ポケットモンスタードールズ   作:水代

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一週間前に9割書き終わってて投稿したと思い込んでた(
実際はまだ少しだけ書き足りて無くて慌てて書いたんだが……。
俺は何をやっているのか俺自身も良く分からない。


黄色いマスコット枠決定戦……黄色?

 

 

 彼の周囲には多くの人やポケモンがいる。

 誰も彼もが魅力的な存在であり、比較してみれば自分が余りにも劣っていることを意識せずにはいられなかった。

 

 それでも、好きだった。

 

 好きなのだ。

 

 その感情だけはどうしようも無い。押し殺そうとしても押し殺しきれない。

 抑えようにも抑えようがない。

 それは自分だけでなく、昔から一緒だった彼女たちもまた同じであることを知っていたからこそ、余計に焦る。

 それでも未だに恋や愛に惑う自分の主に、それを押し付けることを良しとしなかったのは、ひとえにそれをすれば後悔すると理解していたからだろう。

 

 だから待った。ずっと待っていたのだ。

 

 最初は五年待った。

 そうして彼はようやく一人目を受け入れた。

 ややなし崩しのような感じもあったが、それでも彼はようやく一歩進んだのだ。

 それでもまだ惑っていた、軸の定まらない独楽のようにフラフラと心が揺れ動く彼にその思いを告げるのは余りにも酷であり、だからみんな待っていた。

 

 そうして更に二年待った。

 

 計七年である。

 それだけの時を費やして彼はようやく人並みの感性を持った。

 そう、人並みだ。

 普通の人のような好悪の感情をようやく彼は持ったのだ。

 だが同時にそれは不安でもある。

 

 自身が周囲の少女たちと比べても劣っていることを自覚している。

 

 背も低く、体系だって子供っぽい。

 いつも人を振り回してばかりだし、さらに言えばそのことで彼に迷惑をかけることも時々ある。

 それでも好かれているのは分かる、結ばれた絆が、繋がれた思いがそれを教えてくれる。

 大切に思われている、でもそれは……。

 

 それは……どんな意味でなのだろう?

 

 チークという名の自身が主である彼に向ける感情は紛れもなく恋だった。

 

 なら主である彼が向けてくれるこの好きの感情は、一体どんな意味なのだろう。

 

 結ばれた絆は、繋がれた思いはそれを教えてはくれなかった。

 好きという言葉に秘められたその意味を、ずっと考え続けていた。

 七年の時を得て、自分はその感情を彼に告げることができるようになった。

 けれどいざそれが可能となれば、今度は怖くなった。

 

 本当に告げて良いのだろうか?

 

 客観的に見て、自分という存在に女性的な魅力が欠けていることを自覚してしまっているから。

 そしてヒトガタという存在の性質上、自分がこれ以上成長することが無いことを理解してしまっているから。

 自分という存在が彼にとってただの家族に過ぎないのだとすれば、この好きが親愛の意味の好きでしかないのならば。

 

 自分の抱えるこの感情は禍根にしかならなかった。

 

 いつも茶化してばかりで、本当のことなんて何も言えなくて。

 ずっと溜めて、溜めて、溜め込んで。

 気づかれないようにしている。だから気づかれない。

 当たり前のことであり、当然の話である。

 

 それでも気づいて欲しいと願って、でもやはり気づいて欲しくないとも思っている。

 

 自分の抱える矛盾をけれど笑みを張り付けた表情で誤魔化して。

 突きさすような胸の痛みをおちゃらけた言動で覆い隠して。

 

 気づかないで/気付いてお願い。

 

 何も知らないままでいて/全部知って欲しい。

 

 本当を隠して、嘘を吐いて。

 誤魔化して、隠して。

 茶化して、無かったことにする。

 そんな自分に思わず自嘲し、後悔する。

 それでも本当を言う勇気が持てなくて、また隠す。

 

 きっとあの家で一番臆病なのは()なんだろう。

 

 シャルなんかより、()のほうがよっぽど臆病者だった。

 

 それでも今日も気づかれないことを、隠しきれたことを安堵してしまう自分がいて。

 そんな自分を心底嘲っている自分がいる。

 

 ああ、苦しい、苦しい。

 

 助けてと一言告げることができればどれだけ楽だろう。

 それでも口から出る言葉は嘘ばかりで。

 知ってか知らずか、彼はそんな()の言葉に騙されては()の言葉を揺らすようなことばかりで。

 

 だから、思わず出てしまったのだ。

 

