お隣さんはとても良い人だった、まる。
まあ薄々分かってはいたが。
現在の自分の年齢…………五歳。
お隣さんには一人娘さんがいらっしゃった。名前はハルカちゃんと言うらしい、因みに年齢は五歳。
原作主人公カップルが確か十二歳らしいので。
原作…………七年後みたいですね。
何故マイダディは七年も世界を縮めているのでしょう。フライング過ぎませんか?
因みに調べてみたけど、ツワブキ・ダイゴはすでにチャンピオンだった。若すぎじゃないでしょうか?
あの人本編で二十五だし、現在十八歳…………あれ? レッドさんとか考えたら普通?
マグマ団とかアクア団とか、少なくとも新聞には影も形も乗ってなかった。そもそもあれってヒガナが隕石回避のために唆すのだから、まだ先…………のはず?
まあそんなわけで、少なくとも後七年は世界は平和そうです。
なんだか色々肩が軽くなったような気もする。
さてまあ挨拶は終わったのだが、本来ならばここで草むらに入って博士からポケモンをもらうまでが本来のイベントの流れなのだが、まあ五歳児にそんなの無理だし、家に帰ろう…………。
「た、助けてくれえええええええええええええ」
……………………嘘やん?
* * *
ミシロタウンの入り口は一つしかない、他のポケモン避けに柵で囲ってあるからだ。
まるで仕組まれたように悲鳴の上がった瞬間、そこには自身しかいなかった。
仕方なく走り出す、恐らくこの先の展開も予想はついている。
そしてミシロタウンを抜け、101番道路に出てすぐの草むらで、ポチエナに追いかけられた男性がいた。
「大丈夫ですか?!」
「き、キミはあ!」
ぽっちゃりとした体格に半ズボンにサンダル、そしてもみあげと繋がった髭。
間違いなくオダマキ博士、そしてゲームならばここで主人公は御三家をもらえ…………。
「に、逃げるんだあ、ポケモンがいるぞぉ!」
ゲームならば鞄が転がっていて、そこからモンスターボールが転がり落ちていたはずなのに。
ポチエナがこちらの存在に気づく。
そして大柄な男性と、小さな子供、どちらを先に襲うか一瞬考えて。
「がぁ!」
自身に向かって襲いかかる。
「え…………あ…………」
ポケモンにはポケモンで対抗しなければならない。少なくとも、訓練を積んだ大人ならともかく。
五歳児にできることなんて有りはしないのだから。
ポチエナの鋭い牙が迫る。
読み違えた、まさかそういう風にイベントが修正されているとは思わなかった。
完全に誤算だ、その代償がこれか。
どうにか、どうにかしなければ。
「ま…………ず…………」
けれど体は動かない、どうにもならない。
そうしてポチエナの牙が自身に突き刺さろうとして…………。
ズダァァァァァン、と轟音がした。
自身も、博士も、完全に硬直していた。
そこにいたのは少女だった。
赤と青が印象的な少女。自身が先ほどぶつかったばかりの十歳くらいの少女が。
見れば、たった一撃、こんな小柄な少女に殴られただけでポチエナは完全に気絶し、動かなくなっている。
その余りにも不可思議な光景に、唖然としていると。
「いつまでバカ面してんのよ」
少女が苛立たしげに呟いた。
「え…………えっと…………たすけて、くれてありがと……う……?」
そんな自身の言葉に、少女の視線が厳しくなる。
「…………なんで気づかないのよ、こいつ」
「…………え、っと何が?」
「なっ、な、なんで聞いてるのよ!」
ぼそり、と呟いたつもりだったのだろうが、目の前にいるのだからそりゃ聞こえる。
顔を赤くし、その赤を隠すように帽子で顔を隠す少女の仕草に何だか癒される。
「とりあえずだね」
と、その時、背後から声がかけられる、どうやら博士は立ち直ったらしい。
「一度ミシロタウンに戻らないかい? ここだと野生のポケモンがまた出てくるかもしれないし」
その言葉に否と言うものは居なかった。
* * *
ミシロタウンの入り口まで戻ってくると思わず安堵のため息を吐く。
「情けない」
そんな自身に辛辣な言葉を呟く少女に、やれやれと苦笑する。
「勘弁してよ…………こちとらポケモンの一匹もいないんだから」
「………………………………」
そんなことを告げると、何故か少女に睨まれる。
「えっと…………何?」
「…………………………………………ふんっ」
たっぷりと、沈黙を貯めた後、何も答えず鼻を鳴らす。
「それにしても助かったよ。キミたちはこの辺では見かけない子たちだね、名前を聞いてもいいかい?」
そんな博士の問いに、そう言えばこちらが一方的に知っているだけだったか、と頷いて答える。
「ハルトです、今日引っ越してきました」
「ああ、キミはお隣さんの…………センリくんから話は聞いているよ、うちのハルカと同い年なんだってね、ハルカと仲良くしてくれると嬉しい」
「あ、はい」
笑顔で頷く、こちらとしても同年代は友人は願ったりかなったりと言ったところ。
そうしていよいよ、博士の視線が偉そうに腕を組んでそっぽを向く少女へと向けられ。
「それで…………キミの名前は?」
そう問われた少女が、数秒沈黙し。
「…………エア」
そう答えた。
エア…………?
