ポケットモンスタードールズ   作:水代

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お、お久しぶりです(震え声

し、しかたないんや……オリジナルファンタジー物が書いてて楽しすぎるのが悪いんや。


チャンピオンリーグVSミツル②

「戻れサナ!」

 

 バトル前から何度も何度も考え、幾通りも試案した展開。

 だからこそ、その動きはスムーズだった。

 ここで交代すると()()()()()()()()()から。

 入れ替わりに出てくる紫色の少女にその判断が正しかったことを理解する。

 

「行って! カトリ!」

「キィィィェェェ!」

 

 交代出ししたのはファイアロー。

 師匠が……チャンピオンが出したのは()()()()()

 だからこれで良い。

 このバトルにおけるファイアロー、カトリの役割はこの少女を倒すことなのだから。

 出現と同時に少女の足元から伸びる影。それを振り払うようにカトリが素早く飛び立つ。

 

「いっけえええええええええええ!!!」

 

 絶叫するような自身の声に反応するかのように、上空から急降下する。

 

 “はやてのつばさ”

 

 “ブレイブバード”

 

 “ソニックバード”*1

 

 速度をそのまま威力へと繋げる技巧。

 ファイアローという非常に素早いポケモンの放つそれは。

 

 “かざぎりばね”*2

 

 ()()()()()()()()()()()()穿()()

 

 ―――きゅうしょにあたった!

 

 荒れ狂う嵐がごとき暴威に少女が目を見開く。

 それでも反応しようとその手に漆黒の炎を生み出すが、それを撃ち出すより早く疾風の翼が少女を打ち据え、吹き飛ばす。

 

 ドォォォォォォ―――。

 

 壁際まで吹き飛ばされた少女が、それでも立とうと震える体を起こそうとするが。

 

「戻れシャル」

 

 直後にトレーナーの判断でボールに戻される。

 今ので……恐らく『ひんし』になったと判断する。

 同時に僅かな安堵。師であるチャンピオンの手持ちポケモンたちについて、きっと自分は他の誰よりも知っているだろう自信がある。

 

 だからこそ、あのシャンデラ……シャルという名の少女を下手に残せば、それだけで問答無用で敗北する可能性があることを理解していた。

 

 あの可愛らしい外見とは裏腹に、びくびくとした臆病な態度を裏切るかのように。

 たった一体でパーティ六体を壊滅に追い込むことができる最凶のポケモン。

 それがあのシャルという少女だった。

 

 とは言えどうにか最低限の被害で倒すことはできた。

 試合前からあの少女をどうやって倒すかというのが何よりの課題だったのだ。

 故に考えた。考えた末思いついたのがこの展開だ。

 

 グレンという型の広いポケモンを出せば安全策を取って交代するだろうことは予想できた。

 交代先はいくつか候補はあったが、エースであるボーマンダや強力なアタッカーであるガブリアスの存在を考えれば『れいとうビーム』を警戒してのグレイシアかヌメルゴンだろう。

 そこに『みがわり』状態の押し付け、一手先んずる。

 当然邪魔な『みがわり』を剥がそうとして攻撃をしてくる。

 

 自分は知っている、師匠のポケモンのことならば他の誰よりも知っている。

 

 グレイシアならば『こおり』技しか無いし、ヌメルゴンは『だいもんじ』か『りゅうせいぐん』の二択だ。

 それ以外の技では『みがわり』を突破できない以上、必ずこれらの選択肢になる。

 とは言えゲッコウガという『みず』タイプのポケモン相手に『こおり』タイプを出してくるだろうか?

 

 元々師匠、チャンピオンのハルトは『読み』が深いタイプのトレーナーではない。

 とは言えエリートトレーナーとしては及第点レベルではあるのだが、それでも『読み合い』でならば競り勝てるタイプではない。

 だからこそその指示は実直であり、ある種単純でもある。

 トレーナータイプのような迂遠な真似はしない。必ず正面から突破しようとする。

 

 故に来るならきっとヌメルゴンだと思っていた。

 そして『こおり』タイプと化したゲッコウガ相手に『だいもんじ』、これが安定手……ではあるのだが。

 初手でヴァイトを見せることでここで選択を突きつける。

 『だいもんじ』と入れ替えでヴァイト。この選択を突きつけられれば一気にピンチとなる。

 ヴァイトの高火力は初手で見せつけている、誰と入れ替えても厄介でしかない。

 ガブリアスであるヴァイトの主力技は『じしん』か『げきりん』になるが、これが突き刺さる相手が師匠のパーティには多すぎる。

 故にヴァイトの可能性を考慮してどちらでも良い『りゅうせいぐん』。

 

 勿論ここまで読んだかどうかは分からない。ただ無意識にでもヴァイトがちらついたならばここは『りゅうせいぐん』だろうと読んだ。

 最悪『だいもんじ』でも『みがわり』が壊れるだけの話だ。

 そしてサナ……メガサーナイトならば強引にでもヌメルゴンを突破できる。ヌメルゴンにまともな物理技が無いのは知っている。確かに圧倒的な『とくぼう』能力だが、サナだって飛び抜けた『とくこう』がある。

