休日二日目。初日からエアに振り回されたり、シアに窒息させられかけたり、シャルと夜の散歩に出かけたり本当に色々あったが、打って変わって二日目は平和そのものであった。
りゅうせいのたきでの修行が出来なくなったエアは屋根の上でのんびり寝ているし、シアは母さんの後を付いていきながら家事をしているし、シャルはのんびり微睡みながら穏やかに、そして盛大に寝坊して昼前になって起きてくるし、午後からはハルカちゃんがフィールドワークに誘ってくるので、屋根の上で昼寝していたエアを起こして一緒に草むらを歩き回ったり、夜には父さんが帰ってきて少しだけポケモンのことを教えてもらったり。
「…………平和…………だったなあ」
「何遠い目してんのよ」
「させろよ」
「嫌よ」
なんだこの理不尽ロリ。と内心で毒づきながら、またもやエアに掴まれ飛んでいる自身である。
しかも今度は陸地ではなく…………海の上である。
「なあ」
「何よ」
「あっちからキバニアが俺たちを狙って迫ってくるんだけど」
「ならもっと早く行きましょうか」
「これ以上速度上げられたらリバースするんだけど」
「良かったわね、ここ、海の上よ」
後で絶対に泣かす、この幼女。
じゅんしんむくな五歳児の心に鬼が芽生えた瞬間であった。
* * *
三日目の朝、朝食だけ食っていきなりエアに連れ出されたので何かと思えば。
第二回修行編の開催らしい。
え、でもお前もうりゅうせいのたき出禁食らったじゃん、と言う自身の言葉に。
だから今度はいしのどうくつに行くわよ。
と言って有無を言わさず自身の手を引いて飛び出したのがこのロリドラゴンである。
というかなんでお前そんなに暗い屋内が好きなの?
こいつは確か空とか好きだったはずなんだが、何故か修行先と言って真っ先に出てくるのは洞窟系ダンジョンばかりなのは…………何なのだろう、このノリを間違えた一世代前の少年漫画に影響受けまくった子供みたいな感じ。
ポケモンの
まあこの世界にそんな便利なものがないので、やるとしたら四天王周回くらいだろうか。
いや、まあこういうゲーム脳を現実に持ち込むとやばいとは思う。
四天王とチャンピオンをレベリングと金稼ぎ程度の相手にしか思えないあたり、どうしてもゲーム時代の考え方が抜けきらないとは思う。
おまもりこばん持たせて一匹で全抜き狙ってるあたりでもうゲーム主人公って四天王舐めすぎだよな、とは思う。
ところでいしのどうくつ、にいることで有名なポケモンを二体上げるとすれば。
多分第三世代のルビーサファイアをやったプレイヤーならば、クチートとヤミラミそのどちらかとマクノシタだと思う。
だがオメガルビー、アルファサファイアをやったプレイヤーなら多分こう答えるんじゃないだろうか。
ドッコラーとキバゴ。
ボーマンダの例を見れば分かる通り、この世界、普通に野生で進化先のポケモンが出てくる。
…………まあつまり分かっただろう。
「やっぱお前アホだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うっさい! 早く指示出しなさい、死ぬわよ!」
左右からローブシンが一体ずつ、そして真正面からオノノクス。
ローブシンのレベルが30と31、そしてオノノクスが52。
学習しないバカのせいで、またもや絶体絶命である。
エアがこの間のボーマンダを倒したことで大幅に上がって、レベル21。
確かに大幅レベルアップだが、Oパワーも無ければしあわせタマゴも無いのならばこんなものだろうと言った感じではある、ハピナス道場を知っているとどうしても比べてしまうのは致し方ないだろう、例えもう使えないものだろうと。
「勝てるか! 逃げるに決まってるだろ!」
「そんなこと許すわけないでしょ!」
「あーくそもう、オノノクスにりゅうせいぐん、それで倒せなかったら逃げるぞ」
「最初からそう言いなさいよ!」
エアが咆哮し、空から流星を呼び寄せる。
「と言うか、洞窟内でどうやって流星落とすんだ?」
「今更ね…………こうすんのよ!」
ズダダダダダダダダダダダダダダァァァァン
連続して天井を叩くような音と共に、洞窟の天井を突き破って流星がオノノクス目掛けて落ちてくる。
ドドドドドドォォォォ、といくつもの流星がオノノクスへと飛来し、凄まじい衝撃が洞窟内に走る。
「ガゴォォォォ」
オノノクスが悲鳴を上げ…………けれど倒れない。
「けどもう遅いわ」
反撃に移ろうとしたオノノクスの一瞬の隙を付き、エアが飛ぶことで加速しながら踏み込む。
げ き り ん !
おんがえし!
