ポケットモンスタードールズ   作:水代

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byハルト


冷静に考えたら負けだと思ってる

 実機でも各地方ごとにポケモン博士、というのがいる。 

 全員が主人公に通称御三家と呼ばれる『ほのお』『みず』『くさ』タイプのポケモンを与えてくれる。まあ一部御三家でないこともあるがこれは例外として。

 博士というのは地球に良く似た物で学会に研究の論文を発表し、その成果を認められることで『博士号』を与えられた人間が名乗ることのできる称号である。

 

 これの取得に関しては別に新発見をした、とかそういう明確な成果が必要なわけではない。

 というかそれができるならすでに博士である。

 簡単に言えば今自分がどんなことを研究しようとしているのか、どういうアプローチを取ろうとしているのか、それによってどんなことが分かると予想されるか、というのが分かれば良い。

 とある博士曰く、学徒というのは知的好奇心と探求心の奴隷なので例え有用性が認められなくとも、そこに未知があるのならば割とすんなり認可されるらしい。

 

 因みに博士号自体は割と取ることは容易く、それなり以上の人数が取得しているのだが、実際に博士を名乗っている人間は少ない。

 

 何せ知識は知識であって金にならない。

 

 なのに研究というのは金食い虫だ。

 

 研究所など作る必要性を考えれば初期費用からして相当な物になるし、維持費用、生活費、研究費、と上げていくとひたすらに金、金、金の世界である。

 

 オーキド博士ほどの研究者ならばいくらでもスポンサーが付くだろう。

 何せその名は世界中に知れ渡っており、オーキド博士のスポンサーになっている、ということ自体がすでに箔にもなる。

 オダマキ博士だって若いころにホウエン中を駆けずり回って細いながらもスポンサーを獲得し、ミシロを中心としたポケモンの生息域の調査、分布、生態系の記録などいくつもの功績を上げてようやくあの研究所を建てることのできるだけの活動資金を得たのだ。

 すでに研究所を建てた博士の助手にでもなるほうがよっぽど効率的で楽であり、わざわざ若い頃から苦労して研究所を建てて博士になろうなどという人間そうそう居ないのだ。

 

 因みに最近知ったが、現在のオダマキ研究所のスポンサーはデボンコーポレーションらしい。

 まああそこはホウエンの経済活動の大半に手を出しているし、金なら有り余っているだろうから納得ではある。

 そもそも博士の研究というのはフィールドワークが多く、必要以上に金がかからないので支援する側からしても大した負担にはならないのだろう。

 自然の多く残るホウエンにおいて、自然と調和しながら発展していくためにはオダマキ博士の研究は多いに役立つし、費用対効果を考えればむしろデボンコーポレーションのほうが得をしているかもしれない。

 

 自分の場合、金というのが割と有り余っている。

 

 何せチャンピオンである。

 だいたい一年その座に座っているだけで一生暮らしていける程度の金が入ってくる。

 このポケモンバトル全盛期において地方最強のネームバリューはそれだけのものがある。

 それが二年である。ぶっちゃけ稼いだ額で言うと父さんよりよっぽど上だったりする……これを知った父さんが軽く凹んでいた。

 トレーナー業はある一定以上のレベルから金銭がインフレしだす。

 そもそも道具類ですら数百万がぽんぽんと飛び交う世界だ。それだけの出費を出しながら生活していけるだけの収益が必要になる。つまり勝つことが必要になり、それができない人間は落ちていくし、できる人間はさらに上へ昇りつめ、さらに金が入ってくる。

 だいたいホウエンリーグの本選に出れるかどうかくらいのラインだろうか、あの辺りからトレーナー一人辺りの出費額が年間一千万を超えるようになってくる。収益に関しては勝敗が絡むため一概には言えないが、勝てるトレーナーで五千万以上。四天王クラスになると年間億単位だ。

 そしてチャンピオン……まあ詳しくは言わないが四天王よりも更に上なのは事実である。

 まあチャンピオンは正確には職業ではないのである意味出来高次第というのはあるのだが、それは余談としておく。

 

