番外編です。
というかIF編です。
【もし】【擬人化設定無かったら】というIF。
いつだって彼女は俺の隣にいた。
五歳の時、親の都合でホウエンへと引っ越してきた時に出会ったのは彼女との最初の出会い。
それから色々あって、十日ほどホウエンを旅してかつての仲間を集めたりしたが、それはまた別の話として。
それからずっと幼馴染として、親友として、共に遊び、時に学び、寄り添いながら生きてきた。
俺の隣を見やればいつだって彼女はそこにいて。
それが余りにも当たり前のことで。
だからこそ、なのだろうか?
余りにも共にいることが当たり前になり過ぎて、逆に彼女のことを意識していなかった。
―――二人は恋人なの?
と、何度か友人や家族に尋ねられたことがあったが、その度に俺は親友だ、と答えてきた。
実際そうだったし、今でもそうだ。彼女に対して自分はかけがえのない親友だと思っているが、けれど同時にそれ以上の感情を抱いていなかった。
そうして十年経って、友人たちが次々と結婚しだす。
母親は触発されて早く結婚して孫の顔を見せてね? と言い出すし。
父親はお父さんを残して行かないでくれ、と泣きながら懇願してくるし。
この世界は十歳が成人だから、結婚といったことに対する意識も前世よりも随分と早い。
ただ俺も、彼女も。
夢があった。
子供らしく、キラキラとした夢があった。
目的があった、それをしなければこの先とんでもないことになる、だから、しなければならない。
それだけの話だが、それがとんでもなく大変で。
十二歳の時にその目的は達せられたのだが、物語のようにそれでめでたしめでたし、とはいかないのが現実というもので。
一つ終えればまたその次が。
次の目的、次の夢、次の希望。
そんなものが芽生えてくる。
がむしゃらだった昔とは違い、多少の余裕もあったが。
けれどそういう性質だったのだろう、俺も彼女も。
自身が描いた夢のために一心に走った。
そうすると時が経つのは早いもので。
気づけば俺も彼女も、二十を超えていた。
先も言ったがこの世界において恋愛や結婚というのは前世よりも随分と早い。
周りの友人知人もみな、十五、六。遅くとも十八までには結婚して家庭を作っていた。
振り返ってみて、自身に果たしてそんな付き合いのある異性がいただろうかと考えて。
誰も居なかった……。
それを寂しいと思う反面、自身の夢のために突っ走ってきたここ数年を後悔していないことも事実だった。
けれどふと振り返ってみて……昔願った自身の夢はけれどすでに半ばまで達せられた今を振り返ってみて。
少しだけ、ほんの少しだけ、夢から醒めたような気分で自身を振り返ってみれば。
隣に彼女がいた。
初めて会って、十五年以上経って。
それでもまだ、彼女は隣にいた。
別々の夢を追いながら、けれど俺たちは一度として離れることなく寄り添い続けた。
愛でもなく、恋でもなく。
一度どしてそれ以上の好意を抱くことも無く、けれどそれでも親友未満になることも無くずっとずっと俺たちは一緒だった。
今でも好きだ、ただしそれは友達として、異性としてでは決して無い。
可愛いと思う、でもやっぱり友達以上には見れない。
けれど自身の周りは次々と結婚してしまい、出会いも無く。
唯一自身の周りにいる異性と言えば彼女しか残らないのもまた事実で。
ある日。
流星の降る七月のある夜。
自宅の屋根で彼女とそんな星空を見ていた。
十年ほど前にも同じようなことがあったね、と二人で話ながら。
ふと、思いついてしまったのだ。
「ねえ……ハルカちゃん」
自分でもそれまで一切気にもしていなかったはずの選択肢。
絶対あり得ないと思っていた選択肢が。
「俺と結婚する?」
ふと、漏れた。
* * *
―――あの子とどうなの?
