ポケットモンスタードールズ   作:水代

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ドールズ初の集団コミュ!!!
一話じゃ終わらなかったよ……。


特別編クリスマスドールズ①

 

 デリバードというポケモンがいる。

 

 ホウエンには生息していないのだが、ジョウトなどで主に見かけることの多いポケモンで、一言で言うならば『サンタのコスプレしたペンギン』だ。

 覚える技も『プレゼント』オンリーという制作のおふざけみたいなポケモンなのだが、この世界では普通に生きるポケモンの一匹でしかない。

 

 で、それがどうした……と言われると。

 

 ―――別にどうもしないのだが。

 

 じゃあなんでそんな話したんだよ、と言われると簡単で。

 

「メリクリ!」

「横着せずにちゃんと言いなさいよ……メリークリスマス、ハル」

 

 本日十二月二十五日。つまりクリスマスである。

 

 ポケモンの世界は割とこういう地球にあった文化やイベントというのが多い。

 正月にバレンタイン、七五三に雛祭り、盆にハロウィン、クリスマス、和洋折衷というか日本発祥らしい節操の無さだがこの世界だとそれが『当たり前』なわけであって、誰もそれに疑問を抱かない。

 地球ではそういったイベントというのは宗教や神話、地方の伝統などと密接に関係していたりするのだが、この世界の場合『そういうものだから』の一言で終わらされてしまうし、それでみんな納得する。

 さすがと言う何というか、今や自分の感性もそちら寄りとは言え、碓氷晴人の記憶を持っている身からすれば余りにも頭が軽いというかノリが軽いというか……楽しければ何でも良いというポケモン世界特有のノリを感じる。

 

 まあそんなことはどうでも良いのだが。

 

 行事があるならイベントをしたくなるのが日本人というか……まあ自分はジョウト人であって日本人の記憶を持っているだけなのだが。

 まあそんなわけで。

 

「じゃ、クリスマスパーティーかいさーい!」

 

 そんなわけで。

 

 まあそういうことだ。

 

 

 * * *

 

 

 正直ミシロの実家はそれほど広いわけじゃない。

 当たり前だが、元々は家族三人で住むための家なのだ、まあポケモンのこともあるので実質的には五、六人は寝泊まりできるくらいのスペースはあるが。

 

 それが五歳の時にヒトガタを六体拾ってきたことで仕方なく父さんに頼んで改築し二階に部屋を増設。

 六歳になってさらに一体増やしてまた増築。

 十歳になってまた一体。

 そして十二歳の今現在に至ってはさらに四体増えて、現在この家の住人の数は完全にオーバーしてしまっている。

 まあボールに入れればコンパクトになるわけだが、さすがにずっとボールの中じゃ窮屈だし、いっそもう新しく家建てれば? という元チャンピオンのボンボンの言に従って数か月前からミシロに新居を建てていたのだが、つい先週それが完成した。

 

 僅か四か月で家が一つぽんと建つのは現実的に考えると恐ろしいほど早いのだが、重機を使わずともポケモンが重い物でも平然と持てるし動かせる、さらに細かい作業もできるし、連れて行くのもボール一つ持って行くだけ、さらに多少は金がかかるものの人間ほどの人件費は発生しない、という労働力としては非常に適した存在のお陰で実際の工期というのは一月あるかないかと言ったレベルである。

 

 そうして出来上がった新居だが、実際には実家からすぐ近くなので荷物を運ぶのにもそれほど苦は無い。

 新しい住居と聞いてみんなわくわくしながらそちらに移るが、徒歩一分もかからない引っ越しに微妙な顔をしているやつらも何体かいた。

 

 人数が人数だけにかなり大きな家だった。正直父さんが遠い目をするくらい。

 分かってはいたことだが、大黒柱だった自分より息子のほうが遥かに収入が良いという現実をまざまざと見せつけられて頼もしいやら泣きたいやら、といった感じらしい。

 まあそっとしておくことが大事だと思って何も言わなかった。

 

 実家の三倍くらいでかい新居は、パーティの各自の意見を取り入れた作りとなっている。

 意見、というか大半我が儘な気がするが。

 とは言え、その程度の我が儘ならまあ構わない、金ならあるのだ……というより根が一般人の自身たち一家からすると金があっても貯め込んでしまう。

 だがそれは良くないとエリートボンボンが言った。

 金は使われなければ不健全だと。良く稼いでいる人間はそれだけ良く使わなければならない。トレーナー業は金食い虫だからこそ、大会などでもトレーナーへの払いが良いという面もあるらしい。

 そういう意味で、自分は大分不健全らしい。ということで少し派手に使った。

 

