ポケットモンスタードールズ   作:水代

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そのうち活動報告でUSUMの対戦相手募集するかも。


大黒天⑫

 ミシロのシキの家からハルトの家まで徒歩一分の距離にある。

 本当は迷わないように隣の家のほうが良かったのだが、そちらはすでにオダマキ一家が住んでいるので、近場の空き地に一軒家を建てた。

 最早言うまでもないことだが、シキという少女は極めつけの方向音痴である。

 その程度は最早、道なりに直進すればいいだけの場所で迷うほどの方向音痴だ。

 今までどうやって生きていたのだ、と他人から言われたくなるほどの彼女だが、彼女の相棒はそうではない。

 サザンドラ、ニックネームはクロ、そう呼ばれる彼がいたからこそ、彼女は生きてこれたと言っても過言ではないほどだ。

 

 だからそう、それは彼女なりの焦りだったのかもしれない。

 

 相棒に呆れた視線を送られるような能天気さを表面上浮かべていても、本当は焦っていたのかもしれない。

 長年の相方をボールに納め、家を出た。

 

 その結果がどうして海が見える街にいるのだろう、シキ自身良く分からない。

 

 だがまあそのお陰でレックウザが宇宙センターに激突するのを阻止できたのだから、結果オーライと言ったところか…………相棒が半眼でこちらを見ているような気がするが、恐らく気のせいだろう。

 いや、違うのだと、一体誰に対しての言い訳なのか自分でも分からない言い訳を心の中で呟く。

 

 さすがにシキとて視界の中に映っている場所に対して迷ったりはしない(多分)。

 

 だがこの曇天よりも暗い…………文字通りの夜闇のような天候の中、悪い視界を歩いたせいで迷ってしまったのだ。つまり何もかもこの天候が…………ひいてはレックウザのせいだ。

 

「なんて…………言ってられるのも今の内ね」

 

 視線の先にはこちらへと理性の無い瞳を向ける、黒い龍の姿。

 ぽん、ぽんと片っ端からボールからポケモンを出しているが、一体どれほど抵抗できるか。

 

 ――――異能者は見えている世界が常人とは違う。

 

 というのは以前ハルトにも説明したような気がするが。

 だからこそ、分かってしまう、目の前の化け物のイカレ度合いが。

 

 黒く渦巻いた狂気と殺意。

 

 ああ、なんだか懐かしい。そして同時に憎らしく、腹立たしい。

 

 ()()()()()()()()()

 

 と、無意識で呟いたところで、誰も聞く人間はいなかった。

 思い出した過去の記憶、そしてそこに纏わりついた感情。

 ただ、少しだけ意識が切り替わっていた。

 

()()()()

 

 邪魔だと言わんばかりにかけていた眼鏡を外し、ショートパンツのポケットに片づける。

 視界の中で黒龍が吼える、それを煩いと一蹴し。

 

()()()

 

 “じょうげはんてん”

 

 上と下を()()()にする。

 異能とは限定とは世界法則の書き換えだ。

 物理法則だって一時的にならば()()する。

 

 とは言え伝説のポケモン相手にそんなものが通用するかと言われれば無理だろう。

 

 ポケモンには無理でも、空間には作用する。

 

 つまり、どうなるか、と言えば。

 

 ()()()()()()()()()()()という不可思議な現象が起きる。

 

「クロ…………“りゅうせいぐん”」

「グルゥァァ!」

 

 “みつくび”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 足元から流星が降ってくる、という不可思議な現象にさしもの黒龍も一瞬戸惑う。

 だがそれが決定的なダメージになることは無い。何せ元の能力が違い過ぎる。秘めたポテンシャルがかけ離れ過ぎている。

 さらに言えばタイプ相性が絶対的過ぎる。

 

 だからこんなもの目くらましに過ぎない。

 

 レックウザの視線をこちらに引き寄せるための一手。

 

 そして、ここからが本番。

 

「本当は…………()()()のために作ってたとっておきだけど」

 

 真っすぐに、レックウザへと指先を向け、視線を向け、意識を向け。

 

「同じ領域ならばアナタにも届くわよね?」

 

 “リバースモノクローム”

 

 その名を呟いた瞬間、()()()()()()()()()()

 

「虚は実に、実は虚に」

 

 黒龍が咆哮する。自らの体に起きた異変に気付き、その元凶を見やる。

 同時にシキがボールを投げる。

 放たれたボールから出た巨体が()()()()()()()()

 

 “スロースタート”

 “いかさまロンリ”

 

 ぎしぎし、とその巨躯を軋ませながら、太古の王が拳を振り上げ。

 

