ポケットモンスタードールズ   作:水代

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おくびょうオバケの精一杯の勇気

 

「大好きです、ご主人様」

 彼女は自身にそう言った。

 

 

 光を生み出した人間は本当に偉大だと思う。

 それによって、人類は…………人類だけは朝、昼、夜、その全ての世界で活動する権利を得た。

 夜を…………暗闇を怖がるのは生物の本能のようなものだと思う。

 だから暗いのが怖い、と言うのは別に恥ずかしいことではないと思う。

 

 それを言ったのがオバケ本人じゃなければ。

 

「…………暗いのが怖いって、お前ゴーストタイプだろ」

 超絶呆れる、と言うかおかしいだろ、と思う。

「よ、夜は好きだけど…………その、真っ暗なのは怖い、と言うか、えっと」

 ぼっ、と指先に火を灯す。さすがはポケモン、と言うべきか、こう言うのはお手の物らしい。

 いや、電気つけろよ、と思いながら天井から伸びる紐を引くと、電灯が部屋を照らす。

「わ、わわ…………凄い」

「…………もしかして、部屋にある電灯のつけ方知らなかったのか」

 こくり、と頷くシャルに、何故一日あって言わないんだ、と思った。

「そ、その、ご主人様、朝から出かけてたし、よ、夜はシアにその…………潰されてたし」

 そう言われると、タイミング無かったような気もしないことも無い。

「この紐引っ張るだけだから、簡単だろ?」

「う、うん」

「だったらほら、早く部屋に戻れ」

 仲間には全員個室を与えている。三人暮らしなのだが微妙に部屋は余っているのでちょうど良いと母親が言ってたが、あと三人増える予定なので、将来的には一人一部屋は無理だろうと予測する。

 まあそれはともかく、シャルが戻ったら寝るか、と考え。

 

「あ、あの…………ご主人様」

 

 動かないシャルの姿にあれ? と思う。

「ね、寝過ぎちゃって…………まだ眠くないから、少しだけお話ししたい、と言うか、その」

 

 今夜は部屋に帰りたくない、と言うか。

 

「…………狙って言ってたら割と魔性の女だよな、お前」

「ふえ?! ね、狙うって、な、何が……です……か?」

 おどおどしながら、こちらの様子を上目遣いに伺うシャルに、これも多分天然なんだろうなあ、なんて思いながら。

 

「少しだけ、だぞ?」

「あ…………はい!」

 

 何時もより少しだけ強い口調で、嬉しそうにシャルが頷いた。

 

 

 * * *

 

 

 どうせならお散歩しませんか?

 

 そんなシャルの提案を承諾し、二人で外へと向かう。

 実はさっきまでシアに抱かれて眠って(気絶して)いたのでそれほど眠く無かったりする。

 そう言うわけで、就寝前の散歩、と言うのもありかと思いつつ。

 

「ひう…………く、暗いよぉ」

 

 玄関を開けた瞬間のシャルの台詞がそれであった。

 

「…………えー、お前が散歩行こうって言ったんだろうに」

「き、昨日は、お外がもう少し明るかったから」

 上を見上げると、やや厚い雲が月を隠している。確かに昨日は随分と綺麗に晴れて月もはっきりと見えていたから随分と暗さは違っていただろうと思う。

「あ、あのご主人様…………」

「ん? なんだ?」

「そ、その…………えっと…………手、繋いでもいい、ですか?」

 そんな顔真赤にしてもじもじしながら言うほど恥ずかしいならやめれば良いのに、と思いつつ。

「ああ、構わないよ」

 片方の手を差し出すと、おずおずとシャルの手が伸びて…………そして差し出したほうの手の服の裾を掴む。

「いや、普通に繋げよ」

 少し呆れながら手を動かし、シャルの手を握る。

 すべすべで、柔らかい、小さな手の感触に少しどきり、とするが。

「あ、あわわわわわわわわわ?! ご、ごしゅじさまの手が手が…………わわわわわ」

 目の前でやったら慌てられていると、何か一周回って冷静になってくる。

「ほら、落ち着け」

「は、はうぅ」

 頭に優しくチョップを入れると、唸りながら頭を押さえてようやく落ち着く。

 それは良いのだが、ちらっちらっと繋いだ手を見るのは止めてほしい、割と恥ずかしいから。

「と、取りあえず、明るく…………するね?」

 そうしてようやく立ち直ったのか、先ほどは指先から、今度は手のひらから先ほどよりも大きな炎を生み出し、ふわり、とそれを浮かび上がらせる。

「へー…………便利なものだな」

「えへへ…………フラッシュほどは明るくならないけど」

「それでも、大したもんだよ」

 そうやって褒めると、シャルが嬉しそうにはにかむ。

 シャルはどうにも小動物ちっく、と言うか、好きな相手には犬のように人懐っこいのに、見知らぬ相手には猫のように人見知りだ。それでいて、褒められると嬉しそうに笑うし、叱られるとしゅんと落ち込む、撫でられたりするとあわあわと恥ずかしがるし、抱き着かれたりなど過剰にスキンシップを取られるとうーうーと唸りながら警戒する。

