* コミュニケーション【マギー/シャル】 *
「……あれ?」
そう言えば先ほど駆け出して行ったばかりのシャルが戻ってきていないことに気づいた。
視線を彷徨わせる。調理場のほうでは相変わらずシアたちが何か作っているし、視線をずらせばテーブルの上でチークが踊りながらハルカちゃんがそれを囃し立てている……何をやってるんだあいつら。
イナズマはいつの間にか持っていた紙とペンで何か書いているし、リップルがそれを見ながら何やら意見を言っている。
サクラとアオバは……見なかったことにするとして、父さんたちもまた暖炉の前でまだまだぐだぐだしている。
その隣ではシキと母さんが何か話しているし、コタツのほうを見れば相変わらずエアやオメガ、いつの間にかアースやアルファも混ざっていて……。
「マギーは?」
あの特徴的な黒づくめに気付かないはずも無いし、ということは今この食堂に居ないらしい。
どこにいるのかと考えながら食堂の入口へと向かい。
『……そうか』
入口の扉の外側から聞こえる声に、足を止めた。
何を話しているのだろうかと少しだけ興味を持つが、けれど聞こえる声色からして真剣な話らしい。
誰と会話しているのかと考え、今ここに居ないやつなどシャルだけだ。
「止めとくか」
シャルとマギーの関係性は少しばかり複雑だ。
今となってはシャルは俺の仲間だし、マギーもまたハルカちゃんの仲間だ。だから全て過去の話と言えばそれまでだし、野生時代のポケモンの行為というのは少なくとも捕獲された時点で意味が無くなるので他人がどうこう言える話でも無い。
ただ当事者同士の間だけには何か思うことがあるのかもしれないし。
「……嫌がってる感じではないな」
険悪な様子でも無さそうだったし、ならば自分が勝手に介入できる話でも無いと判断する。
「それにしても、さっきからあそこで何話してんだあの二人」
それ以上に気になるのは、視線の先。
仲良く喧嘩する父さんとオダマキ博士のいる暖炉の傍で二人から距離を取りつつ話すシキと母さんである。
「また変なこと言って無いと良いんだけど」
悪い人ではないのだが、少しばかり気が早すぎる母さんが余計なことを言っていないのか、少しばかり心配しながらそちらに向かうことにした。
* * *
「……そうか」
そう言って嘆息するマギー。
その一方でシャルもまた片手で顔を覆いながら息を吐く。
「あの藁人形が何だったのか……は、ボクには良くわからないけど……でも、あれが無くなって、それで……ようやく、終わり、なんだと思う」
歯切れ悪く告げる言葉だが、けれどシャル自身確信の持てない話だった。
けれど、それでも、マギーは頷き。
「なら……それで良し、としようか」
「……良いの?」
顔を上げ、思わずと言った様子で問うシャルの言葉に、マギーが頷く。
「私より、キミのほうがそう言ったことに
それは単純に性質の問題ではあるが、確かにシルクハットの男、マギーよりかはシャルのほうがより良く感じ取るだろうし、より深く知ることができることは間違い無かった。
「もうこれ以上あんなことが起きることが無い……それだけ分かれば私は良い」
「……うん、分かった」
目の前でトレーナーを失う。
そんな経験をした男は深く息を吐いた。
そんな想像をした少女は背筋を震わせながら頷いた。
「……ふう、いやはや、なんとも」
何も思うところが無いわけでも無い。
だからと言って、今更何かを言い出すのは……本当に今更過ぎる。
終わってしまった過去を今更のように掘り返して誰も幸せにならないのは互いが良く分かっていて。
―――だからいつもいつもシャルとマギーの会話は何も生み出さない。
結論に達することすらなく、半ばで切り上げる。
突き詰めない、終わらせない、はぐらかす。
決して忘れたわけではないけれど。
シャルが過去に何をしたのか、マギーが何をされたのか。
それを互いに忘れたわけではないけれど。
最早それについて言及するには七年の時間は余りにも長すぎて。
だから、告げない、言わない、突き詰めない。
「それじゃあ、私は戻るよ」
「……うん」
それ以上告げれば、言ってしまえば、突き詰めてしまえば。
「…………」
いつの間にか風化してしまった思いを自覚してしまうから。
自覚させれば心の底から許されてしまうから。
だからお互いに何も言わない、言い過ぎない。
そんな惰性のような傷の舐め合いをいつまでも続けていた。
割り切ることのできるようになるその日まで。
振り切ることのできるようになるその日まで。
* コミュニケーション【シキ/お母さま】 *
「だからね、その時お父さんに言ったのよ」
「はあ」
「そしたらね、お父さんてばね……」
「はあ」
「でもやっぱりその時はそれで……」
「はあ」
困ったような表情でシキがお母様の言葉に淡々と頷いていた。
声をかけると巻き込まれる、とは思っているのだが放って置いても後で絶対に絡んでこられるんだろうなという経験的予測があるので、嘆息しながら自ら向かう。
「母さん、シキが困ってるよ」
「……ハルト!」
「あら、ハルくん」
