ポケットモンスタードールズ   作:水代

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チャンピオンマッチVSレッド②

 

 

「ルウオオオオオオオオオオオオ!」

 

 ボールから飛び出したエアが吼える。

 咆哮が空気を震わせ、場を一瞬にして支配する。

 だが同時にレッドにもそれは伝わる。

 あのダイゴのメガメタグロスをも降した強者の気配に、レッドの視線はすっと引き締まり。

 

「リザードン」

 

 投げたボールから、炎を纏った竜が現れる。

「ギャオォォォ!」

 リザードンが咆哮を上げ、眼前のエアを睨みつける。

 恐らくだが……エアが『ドラゴン』タイプだというのはもう理解されているだろう。

 『ドラゴン』タイプというのはその場にいるだけで感じるような強烈な威圧感のようなものを発している。簡単に言うとデフォルトで傲慢な気質が見え隠れする。

 それはリップルですら見えづらいだけで確かにあるものであり、だからこそエアのような典型的な竜は見ただけでそうだと理解される。

 ヒトガタと言っても別に元のポケモンの性質を失うわけではないのだ。

 

 だからこそ、一手目は分かる。

 

「戻れエア」

「っ?!」

 

 ボールの中にエアを戻す、初めてレッドの表情に驚愕の二文字が見えた。

 リザードンが指示を受けて動き出す、最早その動きは止められない。

 

「チーク」

「シシ……アチキの出番きたさネ」

 

 投げたボールからチークが飛び出し。

 

 “ドラゴンクロー”

 

「……っ」

 リザードンの放った爪の一撃を受け止める。

 『フェアリー』タイプを持つチークにそれは通じない。

 それを向こうも理解しただろうが。

 

「シシ……それじゃ、お仕事さネ」

 

 “ほっぺすりすり”

 

「リザードン!」

 

 “だいもんじ”

 

 ほんのタッチの差でチークのほうが先に技を決める。

 電撃をリザードンの全身を駆け巡り、その動きを鈍らせる。

 僅かに呻くリザードンだったが、お返しとばかりにその口腔から炎が噴き出す。

 

「あちちちち」

 

 だが倒れない。大ダメージはあったようだが、それでも倒れはしない。

 悲鳴を上げながら即座に持っていた『オボンのみ』を口に含み、飲み込む。

 

「はーふ……っと、これもついでにポイしとくヨ」

 

 “ぬすいみぐい”

 

 告げつつ、いつの間にか持っていた透明な珠を投げ捨てる。

 『いのちのたま』……だろうか、恐らくリザードンに持たせておいたのだろう。

 正直、先に攻撃を当てて無かったら『いのちのたま』分でチークが落ちていた可能性もあったので一先ずセーフ、と言ったところか。

 

 だからこそ、次は。

 

「ピカチュウ!」

「チーク!」

 

 レッドがリザードンを戻す……そうして次に出てくるのは、やはりピカチュウ。

 

「ピーカー!」

「シシ……同じマスコット同士、負けないヨ?」

 

 “しっぷうじんらい”

 

 “ゆうき”

 

 “10まんボルト”

 

 ピカチュウの放った電撃がチークへ襲いかかる。バトルの最初に放ってきたものよりも幾分か威力の強まったそれだったが、けれどタイプ相性で半減されている上、受けポケモンとしてHP(タフさ)の上がったチークならば十分受けきれる範囲だ。

 

 それと同時に一つ大きな確信を感じ取り。

 

「それジャ、おさらばサ」

 

 “ボルトチェンジ”

 

 ピカチュウを蹴り飛ばしながらチークがボールへと戻り、ピカチュウもまた全身から紫電を迸らせならレッドの元へと戻っていく。

 そうして互いが次に出すのは。

 

「エア!」

「リザードン!」

 

 先ほどの対面に戻る、ただし一つ違うのはリザードンが麻痺している点。

 さらに持ち物も失って火力を落としてしまっている点。

 対してエアはまだ傷一つ無い。意気軒高であり、いつでも準備は万全だと拳を握っている。

 そして、だからこそ。

 

「エア!」

「戻れ……ピカチュウ!」

 

 自分の指示にエアが飛びあがる。

 同時にレッドがリザードンを戻し、ピカチュウを出す。

 

「行け! ピカチュウ!」

「ピィィカァァァッァ!」

 

 “ほんき”

 

 “やるき”

 

 “ゆうき”

 

 “ボルテッカー”

 

 全身に電撃を纏ったピカチュウが地面を蹴り、虚空へとその身を猛スピードの弾丸と化して乗り出す。

 

