ポケットモンスタードールズ   作:水代

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もう170話だよぉ(いつ終わるの


空を超えて③

「太陽が黄色い」

「気のせいよ」

「空は青いですね」

「また真っ暗はボク嫌だなあ」

「シシ、それはフラグっていうんだヨ」

「フラグっていうか、自分からそっちに進んでるし」

「確定事項っていうんだよねえ、そういうの」

「ったく、緊張感の無いやつらだよ、全く」

「あら、緊張してガチガチよりは良いじゃない」

「うゆ? にーちゃ、かっちかち?」

「この間まで凍って(かっちかちだっ)たのはワシじゃなあ」

 

 ミシロタウンより遥か南。

 ホウエンのほぼ南端と言って過言でないその場所。

 

「今日はここか、運が良かったね」

「現れ消えるマボロシの島か、奇怪な場所じゃな」

 

 呟いた独り言に、アクアが一瞬こちらを見やりながら返してくる。

 島の南端、海の向こうは見渡す限りの地平線。

 島を囲うように砂浜、そして中央には密林。濃い自然が残るその場所だが、十一人も密集していればさすがに狭さも感じる。

 

「いやー…………バカンスっていうより無人島サバイバルだよな、これ」

 

 人の手が一切入っていないその島は、自然が色濃い。故に、人が快適に過ごすには不便さも感じるだろうことは明白だった。

 

 とは言え。

 

「バカンスでもサバイバルでも無いから関係でしょ」

 

 呆れたようなエアの視線に、視線を返せば途端に顔を赤く染めて視線を背ける。

 そんなエアに苦笑しながら、腰に付けた二つのボールを取り。

 

「そんじゃま…………始めようか」

 

 投げた。

 

 

 * * *

 

 

 『Ⅿ』と書かれた二つのボールが宙に放り投げられ。

 中から光が溢れ出す。

 光が一つは海へと、一つは森へと放たれ。

 二人の少女がそこに姿を現す。

 

 そうして二人の少女が現れたことを確認し。

 

 ばきん、と。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 二人が目を見開き、こちらを見て。

 

 見て、その意図を理解し。

 

 ――――嗤う。

 

 獰猛なほどの笑みを浮かべる二人に、苦笑し。

 

「約束、覚えてるよな?」

 

 ――――今度は私も全力でやるよ、本気でやるし、限界までやる、それでも負けたなら、良いよ。キミを認める、キミが上だって。

 

 海の上に立つ、蒼の少女が笑い、楽しそうに頷く。

 それを見た紅の少女が目を細め、つまらなさそうな表情をし、こちらへと背を向ける。

 

「……また後で来いよ」

 

 ――――お前ごときがこのオレを従えるなんざ百万年はえーよ。ま、それでもやりてえなら止めねえ。圧壊し、壊落し、倒壊させ、破壊し尽くし、屈服させてみな。

 

 ぽつり、とこちらへ向けてそれだけ呟き、そのまま森の奥へと去っていくその背を、けれど追わない。

 否、最早追うことなどできない。

 

 目の前でその全身を光へと包まれていく蒼の少女を無視することなど、最早できなかった。

 

「さて、と」

 

 エアを、シアを、シャルを、チーク、イナズマを、リップルを、アースを、ルージュを、サクラを、アクアを。

 全員をボールへと戻し、最大2パーティ分、十二個までボールをセットできるように改良したベルトの端からボールを差し込み。

 

「最初に言っておくが」

 

 ボールの中にいる彼女たちに伝わるように、遠く光る蒼の少女、カイオーガの姿を見つめながら、その場で口を開く。

 

「こっから先、一度でも負ければ明日は無いと思え」

 

 カイオーガ、それを倒せばグラードン。

 両者を降し、そのまま最後の戦いへ。

 すでに手筈は整っていると、連絡があった。

 後は、こちら次第。

 手札を揃えて、最後の場にたどり着くだけ。

 

「最終目標は()()()()()()()()そして隕石の破壊。これはそのための前哨戦だ」

 

 だからこそ。

 

 ――――こんなところで負けていられない?