 ()()()と。

 

 彼をその名で呼んだ。

 いつも()()()()()()()()()()()ように。

 つい出てしまった一言に驚く彼に咄嗟に誤魔化しはしたが、内心は動揺でいっぱいで。

 

 だから隠しきれなかったのだろう。

 

 後から考えれば本当に勢い任せだったと思う。

 

 それでも。

 

 

「あなたが好きだよ、ハルト」

 

 

 ()はもう取り返しのつかない一言を言ってしまったのだ。

 

 

 * * *

 

 

 目を覚まし、そこが自分の家で無いことに少しだけ戸惑った。

 ホテルに泊まったことを思い出して、窓の外の光景を見てまた戸惑う。

 明らかにホウエンではないその街の光景に一瞬呆然として、そう言えばカントーに来ているのだと思い出す。

 ふと部屋の中を見やれば、二つ置かれたベッドはすでに両方がもぬけの殻だった。

 

 一つは自分の寝ていた物。

 

 もう一つは。

 

「……チーク、もう起きてたのか」

 

 部屋の中に少女の姿は無い。

 昨日の夜の出来事を思い出して少しだけ顔が熱くなる。

 僅かに目を細め、数秒黙するが、やがて嘆息して洗面所で顔を洗う。

 ばしゃり、と冷たい水が頬の熱を奪っていき、少しだけ冷静になる。

 

「……あーもう。分かってただろうに」

 

 鏡を見て、寝ぐせが立っている髪をガシガシと掻きながら嘆息する。

 そう、分かっていたはずなのだ。

 エアも、シアも、シャルも、同じことを言ってきた。

 チークも、イナズマも、リップルも同じなのだと知っていたし、分かっていた。

 でも知っていながらちゃんと答えられなかった。

 

「……分かってた、はずなんだけどなあ」

 

 絆が、思いが、それを伝えてくれる。

 そもそもリップルに示唆はされていたし、分かっていた……つもりだったのだが。

 

 印象、というものがある。

 

 チークに時折随分と大人びた印象を受けることはあった……が。

 それでもやはり常日頃の子供っぽくパワフルで、周りを振り回す元気いっぱいな姿が強く印象付いていて。

 そんな少女に振り回されながらも、けれど同時に微笑ましく思っていた。

 

 そして、だからこそ……昨日の夜に見せた少女の見せた『女』に、酷く動揺してしまった。

 

 イメージと違った、と言えばそれまでだが。

 子供のようだと、そう思っていた少女に不覚にも()()()としてしまった自分に何よりも驚いてしまった。

 

 妹のように、というなら確かにシャルもそうだがチークはそれ以上に幼く見えるだけに余計に、だ。

 そんな少女に伝えられた言葉に、垣間見えた仕草から感じた物に、動揺してちゃんと答えられなかった。

 自分からすればそうでも、けれど少女から見た時、果たしてそれはどんな風に見えるのか。

 

 ―――ごめんネ、忘れて欲しいヨ。

 

 そう謝った少女の顔が脳裏に焼き付いた。

 しまった、と自身の失敗に気づいた時にはすでに遅く、伸ばした手をすり抜けるように少女の来た道を戻っていく。

 そうして自身が戻ったその時にはすでに部屋で眠っていた。

 起こそうかとも思ったが、けれどそれも忍びなく。朝起きて話せば、とも思ったがこの様である。

 

「何やってんだ俺……」

 

 本当に何をやっているのだと言いたくもなる。

 格好悪すぎる。正直殴られても仕方ないくらいに馬鹿なことをした。

 

「だってあんな……なあ?」

 

 誰に向かって言ったのかも分からない言葉が口から洩れて。

 

 ―――あなたが好きだよ、ハルト。

 

 そう告げる少女の表情を思い出して。

 

「あんなの反則だろ……」

 

 もう一度ため息を吐いた。

 

 

 * * *

 

 

 フィールドの上を小さな二人の少女が走り回る。

 

 互いのその全身から僅かな電流を発し、弾けた電気がぱちん、ぱちんと小さく音を立てる。

 ぐるぐると円周に沿って走る二人は、けれど決して遊んでいるわけでもない。

 

 互いの狙っているのだ、一瞬を。

 

 二人とも小柄な身で素早く動いて相手を攪乱するタイプだからこそ、状況が拮抗する。

 先に手を出せば手痛い反撃をもらう、それでも手を出すならそれ以上のリターンが得られるチャンスを待つ必要がある。

 その一瞬は未だ来ず、傍から見れば二体のヒトガタがフィールドを追いかけっこしているようでもあった。

 

