西住ちゃん声いいな、あの声で「パンツァーフォー」って台詞すごい癒しを感じる。
りゅうせいぐん、という技がある。
『ドラゴン』タイプ最強の特殊技であり、同時に『ドラゴン』タイプのポケモンしか覚えることのできない、取得のためにタイプの制限のある珍しい技でもある。
実はこの技、使い方が二種類あって、一つは『ドラゴン』ポケモンのエネルギーを圧縮し、空へと放つことでエネルギー塊を降らせる物。
そしてもう一つが『流星群』の名の通り、文字通り空から隕石を降り注がせる物、だ。
巨大隕石って『りゅうせいぐん』の弾にしたら威力凄そうだよな、とか思いついたのは随分と前の話だ。
まだ昔、チャンピオン、どころか旅を始めるより前の五年間の話。
まだグラードンやカイオーガ、そしてそこから始まるレックウザと隕石の話などまだまだ先だった頃。
伝説という脅威をまだ実感する以前の話、その頃からずっと考えていた未来に起きる事件に関する考察の一つだ、まあこれは考察というより妄想的思考遊びと言ったほうが正しいのかもしれないが。
けれど実際に落としたらホウエンが滅ぶし、欠片でも落ちれば都市に甚大な被害が出そうだよな、と考え、馬鹿な思考と一蹴したのだが。
あの時はまさか、こういう展開になるとは、思いもよらなかったし、この遊びのような思考が役に立つ日が来るとは思わなかった。
いや、こんな展開想像できたほうがおかしいのだろう。
改めて整理するが、現状は極めて詰んでいる。
まず第一に黒く染まったレックウザ。
暴れ狂い、理性も思考も失ったかのようなかの龍神はいずれホウエンを脅かす災厄となることは明白だろう。
そして第二に巨大隕石。
レックウザよりも先の脅威、いや、最早目前に迫った滅びの象徴だ。
そして問題は、巨大隕石をどうにかできる手段が最早レックウザしかない、ということ。
肝心のレックウザは現在進行形で目の前で暴れ回っており、手が付けられない状態だ。
何より、あの永久機関のように全身を発光させる回復能力がどうにもならなすぎる。
だからシキを使って回復機能を阻害している。
とは言えそれも長くは持たない。
純粋にレックウザとレジギガスでは同じ伝説種という格でも、力関係が明確に違う。
レジギガスはどうやら伝説相手の特効兵器として伝説種の理を殺すことができるらしいが、それだって永遠ではない。
そして何よりも。
自分たちはレックウザを
勿論だが、やりようはあったはずだ。
もっと早く行動を起こしていれば、と考えなかったわけでも無い。
とは言え、レックウザを倒す目算はあってもそれが確実とは言えないし、何よりレックウザを捕獲したとしてグラードンやカイオーガの例を見るに、こちらの言うことを聞くかも謎だし、何より捕獲するまでにどれだけの時間がかかるかもわかった物ではない。
唐突なタイムリミットのせいで、どうにも後手後手に回ってしまっていた。そのせいで、選べる手段が少なすぎる上にどれも博打染みている。
それでも、やらなければ世界の終わり、だ。
「時間はあと何分だ?」
タイムリミットは近い。そしてそのタイムリミットこそが最大のチャンスでもあり。
「ヒガナ、下は任せるぞ……」
伝承者をわざわざ連れ出したのはレックウザを呼び出すためだけではない、もう一つの役目も果たしてもらうため。
最早この状況で下のことを確認、というのもできない以上、後は任せるしかない。
荒れ狂うレックウザをグラードンが、カイオーガが、レジギガスが抑え込もうと戦う。
とはいえさすが、と言うべきか、伝説種三体を相手に一歩も引かずにレックウザが戦う。
タイプ相性の差が強すぎるのは否めない。
『ダーク』タイプとはそれだけで理不尽な存在だ。全てのタイプに強制的に抜群を取れ、全てのタイプを半減する。