「…………むしろハムスターみたいだな、お前」

「ふえ?」

 ぽつりと呟いた独り言に対して、なあに? とでも言いたそうなその瞳に、なんでもない、と答えて頭を撫でるとあわわわわわ、と恥ずかしがりながらも、えへへへ、と嬉しがっている。

 

 可愛い(確信)。

 

 まあそれはさて置いて。

「とりあえず一日経ったけど、生活はどうだ?」

「あ、あのね…………食べ物が、すっごく美味しいの」

 嬉しそうにシャルがそう言う。ヒトガタポケモンと言うのは人間と同じものも食べれるのだろうか、と思っていたが割と食べれるらしい。エアもシアもシャルも、普通に食べているので気にしなかったが。

「お前って前は何食べてたの?」

「え? えっと…………たま、しい、とか? あとヒトのいのち、とか」

「…………お、おう」

 割とガチで怖い任天堂。そういやそんな設定だったよな、と思い出しながら、リアルの世界だとやっぱゴーストポケモンって割と怖くね? と今更思う。

 そんな心情的な距離を敏感に覚ったのか、シャルが慌てたような様子で続ける。

「で、でも、普通の食べ物も食べれるから! い、今はそれしか食べてないし、だ、だから、その、えっと」

 なんか飼い主に嫌われたくなくて必死な子犬を連想して、可哀想になってきた。

「ええっと…………まあ、大丈夫だ。今は普通の物食べてるのは知ってるし、そもそもシャルがそう言う種族なのは分かってるから」

 ナデナデ、と頭を撫でると本当かなあとばかりに上目遣いでこちらを見る。少し涙ぐんでいるあたりが破壊力が高い。

「別に嫌いになったりしてないから、安心してろ」

「…………そっか、うん、ありがとう、ご主人様」

 えへへ、良かったあ。なんて可愛い独り言を呟きながら、少しだけテンションの高いシャルと夜のミシロタウンを歩く。

 

「それで、食べ物って何が好きなんだ?」

「甘い物かなあ? クッキーとか大好き」

「ほう…………そうかそうか」

 そして何故かここでポケットの中にはクッキーが一枚。

「ところでこれなーんだ」

「え…………あ、クッキーだ」

「はい正解、シャルにプレゼント」

「え、え、え? いいの?」

 嬉しそうに、目を輝かせながらシャルがこちらを見てくる、気のせいかその頭とお尻に耳と尻尾を生えてぴこぴこ動いているような幻が見える。

「ああ、良いぞ」

 そうして許可を出すと、わーい、とシャルが満面の笑みを浮かべながらぽりぽりとクッキーに齧りつく。

「美味しい~♪」

 今まで見た中で一番幸せそうな表情だった。むしろもう、見ているこちらまで幸せになる。

「本当に嬉しそうだな」

「うん、ありがとう、ご主人様」

「そら、二枚目もあるぞー」

 なんで入っているのかって? シアが帰ってきた時にくれた今日のおやつだよ。部屋に置いておいたのだが、散歩に出る前に持ってきたのだ。

 

「つうか、そろそろ良い時間だな」

「え…………あ、そ、そうかも」

 時計を持ってきてないので正確には分からないが、まあ二十分くらいは軽く歩いている。

 それほど広くないミシロタウンなので、もう端から端くらいまでは歩いているような気がする。

「あ、あそこ」

 と、そんなことを考えていると、シャルがふと視線を一方へと向けたまま呟く。

「どうした? ってあれは」

 そうしてシャルの見ているほうを見ると。

 

 とすん、とすん、と草むらを踏みしめながらこちらへとやってくる人影。

 

 それはやがてシャルの手のひらの炎に照らされ、その姿を露わにする。

 

 この夜闇の中で黒い外套と黒いシルクハットを着た、闇に溶け込むように現れたその男。

 

「マギーか」

「やあ…………少年、それに…………()()()()

「え…………う…………」

 シャルが、言葉を失う。昨日の件もあり、多少は吹っ切れたかと思えば、やはりまだ気にしていたらしい。

 ぎゅっ、と自身の手を握るシャルの手に力が籠る。

 だから自身は。

 

 シャルに繋がれたほうの手で、シャルの手のひらをくすぐった。

 

「ひ、ひゃう?!」

 びくり、とシャルが背筋を震わせて驚きに目を見開きながらこちらを見る。

「落ち着け…………俺が付いてるから」

 自身のそんな言葉に、シャルがまだ表情を固くしながらだがこくり、と頷き。

 

「こ、こんばん……わ……」

 

 目の前の男にそう告げた。

 

 

 * * *

 

 

 シャルからしたら目の前の男に対する心境は複雑の一言だろう。

 悪いことをした、と言う自覚が多少なりともある。だがその時の自分は自意識が無かった、つまり自分の本能のようなものであり、自分の意思であるとは言い辛い。

 言ってみれば、自分の体を借りて他人が行ったこと、のようなものだ。

 