 

 そして訪れたのは最良の結果。

 

 サナが無償で場に出ることができ、しかも『みがわり』も残った。

 

 そうすると師匠の取れる選択肢は一気に狭まる。

 能力値を上昇させていたとしてもサナの圧倒的火力を受けきるにはアタッカーには辛いものがある。

 特に師匠のメインアタッカーには『ドラゴン』タイプが非常に多い。

 サナの特性を乗せた『ハイパーボイス』はさぞ痛いだろう。

 

 故にここにおいて師匠の選択肢は一つしか無くなる。

 

 『みがわり』が無ければ、或いは七割と言ったところだろうが、『みがわり』があるならば十割の確率でシャンデラを出すと確信していた。

 何せあのシャンデラの特性は『すりぬけ』だ。

 『みがわり』を盾に強引に一撃を加えようとするこちらに対して『みがわり』を無視して一撃で落としに来る。

 

 こちらの積み上げた全てを崩す一手となる。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 結局のところ、あのシャンデラの対処法は三つしかないのだ。

 

 一つは受けきること。前チャンピオンのように最硬の防御を持って受けきり、倒すこと。

 一つは無効化すること。例えば特性『もらいび』などのように技そのものを無効化する。もしくは裏特性などでも良い。

 

 そして最後に攻撃される前に倒すこと。

 

 シャンデラのあの伸びる影はシャンデラより『すばやさ』が高ければ捕まらない。

 そうなれば後は通常の殴り合いだ。最悪耐えられてもそもそも影に掴まっていなければそれだけでシャンデラの炎のダメージは半減される。

 

 とは言え、急所に入ったのは正直運が良かったとしか言いようがない。

 

 さすがに一撃で倒せるかどうかまでは際どいレベルだった。

 カトリ……ファイアローに積める火力は全て積んだつもりだが、それでも理不尽なほどに師匠のポケモンたちは強い。

 

 何度も言うが、師匠は『読み』が深いタイプのトレーナーでは無い。

 だが絆によってその力を限界以上に引き出された強力なポケモンたちが力技でその『読み』の未熟さを覆す。

 そうしてトレーナーの意思を貫き通してきた。

 

 残念ながら自分はそういうタイプのトレーナーではない。

 

 典型的なトレーナータイプ。つまり育成もそこそこ、率いることのできるポケモンもそこそこ、異能だって無いし、技能は幾つか覚えることのできたのは汎用的な物だけ。

 

 読んで勝つ。

 

 自身、ミツルにとって活路はそこにしかない。

 自身、ミツルにとっての武器はそれしかないのだ。

 

 最初から最後まで。

 

 『読』んで勝つか。

 

 『読』めずに負けるか。

 

 その二択しかないのだ。

 

 

 * * *

 

 

 裏特性という奇襲性の高い物があるせいでこの世界におけるポケモンバトルというのは攻撃に偏重しているきらいがある。

 要するにやられる前にやれ。余計なことされる前に倒せ。というのがこの世界におけるバトルの常識なのだ。

 

 なのでフルアタ構成*3も珍しくも無いし、パーティ全員がアタッカーみたいなことも良くある話ではある。

 

 だからこそ、その中で他者より劣るポケモンで勝つ『トレーナータイプ』というのは厄介なのだ。

 

「シャルが……やられたか」

 

 完全に読まれていたと思う。シャルを出してからやられるまでの一連の流れに作為を感じた。余りにも綺麗にやられ過ぎた。まるでシャルをメタっているかのような……いや、きっとそうなのだろう。

 自分でもシャルの完成度、というか詰み性能というのはかなり高いと自負している。

 相手からすれば猶更警戒が必要に決まっている。

 しかも相手は……ミツルはこちらのポケモンのデータを詳細に知っているのだ。

 

 そうなるとこちらの取れる手はさらに狭まって来る。

 

「しまったな」

 

 アクアを出したことを今さらながらに後悔する。

 ミツルが知っているのは旅をしていた頃のデータだ。つまりアクアやサクラなど、旅の後に手に入れたポケモンに関してはデータを知らないのだろう、俺も教えた記憶は無い。

 

 トレーナータイプにとって一番厄介なのは予測できない未知だ。

 

 普通のラグラージならともかくゲンシラグラージなどという前代未聞の存在を予測なんてできるはずも無い。

 何気なく出してしまっていたが、アクアの存在はミツルに対するメタとなっていた。

 そのアクアの体力も心もとない。正直ガブリアスと正面から激突すれば押しまけるだろう程度には。

 

 こちらの手持ちは『チーク』『シャル』『リップル』『アクア』『サクラ』そして『アース』の六体である。

 

 すでに『シャル』は『ひんし』となっているので除くとしても、『チーク』はあと体力半分とちょっとと言ったところ。アクアはもう三割あるかないか、あとの三体はまだ満タン。

 『リップル』は防御性能はともかく攻撃性能はそれほどでも無い。

 

 となるとアタッカーができるのは体力の心もとない『アクア』と『サクラ』そして『アース』の三体。

 

 かなり追い詰められていると自覚する。

 

