十二年前、地上より遥か彼方の宇宙を漂っていた少女、ジラーチは永い永い千年の眠りより目を覚ました。
眠りから目覚めたジラーチは自身の役割を果たすために流星と共に地上へと降り注ぐ。
そこで、ジラーチは一人の少年と出会った。
この話に始まり、と呼べるものがあるとするならば、まさにそれだろう。
少年、まだ幼かった頃のアオギリとの邂逅。
そして目覚めたジラーチを捕えようとした大人たちからの一週間にも及ぶ逃走劇。
そこには物語があった、ドラマがあって、ストーリーがあった。
そしてその末に、ジラーチは少年、アオギリとの間に友情を芽生えさせた。
ジラーチにとって初めてもっと一緒に居たい、そう思える相手ができた。
けれどジラーチは目覚めてから七日の間だけ行動ができる。七日の時を経たならば再び眠りに就いてしまう。
どうしようも無い、それがジラーチというポケモンの性質だった。
――――このままお別れなんて嫌だった。
けれどジラーチにできることなんてほとんど無かった。
どんな願いをも叶えるポケモンは、けれどだからこそ、願う人間がいない、たった独りでは何もできなかった。
だからこそ、せめて、少年の願いを叶えてあげようと思った。
一つ目の願いはすでに叶えられていた。
当たり前だが、大人たちの悪意から、当時まだ子供だったアオギリが抗えるはずも無い。
だから、その最中に助けを願い、ジラーチはそれを叶えた。
けれどそれは少年の願いと呼ぶには余りにも少年自身の益が無い。むしろそれはジラーチのための願いであり、願われなければ友達一人助けられないジラーチ自身に嫌気が刺した。
だからこそ、今度こそ、少年自身のための願いを叶えたかった。
そうして二つ目の願いは叶えられた。
どんな願いでも叶えると言ったジラーチに、少年が告げた願いは、誰だって一度は思うような些細なことだった。
――――将来の自分の姿が知りたい。
未来の自分がどんな大人になっているのか、子供の歳からすればむしろ大半の人間は一度は夢想することだろう。
そしてそれを知るチャンスが目の前にあった、少年がそれを願ったことを悪と呼ぶことは決してできないはずだ。
そう、だからこそ、それが最初の転換。
未来を知れば未来は変えられるだろうか?
是であり、否である。
知った時点で未来は変わる、誰かに解き明かされた時点で一つの未来が確定され、破棄され、再び未確定な未来へと回帰する。
そして少年が見るのが
本来の可能性は未来を知ることで捻じ曲がる。
元よりこの世界はいくつもの滅びの要素を孕んでいたのだ、ほんの少し、未来が捻じ曲がるだけでいとも容易く世界は滅びの運命へと突入する。
とは言え、それだけならばジラーチは十二年にも及ぶ苦悩を抱えることにはならなかった。
この物語が始まることは無かったのだ。
何よりも
* * *
「どういうことだ?」
衝撃の爆弾発言から一転して始まったとんでも話に思わず眉根を潜める。
今も現在進行形で上空では伝説同士の戦いが行われているというのに、今こんな悠長なことをしていていいのか、と言う疑問を抱く。
だが目の前の少女、ジラーチの有無を言わさない視線に黙り込んでいた。
「この世界は滅ぶ、そういう運命にあるデシ。
「…………今じゃない?」
やはり良く意味の分からない言葉に思わず問い返した言葉にジラーチが頷く。
「今この時代は
「いや、待て、待て?! 前日談とか、物語とか、どいう意味だよ」
「だから、そのままデシよ…………」
戸惑う自身に、ジラーチはいっそ冷淡なほどにあっさりと答えた。
「世界の運命とは物語のように決定されているのデシよ。そして物語ならば当然、主人公と呼べる存在がいるデシ」
脳裏に浮かんだのはポケットモンスターのストーリー。
オメガルビー、アルファサファイア、つまり物語とはそういう物を指すのか。
そんな自身の思考を読み取ったかのようにジラーチが一つ頷き。
「お前にも分かるように言ってやるなら…………
未来の、カロス地方。
実機で言うところのポケットモンスターXY。
実機の時系列で言うならばORASの数年後の物語と言われている。