視線を向け、自身を認めた途端にぱぁ、と顔を輝かせるシキ。多分母さんから逃げられるのが嬉しいんだろうなあ、と予想しながら苦笑した。
ちょっと飲み物取ってきますと言って逃げ出したシキを横目に見ながら母さんのほうへと向き直り。
「あんまり急かさないでよ」
「何よ、ハルくんがいつまでもシキちゃんに手を出さないからでしょ」
「いや、まずまだ告白すらしてないのに」
カイオーガと戦う前に告白はされたが、自分はそれに対してちゃんとした答えを返すことはできていない。
「良い子だからって、いつまでも変わらないなんて、思っちゃダメよ?」
「それは……分かってる、うん」
ミシロに引っ越してきて、同じ日々を一緒に過ごして。
シキに対する気持ちはもう明確なくらいに自覚していて。
だから、いつまでも引き延ばしていてはならないと理解している。
ただ。
「なんかこう……きっかけみたいなのが無くて」
基本的に自分もシキもミシロから出ることも無いし、狭いミシロの中でそういうムードのようなものを望むのはまず無理だ。
例えシキの家で二人きりになってもどこからともなく近所の子供の声や奥さんの噂話が聞こえてくるようなド田舎なのだ。
そんな中で告白するとか、シキだって嫌だろうし、俺だって嫌だ。
「全く……そういうところだけ弱気なのお父さんにそっくり」
―――ぐふっ
―――センリ君?! いきなり吐血してどうしたんだい、気をしっかり持つんだ、センリ君!
「……申し訳次第も無い」
どこかで父さんが血を吐いたような気がするが、きっと気のせいだろうと思う。
しゅん、と項垂れる俺に、母さんが嘆息し。
「良い? ハルト。男の子はね、待ってるだけじゃダメなの。女の子の手を引いて攫って行ってあげるくらい行動的にならないと」
「……そ、それは、ちょっとハードルが」
多分自分の手持ちにならできる……が、シキは人間である。
エアたちとて別にポケモンだから、と言うつもりは無いが、それでも根本的にエアたちは『身内』なのだ。恋人云々以前に最初から家族だから、だから遠慮することなく踏み込むことができる、が。
シキは元々が他人だ。それが偶然の出会いから縁が繋がって今までやってきた。
だからこそ、尻ごみしてしまう……シキのほうへと踏み出すことを躊躇ってしまう。
「ダメ! お父さんに似て、弱気の上に奥手なんだから、今すぐここで誘うくらいの気概を見せなさい!」
―――ごはぁぁ!
―――せ、センリくぅぅぅぅん!!!
「……い、今?!」
「そうよ」
「い、いや……その、さすがに今この場では」
「……何が?」
「いや、だから……って、うわ!?」
聞こえた声に振り返り、そこにシキがいることに慌てて数歩下がる。
そんな自身の態度に不可思議そうなシキだったが、視線を母さんに一瞬向けて。
「シキちゃん、ハルくんがね、シキちゃんに言いたいことがあるんだって~」
その一瞬を逃さず視線を合わせて告げる言葉にシキが首を傾げて再びこちらを見つめ。
「え……あ、その、その、えっと」
視線を逸らし……た先にジト目のお母様がいて。
再びシキへと視線を向けて、一瞬躊躇い。
こくり、と唾を飲みこむ。
大きく息を吸って、ゆっくり吐く。
「その……ね、シキ」
ちゃんと言わなければならないことなのだと分かっている。
今の今までズレこんだのは結局、自分が情けなかっただけの話で。
だから、吐き出した息と共に弱気も吐き出すように、しっかりと吐いて。
再び吸う。
一瞬だけ、息を止めて。
「今度、一緒にでかけない?」
少しだけ震える言葉で、そう告げた。
* コミュニケーション【エア/アース/オメガ/アルファ】 *
「エア、ちょっと寄って」
「あ~? おかえり、はる~」
コタツに潜ってすっかり蕩けたエアの横に座って入る。
見やれば他にもアースに、オメガが同じように蕩けて机に突っ伏し、アルファに至ってはうつ伏せになってすやすやと眠っていた。
「は~あったか」
「あったかいわね~」
炬燵の天板の上に置かれたカゴに詰められた果物を一つ取る。
ポケモンフーズなどにも使われる『きのみ』だが、人間が食べることのできるものも実はそれなりの数ある。
と言っても、一部極めて辛いものや苦い物、非常に硬い物などどうやったって人間の食べれる範囲の物じゃないようなものもあるが。
「甘い」
「んー、ハル、私にも一つ」
別に食べたいわけじゃなかったのだが、目の前で食べられると何故か自分も食べたくなる……あると思います。
とは言った物の、カゴの中を見やればこの種類は今取ったのが最後だったらしい。
他のも無いことは無いが……。
「はい、あーん」
「ん……あ~ん♪」
まあいいか、と結論付けて少しだけ食べた『きのみ』をエアのほうに差し出せば何の躊躇も無くエアが食べる。
普段なら絶対にやらないのだろうが、どうやら今現在思考まで蕩けてしまっているらしい。
恐るべき炬燵の魔力ということだろうか。
「うへへへ」
アースも突っ伏したまま眠っているのか、普段は見せないようなニヤケた表情で涎を垂らしている。
あの全体的に丈の足りない服装で寒くないのだろうか?