 そうして豪邸と呼べるほど立派なわけでも無いが民家と呼ぶにはやや大きすぎる家が出来上がった。

 

 尚アルファの意向により土地だけは大きく取った……後は勝手にプールでも何でも作ってくれるだろう。

 因みにオメガに頼んだら山でも何でもを作ってもらえる……便利なやつらである。

 

 

 

 十二月に入ると温暖なホウエンにも雪が降る。

 チークが庭を駆けまわり、エアが炬燵で丸くなる季節である。

 炬燵……そう、炬燵だ。

 あの悪魔の発明品をついに我が家に導入することに成功したのだ。

 因みに特注サイズでだいたい十人以上は入れる。というか中にエアが籠っている。

 やっぱ『ドラゴン』だからか、とは言えアースはそこまででも無いらしい。勿論得意というわけではないが、元々があのチャンピオンロードの地下で生きていた個体であるし、ある程度寒さには耐性があるらしい。

 あとシャルも籠っている……あいつ本当に『ほのお』タイプのポケモンなのだろうか?

 それとオメガも籠っている……こいつの場合、ただ単に炬燵の快適さに負けただけのような気がする。相変わらず『ダメになるクッション』離さないし。基本的に飯食う時と風呂に入る時以外以外一日中……下手すれば飯すら食わずに寝ている。こいつ本当に伝説のポケモンなのだろうか?

 

 とまあ順調にダメポケモン製造機と化している炬燵だが、我が家の肝っ玉お母さんことシアの手によって時々布団が剥ぎ取られ洗濯されている。そういう時に寒がりどもが行くのがリップルの要望とアルファの協力によって作られた『室内温水プール』である。

 因みにかなり大きい。何せアルファがポケモンの姿になって泳げるくらいだ。

 これを作るために土地を大きくしたと言っても過言では無い。

 因みに相変わらずアルファの手でプールからそのまま地下水路に繋がって海に出れる……アルファだけだが。

 まあそうなるだろうな、とは予想していたのでせめて入口くらいはちゃんと作らせた。プールの端にでかい鉄柵がありそれを開くとそのまま地下水路へと繋がっている……らしい。まあ俺は実際に潜ったことが無いので分からないが、アルファがそう言うのならそうなのだろう。

 

 台所や水回りに関しては特にシアが要望を出して実家よりも大分大きく取っている。

 因みに風呂に関してだけはオメガとアルファが本気出した……具体的にはアルファが無理矢理地下から水道引っ張ってきて、オメガがわざわざ『えんとつやま』のほうからマグマを地下に引っ張ってきて地熱で温泉沸かせやがった……伝説のポケモン本気出しすぎだろと思ったが、温泉は素直に嬉しかったので褒めた。

 どうやら風呂という文化は長年生きてきた伝説の二人をメロメロにしてしまったらしい。

 飯時にすら起きないオメガですら夜になると毎日欠かさず風呂に入る。お前『じめん』タイプだろというツッコミはもう今更過ぎて起きないが、自宅に温泉が湧いているというのは両親からも素直に羨ましがられたし、時折入りオダマキ一家なども連れて入りに来たりする。

 温泉に入ってそのまま気持ち良すぎて泊って行くこともあるので、いつの間にか自宅が温泉旅館になっているような気もする。

 

 と、まあたった一週間ほどの期間だったが、住んでみて中々に快適な我が家だが。

 

 ―――そう言えば新築祝いとかしないの? こんなに立派なのに。

 

 というハルカちゃんのお母さんの言にうちのお母さまが乗っかって、ついでに時期的にクリスマスだし、ハルカちゃんたち一家やミツル君も呼んで一緒にクリスマスパーティーでもしようか、ということになった。

 

 

 * * *

 

 

 という経緯があって今に至るわけだが。

 

「うーん、人数が凄い」

「何人いると思ってるのよ……」

 

 炬燵に潜ったままのエアが間伸びした声を出す。

 凄く気持ちよさそうな顔しているなあ、と思いながら炬燵の中で足を擽りたい衝動を抑える。

 この前それやったら腹パンされて三十分くらい悶絶していたので、さすがにあれをもう一度は遠慮したい。

 

 シアの作ってくれた鶏の揚げ物を摘まみながらさてどうしようか、と考える。

 

 そうしてふと周囲を見渡してみれば、ルージュの要望であった食堂(正確にはご飯時くらい全員で食べれるようにしたい)でいくつかのグループが出来ていた。

 

「ふむ……何話してるんだろう?」

 

