実機において、グラードンも、カイオーガも、目覚めると共に、必ず『めざめのほこら』を一直線に目指す。
それは『めざめのほこら』には両者の失った力を取り戻すために必要な自然エネルギーが大量にあるからだ、という設定がある。
自然エネルギー。
それが何なのか具体的な話はゲーム内において、詳細な説明は無かった。
“メガシンカ”に変わる新たなフォルムチェンジ“ゲンシカイキ”の説明付けのためにとって付けたように用意されたような感じもするが、だからって現実にそれがある以上、それが何なのか調べば説明が付くのだろう。まああの
ただ今は重要なのはそこでは無い。
重要な点は三つ。
一つは『めざめのほこら』には自然エネルギーが大量に存在するということ。
一つは自然エネルギーがあればゲンシカイキを行うことができる、ということ。
そして。
つまり。
「エア、アース、アクア!」
ゲ ン シ カ イ キ
自身の叫びに呼応するかのように、エアの、アースの、アクアの全身が光に包まれ。
変化する。変化する。変化する。
エアが、アースが竜の姿に変わり、アクアは十四、五歳くらいだった外見が二十前後くらいまで成長する。
「ルオオオオオオオォォォォォ!」
「グルオオオオオオオオオ!!!」
二体の竜が咆哮する。竜の唸りが洞窟を震わせ、ゲンシカイオーガが僅かに警戒を強める。
「呵々…………呵々。
“とうそうほんのう”
ゲンシラグラージ…………アクアが、笑いながら、両の拳を打ち付ける。
気のせいか、カイオーガがじっとアクアを見ているようなそんな気がする。
僅かな静寂、そして停滞。
けれどそれも一瞬で崩れる。
「グオオオオオオ!!」
ゲンシカイオーガが動き出す。
一瞬、水中に潜ったかと思うと。
“みちしお”
“おおつなみ”
再び津波が洞窟内を覆う。
「守れ!」
ぴん、と左の指を立てれば。
「あい!」
「了解です!」
即座にサクラとシアが前面に出て。
“がったいわざ”
“ぜったいぼうぎょ”
津波を盾が防ぐ。防ぎきり。
“みちしお”
“あらなみ”
“いてのしんかい”
続き様に水流が放たれた。
「っ! リップル!」
「お任せっだよ!」
“まもる”は連続で使用できない、その弱点をきっちりついてきた連撃だが、咄嗟にリップルが前に出て、水流からの盾となる。
タイプ的に見て恐らく『みず』技。“ハイドロポンプ”かと思ったがどうやらそれともまた違う技。
少なくとも自身は見たことが無い技。けれど『みず』タイプならばリップルで受けきれる、そう考えて。
「いかんっ! 避けよ!」
アクアが焦ったようにそう叫ぶのと、リップルが水流を受けるのが同時だった。
「なっ…………に…………これ…………」
信じられない、と言った様子でリップルが驚きに目を見開きながら。
「…………マジかよ」
「深海の凍て水じゃ…………
呆然と呟く自身にアクアが告げた言葉に理解する。
「『こおり』タイプ複合…………それに『みず』タイプに弱点か」
“フリーズドライ”とはまた違った原理なのだろうが、恐らく『みず』タイプに対して『こうかはばつぐん』を取れるのだろうと予想。
だがそれよりも何よりも。
「リップルが一撃かよ…………」
弱点タイプだったとは言え『とくぼう』6ランクのヌメルゴンが一撃で落ちたという事実に冷や汗が出る。
しかも二度の攻撃を終えて、未だにカイオーガが水中から出て来ない。どうやらそこなら比較的安全なことを理解してしまったらしい。学習能力が高いやつである。
なら。
「引きずり出す…………イナズマ! チーク!」
ぴん、と右手の指を立て。
「オッケー!」
「行くさネ!」
“れんけい”
“そうごはつでん”
“じゅうでん”
ばち、ばちばち、とチークとイナズマが繋いだ手から電流が弾け迸る。
“そうごはつでん”は互いの『でんき』タイプの技の威力を高めると共に、チークがイナズマを『てだすけ』状態にしてくれる。さらに“じゅうでん”で『でんき』技の威力を2倍にして。
“かじょうはつでん”
メガ進化してから何だかんだ使う機会の無かったトレーナーズスキルだが、別に使えなくなったわけではない。
ただデメリットが大きいので、指示することの無かったスキルだが、今は必要だと判断する。