何故か聞き覚えがある気がした。
それが何だったか、どこでだったか、そこまでは思い出せないのだが。
「そうか、エアくん、本当に助かったよ、ハルトくんも、いつか二人とも研究所に来てくれ、その時は何かお礼もさせてもらうよ」
それじゃあ、とだけ告げて博士が去っていく。
後に残されたのは自身とエアと名乗った少女だけ。
どうしよう、と言うのが正直な話。
はっきり言うが、自身はこの少女のことを全く知らない、出会った覚えも無い。と言うかこんな特徴的な少女、見たら忘れるはずが…………。
「赤と…………青…………?」
少女の姿をよく見る。
「なによ」
少女がジト目で返してくるが、けれども穴が開くほどに見続ける。
「な、何か言いなさいよ…………変態」
段々と顔を赤らめていく少女の姿に、何かひどくいけないことをしているような気がしてくるが。
けれど、だ。
見覚えがある気がする。
否、姿と言うよりその配色に。
ふと思い出す。
ヒトガタの存在を。
「ひと…………がた…………?」
自身の言葉に、少女がぴくり、と反応する。
だとすれば先ほどのことにも納得が行くのだ、ポチエナを一撃で倒したこと。同じポケモンだったのならば簡単な話なのだ。博士はそこまで分かっているのかいないのか、あの人は良く分らない性格をしているので判断はし辛いが。
少女がヒトガタ…………擬人化ポケモンなのは間違い無いだろう。
だとすれば何のポケモンなのか、ヒントは外見だ。
萌えモン、擬人化ポケモンのイラストはいくつもあったが、基本的には元となったポケモンの特徴をある程度踏襲し、何のポケモンか分かるようになっている。
この世界でもそれが通用するかは分からないが、最早それぐらいしか判別基準が無い。
少女を見た最初の印象。
赤と、青。帽子。コート。裾。
後は…………エア、と言う名前。
少女がポケモンだとするならば、それはニックネームだ。
そして自身がこの少女と関係するのだとすればそれは…………。
自身が過去にエアと名付けたポケモンが一匹だけいた。
当たりまえだが転生してからの話ではない、ゲーム時代の話だ。
今となっては五年以上前の話。だから忘れていたし、そもそも考慮に無かった。
ゲーム時代に使っていたポケモンがこの世界にいるなどと言うこと、あり得るはずがないと思っていた。
だがもしそれがあるとするならば、この少女は。
「…………ボーマンダ?」
「
一秒もおかずにの否定の言葉。けれど、それは反対に自身を確信させた。
そして同時に、どうして否定したのかも理解した。
「
「…………うん、そうだね。
告げた名前に、少女が唇を噛み、震えた。
「ごめん、気づかなかった…………気づけなかった、いるとは思わなかった、なんて言い訳かな」
「バカ…………バカ…………ずっと探してたのに、探してたのに…………気づかないとか、あり得ない、バカ、バカバカバカ!」
少女が…………エアがその赤い瞳から涙を流していた。
けれど自身にそれを見せまいと、ぐっと自身の顔へと帽子を押し付けてくる、そして。
ぴとり、とそのままもたれかかってきて。
「あ、ちょ、ま」
「え、あ、きゃあ」
どしん、と背中から倒れる。
なんだかイメージしていたよりずっとエアが軽かったのは確かだが、それでも受け止める方も五歳児である、そこは考慮して欲しい。
「…………最悪、なんで倒れてるのよ」
「五歳児に無茶言わないでよ、全く」
今の構図、五歳のショタの上に覆いかぶさる十歳のロリ。この場合、背徳的と言うよりはお遊戯的な感じがある気がする。