「吹き飛ばして!」

 

 “アルティメットブロウ”

 

 極限の一撃が黒龍の胴を打ち抜く。

 

「キリュウウウウアアアァァ」

 

 黒龍が初めて()()()()()()

 その長躯を折り曲げ、()()()()()()()()

 それはこの黒龍が初めてまともに受けた痛手であった。

 

 だがそれでもさすがは伝説。その程度で終わるようならば伝説足り得ない。

 漆黒の雲にその姿が呑み込まれようとしたところで、急制動し体をくねらせながら地上へと()()()()()

 

 だがそれとてシキには分っている。そして同時に一つ理解したこともある。

 

 ()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 自身の出したポケモン、レジギガスの一撃が黒龍に通用したこともそうだし、その後上に向かって落ちていったことを見てもあの数秒の間のみとは言え黒龍が自らの異能のフィールドに取り込まれていたのは確かだった。

 だがそれも数秒の間のみ、すぐに強制力で上回れてフィールドは書き換えられた。

 だがそれでも十分だ、十分過ぎる。

 

 どれほど強力な異能を持とうと、人間は伝説種と呼ばれるポケモンには敵わない。

 

 シキの個人的な感覚ではあるが、強制力が強いとか弱いとか以前に、同じ領域に立てていない。

 例えるならば、自分たち通常の異能者が世界のルールを一部改竄したり、ルールの抜け道を付いているのだとすれば、伝説種たちというのはルールそのものを変更したり、好き勝手なルールを追加したり、と言った感じだろうか。

 

 伝説種は理に縛られない。

 

 故に異能者が作った理からもするすると抜けて行ってしまう。

 

 それを捕まえるためには、同じ伝説種の力で同じ領域に押し込めるしかない。

 

 そんなシキの考えはどうやら当たっていたらしい。

 その結果が目の前の黒龍である。

 とは言え、それなりに痛手だったとは言え、黒龍からしたら100の内の10削れた、と言ったところだろうか。

 基礎体力が並の生物と比較になってないため、並のポケモンなら一発で十匹纏めて倒れるようなダメージだろうが、平然と復帰してくる。

 同じ伝説種とは言え、恐らくレジギガスは伝説種の中でも最も()()

 弱い、というか、底が浅いというべきか。

 少なくとも、レジギガスより下の伝説種というのは恐らくいないのではないだろうか。

 

 そもそもレジギガスというのはとても特殊な伝説種だ。

 

 見た目の通り、生物というべき姿をしていない。

 

 にもかかわらずタイプは『ノーマル』。

 

 伝承によれば、過去に十七タイプのレジギガスが存在しており、けれどそれは神と呼ばれる存在によって打倒され、『ノーマル』タイプを残して全て封じられたと言われている。

 神、と呼ばれる存在が何なのか、シキは知らないが、けれど何故神がレジギガスたちを封印したのか、封じられたレジギガスたちはどうなったのか。

 疑問は色々あったが、何よりも気になったことが一つ。

 

 レジギガスが最低でも十七体存在した、という事実である。

 

 一体で伝説と呼ばれるほどのポケモンが過去に十七体存在した、という事実。

 それら全てが同じ姿をしていたのか、残念ながら今を生きるシキには最早分からぬ事実ではあるが。

 けれど同じ『王』の名で呼ばれたポケモンが十七体。

 どう見たって非生物型のレジギガスが複数存在していた。

 果たしてそれがどういうことを意味するのか分かってはいない。レジギガスがいたシンオウ地方でもそれ以上の情報は無く、残念ながら真実を知るにはその『神』とやらを探すしかないわけだが。

 

 レジギガスは作られた伝説だ。

 

 シキはそう思っている。

 

 何のために、一体誰が、そんなことは分からない。きっとそうなのだと思っている。

 そうでなければ余りにも機械的過ぎる。

 シキが捕まえた当初、レジギガスの育成は絶望的だった。

 シキは自分で言うのもなんだが、育成という分野に関して高い才能があると思っている。

 異能者というのは往々にして、感性や感覚の差異から育成能力が低いことが多いのだが、幼いころから望む望まぬに関わらずポケモンと共に生き、共に暮らし、共に育ってきたシキにとってポケモンの感性というのはある程度理解できるものであり、それを生かし、育成を施すことは難しくなかった。

 唯一指示だけは平凡の域を出るものではなかったが、それでもプロとしてやっていけるだけの能力はあり、多少の不足は高い異能の才と育成で乗り切れた。

 

 幸いにも異能トレーナーで育成能力が高い、というのは中々に無いことであり、だからこそシキというポケモントレーナーはカロスというトレーナーたちの魔境において頭角を現し、いくつかの大会で優勝することで大金を稼いでいた。