強いて言うなら、無効化できない分、攻撃すればいつかは倒せる、ということでもあるが、そこに驚異的な再生能力が付与されてしまっているために手が付けられない。
唯一の欠点は、レックウザというポケモンの元の能力が
だがとりもなおさずそれはグラードンとカイオーガ、両者を相手に火力で一切引けを取らないということ。
最早時間は無い。
グラードンとカイオーガはあれでまだ余裕がある。レックウザには劣るが、それでも伝説種としての格は高い。
だから、持たないのはレジギガス。
レックウザの最大の能力である特性を封じているレジギガスが落ちる、ということは、再び空に暗雲が立ち込め、暴風が荒れ狂い、竜巻が生まれ、足場が崩れ、風の鎧を纏い始めるだろう。
そうなれば、レックウザに『防御』という概念が付与される。
最早、グラードンとカイオーガすらも抑え込める相手ではない。
時間が無い。
上を……空を見上げる。
普段見ている景色よりぐっと近づいた空は、けれど先を見通すことのできないほどに深く、蒼い。
下を……地を見下げる。
普段足元にあるはずの大地は随分と遠く離れてしまい、視線の先に動かない景色だけが残る。
「まだ……か?」
無意識に腰に付けたボールへと手が伸びる。
けれど指先でボールに触れても、何の反応も示さず。
「……まだか」
呟きの直後、どぉん、と爆音が響き、風が吹き荒ぶ。
反射的に視線を向けたその先で。
ザ……ザザ……ザ……ゴォ……
「シキッ!」
叫ぶ、同時にシキが動き出そうとして。
“だいこくてん”
空が黒く染まっていく。
風が吹きすさび。
キリュウオオオオオオオオオオオォォォォ!
“かざぎりのしんいき”
レックウザのための場が整えられていく。
「アルファ! オメガ! あと少しだけでいい、持ちこたえろ!」
レックウザを挟むように相対する二体に叫ぶ……が、風鳴がうるさ過ぎて聞こえているかは怪しい。
視線を下へと、足元に広がる地上へと向ける……だが渦巻く風が、竜巻となって徐々に視界を塞いでいく。
どうする、と頭の中で何度となく繰り返される思考に、けれど答えが出ない。
いや、明確なほどに答えは出ているのだ、ただ
グルォオオオオオ!
遠くでポケモンの咆哮が響く。
シキのサザンドラ辺りだろうか。最早竜巻のせいで目を開けていることすら難しくなっているが、向こうも向こうで応戦はしているらしい。
「っ……くっそ、風きつすぎだろ!」
体ごと持っていかれそうになるほどの強烈な暴風に、思わずしゃがみ込む。
けれど前から後ろからと吹きすさぶ風に、しゃがんでいることすら難しくなり。
「リップル」
ボールからリップルを出すと、リップルが覆いかぶさるようになって背中に抱き着いてくる。
別にふざけているわけでも遊んでいるわけでも無い。
覆いかぶさるリップルの重みで大分重心が安定する。ヒトガタポケモンは原種とは違い、見た目相応程度の体重しかないようだが、それでもパーティで一番サイズの大きいリップルの上背ならそれなりの重さになる。
そうしてようやく体勢を安定させながら痛いほどに吹きすさぶ風から目を守るために手で覆いながらも、ゆっくりと瞼を開き。
台風と呼んで差し支えないほどの強風の中で戦うアルファとオメガの姿を見やり。
まだか、と無意識に呟いた瞬間。
―――かたり、とベルトの一番手前に差したボールが揺れた。
「っ来た!」
思わず叫びながら立ち上がろう……として、リップルの重みで尻もちをつく。
一瞬、自分の行動に驚いたらしいリップルだったが、すぐにはっとなって空を見上げ。
「マスター」
「分かってる」
呟きと共に、アルファとオメガへと、最後の命令を走らせる。
―――離れろ!