そんなことを何度か母親に聞かれたことがある。
―――そっか、ハルカももうそんな年頃かあ。
そんなことを父親も呟いていた。
いつも一緒な彼のことを両親はお互いにそういう関係であると思っていたらしい。
では実際のところ彼のことをどう思っているか、と言われると。
親友、としか言いようが無かった。
出会ってから十五年以上経つが、けれどその感情は変わらなかった。
周りのみんなが恋愛して、結婚して、家庭を作っている横で、私と彼は夢に向かって一心不乱に走っていた。
―――俺たち似た者同士かもね。
そんな風に笑う彼が好きだった。
でもその好きは決して異性としてのそれではないこともまた分かっていた。
恋人どうしでやるようなことを彼とやる、と想像しても。
想像できてしまう、だがそれでもそこに意味が見いだせない。
ドキドキもしないし、気恥ずかしくなるようなことも無い。
もしかすると怖いのかもしれない、と考えたことがある。
彼は私にとって唯一と言っても良い『理解者』だったから。
一番理解してくれて、一番共感してくれて、振り返ればいつだって笑って背中を押してくれる。
かけがえの無い親友であり、何よりの心の支えと言っても良かった。
幼い頃に描いた夢は、子供のちっぽけな空想で思い描いた夢は、実現するためには早々簡単に行くはずも無いことばかりで。
苦しいこともあった、辛いこともあった。
何度も、何度も、心折れそうになって。
でも彼は言ってくれた。
―――大丈夫だよ、ハルカちゃんなら絶対、大丈夫!
いつだって背を押してくれた。
私が描いた夢を、素敵なものだと言ってくれて、一度だって否定することも無く
夢と現実のギャップに苦しんでいた私にとって、間違いなくそんな彼の存在は心の支えだった。
―――辛いなら戻ってきても良い。
そんな風に両親は言ってくれた。私を心配して、辛いなら、これ以上苦しむのが嫌なら、逃げることだって大切だと、そう言ってくれた。
嬉しいと思う、心底心配してくれているのが分かるから、だから嬉しい。
でもそうじゃないのだ。
私は逃げたいわけじゃないのだ。
確かに苦しい、確かに辛い。
それでも私はこの道を選んだ、この夢を思い描いた。
だから貫き通したい。
そんな時に欲しいのは慰めではない、激励だった。
そしてそんな私にたった一人、頑張れ、と。
そう言ってくれたのは彼だけだったから。
だから、親友以上に彼をしてしまうことが怖い。
だって彼は私を親友だと思ってくれているから。
変わってしまうことが怖い、変えてしまうことが怖い。
変わってしまって……唯一の支えを失くすことが、何よりも怖い。
そういうことなのかもしれない、と。
そんなことを考えた。
「俺と結婚する?」
そんな全くの不意打ちに。
「ん、いいよ?」
何も考えること無く答え、直後に疑問が出た。
「……え?」
「……え?」
何よりも、私に向かって問いかけた本人が一番不思議そうで。
「……ぷっ、ハル君が言ったんじゃん」
思わず噴きだした私に、彼はバツが悪そうに頭を掻いた。
* * *
―――こうしてハルカちゃんと結婚することになった。
軽く答えられたが、さすがに大事なことなのでもう一度ちゃんと尋ねてみたが答えは変わらず。
「ハル君こそ、私で良いの?」
逆に問われて困惑する。
だってプロポーズしておいてなんだが。
異性だと知ってはいる、知ってはいるがそういうことを彼女としたいと思わない。
勿論嫌いなわけじゃない、というか大好きだ、親友だ。
それでも、やはり親友なのだ。
でもやっぱり。
「俺の隣に誰かいてくれるなら……ハルカちゃん以外なんて考えられないから」
そんな俺の答えに、彼女が一瞬目を丸くし。
やがて笑う。
「私も、同じこと思ってた」
似た者どうしだね、なんてどこかで聞いたような言葉を告げながら笑う。
そう言われてしまうと何だか気恥ずかしさのようなものがあって、頬を掻く。
「父さんたち、驚いてたね」