 ついでに言えばホウエンの伝説関連の件でホウエンのポケモン協会にはとんでもないくらい貸しがある。何せ自分が動かなければ確実にホウエンが滅んでいたレベルの案件だ。

 まあ自分から自発的に動いたので多少の譲歩は必要だろうが、けれど俺が動かなければどうなってた、と考えればこの功績を否定する要素などあるはずも無い。

 故に真面目に研究のためのスポンサーを探そうと思えばポケモン協会自体をスポンサーにだってできる。

 恐らくホウエンにおいてデボンコーポレーション以上のスポンサーを探そうと思えばポケモン協会くらいだろう。

 

 それに実機知識を切り崩して放出すればいくらでも成果は出せる。

 実機知識がある程度以上この世界においても適用されているのは五歳の時に散々試したのだ。レベルの高いトレーナーなら誰しもが何となく分かっているものではあるが、それを明確に言葉にして見える数字としてまとめることのできる人間は、現状世界でただ1人、自分だけだろう。

 

 ただしそれをやるにしても放出する知識は絞る必要がある。

 出し惜しみしているわけではない。もう目的は達した以上これ以上出し惜しむ必要も無い。

 むしろポケモンバトル関係がおおいに盛り上がるだろうことは確実であり、金のためでなくともいつかは放出しようと思っていた知識だ、惜しむ必要も無い。

 ただし全てを伝えるわけにはいかない。自分の知る知識には禁忌も多く含まれていることを自覚しなければならない。

 

 ゲームだからこそ許されていたこと、現実では決して許されるわけも無いこと。

 

 そのラインを明確に分けねばならない。

 その最たる物が『厳選』だろう。

 レートに潜るようなプレイヤーならばだいたい誰もがやっただろうことであるが。

 じゃあ何故プレイヤーたちが『厳選』するのかと言われれば『個体値』という概念を知るからである。

 

 努力値……つまり基礎ポイントや種族値などはまだ良いだろう。

 

 だが『個体値』というものを明確にしてはならない、これは自分なりの線引きである。

 他にもポケモンの進化条件などはまだしも、生息地などについては言うつもりも無い。

 それは『オダマキ博士の領分』であり、さらに言うならば安易に珍しいポケモンの生息地を口にするのはポケモンハンターなどそれを乱獲する人間を招く結果にもなりかねない。

 

 現実なのだ、そのことを覚えておかなければ実機ならば『その程度』で済むようなことでも現実ならば惨事を引き起こすことにもなりかねない。

 

 そのことだけは、決して忘れてはならないのだろう……。

 

 

 * * *

 

 

「awesome! スゴイスゴイ! スゴイよアオイ!」

 

 ホテルというのは宿泊施設なのにその売店は八時で閉まってしまうのはどうなのだろう、と思いながらも何か飲み物が欲しくなってチークと二人でホテルを出る。

 ホテルの入口の自動ドアを潜ると聞こえてきた声にふとそちらを向けば装飾の大量についた純白のサマードレスを着た金色の髪の少女がそこにいた。

 季節的に言えば冬目前のはずなのだが、季節外れの服装に加えて麦わら帽子というのは肌寒い夜の街に余りにもミスマッチだった。

 だがそんな寒さも全く気にした様子も無く少女は興奮した様子で何かはしゃいでおり、連れ合いらしいもう一人の少女が嘆息しながらその手を引いて夜の街に消えていく。

 

「はいはい……分かったから急ぐわよ。はあもう……今日は残業無いと思ったのにいきなり呼び出しで嫌になるわね。あ、それと今日もいつものとこ(コンビニ)で夕飯で良いわよね」

「I don't care! 全然オッケーだよ!」

 

