだけ見ればただ技を放っているだけなのだから。

 

 同調と共感(シンパシー)で全員を同調させ、共感させている。

 今この瞬間だけ、自身の仲間たち全員の力が()()となっているのだ。

 

 故にこんな反則的なことも可能となる。

 

「頼むぞ…………」

 

 縋るような、祈るような気持ちで呟く。

 これが正真正銘、自身の対伝説用の切り札だ。

 いや、むしろアクアやサクラという予定に無かった仲間のお蔭でより強力になった。

 もしこれを上回られたら…………。

 

 そんな自身の不安を見透かしたかのように。

 

「グゴオオオオオオオオオオ!」

 

 “ほろびのまかい”

 

 ゲンシカイオーガの周囲の水が渦巻き始める。

 

「…………何だ」

 

 一瞬の思考、けれど答えは直後にやってくる。

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

「っ?! なあああああ!!」

 

 ()()()()()()()()()()

 

 今自身たちが居る場所は『めざめのほこら』の最奥。

 実機でカイオーガと戦った場所ではあるが。

 先ほどまであった足場が浸水し始めている。

 

「…………こういう時のための、これだったが…………まじかよ」

 

 ここまで潜水用のスーツを着て来たのは、こういう事態を想定していたからではあるが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一瞬前まで足に触れるくらいだったが水が、すでに足首を超え、膝の辺りまで来ていた。

 

 それと同時に。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…………っ」

 

 迫っていた。

 背後から、巨大な水の壁が。

 そうして何かを口にするより早く。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 * * *

 

 

 ぐるぐると視界が回る。

 水中で前も後ろも分からない状態のまま波に流され、潮に巻かれ、ぐるぐると流される。

 潜水スーツを着ていなかったら、ここでアウトだっただろうと考えると、やはり用意しておいて良かったと言わざるを得ない。

 

 そうして、暗い洞窟の中、暗い暗い水中の奥に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その巨大な口を開き、こちらへ迫ろうとして。

 

 グンッ

 

 何かが自身の手を掴み、そのまま凄まじい勢いで水中を進んでいき。

 

 ざぱぁぁぁん

 

 水面を抜けると同時に激しい水飛沫が跳ねる。

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 直後にそれを追ってきたかのようにゲンシカイオーガが水上へと姿を現し。

 

 “がったいわざ”

 

 “はさみうち”

 

 右からエアが、左からはアースが同時にゲンシカイオーガを挟み、攻撃する。

 完全にこちらへ視線をロックオンしていただけに、まともにその一撃を喰らい…………僅かに体が揺れる。

 と同時に自身の腕を引いていた少女、アクアの連れられて先ほどまで立っていた足場に戻る。

「大丈夫か、(ぬし)よ」

「ああ、助かった…………さすがに食われたら一たまりも無い」

 先ほど水中で見た口を開いて迫りくるゲンシカイオーガというゾッとする光景を思い出し僅かに震える。

 そうして視線をゲンシカイオーガに映せば、こちらを警戒したように水中を泳いでいた。

「…………やっぱゲンシカイキしてもそうだ、強くはなってるけど『ぼうぎょ』は低いままか」

 どうやら先ほどのエアとアースの一撃がそれなりのダメージを与えたらしい。

 その割に先ほどのアースの攻撃の時はそれほど効いている様子は無かったのは。

「何かダメージを軽減するアビリティがあるな」

 認識していない攻撃ならかなり効くようだ。奇襲気味の一撃を狙うのが効率が良さそうだった。

 

「全員…………いるな」

 

 どうやら全員流されていたらしいが、大半は自力でここまで戻り、戻れなかった者もアクアやサクラが連れ戻したらしい。

 そういえばラティアスって劇場版だと水の中普通に潜ってたな、なんて余計なことを思い出した。

 

「さーて…………どうするかな、と思ったけど」

 

 そろそろ、二枚目の切り札を切ったほうがいいだろうか。

 

「…………出し惜しみして勝てるような相手じゃない、か」

 

 どれだけ戦いが長引くか分からないからこそ、できれば取っておきたかったのだが。

 

「…………エア、アース、アクア」

 

 それが可能な三人へと声をかけ。

 

「シア、シャル、チーク、イナズマ、リップル、ルージュ、サクラ」

 

 そしてそれ以外の七人にも同様に。

 

「…………あと三十秒で決めるぞ」

 

 そう告げた。

 

 

 




人形劇(ドールズ)
なんかこう、すっごいの。いろいろできる。


今更だがラグラージのニックネームは『アクア』です。
これで陸海空が揃った。

とても分かりやすい連携と合体技の区別方法。

連携⇒味方に対して技を発動、受けた味方を“てだすけ”状態+αにする。
合体技⇒両方とも敵に対して発動。使用する技は特技に分類される。

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