「いい加減……」

 

 エアが空中を蹴り上げその身を後退させる。

 それを追うようにピカチュウがエアへと迫り。

 

「読めてるのよ!」

 

 ピカチュウの一撃をエアが受け止める。

 電撃がエアの身を焼くが、僅かに顔をしかめるだけで済ませ。

 

「落ちろっ!」

 

 “じしん”

 

 ピカチュウを掴んだまま急降下し、大地へと叩きつける。

 速度と勢いが威力となり、威力が大地を鳴動させる。

 

「ピカチュウ!」

 

 レッドの叫びに、ピカチュウが声を挙げようとして。

 

「煩い、黙れ」

 

 “じしん”

 

 床に縫い留められたピカチュウへと拳が振り下ろされる。

「ぴい……カアアアアア!」

 

 “ゆうき”

 

 “10まんボルト”

 

 放たれた電撃がエアを焼く。表情を歪めているその姿にかなりの苦痛であることは間違いなかったが、けれど今ここでピカチュウを逃せばそれも無意味となり果てる。

 故に、耐えて、技を繰り出す。

 

 『でんき』タイプの弱点である『じめん』技の中でも最強の威力を誇る技を、しかもボーマンダ種の『こうげき』から二度も受ける。

 当然ながらピカチュウという弱小種族が耐えられるはずがない……はずがない、のだが。

 

 “がまん”

 

「ぴい……かあ……!」

「なっ……しま……」

 技を繰り出した直後の一瞬の硬直を突いて、ピカチュウがエアの拘束を抜け出す。

 

 “しっぷうじんらい”

 

 そうしてボールの中へと戻っていったピカチュウに姿を、エアが悔しそうに見つめ。

「エア!」

「……? っ!」

 指示を出す、こくりと頷き。

 

 “かりゅうのまい”

 

 その全身に炎を纏う。

 轟々と燃え盛る炎をレッドが見つめ。

 

「っ……カメックス!」

 

 その額に一筋、汗が流れる。

 ようやく追い詰められた顔をしてきた。

 

「ガァァァァァ!」

 

 カメックスが両肩の砲から水を噴き出しながら場に現れる。

 その両の砲がエアを向き。

 

「エア!」

 

 その全身が光に包まれる。

 

 

 ゲンシカイキ

 

 

 その姿が元の……竜の姿へと戻り、さらに巨大化していく。

 翼は鋭利になり、爪も牙もさらに伸びる。

 線型がすっと細まり、やや長細いような印象を覚える。

 飛ぶためでなく、風を切り裂くように真横に翼を広げながら、その四肢でゲンシボーマンダが大地を踏みしめる。

 

「ルウウゥゥゥゥォォォオオオオオ!!!」

 

 エアの咆哮に、カメックスが、そしてレッドが一瞬怯み。

 

 どん、と。

 

 エアが飛び出す。

 

「カメックス!」

「エアァァァ!」

 

 “ハイドロポンプ”

 

 その両の砲から放たれるは巨大な水流の砲弾。

 凄まじい勢いでそれが飛来してき。

 

 ()()()()()()()()()

 

「っ!」

「ガァァ!?」

 

 想定を超えたエアの速度、それは先ほどまでの比ではない。

 ゲンシボーマンダの速度は、メガボーマンダをも凌駕する。

 そうしてカメックスの目前へとたどり着いたエアがその両手を振り上げ。

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 振り下ろされた両の手がカメックスを軽々と吹き飛ばす。

 

 “きあい”

 

「ガァァアァ!」

 吹き飛ばされたカメックスが、それでも何とか耐える。

 耐えたところで、無意味なのだが。

 

 “ドラゴンズハント”

 

 吹き飛ばされたカメックスがそのままレッドの元へと押し戻されようとして。

 

 “りったいきどう”

 

 押し戻した本人であるエアが床を、壁を天井を蹴りながら一足飛びにカメックスへと追いつき。

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 二度目の爪牙がカメックスを襲う。

「ガ……ァ……」

 レッドの後方へと吹き飛ばされたカメックスだったが……今度こそ、動かなくなる。

「っ……エーフィ!」

 さしものレッドもエアのやばさは十二分に理解したらしく、焦りの表情で次のボールを出し。

 

「戻れ……っ!?」

 

 “しっそうもうつい”

 

 交代と同時にピカチュウを出そうと企んだのかもしれないが。

 

「もう無意味だよ、それは」

 