 随分と騒がしい二人組だな、と思いながら消えていくその背から正面へと視線を戻し、チークと並んで歩く。

「なんだか騒がしい二人だったね」

「二人? あの金髪の子ポケモンだヨ?」

「え……てことはヒトガタ? にしてもよく分かったね」

「ビリビリって来てたのサ」

 そう言えば『でんき』タイプのポケモン同士って体から電気を発しているのだったか。

 音でなく電波で言葉を届けたり、互いの位置を確認したり、相手の居場所を探ったりと何かと便利なことができるタイプでもある。

「てことは『でんき』タイプか……」

 と言っても特徴らしい特徴はサマードレスや麦わら帽子を除けば金髪くらいだったが、『でんき』タイプのポケモンは体色からして黄色系統が多いので余りアテにはならない。

 まあカントーで代表的な『でんき』タイプと言えばピカチュウかエレブーだろうか?

 コイルなどとは毛色も違うようだし、まさかサンダーなんて準伝説種がこんなところにいるとも思えないし。

 なんとなくピカチュウかな、と思った……可愛かったし。

 

「…………」

 

 そんなことを思っているとチークがジト目でこちらを見つめていて。

 

「……何?」

「……今何か変なこと考えなかった?」

「いや? 何も?」

 

 突然変わった口調に驚きながらも口では否定する。

 鋭い、そんなことを少しだけ思ったが表情には出さないように留める。

 そしてそんな自分の言葉にけれど納得いかない様子ながらもそれ以上何かを口にすることなく。

 

「……えい」

 

 と、いきなり腕に抱き着いてくる。

 幸いにしてチークはうちの家族の中でも特に小柄なので驚きながらも受け止めるが、衝撃に少しふらつく。

「……と、と。なんだいきなり」

「べっつにー……トレーナーが……()()()が余計なこと考えないようにしてるんだよ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げるチークの言葉に少しだけ驚きながら。

「ん……? ハルト?」

「にひっ……気づいたあ? 良いでしょ?」

 いつもと違う甘ったるい声を吐きながら、そっと背伸びし。

 

 ―――エアとかシアとかシャルとかには呼ばせてるんだし。

 

 不意に耳元でぼそりと告げられた言葉に思わず言葉が詰まる。

「今三股だっけ……すごいね、ハルト」

「……止めろ、冷静に考えると最低に見えてくるから、マジで止めろ」

 因みに結婚云々を言うならば人間とポケモンは別々に数えられ、人間は一人だけだがポケモンに関しては何体でも問題無かったりする……法律的には。

 まあそもそも原種のポケモンと結婚しようという人間が早々居ないので余り知られていない法律ではあるが、ポケモンとの結婚自体は大昔からある話でありそれがやや形骸化しているが、その名残であると言える。

 そしてまず無いだろうことだが例えば六体で1セットが基本のパーティで複数のポケモンとそういう関係になった場合、一体のみと結婚とすると他のポケモンとの信頼関係に大きな亀裂を入れるだろうことは確実であるためポケモンの場合のみ複数体との婚姻も可としている……らしい。

 そして複数体どころか、パーティ全員とそういう関係になりかけている男が今ここにいるわけで。

 実際のところ法律的には合法だろうと、傍から見れば相当にアレなのは自覚しているわけで。

 

「前にわたし、言ったよね?」

 

 ―――そうだネ、まだいいや。物事には順序ってもんがあるさネ。

 

 二年も前のこと、リーグ戦の途中での出来事を思い出す。

 あの頃の自分はまだ仲間たちから向けられる感情を持て余していた。

 それに、他にもたくさん考えること、やらなければならないことがあって。

 

「もう大丈夫だよね?」

 

 けれどそれもようやく終わって、感情にも整理がついて、理解できるようになった、受け入れるだけの余裕ができた。

 エアを受け入れ、シアを受け入れ、シャルを受け入れ。

 

「にひひ……ね、わたしね」

 

 そうして。

 

「あなたが好きだよ、ハルト」

 

 囁く声に、返す言葉も無く顔を覆った。

 

 

 * * *

 

 