 特にシャルが一体も落とせずにやられるというのは中々に予想外だった。

 

「……っふふ」

 

 楽しい、素直にそう思う。

 先ほどから笑みが溢れて仕方がない。

 最早勝っても負けても世界がどうなるというわけでは無い。

 ハルトという自身の物語はすでに伝説の脅威が去ると共に終わっている。

 だからこれはあくまで後日談。

 

 ここでの勝敗はホウエンの大勢に何ら影響しない。

 例え負けても世間が少し賑わって、それで終わりだろう。

 あのダイゴですらそうだったのだ。自身だってきっとそうだ。

 

 だからそう、本当にこのバトルには何らしがらみが無い。

 

 師匠と弟子という関係性すら()()()()()()と言える。

 

 ただここには俺というトレーナーと、ミツルというトレーナーだけがいて、戦っている。

 

 ただそれだけのこと。

 

 ()()()()()()()()

 

 素直にバトルを楽しめる。

 

「ああ、なんて贅沢な時間だ」

 

 別に今までのバトルが楽しめなかったとかそういうことじゃないが。

 けれどやはり今までのは少し違うのだ。今まで積み重ねてきたバトルは『伝説の襲来』に備えるためのものであり、そのために『必要なこと』だった。

 

 だから最早それすら終って、ただ一人のトレーナーとして、チャンピオンとして、自身を打ち倒さんとするトレーナーを死力をぶつけ合う。

 

 なんて楽しく、甘美な時間だろう。

 

「最高だ」

 

 この時間がずっと続けば良い。

 そう思う。

 けれどいつか終わりが来ることも分かっている。

 

 それに。

 

「勝敗は大勢に関与しない。 でも、だからって」

 

 呟き、ボールを構え。

 

「負ける気はさらさら無いけどな……なあ、アース?」

 

 ボールから砂竜の王が解き放たれた。

 

 

 * * *

 

 

「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 “とうしゅうかそく”*4

 

 “しゅくち”*5

 

“ファントムキラー”

 

 カトリへ告げる言葉よりも早く。

 【怪物】が咆哮を上げ、一瞬にしてカトリを()()()()()()

 

「……で、た」

 

 予想通り、と言えば予想通りではある。

 

 師匠はあのシャンデラを切り札の一枚と考えている。

 故にそれをあんな風に一方的に破れば。

 

 さらなる全力で押してくる。

 

 そういう直情的な思考が師匠にはある。

 自身のポケモンたちを信頼しているからこそ、そこで一旦引くという選択肢が無い。

 自身のポケモンたちならやれる、やり遂げることができる、信頼するが故にそう考える。

 

 だからそれは予想通りと言えば予想通りだ。

 

 

 ()()()()()()という点を考えなければ。

 

 

「……っ」

 

 唇を噛み締め、必死に思考を回す。

 

 ここが勝負どころだ。

 

 勝敗の分岐路。

 

 勝負の決め所。

 

 ここで勝てればそのまま押し込める。

 

 あの最強のチャンピオンに勝利できる。

 

 けれど。

 

 けれど。

 

 けれど。

 

「どうすれば……」

 

 以前と何ら変わりないはずなのに、どうしてだろう。

 以前を遥かに超える何かがそこにはあった。

 

「グルオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 咆哮一つで世界が震えるような錯覚すら覚えるその【怪物】ぶりに。

 

「……っ!!!」

 

 恐怖すら覚える。

 噛み締めた唇からは血が流れるが、けれど唇を噛むことを止められない。

 

 ()()()()()()

 

 当然だ、あんな怪物の対策をしていないわけがない。

 

 だが、だが、だが。

 

「本当に……大丈夫、なのかな」

 

 不安になる。恐怖に心が苛まれる。

 

 確かに考えた、考えてきた、考えていた。

 

 だが、実際にこうして目の前にすると本当にそれで大丈夫なのかという不安が残る。

 

「それでも……()()()()、だ」

 

 それでも、信じるしかない。

 ただ信じて託すしかない。

 共にこのバトルフィールドに立っていても実際に戦ってくれるのは、自分のパートナーたちなのだ。

 

「『読んで勝つ』か『読めずに負ける』か」

 

 いつだって自分たちトレーナータイプはそれしかないのだから。

 

「やろう……」

 

 ボールを手に取る。

 

「キミたちの王を討ち取れ」

 

 振りかぶり。

 

「ヴァイトオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 投げた。

 

 

 

*1
相手を直接攻撃する技を繰り出す時、自分の『すばやさ』でダメージ計算する。

*2
優先度+1以上の攻撃技を繰り出す時、優先度を0に戻し、下げた優先度分だけ自分の『すばやさ』ランクを上昇させる。この効果は場に出る毎に一度だけ使用できる。

*3
攻撃技ばかり覚えさせていること。

*4
味方から能力ランクを引き継いで場に出た時、引き継いだ能力ランクを最大まで上昇させる。

*5
相手に直接攻撃する技の優先度を+2する。




トレーナータイプの思考回路がこんな感じ。
ハルト君とじゃ『読み』の深さが違います。

実際にはこれバトル中2,3秒での思考だからハルト君も大概だけどね。

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