前略…………俺たちに平和なんて無かった。
「…………悲しい事実だなあ」
「またピンポイントで引き当てた、って感じはあるわね」
ポケモンセンターに預けてすっかり回復したエアに運ばれながら、ミシロタウンへと戻る。
また遅く戻ってきた俺たちを心配してシアたちが待っていたが、チークとイナズマの発見を伝えると大層驚く。
「吸い込まれるように探し当てますね、マスター」
「ご主人様…………運が良いのか悪いのかボクには分からないよ」
驚いているような、呆れたような声でそう告げて。
結局全員でいしのどうくつに翌日やってきた。
「…………まあ、来ないって選択肢はねえよな」
「そりゃあ…………ねえ?」
「ここに仲間がいるなら、来るしかありませんし」
「は、早く行こうよ」
洞窟内に足を踏み入れると、相も変らずじとり、とした湿った空気と薄暗い、陰気な雰囲気が漂っている。
「は、はう…………」
そしてその空気を敏感に察して、シャルが怯える。
「って早いよ、まだ地上部分なんだけど」
「だ、だってぇ」
「はあ…………もう、シア」
「はいはい…………シャル、手を繋いでましょうね」
「しあー」
涙目でシアに手を取られながら歩くシャルの姿に…………なんだこの緊張感の無いパーティ、なんて考えながら。
「そのパーティの中心がアンタだけどね」
「…………心を読むなよ」
「アンタが分かりやすいだけよ」
少し呆れたような目でエアが呟きながら、周囲の警戒を忘れないままに昨日降りた地下一階部分まで進んでいく。
「…………さて、この辺からもうすでにあいつらのテリトリーだと考えたほうがいいわね」
一歩、前に進み出たエアが足を止めて、振り向きそう告げる。
「…………それで、マスター? 何か作戦はある?」
相変わらず偉そうに腕を組みながら訪ねるエアに。
「
端的にそう告げる。
「…………
面白そうに、けれど獰猛に、エアが口元を釣り上げ。
「なら、ご期待ね」
そう呟いた。
* * *
やることは簡単だ。
相手は二人、こちらは三人。
故に、これをシングルバトルと、ダブルバトルに分ける。
シア対チーク、そしてエア&シャル対イナズマ。
チークはマヒさせることが本領ではあるが、そもそもみがわりを使えば状態異常は無効化できる。
あとはあまえるなどの攻撃低下もあるが、シアは特殊アタッカー故に関係が無い。そして物理受け寄りのシアのみがわりならば、チークの攻撃で早々に破壊されることも無い。
先にみがわりを張っておく必要があるので、接敵のタイミングを間違えると厳しいが、この組み合わせならば無効化…………最悪でも泥仕合に持ち込むことができる。
そして肝心のイナズマだが。
イナズマの役割は、
どう足掻いてもデンリュウの種族値ではすばやさで先制を取るのは厳しい。
だからまずコットンガードで防御を固める。一度で防御力+150%のチート技だ、これ一度でじしんを食らってもHP半分程度に抑えることができる。
そして持っているのはたべのこし。回復、これでもう一度耐えられる。ただし連発されれば死ぬのは分かり切っているので、次にエアに変えるなどして対応していたのだが、今回はイナズマ単体。
ただし、シアの時のように戦う前から積んでいる可能性を考えると、りゅうのまいを最大まで積んだエアのじしんすら普通に耐えてくる可能性が高い。そもそもローブシンを一撃で倒していたあたりで気づいていたが。
今までのやつらと違って、レベルが上がっている。
恐らくここまでにかけた時間の違い、だろうか。
最低でもレベル四十程度はあるだろう、下手すれば五十を超えるかもしれない。
同じ倍率で能力値をブーストすれば、元の能力値が高いほうが有利、そしてレベルが高いほうがステータスが高くなりやすいことなど自明の理だ。
だからエアのみで押し切るには足りないだろう。
だからもう一人…………シャルがいるのだ。
イナズマの最大の問題点が一つ。
物理受けならコットンガードを使えば良い、だが特殊受けに使えるじゅうでんはとくぼうを一段階ずつしか上げてくれない。
否、一段階上げてくれる上に、次に出すでんきタイプ技の威力を上げるのだから、一挙両得と言った感じではあるのだが。
最初にコットンガード、そしてその後じゅうでんでとくぼうを高めながら、10まんボルト、じゅうでん、10まんボルト。敵がでんきに強ければ