「突然呼び出してしまって悪かったのう」

「問題無いわ……それより、久しぶりね、オーキド博士」

「What's up doctor! お久しぶり、博士!」

「おお、ヒカリも元気じゃったか?」

 

 目の前で自身の相方の頭に手をのせて人の好い笑みを浮かべる老人に苦笑しながら財布から適当にお札を出して相方に渡す。

 

「ヒカリ、これで適当に夕飯買ってきてくれる?」

「Uh huh? 私が選んで良いの?」

「良いわよ、好きなの買ってきなさい」

「get it! それじゃ行ってくるね!」

 

 元気良く飛び出していく後ろ姿を見送り、その背が夜の街に消えたのを完全に見てから再び老人……オーキド博士へと向き直った。

 こうして面と向かって会うのは本当に久しぶりな気がする。

 

「確かレッドがチャンピオンになって一回全員でマサラタウンに戻った時以来、だったかしらね」

「そうじゃな、レッドはそのまま『シロガネやま』に行ってしもうたし、グリーンは今はワシの研究所で助手を、そしてお前さんはヤマブキのほうで就職したしのう」

 

 見事にバラバラになってしまったものだ、元は同じマサラ出身の三羽烏だったのに。

 だがそれもう当然と言えるだろう、全員で同じ日にトレーナーとなり、ポケモンを得て、そうして同じようにバッジを集め、同じリーグに参加し、そして上と下に明確に別たれた。

 レッドはカントーの頂点に立った。グリーンはそんなレッドへの再戦を誓いながらも博士の研究所で助手をしながらもう一度最初からポケモンのことを学び直している。

 そしてレッドやグリーンほどトレーナーという職に拘りを持っていなかった自分は手持ちの大半を博士の研究所に預けてヤマブキで就職した。

 去年突然ヤマブキの自宅にレッドが訪ねてきた時は驚いたものだったが、一緒に連れてきたヒカリの存在にはもっと驚かされたものだった。

 

「それで、そんな昔話するために呼び出したわけじゃないわよね?」

 

 オーキド博士には恩がある。旅立ちの日にパートナーとなるポケモンをくれたのは目の前の博士であり、ポケモン図鑑やその他色々役立つ道具をくれた、トレーナーとしてのブルーを大きく手助けしてくれた恩。

 それが無ければ結果は変わっていたとは思わないが、けれど道中の旅はもっと厳しい物になっていただろうことは明白だった。

 だからこそ、突然の呼び出しにも応じはした。

 

 それでもブルーとてもうれっきとした社会人なのだ。

 

 明日もまた仕事があるし、そのためにそろそろ家に帰らなければならない。

 ヤマブキとタマムシの距離はそう遠いわけではないが、時間的にはいつもより幾分か遅い帰宅になることは明白だった。

 

「ああ、すまん……そうじゃな、実はちと頼み事があってな。一つ頼まれてくれんか」

「……頼み事?」

 

 昔ならともかく、今のブルーにできることというのはそう多くない。

 オーキド博士がどれだけ凄い人物なのか、昔はともかく今となっては理解せずにはおられず、そんなオーキド博士が今更自分に頼み事とは一体何なのだろうか、そう考えて話の続きを促し。

 

「……実はのう」

 

 そうして告げられた言葉に、目を丸くした。

 

 

 

 




ブルーブルー①と併せて使った英語の意味ここに載っけとく。
スラングみたいなのも含まれてるので、厳密には、とか言われても知らん、これは英語じゃない、ポケモン世界に英語なんて無い、つまり『ヒカリ語』だ、とでも言っておく。



ヒカリ語辞典

roger that! 了解

awesome! 素晴らしい、カッコイイ、最高、超いい、すげえ、ヤバい

all right! 問題ない、大丈夫

What's up? 最近どうしてる?

Hey What's up homie? やあ、元気?

get it! よしきた

I don't care. 構わないよ

uh huh うーん、へー





これで四人目……大丈夫? ハルトくん、まだあと3人いるよ???
目指せ七股……いや、やっぱ最低系主人公じゃね? こいつ。

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