 本来ならば企業などのバックアップを受けて年月を重ね至る場所へ幼少ながらに到達していた彼女は自らの才能を存分に振るうために自分専用の育成用施設を持ったのはトレーナーとして当然の選択肢であり、だからこそ分かった、分かってしまった。

 

 現状の自分ではレジギガスの育成は手の施しようがないと。

 

 勿論最低限のことはできる。

 レベルを上げることもその一つ。何故か捕獲しただけで元は200はあったレベルが見る影も無いほどにまで下がってしまっていたのは泣きそうになった。

 何せ伝説のポケモン、そう簡単にトレーナー同士の対戦で出せる物ではない。

 何よりも、レベルが激減してそれでいて尚、並のポケモンを圧倒し、鎧袖一触、寄せるつけることすらなく叩きのめす圧倒的な暴力装置がそこにあった。

 レベルとは、経験値とは、つまり文字通りの位階(レベル)であり、経験である。

 ただ雑魚を叩きのめすだけの作業で一体何の経験が積めるというのか、と言うほどにレジギガスのレベルは上がらなかった。

 それをレベル120まで取り戻したのは、シキの育成分野における才能の高さを物語っていたのだろう。恐らくハルトが同じことをしてもレベル100に到達すらしない。

 

 そして最早現状ではこれ以上は望めないというまでレベルを上げた先で。

 

 手の施しようのない現実を直視した。

 

 何をどうすればいいのか、分からない。

 こんなポケモン育てたことも無ければ育て方も知らない。

 裏特性を仕込むことができた…………と思うかもしれないが。

 あれは仕込んだのではない。

 

 力を解放できない不具合が裏特性として、つまりデメリットとして表に出たのだ。

 

 だがそのデメリットを強烈なメリットに変える力がシキにはあった。

 シキの異能とレジギガスの特性は凄まじく相性が良い。

 だからそれまでそのデメリットをシキは強く意識したことは無かった。

 というより都合が良いものとして扱っていた。

 何せ無条件に攻撃の威力と速度が跳ね上がるのだ、ポケモンバトルにおいてこれほど凶悪な特性も無いだろう。

 

 けれど敗北した。

 

 確かに情報の不利はあった。

 だがそれでも、シキにとってハルトとの最初の戦い、あれは全力だった。

 本来四天王戦まで出す予定も無かったレジギガスを全国中継で出した影響は凄まじい。

 あのポケモンは一体なんだ、とホウエン中が首を傾げた。

 その中に少数、シンオウの伝説を知る人間がおり、それがシンオウの伝説のポケモンだという情報が広まった。そのせいで面倒ごとをしょい込むことになってりもしたが…………まあ今はそれは良い。

 

 問題は、ただのポケモンに…………伝説種どころこか、準伝説種でも無いただのポケモンにレジギガスが敗北したという事実。

 

 別に難癖付けようというわけではない、彼らの絆が何よりも固く、そして自分たちよりも純粋に強かった。それだけの話である。

 だがそれ以前に一度、シキはレジギガスを使い敗北している。

 義弟のシキ。彼のサザンドラに一度はレジギガスは屈した。

 だがそれは異能という伝説種の強さとは別の領域で負けたからだと思っていた。

 恐らく義弟も同じ伝説のポケモンを所持している。そしてその力を異能に合算している。

 だからこそ、最早義弟の異能はルールの改変、改竄などという域に留まらない。

 

 断言するが、アレとバトルして勝てるトレーナーなどこの世界のどこにもいない。

 

 例えハルトであろうと無理だ、と言える。

 

 だからこそ、シキは例外を求めていたのだ。

 ルールの外で動く存在、自らルールを持つ存在。つまり伝説を。

 だがその伝説すらも敗れた、しかも伝説すら持たないはずのトレーナーに。

 

 無意識のうちに妥協していたことにその時初めて気づいた。

 

 今のままでも十分過ぎるほどレジギガスは強い。

 それこそ並のポケモンでは到底太刀打ちできないほどに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上には上がいる。しかも本来の力を発揮できない伝説など、油断していれば並のポケモンにすら足元を掬われるのだと、気づいた。

 

 強くなければ、絶対の強さがなければ伝説は伝説足り得ない。

 

 けれどレジギガスの育成は手詰まりに陥っている。

 そんな時、ハルトが自身にレジアイスをくれた。

 

 三王と、一部で称されるホウエンの伝承存在をまるで何の気も無しに渡してくるのだから、さすがに唖然としてしまったが。

 