そしてそう言われると、段々とだがジラーチの言いたいこと、というのも分かってくる。
「もし物語が世界の運命なんだとしたら…………
そう、おかしいのだ。確実な矛盾がある。
そして自身が理解したことを理解したジラーチが口元に弧を描く。
そんなジラーチの反応に、自身の理解が正しいのだと、理解する、理解してしまう。
「気が狂いそうだな」
「普通の人間は知らなくていいことデシから当然デシ、それにもう分かるデシよね? 何がおかしいのか、この話の致命的な矛盾点が」
問われ、頷く。
この世界がXYを中心とした世界だと言うならば――――。
「―――-今ここでホウエンが滅ぶことはあり得ない」
時系列的には
だが前世における
つまり、XYの物語とはORASの後に世界が存続しているからこそ紡がれる物語だ。
実際ORASでも超古代ポケモングラードン、カイオーガの復活、ゲンシカイキ、超巨大隕石にまつわるエピソードデルタの物語などホウエンが滅ぶ可能性、要素はいくつも存在した。
だが実際にはホウエンは救われXYに至る数年後の未来まで世界は存続している。
それはORASのストーリーにて主人公たちがそれら全てを解決したからなのだが。
XY発売時点ではそんなストーリーは
つまり、XY時空においては過去にホウエンで何かあった『かもしれない』が、そんなものすでに解決され世界は『無事だった』、という『結果だけが残っている』状態から始まるのだ。
XYの物語において、ホウエンの事件とは全て過去の出来事なのだ。
この現実がけれど物語のように動くというのならば、
だとするならば、どうして世界は今まさに滅びかけているのか。
「『滅びの未来が未来によって確定されている』、デシよ」
「それ…………どういう意味なんだ、さっきも言ってたよな」
自身の問いに少女、ジラーチが嘆息し。
「今から数年後、カロスで起こる事件によって
「……………………は?」
あっさりと告げたジラーチの言葉に一瞬脳が理解を拒否したが、すぐにはっとなる。
「最終兵器のことか? つまり、この世界だとあれを止められなかったってことか?!」
ポケットモンスターXYのストーリーは簡単に言えば『世界を滅ぼし、一新しようとする悪の組織とそれを止める主人公たち』と言える。
その中で出てくるのが『伝説のポケモンをエネルギー源』として起動する最終兵器と呼ばれる物で、それを使えば世界全てを滅ぼすこともできる、らしい。
カロス地方、そして世界を滅ぼすと言われればそれしか思い当たる物はなく。
「そう…………デシね、
言い淀んだような、曖昧な言い方のジラーチに思わず首を傾げ。
「それは…………いや、これは未来の話デシ。どうして滅んだかは今はどうでも良いんデシよ。問題は
「本来の? ってことは…………つまり」
今が異常、ということに他ならない。
「その通りデシよ」
一体何が異常なのか、何故異常なのか、その答えを持っているだろうジラーチを見つめ。
「特異点存在」
ぽつり、とその一言を呟いた。
「そういう存在が
乱れて、その結果、未来は滅んだ。
「滅びないはずの未来が滅んだ、それを十二年前、アオギリが
「待て、待て、待て!?」
思わず待ったをかける。言ってることが最早完全に理解を超えている。
けれどそんな自身の言葉を無視するかのようにジラーチは言葉を続ける。
「前日談で世界が滅び、そうなれば結果的に未来に発生するはずの
滔々と、頭を抱えたくなるこちらを一切無視してジラーチは話すことを止めない。
「だからお前をこの世界に
――――――――。
――――――――――――。
――――――――――――――――。
「――――は?」
聞こえた声に、思考が完全にフリーズした。
* * *
ツワブキ・ダイゴが人生において心底動揺したのは片手で数えるほどにしか存在しない。
特に成人(十歳)して、トレーナーとして活動を始めてからは一度も無かったのではないだろうか。
あの現チャンピオンとのバトルの時ですら、動揺や高揚はあっても、完全に飲まれるほどではなかったはずだ。