 

 否だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 すでに自分たちが崖っぷちに立っていることを自覚しなければならない。

 けれど同時にまだ終わっていないことも理解しなければならない。

 

「全ての準備は整えた」

 

 ダイゴが、シキが、それ以外のホウエンの多くのトレーナーたちが動き、仕上げ、場を整えてくれた。

 故に、後は自分たちがそれに応えるだけ。

 

 ――――なんてのはどうでも良いのだ。

 

「そうだろう? だって俺たちが戦ってきたのはそんなもののためじゃないはずだ」

 

 きっとダイゴだって、シキだってそうだ。本当の意味で()()()()()なんかに戦っているやつらはいない。

 みんなそうだ、守りたいもののために戦っている。

 理由なんてそれだけでいいのだ。

 実感もできない世界のためなんかじゃない。

 

「俺は……お前たちと生きる明日のために、今日戦うんだ」

 

 だから。

 

「滅びの運命なんて……踏み倒せ」

 

 だから。

 

「伝説だろうがなんだろうが……知らねえよ」

 

 だから。

 

「ただ勝つ……それだけだ」

 

 ボールを握った右の手を振りぬいた。

 

 

 * * *

 

 

 形式はシンプルにシングルバトル。

 

 カイオーガとの決戦では、サクラの共感能力を使った複数での戦いだったが。

 結局あれは自分には合っていないという結論に至った。

 勿論、数の利というのは大きいのだろうが。

 

「今も大して違いはねえよな! チーク!」

「当たり前さネ、トレーナー!」

 

 ボールから解き放たれたチークの歓喜に共感するように残り八つのボールが震える。

 

 “つながるきずな”

 

「俺たちは繋がっている」

「アチキたちはいつだって一緒サ」

 

 ばちり、とチークの指先に電気が迸り。

 

「なら、それをアタシに証明してみなよ」

 

 徐々にその形を変えていく少女がそう呟くと同時に。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 超古代ポケモン、ゲンシカイオーガがその完全なる姿を取り戻す。

 

 “はじまりのうみ”

 

 直後、急速に変わり良く天候。突如として降り始める豪雨。

 ゲンシカイオーガの特性“はじまりのうみ”が猛威を振るい始める。

 

「グウウウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 カイオーガがさらに吼える。

 同時に大海原が荒れ狂い、激しい海流生み出され、それがやがて大渦となる。

 

「チーク」

「あいサ」

 

 荒れ狂う渦の中心に座す大海の王に向かい、チークが何の気負いも無く一歩、踏み出し。

 

 “にんぎょうげき”

 

 途端、ふわり、とその足が()()()()()()小さな波紋を生み出す。

 生み出された波紋はすぐに渦に飲まれて消えていくが、けれど確かに今、チークは海の上に立っていた。

 

「行け」

「シシ、了解さネ」

 

 それが確認できた、直後。

 チークが渦を物ともせず、海の上を走り。

 

「イナズマー!」

 

 その名を叫ぶと同時に、腰につけたボールの一つから、ぱちっ、と一瞬弾けるような音が聞こえ。

 

 “そうでん”

 

 ボールとチークの間に半透明の線のようなものが繋がると同時に、チークの全身から紫電が迸る。

 

「ま、どうせ感電したりマヒしたりなんて無意味だろうシ」

 

 呟きと共に、チークの足元で電気が弾け、まるで磁力が反発するかのように、チークの体が勢いよく弾かれる……カイオーガへと向かって。

 

「一発、挨拶さネ」

 

 “ボルトチェンジ”

 

 ジグザグと、海面で反発を繰り返し、不規則な軌道で一気にカイオーガへと接近し、その体を蹴り飛ばす。

 『でんき』を纏ったその一撃は。

 

 “たいかいのおう”

 

「うげ」

 

 その表皮を覆う海水を伝い、全て海へと霧散していく。

 

「『でんき』技の無効化効果かよ」

 

 技が失敗し、戻ってくるだけの勢いが足りないチークが場に取り残され。

 

 “こんげんのはどう”

 

 カイオーガがお返しとばかりに水流の弾丸でチークを狙う。

 

 まあ、()()()()()()

 

 “スイッチバック”

 

 タイミングを見計らってチークをボールへと戻す。

 あの至近距離で大技は撃ってこないだろうという予想は当たり、チークだけを狙った攻撃はチークがボールの中へと消えていったために海上を叩くだけに終わる。

 

「アース」

「おうさ、ボス」

 