 ボールの光がエーフィに届くよりも早く、交代の気配を嗅ぎ付けたエアがエーフィの目前まで迫り。

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 振り下ろされた爪牙がエーフィをあっさりと仕留める。

 『ひんし』となり、気絶したエーフィをレッドが無言で見つめ。

 

「……ピカチュウ!」

 

 悔し気に歯を食いしばりながら、場にピカチュウを出す。

 そうして。

 

「……エア」

 

 ぽつり、と呟いた声はけれど確かにエアへと届き。

 

「ルォォ……」

 

 エアが短く唸る。まるで頷くかのように。

 

 “きずなへんげ”

 

 エアの全身が光に包まれる。

 先ほども見たばかりの二度目の光景にレッドが警戒を露わにし。

 

 石が無くともメガシンカするための“きずなへんげ”

 そして石を使って変化する“ゲンシカイキ”

 

 この二つを併せたのだ。

 

 

 オメガシンカ

 

 

「ルゥゥ―――」

 

 短く、人の姿を取り戻したエアが唸り。

 

 

 「―――ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 世界を震わせんほどの絶叫が場に響き渡り。

「ピカチュウ……」

「ピイ……カア……」

 レッドとピカチュウの警戒が最大限まで高まっていく。

 じりじり、と互いを見つめ合うエアとピカチュウだったが。

 

「エア!」

「ピカチュウ!」

 

 まるで最初から決めていたかのように同時に互いが動き出す。

 

 “ほんき”

 

 “やるき”

 

 “ゆうき”

 

 “ボルテッカー”

 

 最速で放たれた強烈な電撃を纏った一撃がエアを貫く。

 今日最強の一撃にさしものエアも、ぐらり、とふらつき。

 

 ()()()()()()()()

 

「ルウウウウウウウアアアアアアアアアアア!」

 

 飛び上がり、浮かび上がり、見下ろし、そうして。

 

 

 “シューティングスター”

 

 

 放たれた流星がごとき一撃がピカチュウを確実に撃ち抜く。

「ピィ……カァァ!」

 

 “きあい”

 

 吹き飛ばされ、一瞬で後方の壁にまで叩きつけられ。

 それでも尚、ピカチュウが動こうとして。

 

「結ばれし糸へ、集え」

 

 ふらつく体を起こしながら、指をピカチュウへと向け。

 

「“きずなぼし”」

 

 “きずなぼし”

 

 呟きと共に、降り注いだ一条の流星がピカチュウを撃ちぬいた。

 

「ピィ……カァ……」

 

 気合だけで持たせていたところに降ったトドメの一撃に、さしものピカチュウも倒れ。

 

「……お疲れ、ピカチュウ」

 

 呟きと共にレッドがピカチュウをボールへと戻す。

 そうして、残ったのは。

 

「最後まで頑張ろう……リザードン!」

 

 今日最も強く放たれたレッドの言葉に。

 

「ギュアァァァァ!」

 

 応えるかのようにリザードンが咆哮し。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「はっ?!」

「えっ?!」

「っ!?」

 

 自分たち……どころか、レッドすらも目を見開き驚きに見入ったその光景。

 まさか、と思う間にも光に包まれたリザードンがどんどん姿を変えていき。

 

「グルゥ……ギュアアアアアアオオオオオオオオオ!!!」

 

 ()()()()()()()が光を破り、現れ、咆哮を上げた。

 

「進化……した? メガストーンもキーストーンも無く?」

「……ちょっと、この何言ってるか分からない、わね」

 

 このこちら四体の相手一体、しかも『マヒ』状態。

 この状況でメガシンカ? 否、戻る気配も無いあれは『メガ進化』と自分が名付けた常時メガ個体化のそれだろう。

 

「嘘だろおまっ……」

「言ってる、場合じゃ、無いでしょ」

 

 オメガシンカが解除され、時間経過によるゲンシカイキも解除され、メガボーマンダとなったエアの呟きに、そうだ、と考え直し。

 

「黒ってことは両刀型……となれば、エア!」

「りょう、かい!」

 

 “じしん”

 

 拳を地面へと叩きつける。と同時に足元で発生した巨大な振動がリザードンへと迫る。

「リザードン」

「グギャアアアアアアア!」

 どん、とリザードンが足元を蹴り上げ空中を滑空するように近づき。

 

 “かたいツメ”

 

 “ドラゴンクロー”

 

 放たれた一撃がエアを切り裂き、吹き飛ばす。

 

「く……そ……まだ、まだ!」

 