“そうごはつでん”で大よそ1.5倍。『てだすけ』で1.5倍。“じゅうでん”で2倍の“かじょうはつでん”で2倍の計9倍。
そこに『とくこう』ランク6で『とくこう』4倍。
並のポケモンなら完全にオーバーキルだが
だから、だから、だから。
「持ってけ…………俺たちの全部を!!」
“きずなパワー『とくこう』”
繋がる絆が想いを通す。
想いは力と成り。
「穿て! イナズマァ!!」
「貫いて!!!」
“レールガン”
解き放たれた極光は、明らかにこれまでの物と威力の桁が違っていた。
極光の柱が水面に突き刺さり、
「グオオオオオオオオオオオオアアアアアアア!!!!!?」
カイオーガの絶叫が洞窟に響き。
「打ち上げろ…………アクア」
――――了解じゃよ。
『じめん』タイプのラグラージ故に『でんき』技が効かないアクアがすでに水中に潜り、電撃に怯んだカイオーガを
“ばかぢから”
ずどん、とまるで大砲でも撃ったかのような轟音。明らかに拳で殴った音ではないそれが、アクアの拳の威力を証明していた。
水底から打ち上げられ、無理矢理水上にまで引き上げられたゲンシカイオーガに。
「トドメ!」
“ファントムキラー”
“デッドリーチェイサー”
“がったいわざ”
“はさみうち”
引き絞られた矢のように飛び出したエアとアースが打ち上げられたゲンシカイオーガを両サイドから挟撃し。
カイオーガが水面に着地し…………ぷかり、と浮かび上がった。
* * *
使える物は全部使った。
あるだけ出し切ったと言っていい。
少なくとも、イナズマとチークはしばらく戦闘できないくらい疲労しているし、リップルは完全に『ひんし』状態。サクラとシアだってあの攻撃を何度も守り切れないだろう。
シャルはカイオーガと相性が悪いし、未だに元気なのはエアとアース、それからアクアくらいだろう。
こちら側の
できればこれで終わって欲しい、攻勢のまま押し切れなければ、勝ち目が無い。
だから、そんな願いを込めて。
モンスターボールを投げて。
「っ…………まだダメなのか」
『ひんし』にまで達していない。つまり、まだ…………。
「グ…………オオ………………オォ…………」
水面に浮かんだカイオーガが一瞬唸り…………やがて沈黙する。
そうして。
「グゴ…………ォォ…………」
ね む る
眠った。
こちらの手札を吐き出し続け、ようやくここまで削り取ったHPが。
どんどん回復していく。一秒ごとに、傷が消えていく。刻一刻と勝利が遠のいていく。
まさか、とは思っていた。
思ってはいたが…………本当にやるとは思っていなかった。
もう三十秒もしない内に、カイオーガのHPが全回復するだろう。
そしてカイオーガが眠りから覚めるより早くそれを削り切るだけの手はすでに自身に残されていない。
目を覚ませば後は水中に潜られてひたすら一方的な展開が続くのだろう。つまり、現状はほぼ詰んでいる。
だから。
だから。
だから。
「ルージュ、今だ!」
* * *
「…………出番よ」
唐突に音の止んだ洞窟内で隣に立つ少女が告げる。
少女の言葉に一つ頷き、少女に背負われ、すぐさま伝説の待つその領域へと足を踏み入れる。元々そのために彼らが戦うすぐ隣、『めざめのほこら』の最奥手前で待機していたのだから。
一歩、その空間に足を踏み入れた瞬間、激しい戦いの音はすでに消え去っていた。
半ば沈みかけた足場に立ったハルトと、そして。
「…………カイオーガ」
水面に浮かび、動かないカイオーガ。
倒したのか、とも一瞬思ったがだったら自身が呼ばれるはずも無い。
つまり、まだだ。
「…………
ハルトがこちらを見て、自身の名を呼び。
「…………頼んだ」
そう告げる。
「分かってる…………任せて」
呟き、両手でボールを持って。
「来なさい、アイス、ギガ」
中から二つの影が飛び出した。
* * *
伝説のポケモンと対等に渡り合えるのは同じ伝説のポケモンだけだ。
伝説のポケモンを倒すために、伝説のポケモンと使うという矛盾を除けば一番確実性がある方法でもある。
だがその矛盾こそが最も大きな障害であることを知っていた。
だから自身はこれまで他の伝説に対して手を取ることをしなかった。
他の伝説を捕獲する労力と、グラードン、カイオーガ戦で伝説を使える対価が見合っていない。というか他の伝説を捕まえれるならグラードン、カイオーガだって捕まえれるだろう、という話だ。逆にグラードンやカイオーガに太刀打ちできないならば、他の伝説にも太刀打ちはまあ無理だろう。