 “とうしゅうかそく”

 

 受け取り、受け入れる王の器が、受け継いだ力を強める。

 群れの長たるアースの力があればこそ完成した(わざ)であり、(わざ)である。

 絆で高めた力を、これで最大まで高めて。

 

「頼んだ」

「任せときな」

 

 端的なやり取りで、それでも意思は伝わる。

 結んだ絆は力となり、意思となり、思いとなって、互いを繋げてくれる。

 

 “じしん”

 

 海面を殴りつけるようにアースが拳を振り下ろす。

 

 どぉん、と轟音が一瞬響き、途端に海面が揺らぎ、波が荒れ、渦が崩れる。

 余りにも強烈な衝撃に一瞬だが、さしものカイオーガも態勢を崩す。

 不安定な海の上ではふんばりも効かない、カイオーガが波に流され、無防備を晒し。

 

「次っ! シア」

「いつでも、マスター」

 

 次のポケモンへと交代、シアを出し、即座に行動させる。

 最早指示する言葉すら必要も無いほどに、意思の共有は進んでいる。

 同じ時間を過ごし、同じ戦いを経て、トレーナーの思考にポケモンの思考が調律(アジャスト)されていくのは良くあることだが、それを突き詰めていけば、指示を放棄しても最適な行動をポケモンが取れるようになる。

 

 そして絆を深めれば深めるほどに、互いの感情すらも一目で理解し合えるようになり。

 

 やがてその心の奥まで繋がる。

 

 “アシストフリーズ”

 

 指先から放たれた光が、カイオーガ……の真下の海面へと落ち。

 ぴきぴき、と音を立てながらカイオーガの周囲の海面を完全に凍らせる。

 

「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 だがその程度でどうにかなるような相手ではない。

 それは分かっている。

 だからこそ、次の手を打つ。

 

「イナズマァァァァァ!!!」

 

 “そうでん”

 

 入れ替えられたボールから出てきたイナズマはすでにその全身に弾け爆ぜんばかりの電気をため込み。

 その指先を真っすぐカイオーガへと向ける。

 

「ググウウウウウオオオオオオオオオ!」

 

 カイオーガが動かんとするが、全身に張り付く氷に僅かにだが動作が遅れる。

 その僅かの間に、すでにイナズマの指先に光が収束しきっており。

 

「落ちて」

 

 ぽつり、と呟いた一言をかき消すかのような爆音と共に、電光が放たれた。

 

 “レールガン”

 

 電光がカイオーガへと突き刺さり。

 

「『でんき』わざ効かないんだっけ?」

 

 ()()()()()()()()()()

 

「でもさ、海水使って電気流すにも、その海水凍ってるよ?」

 

 カイオーガが悲鳴を上げ、もがき苦しむ。

 

「それとさ、一つだけ謝っとくね」

 

 それを契機にしたかのように、曇天の空を裂いて、一人の少女が現れる。

 

「シングルバトルって言ったけど」

 

 “らせんきどう”

 

 “むすぶきずな”

 

 “エース”

 

「ごめん、あれ嘘だから」

 

 “ガリョウテンセイ”

 

 

  * * *

 

 

 ごぼり、と。

 

 口から吐いた空気が泡となって海上へと昇っていく。

 水底を沈んでいく体は全身が重く、痛かった。

 

 ――――あはっ

 

 散々に攻撃を叩きつけられ、傷んだ体とは裏腹に。

 カイオーガの心中は随分と穏やかなものだった。

 

 ――――すごい

 

 言葉で表現しきれない歓喜が胸中を駆け巡っていた。

 

 ――――負けた?

 

 そんなことを思いつつ、けれどまだ底があることを誰よりもカイオーガ自身が知っている。

 だから、今から海上に上がってさらに戦うことは十分に可能だ。

 

 可能ではある、が。

 

 ――――どーしようかな。

 

 悩んでいた。以前ならば絶対にあり得ない行動である。

 

 

 

 そもそも、ポケモンが人類の隣人足り得る最大の理由は、ポケモンが人間に近い知性と人間と同レベルの感情を有するが故である。

 人と同じように、笑い、怒り、悲しみ、泣き、楽しみ、喜ぶ。

 そんな当たり前の情動を持ち、人と同じように考える。それが故に、ポケモンは人と同じ道を歩くことができる。

 伝説のポケモンともなれば、その知恵は人を遥かに凌駕し、蓄え続けてきた経験と知識は、その一片ですら人類には及びもつかない叡智だ。

 