それがイナズマの基本スタイル。
HPに極振り、ぼうぎょととくぼうにある程度調整しながら割り振ってある努力値を考えると。
この両方に一遍に攻められると、イナズマとて混乱するだろう。
さらにぼうぎょを上げるべきなのか、それともとくぼうを上げながら攻撃すべきか。
故に先手必勝。最初に一撃で大打撃を与え、そのまま積み上げられる前にカタをつける。
それが今回の作戦、とでも呼べる物。
チークとイナズマ、二人を合流させない。特にチークをアタッカーに近づけてはならない。
これが大前提の話だ。
あれにマヒさせられては、アタッカーがイナズマに上から殴られる。
エアはひこう・ドラゴン、10まんボルトが等倍できあいだまが半減。
シャルはほのお・ゴースト、10まんボルトが等倍できあいだまが無効。
恐らくイナズマもそれを知っているのだろう。
だからこそ、シアをあちらに割り振ったのだ。
こおりタイプにかくとう技のきあいだまは抜群で、シアは特殊受けにするにはやや特殊が弱い。一応努力値は振ってあるが、抜群技を受けれるほどの特殊は無い。種族値の数値だけ見ればアタッカーであるシャルと同じレベルなのだ。
イナズマにはみがわりを仕込んではいない。
仕込んでいればすりぬけ持ちのシャルがかなり活躍できたかもしれないが、最早そんなことを言っても仕方ない。
「さて…………まずは見つけるところからか」
そしてそれ以前に、昨日はこの辺りまでやってきていたが、今はどこにいるのか分からないのだ。
「…………あれだけ激しく光るだけに、光ってないと本気でどこにいるか分からないわね」
実際に目にしたエアがそう呟く。
全く持ってエアの言う通りだ、あの洞窟内を照らす眩いほどの光のインパクトが強すぎて、発光していないとどこにいるのか全く分からない。
だが一つ、推測程度だが予兆はあると思っている。
「チークだ」
自身の言葉に、三人がこちらを向く。
「チークを探せ、恐らく…………あの二人が結託しているならば、まずチークがこちらへと来るはずだ」
ゲーム時代には無かった、あっても恐らくフレーバー程度のものであっただろうが。
探索役として考えると、すばしっこく、体の小さいチークはかなり有用なのだろう。
デデンネと言う種族は特性の片方がものひろい、と言うくらいに好奇心が旺盛なのだろうし、何かを見つけるのは得意、とかそう言う現実ならではの特技があると考えれば、あの二人の役割は見事に分かれている。
チークが探し、先行して痺れさせ、後からやってきたイナズマが殴り、電撃で焼き殺す。
そうやって、いつからいたのかは分からないこのいしのどうくつで…………あのローブシンに恐れられるほどにまで
「シャル…………消せ」
「ふぇ? え、ええー…………ご、ご主人様ぁ」
暗いのが苦手なシャルに、先ほどから洞窟を照らしている火を消せ、と言うのは中々酷なことだとは思うが。
「悪いが我慢しろ…………今のままだと、一方的にチークに見つかる」
恐らくこの暗い洞窟で暮らしているのだ、夜目は効いているだろう。
だが、だからと言って、炎で辺りを照らしていては、こちらからは照らしている範囲外は黒一色で何も見えない。
例えチークがそこにいて、こちらを伺っていたとしても、それに気づくことすらできないだろう。
故に、こちらも少しは目を慣らしてやる必要がある。
完全に見える必要は無い。だが、暗闇の中で動く影を捉えられる程度には目を慣らさねばならない。
そんな自身の言葉に、シャルが不安そうにこちらを見つめ。
ぎゅ、とシアが握った手を強くする。
ぴくり、と一瞬震えたシャルだったが、怯えながらその手の中の炎を消していき。
「全員、声を落としていくぞ…………少し闇に眼を慣らせたら歩きだす」
告げ、そして。
「チチチ♪」
ぱちっ、と電気が弾ける。
「きゃあ!」
「し、しあ?!」
同時に、シアの悲鳴とシャルの声が響き。
「ぷおぉおぉぉぉぉ」
「不味い!?」
ぐぉん、と何かが空気を裂いて飛んで来る。
「ハルト!」
エアが咄嗟に、自身を引っ張る。
直後。
ズドドドドドドドドォォォォ、と天井に向かって放たれたきあいだまにより天井が一部崩れ落ちてくる。
そして。
ドサアァァァァァ、と大量の土砂が降り注いでくる。
「…………ぐ、マスター!」
「だ、大丈夫…………それより、エアは」