実際のところ、自身が野生のレジギガスと戦えばまず負けるだろう。
実機ならば『げんきのかけら』等でゾンビアタックもできたかもしれないが、この現実でその戦法は無理だ。となると数を用意し、それを一定以上に引き上げ、さらに伝説に通用するだけの火力を確保させて運用するというのは自身にはほぼ無理な芸当だ。
一番勝率の高いだろうレジギガス相手でそれなのだから、他の伝説なんてもってのほかである。
そんな自身の前に、伝説を捕まえたトレーナーが現れた時は、そして協力を取り付けた時は、余りにも都合が良すぎて戸惑ったほどだ。
だがシキのレジギガスは
本来のレジギガスの強さの半分も出せていない。もしかすると四分の一も発揮できちゃいないのかもしれない。
それはレジギガスが伝説だから、というのもあるし、レジ系が無機物であり通常の育成方法が通用しないというのもあるかもしれない。
だからこそ、決勝で戦った二年前のレジギガスでは伝説には通用しなかった。否、したとしてもそれは自身でも出せるレベルの威力でしかない。
伝説の本気、それを叩きこめなければ意味が無い。
だからレジアイスをシキに渡した。
シキは異能一本のトレーナーに見えるが、その実、レジギガス戦においてレベル上限のポケモンを大量に用意し、異能を意識した技の調整を行うなど、
唯一指示が単調なきらいも見られるが、それを補って余りあるほどの強さを持つ。
だから、期待した。期間は短いが、レジアイスの育成を通して、ギガスの本領を引き出せないか、と。
期待して渡して、そうして期待を超えてくれた。
「…………アイス、道を作って」
シキの指示にレジアイスが両手を上げて。
“ぜっとうりょういき”
一瞬でカイオーガの周辺の水面が凍り付き、カイオーガが凍りの中に埋まる。
さらに氷が伸び、陸地まで到達する。
かなり分厚いようで、氷の向こう、水の奥は白く光って見通せない。
「ギガ」
声をかけると同時に、レジギガスが動き出す。
“いかさまロンリ”
“スロースタート”
下降能力の逆転により、ランクとは無関係にレジギガスの『こうげき』と『すばやさ』が2倍になる
さらにそこに。
“つながるきずな”
これで全能力6ランク。
「打て」
伝説種の全能力4倍。『こうげき』と『すばやさ』に至っては8倍である。
さらに。
“むそうのかいりき”
シキの育成により
“たいりくへんどう”
『こうげき』が6ランク以上の時にのみ使用できる必殺の一撃を持ってして。
“アルティメットブロウ”
大陸破砕の一撃が放たれた。
* * *
足元が崩れ落ちる。
伝説の一撃に『めざめのほこら』が耐えきれなかったのだ。
洞窟の天井が崩落を始める。
だが逃げられない、逃げるわけには行かない。
「アクア!」
「応!」
咄嗟の叫び、アクアが自身を抱き寄せて。
「息を止めとれ!」
言葉と共に、目の前の割れた氷が浮かび上がる湖へと飛び込む。
先ほど一瞬見た時、レジギガスの一撃を受けてゲンシカイオーガが湖底に落ちていくのを見た。
つまり、ここが最大のチャンスだ、最早これ以上の機会は無いと言っていいかもしれない。
ぐんぐん、とアクアが水中を進んでいく。
暗い水中だが、ゲンシカイオーガの体の模様が薄く光っているためすぐに分かった。
そうして。
そうして。
ぎょろり、とこちらを見た。
――――まだHPが残っていやがる。
そんな自身の心境を読み取ったかのようにカイオーガが獰猛に牙を剥き。
けれどがくん、と態勢を崩す。
やはりレジギガスの一撃でほぼ死に体となっているのは間違いないらしい。
ならば。
――――アクア!!!
――――応っ!!!
水中で声にならなかったはずの言葉を、けれどアクアが受け取り。
“ちからもち”
“アームハンマー”
その牙で噛み砕こうとするカイオーガの横をするりと抜けて、その横っ腹に拳の一撃を見舞った。
ごぼ、と水中で鈍い音が響き、カイオーガがそれでも耐えようとして。
崩落した天井がカイオーガに落ち、その背を打つ。
「ゴ…………ォ…………」
限界ギリギリでのトドメの一撃に、さしものカイオーガが崩れ。
――――いけえええええええええええ!!!