「チッチッチッチ……ってネ」

「Holy cow! 冗談でしょ?!」

 

 その追いかけっこがいつの間にか一方的になっていることに気づく。

 フィールドを走るチークがいつの間にか少女の背を取っていた。

 互いの走る速度からすれば振り向くために一瞬でも足を緩めればそのまま接触されるだろう距離。

 少女……ピカチュウのヒトガタたる少女もまたそれに気づき、驚きの表情を浮かべる。

 フィールドは平地故に地形を利用して躱すというのも難しい。

 先手はもらった、その確信が心の内で芽生え。

 

「ヒカリ!」

「all right!」

 

 トレーナーである茶髪の少女の声に応えるかのように、ヒカリと呼ばれた少女が体を傾けて。

 

「は?!」

「え?!」

「I can do it!」

 

 そのまま前に向かって体を倒し、ハンドスプリングでぐるりと一回転、回転中に体を捻って前後を逆にして着地する。

 

「軽業師かよ!?」

「このまま行くネ!」

 

 進む、と振り返る、と一度にやってのけた少女とチークの距離が僅かに開く。

 もしチークが一瞬でも驚いて足を鈍らせていたらその僅かな時間差で相手の態勢が整ったかもしれないが。

 

「こっちだってもう慣れっこさネ!」

 

 躊躇なく、飛び込むようにチークが少女へとぶつかっていく。

 迸る電撃がそれが一つの技であることを示し。

 

「あ、いた、いたたた、痛い!」

「それ、ついでにもういっちょさネ」

 

 先ほどよりもさらに威力の高まった電撃を纏いながら抱き着いた少女の腹を蹴ってくるりと一回転。

 先ほど少女のことを軽業師と言ったがこっちも大して変わらないかもしれない。

 

「やっぱり経験の差が大きいな」

 

 同じヒトガタ同士、さらに互いの種族的に考えると似たような能力をしている。

 それでもチークのほうが一歩先んずるのは単純に巧いからとしか言いようが無い。

 

「にしても……凄いな」

 

 さすがタマムシ大学というべきか、フィールドの一歩外側に設置された機器の数々を見ればもう、そう呟くしかない。

 ポケモンバトルをするわけでもないのに、データ取りのためだけに最近になってこれだけ広いフィールドが設置されたというのはそれだけ携帯獣学が重視されてきているということの証左でもある。

 このフィールド以外にもポケモンのためだけに作った施設というのはいくつもあり、見た限りでは世界で最も設備が整った環境と言えるかもしれない。

 

 午前中の内に『博士号』の取得は終わった。

 まあ『ヒトガタの研究』というのは特に行き詰った類の研究テーマであり、最大の難関である『ヒトガタの所持』という点で自分よりも上の人間がいるはずも無く、割と簡単に認められた。

 まあ実際にはこれからある程度の研究成果を見せなければ『博士』としては認められない、現状の自分では精々自称『博士』であるのだが、とにかく『研究者』としての第一歩はこれで踏み出せたと言っても良いだろう。

 

 そうして『研究者』の仲間入りを果たしたので、タマムシ大学の施設を一部借りることができるようになったのだが。

 

 ―――ちとデータ取りに協力してもらえんかな?

 

 というオーキド博士の頼みで、チークのデータを取ることになったのだ。

 

 なんでオーキド博士が、というと『ヒトガタ』を所持している研究者志望というのが珍しくやってきたらしい。

 当たり前だがノーアポでいきなり大学に行って『博士号』がもらえるわけではない。

 事前にある程度の研究レポートはまとめて申請と共に大学側に提出している。

 オーキド博士は特にこの分野における権威であり、どこからか『ヒトガタの研究』を志望し、さらに実際に『ヒトガタ』を所持している人間がいると聞いて興味を持ったらしい。

 

 ポケモン研究の第一人者として『ヒトガタ』という存在には当然ながらオーキド博士も多大な関心を持ってはいるが自身の研究がある中で、さらに難関と言われる『ヒトガタ』の研究にまで手を出すのは難しい。

 だが待てど暮らせど『ヒトガタ』という研究分野が進展することは無く、長い間謎に包まれていたことばかりの中でようやく現れた期待の新人(自分)である。

 ポケモン研究の最前線にいる身として、『ヒトガタ』という存在の謎が明らかになることを願っているし、そのためならば協力も惜しまないと言っていた。

 