「こっちも問題無しよ…………ただ」
分かっている、と頷く。
「やられた…………完全にしてやられた」
崩れ落ちた天井の岩盤と土砂が背後の道にうず高く降り積もり、登るのにも苦労しそうな小山ができている。
どかすことは…………無理ではなさそうだが。
「ぷおぉおぉぉぉぉ」
目の前のイナズマがそれを許してくれそうにない。
そして。
「ちちちち」
身軽に、そして足早に小山を上り、チークがこちらへとやってくる。
「嘘だろ…………ここまで読んでたのかよ」
「どうするのマスター? 割と絶体絶命よ?」
「分かってる…………だから、もうこうするしかねえだろ」
後ろの小山に向かって走る。
「ちち?」
チークがその行動に首を傾げ。
けれど今のチークならばいけるはずだ、と予測する。
そして。
「ちちっ♪」
「エア! 積まれ切る前に落とせ!」
まず絶対条件は一つ。
チークとエアと接触させないこと。
エアをマヒさせられたら、イナズマに上から殴られ続ける上に、痺れて体が上手く動かなくなる。
そうなれば、じしんを連発しようと、コットンガードを完全に積み切られて。
たべのこしで回復しきれる範囲に収められたら最早一方的に嬲られるだけだ。
故にここで必要なことは。
そして一つ思い出して欲しい。
チークは…………この少女は自身の手持ちだったはずのポケモンであり。
故に。
「ちち」
ほっぺすりすり、電撃を纏ったままこちらへと擦り寄ってきて。
触れる。
電撃が全身を焼こうとする。
ポケモンにとっては大した威力でなくとも。
人間には十分過ぎるほどの威力の攻撃だ。
まして、受け止めるのが五歳児ならば。
まあ…………。
電気が流れたのならば、だが。
「…………こ、怖かった」
正直、今にも腰が抜けそうだ。身一つでポケモンと相対するのがこれほど恐ろしいとは思わなかった、ましてチークは火力などほぼ無いに等しいはずのポケモンであると自身で知っているのに。
やっぱり人間とポケモンは違うのだと、そんなことを改めて認識しながら。
「ゴム製の雨合羽…………あって良かったあ」
実は洞窟に来た時から羽織っていた雨合羽が寸前で自身の命を助けてくれた。
ゴムは絶縁体だ。さすがにイナズマの電流を食らえばそもそもゴムが焼ききれるだろうが、恐らくはチークの攻撃ならば大丈夫だとは思っていた、それでも、全身に電気を纏った少女が自身に向かってくるのだ、恐ろしくないはずがない。
そして。
「チーク…………捕まえた」
少女の片腕を取り、ボールを押し当て。
「…………あ…………トレーナー?」
きょとん、と不思議そうな…………けれど確かに理性のある瞳を取り戻した少女が、ボールの中へと消えていく。
そして、震える体で振り向き。
「ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
じ し ん !!
じ し ん !!
じ し ん !!
単純な種族値だけでも倍以上。そこに努力値まで振られた分だけ、エアの行動の方が速い。
イナズマが動こうとした一手で、三度、じしんを繰り返し。
「…………ぷ…………おぅ…………」
そうして、イナズマが倒れた。
「…………はぁ…………はぁ…………はぁ…………マスター…………捕まえなくて、良いの?」
「あ…………うん」
ぴくりとも動かないイナズマに震える足で近づき。
その背にボールを押し当て。
「イナズマ、捕まえた」
こうして、戦いは終息を迎えた。
勝因:デンリュウさんまさかのコットンガード積み忘れ、あとはすばやさの差。お前が、死ぬまで、じしんを、止めない!
余裕そう? 実はそうでもない。次の話で少しその辺りの話しようかと思うが、実はけっこう紙一重。と言うか、状況に救われた感じ。
BP稼ぎに、ゲンガーとガブリアス厳選するので、本日は一話のみ(すでにガルは持ってる)。
明日も多分一話か二話だけ書いて、後はひたすら厳選作業。
因みにスーパーシングル最大24連勝くらいの雑魚トレーナー。
因みにその時の構成は、ボーマンダ、デンリュウ、チルタリス。
一番役に立ったのはチルタリス。一番敵を倒したのはボーマンダ。
ただ、こおりタイプ使いと当たって相性差で普通に負けた。
ガルガブゲンで50勝目指して頑張る。実はまだBP交換のアイテム3,4個くらいしか持ってない。