アクアから飛び出す。同時に泳いでカイオーガへと接近し。
右手に持ったマスターボールをその巨体へと叩きつけた。
かぱり、とボールが一瞬開き。
赤い光がカイオーガを包み込む。
しゅうん、と光がボールの中へと収まり。
かたり、とボールを揺れる。
かたり、とボールが揺れる。
かたり、とボールが揺れて。
――――ピタリ、と収まった。
カイオーガ編、終 了 !!!
今回は全体的に絶望が足りなかった気がする。
うん、まあでも中ボスだしいいよね。
本当の絶望はラスボスにあるし。
というわけカイオーガのデータを晒そう。
ゲンシカイオーガ Lv250 特性:はじまりのうみ
H35000 A1500 B900 C1800 D1600 S900
わざ:おおつなみ、こんげんのはどう、しおふき、アクアリング、いてのしんかい、ねむる、かみなり
特技:おおつなみ 『みず』タイプ
分類:なみのり+だくりゅう+たきのぼり
効果:威力150 命中-- 必ず相手に命中する。相手を『みず』タイプにする。
特技:いてのしんかい 『みず』タイプ
分類:ハイドロポンプ+れいとうビーム+ぜったいれいど
効果:威力100 命中100 『こおり』タイプと相性の良いほうでダメージ計算する。100%の確率で相手を『こおり』にする。『みず』タイプにも効果抜群になる。
裏特性:でんせつのいふ
このポケモンは『ひんし』にならない限り、捕獲できない。自身の『HP』の種族値を大幅に上昇させる。自身が受けるダメージを全て半減する。
アビリティ:たいかいのおう
天候が『つよいあめ』の時、場の状態を『おおうなばら』に変更する。自身への状態異常を無効にする。
場の状態:おおうばなら
『みず』タイプのポケモンの能力値が1.2倍になる。『みず』タイプの技の威力を2倍にし、『みず』タイプの全体技の威力を2倍にする。『でんき』タイプの技が無効になる。毎ターン開始時、『みず』タイプのポケモンのHPを1/8回復する。場のポケモンを『えんがい』状態にする。
状態異常:えんがい
『くさ』タイプのポケモンが毎ターン最大HPの1/4ダメージを受ける。また『くさ』タイプの技が使えなくなる。
アビリティ:みちしお
攻撃技を使用する時、自身の『とくこう』と『すばやさ』を2倍にする。『みず』技が相手の不利なタイプを無視する。
アビリティ:ひきしお
攻撃技を使用しない時、の『ぼうぎょ』と『とくぼう』を2倍にする。受ける技のダメージを半減する。
アビリティ:あらなみ
特殊攻撃技を使用した時、相手の『ぼうぎょ』と『とくぼう』の低いほうの数値でダメージ計算する。
禁止アビリティ:ほろびのまかい
『ひこう』『みず』タイプ以外の全てのポケモンを戦闘開始から5ターン後に『ひんし』にする。毎ターン開始時、相手の最大HPの1/4の『みず』タイプのダメージを与える。
少しだけ解説すると。
そして“はじまりのうみ”が無効化されてるのでアビリティ“たいかいのおう”も無効化されてます。これが有効だと『でんき』技も『くさ』技も効かなくなるのでほぼ詰み。
因みにハルトくんが言ってた『めざめのほこら』内のほうが戦いやすい、というのは『洞窟内なら雨降っても関係無いだろ』と言う点。
つまりハルトくんが『めざめのほこら』で戦うこと選んだので重要なアビリティが発揮できなかった、これはハルトくんの作戦勝ちじゃないだろうか。
因みに海上でゲンシカイオーガと戦うと、“おおつなみ”が全体化して“まもる”じゃ防げなくなる。この辺りはデータ化してないけど、海上だとまず勝てない怪物。今回は狭い洞窟内だったから、ってこと。
因みにグラードンは普通に開放されて戦うよ、狭い洞窟内で戦うと熱上がり過ぎて焼け死ぬからね。むしろ屋外のほうがまだマシという。
ところで全く話関係ないんだけど。
ツタージャが可愛すぎる。ツタージャ可愛すぎて、擬人化絵探して小説書きたくなった。
というわけでカロス編とか止めてツタージャ編開始しようぜ(
とかそんなことを今考えてる。もしかすると『オリジナル地方』とかやるかもしれない。
その内活動報告で読者にアンケ取ったりしながら『オリジナル地方』を作ろう、とかやるかもしれないのでその時はご協力くださいな。
因みにだが、オリジナル地方やるなら主人公ハルトくんの子供になるかも。