 言うまでも無い事実だが、カイオーガは伝説と呼ばれるポケモンである。

 並みのポケモンを遥かに凌駕した力と知恵を持ち、悠久の時を生きることのできる、半ば生物すらも逸脱しかけた存在だ。

 

 だがそれでも。

 

 伝説のポケモンなのだ。

 

 伝説の、()()()()なのだ。

 

 人と同じように心があり、考え、悩み、喜び、楽しみ、泣いて、笑って、怒って、悲しむ。

 

 けれどそれを知っている者などそれまでいなかった。

 何せ、周囲から見れば、伝説に語れるほどの圧倒的な力を持った怪物である。

 一度暴れだせば誰にも止めることのできない、絶対強者。

 故に、それが自分たちと同じだなんて、考えすらもしなかった。

 

 カイオーガ自身、固有の存在であるが故に、自分と同じような存在がいるとは思いもしなかった。

 

 だから、だろうか。

 

 カイオーガがグラードンに固執するのは。

 嫌っている、ように見えてその実、繋がりを求めている。

 決定的に相容れることの無い存在であることを互いに分かってはいるが、けれど互いが唯一無二の存在であるが故に、最も互いを分かりあっている。

 

 けれど、分かりあっているからこそ、相容れないことも十二分に理解している。

 

 そう、だから、カイオーガにとって初めてだったのだ。

 

 ハルトという少年が、初めてだったのだ。

 

 恐れもせず、ただ対等に接してくれたのは。

 

 自分という存在を理解しようとしてくれたのは。

 

 接し、理解し、そして自らの輪に加えてくれたのは。

 

 先ほども言ったが、伝説のポケモンと言えど、結局ポケモンなのだ。

 しかも、心の底では僅かながらに自身を打ち破った少年を認めているのだ。

 

 その存在に触れ、その輪の中に加わり。

 

 カイオーガは初めて『友人』『仲間』『家族』という概念を理解した。

 

 きっと少年と少年に付き従う少女たちの関係性を表すならば、そのどれもが正しいのだろう。

 同時に、自らもまたその輪に加わろうとしている、というのも事実だった。

 

 そうして、初めて()()()の経験を経て、カイオーガの中に『寂しい』という感情が生まれたのも、必然だったのかもしれない。

 否、カイオーガだけでなく、きっとグラードンだって同じだ。

 

 自分とそれ以外、自身たちの世界はそれで完結していた。

 

 グラードンと出会うことで、自身と天敵、それ以外に世界が分裂した。

 

 だが、今はもう……そんな風に括ることはできなくなっていた。

 

 とは言え、少年に言った通り、まだ自身たちは完全に彼らの仲間、というわけではない。

 単純な矜持の問題だが、それでもそこを曲げることはできなかった。

 そして、彼らに負けるまで、彼らの輪から一歩引いた位置に立っていることを寂しく思ってしまうことも、また言い逃れできない事実であり。

 

 

 結局のところ。

 

 

 ――――寂しい、って思わされた時点で、アタシの負けだね。

 

 

 (ハルト)の輝きに魅せられ、惚れこんでしまった時点で、カイオーガの負けなのだ。

 

 




伝説のポケモンとはつまり。

伝説の『ポケモン』である。

ならば、彼、彼女たちだって、人類の隣人に違い無いのだ。










更新ペース上げるとか言って、一週間近く更新さぼってグラブルしてた屑がいるらしい(どこだろうな

ところで妖怪と大口論した結果三点リーダーの数大きく減らしてみたけど、こっちのほうが良いかな?
俺は、会話とかを実際に口に出して間を取ってるから三点リーダーの数で拍子作ってたけど、小説なんだから読みやすいほうがいいだろと言われてみればまあ確かにその通りでもあるよな、と思って思い切って減らしてみたけど、思ったほど違和感無いし、今後これで行こうかなとか思ってる。

あとは――――これとかもだが。

――これか。

―――これか。

――――これか。

どれがいいのかな、と検討中。
妖怪は三個にしてるとか言ってたけど、個人的には四個なんだよなあ。

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