と。
* * *
『流星の民』にとって。
龍神様という存在は絶対であり、同時に崇め、畏れ、奉る対象だった。
故に、それは容易には認めることができない話だった。
それを受け入れたのは、偏に伝承者の少女がそれを追認したからである。
伝承者ヒガナ。
先代伝承者からその全てを受け継いだ……受け継がざるを得なかった少女。
『流星の民』の小さな群れにあって、集落の全員は家族に等しい。
故にヒガナという少女もまた、彼らにとっては家族同然の存在だった。
だからこそ、当然ながら伝承者となった少女を、彼らは助けたいと思っていた。
伝承の時は近い、最早目前と言ってよいところまで迫ってきている。
それをどうにかするために少女は旅だった、集落に何を告げることも無く。
助けたかった。
皆が皆、同じことを思った。
助けてと言って欲しかった。
皆が皆、同じことを思った。
その少女が、初めて助けを請うた。
だから、それが本当に必要だと言うのならば。
例え相手が龍神様であろうと、受け入れたのだ。
そもそもこれは別に龍神様を害することではない、むしろ逆。
理性を失った龍神様を正気に戻すことにも繋がるのだから。
そこまで言われれば最早彼らに断るという選択肢など無い。
そうして彼ら一族がレックウザの到来と共に、住処である『りゅうせいのたき』を出て、『そらのはしら』へと集った。
そもそも『流星の民』は『りゅうせいのたき』で生きる一族であり、血に潜む力か、はたまた生まれた地が所以か、生まれながらにして誰もが『ドラゴン』ポケモンに対しての高い親和性を持っている。
簡単に言えば、『ドラゴン』ポケモンと心を通わせやすいのだ。
この辺り、カントーの元チャンピオンなども同じような一族の出身だと聞いたことがあると、ヒガナなら言っただろう。
つまり、一族の全員が全員、『ドラゴン』ポケモンを所有しており、その練度はホウエンでも有数のものである。
現ホウエンチャンピオンの言によれば、今現在ホウエンへと降り注がんとする巨大隕石を
当然だ、本当にポケモン単独でそんなことができるのならばとっくに世界など滅んでいる。
なら簡単だ、一体で足りないなら、二体、二体で足りないなら三体。
力を合算していけば良い。本来どれだけポケモンが力を併せようとそんなもの不可能に決まっているのかもしれないが。
今現在自分たちへと向かって降り注ぎ、至近まで近づいている隕石の軌道を変えるくらいのことならば、一族の力を束ねればきっとできる。
だからそれは奇跡ではない。
奇跡なんて、命懸けで戦う彼らに失礼な話だし。
偶然なんて、安っぽ過ぎてそんな表現じゃ言い表せない。
そもそもどうして巨大隕石は昨日突如観測されたのか。
本来もっと遠くまで観測できるはずの宇宙センターが襲来前日になってようやく観測する?
なんだそのあり得ない話は、しかも事前に来る、と話を聞いていたにも関わらず、懸命とは言えないまでも毎日観測を続けておきながら、それでも前日にようやく発見?
そんな馬鹿な話があるはずない。
じゃあ何故そんな馬鹿げた話が起こりうるのか。
―――本来この世界に隕石は落ちない。
その事実は管理者の一人である少女すらも知らない事実だ。
なるほど、ゲームのストーリーをここまでなぞってきたかもしれない。それを考えればどうして最後だけ、と思うかもしれない。
だがそもそもの話、ここは現実だ。
そしてこの世界にはこの世界を管理する
わざわざ世界を滅ぼす要因となる芽などカミサマが見逃すはずも無い、当然そんなものは早々に切り取られる。
じゃあ、どうしてこの世界に隕石は落ちるのか。
簡単だ。
だから本来あり得ざる巨大な隕石が、突如として現れた。
一体誰だ、何のために?
簡単だ。
いるではないか、狂気に染められ、何もかも滅ぼそうとする存在が。
そして星を破壊し尽くすほどの力を持った存在が……ちょうど、空に。
りゅうせいぐん、という技がある。
『ドラゴン』タイプ最強の特殊技であり、同時に『ドラゴン』タイプのポケモンしか覚えることのできない、取得のためにタイプの制限のある珍しい技でもある。
『流星群』の名の通り、文字通り空から隕石を降り注がせる物、だ。
つまるところ。
破滅の祈りに彩られ、狂気を宿した空に座す黒き龍の咆哮は、世界に破滅をもたらした。
全てはそこに起因するのだ。
だからこそ、それは奇跡じゃない。
トクサネシティ上空にて、シキのレジギガスがレックウザへと叩き込んだ拳でレックウザが失くしたものが二つ。
一つは纏う風の鎧。だがこれはすでに修復されている。
そしてもう一つ。
地べたに叩きつけられ、
だからこそ、
『流星の民』たちが出した数多くの竜たちが咆哮を上げ。
―――ついに、ホウエンの空を切り裂き、ソレが降り注いだ。
多分あと二話でレックウザ戦終了。
因みにデオキシス戦はありません……いや、だってもうここまで戦力揃えると今更準伝説とか勝負にならないしね(