一瞬の交差、けれど加速した分だけ、エアのほうが速く。
こうなると分かっていたので事前指示でりゅうのまいを積ませた分だけ、こちらのほうが威力は高い。
だがタイプ一致な上に伝説種を抜けばドラゴンタイプ最強のこうげき値の持ち主である。打ち合いに勝ったとは言え、本当にギリギリのところであり、エアもまたかなり痛手を負っているのが分かった。
エアの拳がオノノクスの腹部に突き刺さる。
ずどぉぉぉと決して生物の体からしてはならない音がして…………オノノクスが沈む。
その間にローブシン二体が、エアを挟み撃ちにして。
なしくずし
能力ランクを無視した一撃がエアを撃ち貫こうとし…………。
「避けろ!」
「っぐ」
紙一重のところで後方に急加速で抜けたエアが、すれ違い様に攻撃を掠られながらも直撃を避ける。
「…………なしくずし、かくとう技で攻めてくれば楽なのに」
かくとう技ならエアのひこうタイプで半減できるが、なしくずしはノーマルタイプの技だ、等倍で通る。
こうげきの種族値140、オノノクスの147ほどではないとしても、伝説種を抜いたポケモンの中でもトップクラスの攻撃力であることには違い無い。
タイプ一致な上に弱点を突かれるドラゴンタイプを使えるオノノクスのほうを優先して落とせたのは良かったが、残った二体も十二分に厄介な相手なのには変わりなかった。
エアに事前に持たせておいたオボンのみで回復したのを見ながら、さてどうするか、そう考えた。
「チチッ」
その時。
「チチチッ」
耳に触れるように届いた小さな声。
「…………何の音」
エアが警戒しながら呟いた瞬間。
「ぎゃう」
ローブシンの一体が突然悲鳴を上げて、その動きを止める。
その様子に驚き動きを止めたローブシンもまた。
「ぎゅぐあ」
即座にその動きを止める。
全身が震え、動こうとしても動けないその様子にすぐ気づく。
「マヒしてる」
一体誰が、そう思いよく見れば。
「チ、チチチ」
ローブシンの足元に、小さな少女がいた。
身長が1mあるかどうか、と言う本当に小さな少女が、ローブシンの足元に頬を擦りつけている。
左右からぴょこんと飛び出た髪を玉飾りで結び、ランタンスリーブの白いシャツの上からペールオレンジのショートオーバーオールを着て、腰元に大きなリボンのサッシュベルトを巻いた小さな小さな少女。
特徴としては頭とお尻だろうか、本物のようにぴこぴこと動く耳と、ゆらゆらと揺れる尻尾がそこにあった。
少女がチチチ、と鳴き声を上げながらローブシンの足に頬を擦りつける。
そして、
「エア!」
「分かってる!」
咄嗟にエアを下がらせる。
それの正体はともかく、何をしているのか理解してしまったから。
ほっぺすりすり、余りにも可愛らしい名前の技ではあるが。
100%の確率で相手をマヒさせられる上に僅かながらにダメージも与えることのできるでんじはのほぼ上位互換技である。
害悪鍵として有名なクレッフィなど一部のポケモンを除けば使えるならこっちを使うだろう。
れっきとしたポケモンの技の一つであり。
それはつまり、先ほどの少女はポケモン…………しかもヒトガタであると仮定できる。
そしてまだ確定出ないが、これを使う…………と言うか覚えさせたポケモンが手持ちに一匹いた。
「偶然…………とはさすがに言えなくなってきた気がするな」
まさしく、集めると決めた途端に、次々と順序良くかつての手持ちと遭遇している。
これが偶然ならば、ミナモデパートの抽選でマスターボールを当てられる気すらしてくるレベルだ。
「…………アイツ、かどうか…………悩みどころだなあ」
手持ちの一匹ならば探しに行くべきだろう。
幸い、先発起用のポケモンだけあって、危険度と言う意味ではこれまでで一番低い。
だからエア一人でも倒すことも捕まえることも簡単だろうが。
問題は。
「どこに消えた?」
気づけば少女がローブシンの足元から消えていた。
「今の今までいたのに…………どこn」
唐突に、エアの言葉が途切れ。
振り向いたそこには、エアの背中に飛び着いた少女の姿。
「エア?!」
「ぐ…………ああ…………やら、れた…………わね」
一瞬でエアの全身が痺れを起こし、立って入れらず膝を着く。
そうして一瞬エアに気を取られていると、いつの間にかまた少女を見失っている。
「…………厄介だな、場所が悪すぎる」
洞窟地下一階部分。地上から降りてすぐのところだけに、まだ薄暗い程度ではあるが、その先となると完全に闇に包まれており、フラッシュでも無いとまともに歩くことすらできないだろう。
「…………どうする?」
エアが尋ねる。すでに修行とかそんな目的はどこかに行ってしまった。
捕まえるか、一旦引くか。
だがそんな時。
「グ…………オオオオオオ」