 うちのパーティは基本的にみんな仲が良いが、それでもそれぞれ個別に過ごしていることが多い。

 チークとイナズマが例外、と言えるようでいて、実は出かける時以外チークもイナズマにべったりというわけでも無い。

 そういうわけで、ああやって数人でグループを作っているのを見ると何を話しているのか気にもなる。

 

「行って見れば~?」

 

 炬燵の中で蕩けながらエアが告げ、なるほどと頷く。

 

「そうだね……ちょっと行ってみよう」

 

 空になったグラスを片手にまずは台所に向かった。

 

 

 

 * コミュニケーション【シア/ルージュ/ノワール/アクア】 *

 

 

「あ、ハルトさん」

 

 台所に入るとすぐにシアが気づいた。

 すっかり台所の主となったエプロン姿の少女に見惚れていると、自身の視線にシアが首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

「いや、何でも無いよ……ていうか、どうしたのここのグループ」

 

 何やら調理をしているシアに、それを横で見ているルージュ。

 ルージュの胸元にはノワールがいる……傍から見れば仲の良い姉弟と言った感じだが、ノワールの首元をルージュががっつり締め上げている辺りが本当にこの姉弟はいつも通りだな、と言ったところ。

 それにさらに珍しいのはアクアである。正直料理とかするようなキャラには見えなかったので台所にいるということ自体に何かもうすでに違和感を感じる。

 

「何やら失礼なことを考えておらんか、主」

「いや、別に? ただアクアって料理とか興味あるの?」

 

 そんなことを尋ねる俺に、アクアがジト目で見つめる。

 

「失礼なやつめ……ワシを何だと思っとる」

「いや、だって……こう、もっとワイルドなキャラに見える」

 

 正直調理なんてせずに素材そのままバリバリ食べてそうなイメージがある。

 そんなことを言えばアクアが嘆息し。

 

「そりゃ、昔はな……野生じゃったし、それに人の文明もそれほど発達しとらんかった。だけどまあ今は違かろう? 人はもうワシじゃ想像もできんほど群れを大きくした。理解も追いつかん物を多く作った。言うなれば文明が大きく発達したんじゃ。そうなれば見たことも聞いたことも無いばかりで、興味だって出てくる」

 

 言われてみれば、アクアは『ゲンシの時代』からずっと現代に至るまで眠っていたのだ。

 言うなれば浦島太郎のような感覚なのだろうか?

 寝て起きてみれば世界が一変しているというのはどんな気分なのだろうか。

 

「まあ何より……どうせ食うなら美味いもんが食いたい。そう思うのは自然なことじゃろ?」

 

 少しばかり考えさせられた自分に、けれど空気を一変させるようににかっと笑ってそう告げるアクアに、思わず苦笑して。

 

「そうだな……美味しい物のほうが良いよな」

 

 告げながら視線を向けて。

 

「というわけで、シア。何作ってるの?」

 

 先ほどから忙しそうにフライパンで何かを炒めているシアに声をかける。

 近づいて中を見やり。

 

「これ……きんぴら?」

 

 ゴボウとニンジンを炒めている。そこに小さく切った唐辛子を入れ、さらに味醂や醤油で味を調え最後にゴマを振る。

 出来上がった熱々のそれを小鉢にのせて。

 

「できましたよ」

「おお! 待っとったぞ」

 

 早速と言わんばかりにどこに隠し持っていたのか、おちょことトックリを取り出し、こぽこぽと透明な液体が注ぐ。

 箸で小鉢に盛られた艶々と煌めくきんぴらを摘まみ、ぱくりと一口。

 そうして逆の手に持ったおちょこをぐいっと一息に飲み干し。

 

「く~~~~~! たまらんなあ!」

 

 酷く幸せそうな笑みを浮かべて、唸った。

 

「……美味しそうだな、それ」

 

 因みにパーティ会場である食堂では普通に他の料理も並んでいる。

 鶏のから揚げだとか、山盛りのポテトフライだとか、パスタやサラダ、変わりどころではフリットなんてのもある。

 基本的にご飯派の我が家だからご飯も当然ながら、バゲットのようなパンも置いてあるし、サンドイッチだって作ってある。

 汁物も洋風のコンソメスープのようなものからコーンポタージュ、クリスマスっぽくないが味噌汁まで。

 

 全部シアの作ったものである。

 

 数日かけて仕込んでおいたらしいが、本当にそれ全部一人で作ったらしい。

 本人曰く、普段から家族全員分(十五人)の食事作ってるのだから、そこに十人前後増えたところで別に問題無い、ということらしいが。

 

「なんか、どんどん家事スキルが上がってくね……シア」

「ふふ……長くやってますから。それに……」

「それに……?」

「あ……いや、何でもないですよ」

 