 それが鍵なのだと、レジアイスを育てていて気付いた。

 

 レジギガスという存在を起動するための鍵。

 

 つまり今まで、エンジンすらかかっていなかったような状態だったのだ。

 かつてレジギガスが作ったとされるレジスチル、レジロック、レジアイスの三体。

 それら全てを捕獲し、集めること。

 

 それを持ってレジギガスという存在の本領が解放される。

 

 ほんの一瞬とは言え、あの黒龍へと異能が干渉できるほどに、その存在を強めた。

 

 その力は最早、以前とは別物…………否、忘れていただけで野生の時は確かにそのくらい強かったのだ。

 実際のところ、最初から最大まで能力を高めたポケモンで包囲して高火力の技を放ち続ける。

 やられれば即座に次のポケモンを出し、瀕死になったポケモンはその間に回復する。

 ただ一つの技を放つことだけに特化させたポケモンを五十程度用意し、技を一つに絞ることでトレーナーの指示すら必要無くし、自身は後ろで見ていただけで伝説のポケモンをひれ伏させた。

 けれどあれは、レジギガスの最も不得意な状況を作ってこちらの最も優位な状況を作ったからこそ、と言える。

 

 レジギガスが一対一を得意とするポケモンだからこそ、レジギガスの殲滅速度にこちらの回復速度が追いついた。それだけでの話。

 

「五」

 

 故にシキはレジギガスの本領、というものを知らない。

 

「四」

 

 強大な一個の存在を相手にすることを最も得意とする、それはつまり。

 

「三」

 

 対伝説存在と呼べるものに他ならないのだと。

 

「二」

 

 故に。

 

「一」

 

 パチン、と指を鳴らす。

 

「ジャスト…………三十秒。()()()()()、ギガ」

 

 今、このホウエンの地で。

 

「ジ…………ジジ、ジジジジジジジジジ」

 

 太古の巨神が目を覚ます。

 

「――――――――――――――――」

 

 

めざめるきょしん(アウェイクン)

 

 

 直後、空中で放たれた拳が空を裂いた。

 

 

 




トレーナーズスキル(A):じょうげはんてん
『ひこう』タイプや『宙に浮いた』ポケモンが『じめん』技や『まきびし』など浮かんでいる時に効果を無効化する効果を受けるようになる、それ以外のポケモンが『じめん』技や『まきびし』などを無効化する。

分かりやすく言うなら、重力を反転させる。
つまり空に向かって『落ちる』ようになり、地に向かって『昇る』ようになる。


トレーナーズスキル(A):リバースモノクローム
5ターンの間、『こうかはばつぐん』と『こうかはいまひとつ』の効果が逆になる。

タイプ相性が逆転するわけではないので、例えば特性『ハードロック』の場合、ダメージが3/8に、特性『いろめがね』ならばダメージが4倍か8倍になる。
つまり『こうかはばつぐん』=ダメージ2倍と『こうかはいまひとつ』=ダメージ1/2を入れ替える。
『こうかはばつぐん』=ダメージ1/2
『こうかはいまひとつ』=ダメージ2倍
こうする。一種のダークタイプ殺しだが、ちょっと迂遠ではあるが、シキちゃんらしい捻じ曲がった逆転スキル。


というわけでシキちゃんついにレジギガスの覚醒完了。いやあ、やっぱ才能がある人は違いますねえ。アイスもらってまだ一か月も経ってないのにな。
因みに、非常に面倒なのでレジギガスのデータもう作ってない。基本的に以前の『野生時』のデータと変わってない。
ただ一つ『専用トレーナーズスキル(将来廃止予定)』がついたのと『禁忌アビリティ』が復活してる。


あ、因みにだけどギガスに関しては作者の勝手な考察です。本作の独自設定ということにしといて。
実機だと『レジアイス、スチル、ロックを作った』ということ『17種類いてノーマルタイプ以外はアルセウスに封印されて、プレートになった(らしい)』ということ、『大陸を動かすほどの怪力を持っている』ということ、これくらいしか書いてないからなあ。




ちょっと関係無いけど、最後のギガスのアビリティみたいに「名前+ルビ」という書き方どうだろう。未来編の裏特性の名前こんな感じなんだよね。

今決まってるの例を挙げるけど

イッツフィクション(ウソだよばーか)』とか

ブレイクオーバー(うるせえ死ね)』とか

裏特性の名前こんなの面白そうかなって思ってる。
特に作中で表示するにあたって、これはかなり面白いんじゃないかなって思ってたり。
そのうち未来編試し読みみたいなの書いてみる時に、実際使ってみたいなと思ってる。

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