「あはは……そうだねえ」
結婚する、とお互いの両親に報告した時はそれはもう凄かった。
母親たちは目を点にして固まるし、父親たちは驚きの余りひっくり返った。
そうして四人に親たちが最終的に言ったのが。
―――ようやくか……まあおめでとう。
という喜んでいるのか呆れているのかよく分からない表情での祝いの言葉だった。
お互いに話し合い、結婚式というのはしなかったため、お互いの名前を書いた用紙を一枚、役所に届けるだけ。
たったそれだけのことで、俺たちは『家族』に、或いは『夫婦』になった。
なったのは良いが。
「これ、何か今までと違うの?」
「……さあ?」
フィールドワークや研究などでほとんど家に帰らない彼女は普段から仕事場により近い俺の家に泊ることも多く、俺の家は半ば彼女とのルームシェアと化している部分があった。
結婚を期として彼女の家から荷物を運び、同居することとなったのだが。
普段と何一つやっていることが変わらないことに思わず疑問がついて出た。
「夫婦って……何するものなの?」
「えっと……一緒に暮らす、こととか?」
炊事、基本的には家にいるのことの多い俺。彼女が休日の時は彼女がやってくれる。
掃除、基本的に互いに必要以上に物がないので、お互いの私物はお互いの部屋だけで完結しており、後は簡単な掃除で済むので手間が無い。
洗濯、基本的に二、三日ごとに一緒くたにして回している。別に親友の下着に興奮するわけでも無いし、これまでもずっと一緒に洗って干しているので今更どうこうということも無い。
就寝、二部屋ある内の片方ずつをお互い使っているので基本的に寝る時はそちら。
「何も変わらないね」
「そうだね」
嘆息する。
結婚と言ってもこんなものか、と。
別に何かを期待していたわけでも無いのだが、それでも何か変わるのかもしれないと予感していた。
だから何も変わらないことに少しだけ肩透かしを食らった気分であり。
「っと、そろそろ仕事だった」
慌てて支度をし、玄関へとたどり着く。
「それじゃ、行ってきます」
何気なく呟いたその一言に。
「うん、いってらっしゃい」
満面の笑みでそう答えた彼女がそこにいて。
「「…………」」
思わず互いに黙り込む。
おかしい、と思う。
何気ない挨拶だ。
だってこれまでだって何度も何度もあったはずのことで。
気づけば、少しだけ頬の赤い彼女を見て。
彼女もまた、きっと赤くなっているだろう俺を見て。
「「……っぷ」」
互いに笑った。
なるほど。
何か、変わったのかもしれない。
そんなことを考え。
手を振って、玄関を飛び出した。
それは愛でもなく、恋でもなく。
それでも二人だけの何かが確かにそこにあって。
やがてそれは、愛や恋と呼ばれる何かになるのかもしれない。
というわけで仕事中のふとしたい思いつきです。
本編はもうちょい待って、正直今絶賛スランプと言える。
この話はドールズから【擬人化】抜いたら、というIFストーリー。
基本的に擬人化ポケモン可愛いで始めた小説なので、本編におけるヒロインというのは擬人化ポケモン以外にあり得ないわけだが……シキちゃん? あの子唐突にどこかから生えてきた子だから。
ハルカちゃんは最初からヒロインにするつもりがありませんでした。
とは言え親友ポジではあった。
でも擬人化設定抜いたら逆にヒロイン不在になるので、つまりそれって原作ORASみたいなもんだよね。
ていうわけで、ハルカちゃんがヒロインになる。
ただドールズ時空において、ハルト君とハルカちゃんがお互い全く意識してないというか完全に親友ポジで見てるので、多分こういう展開になるんじゃないかなあっと。
因みにこれバレンタインのネタである(3日遅れ)。
ただドールズでバレンタインやるとシアちゃん一人勝ちしてしまうので、代わりにちょっと甘い話にしといた。
まあ夜にベッドの上でチョコ咥えて迫って来るシャルちゃんとかも妄想したけど、それは妄想の中だけに留めておく。