 言葉を濁したシアに問い返せば、何故か頬を赤らめて首を振る。

 はて、と一瞬疑問に思った隙に、シアが出来上がったきんぴらを皿に盛って食堂のほうに持って行こうとし。

 

 ―――アナタに、食べて欲しいですから。自然と上達しましたよ。

 

 すれ違い様にぼそりと、耳元で囁かれた声に硬直した。

 そんな自身の様子に気づいたアクアがどうしたと声をかけて。

 

「え、あ……いや、えっと。何でもない、うん、何でもない、よ?」

 

 今絶対に自分の顔赤いんだろうなあと自覚しながらぶんぶんと手を振り。

 空になったコップを見て用事を思い出し、そそくさと冷蔵庫に向かう。

 開ければ綺麗に整頓された冷蔵庫の中身、シアが毎日小まめにやっているらしい。

 何か日に日に頭が上がらなくなっているような……そんな気がした。

 

「……で、ルージュは何やってんの?」

 

 実の弟の首を絞め挙げているルージュに声をかければ、こちらへと視線を向けて。

 

「お仕置き?」

「なんで疑問形?」

 

 ところでノワールが今にも死にそうな顔で……いや、仮面つけてるから本当にそうなのかは分からないが、全身を痙攣させながらギブギブと腕を叩いているが、良いのだろうか?

 

「発情するなら、せめて、場所を、選べって、ことよ!」

「あ~! あぁぁ~~~!!!」

 

 喉を押しつぶされて声も出せない様子でもがくノワールに、ルージュがさらにギリギリと締め上げて。

 まあいつものことか、と納得する。

 ノワールはトレーナーであるハルカには非常に忠実なのだが、それ以外に対して割と問題、というか軽視している部分がある。

 ゾロアの頃は大人しく、気弱な少年だったのだが、ゾロアークに進化した途端そうなってしまった。

 まあ割とこの辺のことは良くあることであり、幼少の頃から共に過ごしていたはずのポケモンでも余りにも『統率』能力が低いと途端に言うことを聞いてもらえなくなる、といった話も多い。

 進化するというだけでそれ以前よりも確実に気位は高くなるし、それを御すのもまたトレーナーとしての能力である。

 

 残念ながらハルカちゃんにそういう能力は足りていないらしい。

 正確には『自分の指示』を聞かせることはできるが、御せているわけでも無い、というべきか。

 

 なので本来ならば周りとの軋轢を生む可能性が高いのだが。

 ノワールが問題を起こしかけるたびにルージュがやってきて蹴り飛ばし『折檻』していくので、決定的な問題にはなっていない。

 ノワールも昔からずっと一緒だったルージュには弱いらしく、抵抗らしい抵抗もできないままに『お仕置き』されている。

 そう言った経緯もあって、自分の手持ちから離れた後も、ルージュはちょくちょくミシロにやってくるし、やってきた時はうちで一緒にご飯だって食べて帰ることもある。

 

「懲りないね、ノワールも」

「全くだわ……ちっとは、こいつも、凝りなさい!」

「ぐえええええええ」

「まあ……お疲れ様」

 

 労いの言葉をかけながら、苦笑してそのまま立ち去ることにする。

 

 台所を出れば食堂で楽しそうな声があっちこっちから聞こえて。

 

 

「さて、次はどこに行こうかな?」

 

 

 クリスマスの夜はまだまだ終わらない。

 

 

 




・新居に対する各自の意見

エア→高い部屋が良い。それと寒いのは絶対ノー。
シア→台所と水回りを広くしてくれると嬉しい。あと暑いのはできればノー。
シャル→夜真っ暗なのは怖いからノー。できれば明るい家で……。
チーク→楽しそうな家。からくり屋敷とか良いんじゃないですかね???
イナズマ→作業部屋みたいなの欲しい、ミシンなど音が大きいものもあるので防音がしっかりしていて欲しい。
リップル→温水プールとか欲しい……欲しくない???

ルージュ→ご飯の時くらいはみんな一緒に食べたい。
アース→体が鈍るから暴れる場所が欲しい。
サクラ→にーちゃといっしょがいい!
アクア→ベッドより床に寝たい。あと部屋は暗いほうが良い。

オメガ→このクッションがあればオレは他に何もいらない……。
アルファ→何でも良いよ? こっちも好きに作るから、土地だけ貸して?




この濃い十二人の中にさらに主人公+両親+シキ+オダマキ一家(3人)+ミツル君
さらにハルカの手持ち(マギー、ノワール、クレナイ)とミツルの手持ち(サナ、エル、ヴァイト)で全員合わせて26人(匹)!!!

え? ぼんぼん? 他のやつらも?



書ききれるかあああああ!!!

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