ローブシンの片方が動き出す。
エアを睨みつけながら、マヒに痺れる体を引きずって…………それでもこちらを攻撃しようと、一歩踏み出し。
ぷおぉおぉぉ、と何となく聞いたことのある鳴き声が、洞窟内に響いた。
「が…………が、ぐ、グガガァァァ」
瞬間、二体のローブシンが震え出す。エアへの敵視すら止めて、自身たちの後方を振り返る。
そこにあるのは闇だ、何物をも映さないまっ黒な闇。
だがそこに何かがいると言うようにローブシンが怯え、体を震わせる。
直後。
ピカァァァァ、と一瞬で洞窟内が光に満たされる。
あまりの眩しさに、目を瞑ってしまい、それでも尚、目を焼く光。
そして。
ぱち、ぱち、と言う音が耳に入る。
何の音か、それを知ろうと目を見開き。
バチバチバチバチバチバチバチ、一瞬で膨れ上がった電気が
直後、ズドォォォン、と落雷でも起きたかのような音と共にローブシンが電撃に撃たれて倒れる。
「…………最悪だ」
「………………………………マス、ター」
思わず顔を覆いたくなる状況だが、エアの言葉に、分かっていると頷く。
「逃げるぞ」
そこにいたのは先ほどとは別の少女だった。
年の頃は十六かそこらくらい。腰のあたりまで流れる金、と言うよりかは黄色に近い髪。垂れた前髪の両側を黒いリボンで結んでおり、さながら耳のようにも見えた。
その首には黒いチョーカーのようなものが付けられており、チョーカーの中央には赤い宝石がついており、ペンダントのようにも思える。
黄色いティーシャツに、白のキャミソール、下は青のジーンズと今まで出会った少女たちとは一風変わってどちらかと言うと自身の前世でありそうな恰好の少女だった
だがただの少女でないことは分かりきっている。
と言うか、恐らくだが。
「なんでこんなところにいるんだよ」
「言ってる、場合じゃあ…………無いでしょ」
少女を刺激しないように、そろっと、そろっと後退する。
地下一階から地上へ戻るには背後の坂道を上って行く必要がある。
ゲームのように都合の良い梯子は無い…………今は坂道のほうが都合が良いのだが。
幸い、少女の視線はもう一匹のローブシンへと向けられている。
「ぷおぉおおぉぉ」
と、また聞いた覚えのある鳴き声を少女が発し。
再びその指先に電気が収束していく。
そして、それが放出されると同時に。
「いくぞ、エア」
ボールにエアを戻し、走り出す。
こちらに気づいた少女が、再び電気を集め出すが。
それが放たれるよりも先に、地上へと戻る。
そして足を止めることなく、洞窟出口を抜け。
近くのムロタウンへと逃げ込み、そのままポケモンセンターへと戻って来る。
すでに五歳児全身ががくがくである。息切れも酷く、幾人かこちらを見ているトレーナーもいるが、それすら気にならない。
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
頭の中でその言葉だけが繰り返される。
洞窟にいた二人の少女のうち、小さいほうがチーク。
自身が起点、先発として作ったデデンネだ。
速攻で動き、相手をマヒさせ逃げていく。基本やることはそれだけだが、その時多少のダメージを与えてタスキなどを潰してくれるだけに使い勝手が中々に良い。
そしてもう一人のほう。
あの黄色い少女のほうも見当はついている。
受け殴り、と言うわけの分からない役割を押し付けた彼女は。
イナズマ。
デンリュウの、イナズマだ。
相性最高にして、最悪のタッグがよりにもよって組まれてしまった。
洞窟の狭い通路の中、エアは持ち前の機動力を思う存分には発揮できないし、そもそも素早さだけで見るとギリギリだがデデンネのほうが速い、シアはどちらかと言うと物理寄りの受けな上にイナズマにはシアの弱点をつける技もある、そしてシャルもまた先手を取る前に麻痺&十万ボルトのコンビでやられる可能性が高い。
こういう時いて欲しいのが最後の一匹なのだが。
「…………くそ、やるしかないか」
今いる三匹でどうにかやるしかない。
あのローブシンすら一撃で殺しつくした少女を。
「…………なにその無理ゲー」
思わず呟いた。
主人公に安らぎなんて無いんだよ!!!
ちょっとしたトリビア:イナズマは稲妻と書かれるが、実はこれは当て字である。本来のいなずまは「電」と言う字が正確であり、現代仮名遣い的に、「ず」と「づ」はまとめて「ず」と表記するようにされており、例外は「つづき」など音が連続する場合と、二つの単語を組み合わせた時だけ「貝塚(かいづか)」。イナズマは電の一文字なので「イナヅマ」ではなく「イナズマ」と表記されるのだ。
ってヤフーの知恵袋に書いてあった。
因みにプラズマさんの元ネタのあの子とは特に関係ないデスヨ?