「なんか変なこと考えてるでしょ、アンタ」
「なんで分かったのか」
「バカ、バカバカ、ホントバカ」
「悪かったよ」
エアの背に手を当て、ゆっくりと撫でていく。さらさらの髪の毛が手の平を通って、流れる。
「もう置いてかないでよ?」
「分かってる」
「今度はずっと一緒よ?」
「分かってる」
「本当に本当? 絶対に? 約束する?」
「うん、約束するよ」
五秒、十秒とエアがこちらを見つめ、視線を逸らさず見つめ返して。
「…………じゃあ許してあげる、マスター」
泣きそうな笑みでそう告げて、エアが自身の上を退いた。
* * *
「へーエアちゃんって言うのね、よろしくね」
拝啓お母様、私少しばかり、貴女様の懐の広さには戦慄いたします。
思い起こせば私が子供の頃より貴女様は。
「また変なこと考えてる」
ぽかり、とエアが自身の頭部を軽く叩く。
「痛い…………」
「話さないといけないこといっぱいあるんだから、早くしなさいよ」
「ここ我が家のはずなんだけどなあ」
「私のマスターの家なら、私の家みたいなもんでしょ?」
「そうそう、自分の家だと思ってゆっくりしてね」
「はーい」
「解せぬ」
「はいはい、解せない解せない」
腕を組んでぐぬぬ、と唸る自身の襟元を引っ掴んだまま階段を登って行くエア。
「本当にポケモンなのねー、力持ちだわ」
なんか下から調子っぱずれなお母様の声が聞こえた気がした。
まず第一に聞かなければならないこと、五年前より以前のこと。
「五年以上前のこと…………? うーん、朧げね。あんまり覚えていないと言うか、私が
多分、ゲーム時代のことは自意識が芽生える以前の無意識で覚えてる程度の記憶なのだろうと予測する。
だとするならば第二問。五年前からこちら、一体どこにいた?
「さあ…………?」
「さあって…………」
「だって、目が覚めたの今日なんだもの」
「…………はい?」
「私自身どうしてここにいるのか知らない、でもさっきアンタにぶつかった時にはっきりと意識が戻った、戻ってそれから理解した…………アンタが私のマスターだって、それ以前のことも何となし程度に思い出して…………なのに、アンタはこっちを全く知らないみたいな風に言ってくるんだもの」
そりゃいらっとくるわよ…………って分かるわけねえだろ、と言いたいがまあ泣かせてしまったのも事実なのでここは非難されておく。
「つまりここ五年の記憶は全く無いってこと?」
「…………一つだけ、覚えてることがある」
「それは?」
「
私もだし…………
その言葉に、ふっと思い出す。
ポケモンは手持ちとして最大六匹まで所持できる。
だからバトルをする時は六匹を一セットでパーティーとしていた。
自身の手持ちも例に漏れず六匹いて、ボーマンダ…………エアはその内の一匹、自身のパーティーのエースだったポケモンだ。
他のやつら…………つまり。
「他の子たちもいるのかな?」
「いるんじゃないの?」
あと五匹、この世界のどこかに、自身が育てたポケモンが隠れている。
そう考えれば。
「探してみようか」
そんな自身の言葉に、エアが獰猛に笑う。
「当たり前よ」
当然のこと、と言い切って見せる彼女に、思わず苦笑した。
ハルトPTのエース、ロリマンダことエアちゃん。
ロリマンダ可愛いよ、ロリマンダ。
因みにこの作品に登場する擬人化ポケモンは、全部どっかの擬人化イラストを参考に書いてるんで、もしかしたらアナタの知ってる擬人化ポケモンが出ることもあるかもしれない。