 そうして実際に博士の知り合いの『ヒトガタ』を所持したトレーナーを連れてきたので、自分の連れてきた『ヒトガタ』と競合させデータを取りたい、というのが博士の申し出だった。

 

 一見すると得も無い申し出にも見えるが、オーキド博士の名を借りて行われる実験というだけで一種『箔』のようなものが付く。未だ実績も無く信用も無い自分からすればその利は大きい。

 後々を考えるとこの申し出を受けるのは大きなメリットもあるし、それ以上にデメリットが特に無い。

 強いて言うなら予定していたより少しホウエンに帰るのは遅れる、という程度の話だが、それにしたって精々一日かそこら程度の話だし、現状特に急いでいるわけでもない自分にとってデメリットにもならない。

 

 ついでに言えば、オーキド博士の連れてきたヒトガタ使いのトレーナーというのにも興味はあった。

 新人研究者ではあるが、その前に現ホウエンチャンピオンである。

 ポケモントレーナーとしてそこに興味を抱かないはずがなかった。

 

 そうしてデータ取り名目で始められた実験。

 

 相手はまさかの知った人間だった。

 

 否、正確にはこちらが一方的に知っている人間というべきか。

 世界的に有名なオーキド博士とは違い、ブルーと名乗ったその少女はホウエンでは全くの無名だろう。

 二年前のカントーリーグでかなり良い順位まで行ったらしいが、その優勝者のインパクトが強すぎて完全に霞んでしまっている部分はある。

 そもそも他所のリーグの……それも優勝したわけでもないトレーナーの名などその地方ですら一年か二年もすれば忘れ去られる程度の存在。

 とは言え自分の知る少女の知識はそう言った類のものではなく。

 

 少女を見て、その名を聞いた時、ある種の驚きを隠せなかったのは事実だ。

 

 ブルー。

 

 と言って自分はそれほどその名を深く知っているわけでも無いのだが。

 ポケモンの漫画に出てくるキャラの一人、という程度の知識は碓氷晴人は残念ながら実機派だったので漫画キャラについてそれほど深い知識は無い。

 とは言えオーキド博士に次ぐ原作キャラ、ということになるのだろう。

 しかも名前的に完全に主役キャラレベル。

 

 さらにその手持ちたるピカチュウのヒトガタ。

 

 どうやら昨日の二人組がそうだったらしい。

 チークから聞かされてはいたのである程度予想はしていたがいざ目の前にするとやはり驚きはある。

 だが問題はそこではない。

 

 先ほどから何度と無く覚える違和感……否、既視感と呼ぶべきか。

 

 フィールド上でチークと駆け引きをする少女の姿を見て思わず首を傾げる。

 あくまでヒトガタポケモンのデータ取りのため基本的にトレーナーの指示は無しだ。先ほどのブルーの叫びを指示とするのかどうかは知らないが、まあただの実験だしその辺は別に良いだろう。

 基本的にピカチュウというのは種族値的には『弱い』ポケモンに分類されるのだが、見ている限りでは動きが完全にエース向きというか、動けるアタッカーという感じなのだがそういう風に育てているのだろうか?

 正直パーティのエースにピカチュウを置いたポケモントレーナーなど一人しか知らない……の、だが。

 

「……ん?」

 

 ふと過った可能性、マジマジで見つめるフィールド上で走る少女。

 

 “しっぷうじんらい”

 

 ばちり、と紫電が弾け、その姿が一瞬加速し。

 

「うわわわわわわっとぉ!?」

 

 逆撃せんと急加速した少女だったが、持ち前の勘の良さでチークが間一髪避ける。

 というか、今の。

 

「……レッドの、ピカチュウ?」

 

 実験後明かされる衝撃の事実、その一時間前の話である。

 

 

 




ハルトくん最近面倒くさくなってない?
って書いてて思うけど、こいつまだ十二歳なんだよなあ。
かつてはホストの名で馳せたハルトくんだったが、あれは他意が無かったからこそ言えたものであって、邪念にまみれた今のハルトくんはただの恋愛弱者なんだ……。
いや、だって十二歳でもうイロコイの甘いも辛いも体験し尽くした恋愛マイスターとか逆に嫌だわそんな主人公。

あとずーーーーーっと昔にも書いてたと思うが、基本的にはヒロイン全員面倒くさい女だぞ。




全く関係ないけどイドラ始めました。
ステラちゃんかわゆすぎてのめり込みそう。

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