 それでも耐える。最早瀕死直前のダメージであっても、それでも耐える。

 エースとしての誇りが膝を着くことを許さない。

 

 だから。

 

「戻ってエア……一旦休め」

 

 トレーナーが決断する。最早この試合中にエアを出すことは無理だと。

 これ以上無理をさせるわけにはいかない。ただでさえオメガシンカは負担が大きいのだから。

 だがエアを抜けばあれをどうにかできる相手、というのが難しくなる。

 黒いほうのリザードン……メガリザードンⅩは『ひこう』タイプが抜けて『ドラゴン』タイプへと変わるためデンリュウの一貫性すらなくなってしまった。

 と、なれば……。

 

「イナズマ、頼む」

「分かりました……確かにちょっとあれはやばい、ですね」

 

 文字通りの気炎を吐くリザードンを見て、イナズマが表情を歪める。

 そうして。

 

「リザードン!」

「イナズマ!」

 

 “わたはじき”

 

 “だいもんじ”

 

 進化したてで変化した自らの性能に振り回されている分だけリザードンの出が遅い。

 イナズマの全身から発せられた綿が弾かれ。

 リザードンの炎がその全てを燃やし尽くす。

 

「うぐ……後……お願い、します、ね」

 

 倒れ伏すイナズマをボールへと戻し。

 

「お前で最後だ、シア」

「はい、お任せください、マスター」

 

 シアが場に降り立つ。

 

 “ゆきのじょおう”

 

 シアが登場すると同時に空から『あられ』が降り注ぎ始める。

「…………」

 一瞬空を見上げ、けれどレッドが再びシアへと視線を向けて。

 

「行け」

「撃て」

 

 指示は一瞬。

 同時に動き出し。

 

 “ほんき”

 

 “ゆうき”

 

 “やるき”

 

 “かたいツメ”

 

 “フレアドライブ”

 

 リザードンの持てる最大火力が最速でシアに叩き込まれる。

 炎に飲まれ、叩きつけられたシアが大地を二転、三転し。

 

 “こおりのかべ”

 

 それでも耐える。

 直前に張られた氷の障壁がダメージを大きく軽減し。

 

 “アシストフリーズ”

 

 放たれれる束ねられた冷気の光がリザードンを一瞬にして凍り付かせ。

 

 “きあい”

 

 それでも耐える。

 耐えて、その全身の熱で一瞬で『こおり』状態を脱し。

 

 “フレアドライブ”

 

 二度目の灼熱がシアを襲う。

 さしものシアもそれには耐えれず。

 

 “さいごのいって”

 

 それでも止まらない。

 例えこれで倒れようと。

 自らが主の命だけは必ず遂げる。

 その矜持を持ってして、最後の一撃を放つ。

 

 “アシストフリーズ”

 

 能力ランクが高いほど威力の上昇するその技は、イナズマが二度張った“わたはじき”と“つながるきずな”を持って威力の跳ね上がった一撃であり。

 

「ふふ……チークみたいに言うなら」

 

 ―――お仕事、完了です。

 

「グ……ギャア……オォ……」

 

 リザードンが倒れ伏す。

 同時にシアもまた動かなくなり。

 

 2-0

 

 それが決着となった。

 

 

 




運命に愛され過ぎなレッドさん。
残り一体リザードン出た時に「あ、これ進化とかしそうなタイミングだよな……あ、そうだ、リザードン進化させよう」って思いついて書いてみたら。
「あれ? 主人公誰だっけ?」となった秘密。

因みにエアちゃんは実質的には瀕死です。3-0じゃない。
チークとイナズマだけ残ってる。どっちもHP残り10%の赤ラインなので本当にギリギリだけどな。




因みに感想で叫ばれてたけど、レッドさんは伝説に勝てません。
異能無効にしただけで勝てるほど甘くない、というか『レベル差』が酷いからね。
伝説種の強さは『理不尽なほどの異能』と『上限突破した圧倒的なレベル』の二つだから、片方無効化しても意味が無い。
つまりハルトくんみたいにレッドさんも伝説種片手に伝説を相手どればハルトくんの十倍くらいは楽に勝てるってことだがな。

まあレッドさんの伝説に関する運命力はカントーにしか発揮されないので、他所の伝説と巡り合う機会はほぼ無いわけだが。





ところで、これでレッドさん戦終わったんだけど。
もう一戦だけ書きます。
これも前から書きたかったやつ、この間聞いたら普通に許可もらったので、やる。

他作者様の作品とクロスするよ! やったねハルちゃん、お友達が増えるよ!

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