上半身はコタツから出ているので普通に寒いと思うのだが……。
「んー、仕方ないかあ」
出たくはない、出たくはないが、仕方ない、仕方ないと二度呟いてコタツを抜け出し、片隅に置かれた衣装棚からブランケットを取り出す。
まあコタツで寝る奴なんて毎日のようにいるので、こういうこともあろうかと、とシアが用意してくれたのだ。
相変わらず用意周到というか、何と言うか……まあ助かっている。
「アースは……良く寝てるな」
アースの肩にブランケットをかけてやる。
深く寝入ってしまっているのか、それで起きる様子は無い。
元の住処が住処だけに、寒いのにもある程度耐性はあるらしいが、それでも十二月の寒さは厳しいらしい。冬になってからはすっかり大人しくなってひがな一日呆としていることが多くなった。
だからこうして寝顔でも笑んでいるのを見ると少しだけ安心してしまう。
「……こいつは、いいか」
コタツに入ってまで『ダメになるクッション』を離さないオメガは……まあ大丈夫だろう、伝説のポケモンだし。ゲンシカイキすれば『ほのお』タイプになるくらいだし。
それから。
「こいつも完全に寝入ってるな」
くーくーと小さな寝息を立てるアルファを見やり、嘆息する。
温泉と言い、コタツと言い、伝説のポケモンの尊厳というものがこいつらには無いのだろうか。
完全にコタツ布団の中に潜ってしまっているのでこいつにはブランケットも必要無いだろう。
そうしてエアの隣へと戻ってきて。
「ほら、エア……風邪引かないようにこれ」
「んー……あ~、ありがと……」
ブランケットを渡してやると、ゆったりとした声で返事が返って来る。
もう眠そうだな、なんて言っているうちにうつらうつらとエアが机に突っ伏し。
「……くぅ」
寝息を立て始める。
「本当はダメなんだけどなあ」
コタツで寝ると風邪を引く、というが。
まあポケモンだし案外大丈夫なのかもしれない。
というか……。
「俺も眠たくなってきた……」
パーティ料理をたくさん食べて。
みんなでいっぱいお喋りもして。
ちょっと息抜きにコタツで一休みしてればそれは眠たくもなる。
「……ふぁあ」
欠伸を一つ。
隣に眠る愛しい少女に手を伸ばし、そっとその頭を撫でる。
「ん……ん~……」
触れるその手をどう思っているのか、分からないけれど、少しだけ笑んだその意味を都合の良いように解釈することにして。
「……エア、おやすみ」
ブランケットを羽織って、瞼を閉じる。
コタツの熱がじんわりと体を温めていき。
そうしてゆったりと、微睡みの中へと意識は落ちていった。
アルバハHL自発クリア!!!!!!!!!!!!!
してたら軽く徹夜で書くハメに……。
因みにグラブル、フェス期間中に200回ガチャ回して金月6のメドゥ石。
それだけ。
それだけだよ!!!!!!!!
なんでSSRどころかSRやRキャラの解放すら一回も無いんだよ!!!!!
確率は狂っている、だがもう良いのだ。
アルバハHLが楽しすぎてもう全ては許されたんだ……。
あ、因みにこれでクリスマスドールズ終わりです。