 シャルがシャルとしての自分を取り戻したのは、ある意味昨日からなのだから。

 

 だからマギーも言ったのだ、変わってしまった、と。

 

 

 対してマギーもまた目の前の少女に対する心境は複雑の一言に尽きた。

 結局のところ、マギーは別にシャルを恨んでいるわけではない。トレーナーの魂を解放したくて頑張ってはいたが、シャルが殺した中にその魂があったとは限らない、むしろあの館にいたゴーストポケモンの数を考えればその確率のほうが低いだろうと思っている。

 背後から撃たれたことはあったが、そもそも野生のポケモン同士だったのだ、殺し合うことも別に不思議でも何でもない。

 だが紛れも無く、少女は敵だった。マギーにとって、彼女は敵だったのだ。

 容赦も、情けも無く、残忍に命を魂を燃やしていく彼女を敵だと思ったのだ。

 だがその少女は目の前で完全に別人になり替わってしまっている。

 

 

「あ、あの!」

 

 だから、マギーは困っていた。何を言えばいいのか、そもそもどんな態度を取ればいいのか、どういう感情を抱いているのかすらも自分では分からず戸惑っていた。

 だから、先にシャルが声をかけたのは、一重にトレーナーがいたかいないか、の差だっただろう。

 

「…………ふむ、何かね」

 

 そんなマギーの困惑を他所に、少女は…………シャルはがばっ、と頭を下げた。

「ご、ごめんなさい! 館で、いっぱい、酷いことしちゃって」

 謝罪。まさかそうストレートに来るとは思わず、多少面食らう。

 だが向こうが謝意を見せているのだ…………何がしかの答えは必要だろう。

 だがどんな答えを返せばいいのか分からず。

 

 “許していいのか…………許さないべきなのか…………自分でも迷っているのだよ”

 

 ふとハルカに言われたことを想い出す。

 

 “許すとか、許さないとか、結局決めるのはマギーだよ、私じゃないし、その子でも無い”

 

 マギーの気持ちは、マギーだけが決めれるんだから。

 

「…………………………………………キミが殺した者の中に、私のトレーナーがいたかどうかわかるかい?」

「あ、あう…………ごめんなさい、ボクにはそこまでは」

 

 まあそうだろうと思う。さいみんじゅつで自身の生前でも思い出させれば分かったかもしれないが、そこまで強い催眠をしてしまうと、人格そのものに影響を与えてしまうかもしれないと考え、今までやってこなかったのだ。

 だから、決めるのは自身であると、理解する。

 

 彼女の殺した中にトレーナーがいるとそう思ったのならば彼女を許すわけにはいかない。

 

 だがそうでないならば…………別に許してしまっても構わない。

 

 だから、考えて、考えて、考えて。

 

 出した結論は。

 

「ああ…………もう良いさ。キミも私も、もう新しいトレーナーを見つけたのだから」

 

 心中で死んでしまったトレーナーに、すまない、と呟く。

 だが彼もきっと自身の死に縛られることを望まないだろう、そう言う優しい少年だった。

 

「……………………トレーナーを大切にしなさい。失ってからでは…………もう全部遅いのだから」

 

 呟き、少女が何かを口にする前に背を向ける。

 

「…………分かってる…………そんなの…………知ってるよ」

 

 耳に届いた少女の言葉を聞きながら。

 

 それでも、足を止めることは無かった。

 

 

 * * *

 

 

「……………………………………え、えへへ」

 笑おうして、笑みを見せようと、表情を取り繕おうとして。

 けれど上手くできず、歪な笑みになる。

「…………シャル」

「えへへ…………ボク、ちゃんとできましたか? ご主人様」

「…………ああ、良くやったよ」

 一緒に謝ろうとした自身を止め、自分だけでちゃんとできると、そう告げて。

 そうして臆病者の少女は精一杯の勇気を振り絞ってやり遂げたのだ。

「…………本当に、良くやったよシャル」

 その小さな体を抱きしめ、背中を摩る。

「…………う、うう…………よかった…………よかったよぉ」

 胸に顔を埋めながら、嗚咽を漏らす少女の背中をゆっくりと、何度となく撫でていく。

 

 月は雲に隠れ、唯一の明かりはその手の中へと消え去り。

 

 闇に包まれながら、少女の嗚咽だけが静かな夜に響いていた。

 

 

 時間が経ち、ようやく落ち着きを取り戻したシャルと二人、並んで家へと戻るために歩く。

 再び繋がれた手を放さないように、強くシャルが握る。

 

「あの…………ご主人様」

 

 なんだ? そんな自身の台詞に、少女が少しためらいがちに呟く。

 

「今日…………一緒に散歩してくれて、ありがとう」

 

 気にするな、そう言って笑う自身に、少女が微笑し。

 

「それと、一つだけ良いですか?」

 

 どうした?

 

「大好きです、ご主人様」

 

 そう告げる彼女に、思わず目を白黒させ。

 

「えへへ」

 

 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、シャルがはにかんだ。

 

 

 

 




やっぱ大天使シャルが正義やったんや。
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