そんなダイゴが今、ほぼ人生でも初めてかもしれないほどに深く動揺していた。
空に浮かぶ暗雲、そしてそこに座す黒龍。それと戦う伝説たち。
それだけでも並の人間なら仰天するだろうことだが、ダイゴの鋼の精神は完全に揺らぐことは無い。
だがそれに加えて、ホウエンへと襲来する超巨大隕石の存在は揺らぎかけていた彼の精神に止めを刺した。
「――――――――」
言葉を紡ぐ余裕すらないほどに、まさに絶句しモニターを見つめていた。
トクサネ宇宙センターでは宇宙に関する様々な情報が収集されている。
今モニターに表示されているのは、ホウエンへと降り注ぐ隕石の情報だ。
そしてその情報を信じるのならば。
「――――明日、ホウエンに隕石が落ちる」
自分たちの住む星の目と鼻の先にまで迫った隕石が猛烈な速度で自分たちの世界を破壊しようとしているという情報だった。
勿論、この情報自体は事前にハルトから聞いていたため予測されていた結果ではあったが。
――――それにしても早すぎる。
時期、の問題ではない。観測されてから、の時間だ。
確かにいつ来るかも分からない隕石を常に見張っているというのは現実的な話ではない。
だが『星一つを滅ぼせるほどの巨大な隕石』で『今年の夏ごろ来る』という二つの情報があったのだ、毎日毎日宇宙センターでは観測が行われ僅かな前兆でも見逃すまいと目を皿にして観測を続けてきたはずなのだ。
にも関わらず、発見されたのは直前も直前、僅か一日前である。
規模は衝突の衝撃だけでホウエン地方が消し飛び、そのまま星の中心まで突き抜けこの世界が滅ぼすに足るだけの巨大さが確認されていた。
つまり今日は、世界滅亡の前日、ということになる。
そしてそのための切り札だと彼が言った存在は今、逆に世界を滅ぼさん勢いで暴れ回っている。
「――――『∞エナジー』の準備を」
僅かな時間と数度の呼吸で動揺を押し殺し、努めて冷静に、ダイゴはそう告げた。
先ほども言ったようにこの時のために備えはしてきた。
別に彼の言ったことを信じなかったわけではないが、世界の滅亡という明確な危機に対してセカンドプランの一つも無いなんてあり得ない選択肢だった、というだけの話。
父、ツワブキ・ムクゲが開発した
それによって一度は成功したロケットの打ち上げをもう一度行うのだ。
とは言え、こちらが想定していたより遥かに巨大なサイズの隕石に対して想定通りの効果があるかは難しい問題だ。
だが何もしないよりはずっとマシだろう。
「…………そう言えば、彼に連絡するのを忘れていたね」
ようやく冷静さを取り戻し、回り始めた思考で、ハルトへの連絡を忘れていたとナビを取り出し。
「……………………?」
そこに届いていたメッセージに気づき、それを開いて。
――――逃げろ
ただ一言だけ書かれていたメッセージに思わず首を傾げて。
ふと視線を上げた瞬間、空から降ってくる
実はハルトくん転生なんてしてなかったんだ!
今まで一度もハルトくん『死んだ』なんて書いてないだろ?
死んだ記憶も無い、とか転生したのだとしたら、とか曖昧に濁してたの。
今回の話で中々複雑な設定になってきただろ?
昨日仕事中に十五分で考えたんだ(超アドリブ
まあ話の骨子みたいなには前からあったけど、設定に肉付けしたの書きながらだからほぼアドリブで間違っちゃないな(
え? タグに転生ってあるじゃねえか、あれなんだよってか?
あれ『特異点存在』さんのことだよ。
すっげえどうでもいいけど、小説の感想とかは気にしてても評価ってあんま気にしたこと無かったんだが、読んでてぜんっぜんおもしろくもねえ、って思う作品に抜かれると軽くイラっとする。
でもだからって相手に0爆弾するのは余りにもどうかと思うので、こっちの作品のクオリティを上げて、より良い作品を書くことに始終することにする。
結局俺の作品の評価ってのは俺の腕の問題だしなあ。
まあ趣味で書いてるだけだから究極的にはどうでもいいことだけど。
ちょっと愚痴っぽくなったけど、最近仕事も忙しくてストレスだし、色々もやもやしてるから許して。