「うら…………とくせい?」
「まあ通称だがな」
自身の問いに、我が父はあっさりとそう答えた。
「通常、ポケモンが元から有している特性を表特性。
裏特性、それがあのシュッキングの秘密らしい。
ゲーム時代にもケッキングをシュッキング(なまけないケッキング)に変える方法はあった。主にダブルバトルでいえきを使って特性を消したり、デスカーン利用してミイラを移したり、だ。
ただ父さんの取った方法は、そのどれとも違う。
かいみん…………つまり快眠。その裏特性を、父さんはそう名付けた。
一度眠り、目を覚ますと
そう言う特性を父さんが
ゲームにすれば、5ターン程度だろうか。
対処法は確かにある。だがそれを差し引いても強力だ。
そして何よりも。
「裏特性は特性、と称しているが実際のところ、技術に近い。つまり」
どんなポケモンであろうと、後付けで仕込める。
それはつまり。
自身のあの六人にも。
「リーグ上位者なら誰でも仕込んでいるものだ、トレーナーとしてハルトがこの先やって行くならば知っておいて損は無い」
裏特性とは言わば。
ポケモンの技術だ。
キングの例を見るならば、一度眠ることで体にエネルギーをため込み、そして目覚める時にそれを一気に爆発させることで、一時的にだが特性をなまけ、から進化前と同じ、やるき、へと変化させる、らしい。
当たりまえだが、貯めこんだエネルギーを消費しきってしまえば、再びなまけ、が出てくる。
そしてその具体的な方法だが。
ねむる、のわざを使いこなさせることから始めた。
わざを使いこなす、と言う意味が分からず尋ねれば、またもやゲーム時代には無かった…………けれど現実として考えるならば当然の答えが返って来る。
ポケモンのわざには、得意不得意がある。
何を当たり前のことを、と言うかもしれないが、自身のようなゲーム感覚の人間ほどこれが分からない。
ゲーム時代では、ポケモンにはそれぞれ、覚えれるわざと覚えれないわざ、と言うのがあった。
その違いをだが、自身は曖昧に“できること”と“できないこと”と言う風に分けていた。
だがそれは違うのだ。
否、違いはしないが、正確ではない。
確かに覚えることのできないわざは不可能なことだけだ。
けれど。
可能であるからと言って、それが得意であると言うわけではない。
有り体に言って。
あらゆるポケモンは自力で習得するわざ以外はほぼ全て不得意なのだ。
わざマシンを使って覚えさせたわざは、そのポケモンにとっては使い慣れないものであり、その真価を十全に発揮することができない。
ゲームならそんなことは無い、どんなわざでも覚えれたなら設定された通りの効果を発揮する。
だが現実にそんな都合の良いことは無い。
覚えたばかりのわざは使い慣れない、当たり前のことだ。
逆に。
何度も何度も使っていれば慣れてくる、より精度の高いわざを繰り出せるようになる。
つまり分かりやすく言えば。
ポケモンのわざには全て、熟練度のようなものがある。
そして熟練度が高ければ高いほど、より効果が高くなっていく。
それは単純な威力であったり、追加効果であったり、様々ではあるが。
熟練度は最終的に優先度に行きつく。
優先度、ゲームではこの優先度の高いほうがすばやさに関係無く先に行動できる、と言うルールがあったが。
現実的に言えば、スムーズにわざが出る、言い変えれば、わざの出が早い、と言うことだ。
ゲームでは優先度のつくわざ、と言うのは全体から見ればそれほど多くは無かったが。
この世界では使えるわざ、全てに優先度をつけることができる。
…………ああ、この優先度、と言うのは父さんが言っていたのではない、単純に自身が聞いてゲーム視点に当てはめて言っているだけだ。この世界に優先度なんて概念は無い。わざの出、そして出から入りまでの速度、それが全てだ。父さんに聞けば、ゲームで言う優先技、と言うのは初動が速い、と言うだけのものであり、わざを磨けば同じ速度を出すのは決して不可能ではない、と言うことらしい。
さて、元の話に戻すが。
父さんはケッキングのねむる、と言うわざの熟練度をとにかく上げていった。
ねむる、によって急速に体力を回復させるそのエネルギーを熟練度を上げることで高め、余剰エネルギーを体内に蓄積させることを覚えさせた。
そうして目を覚ました時にそれを解き放つ術を覚えさせ。
そして生まれたのが、裏特性かいみん、と言うことだ。
「他にはどんな裏特性があるの?」
よりイメージを固めるために、他の例を尋ね。
「さあ?」
そんな言葉に、思わずがくり、とする。
「ハルト、分からないか? 裏特性がどれほど重要なものか」
「……………………いや、分かるよ」
だってそれは、そのポケモンの在り方を決めていると言っても良い。
そのポケモンにトレーナーが何を求めているのか、裏特性とはつまりそういうことである。
「…………なるほど、確かにみんな知られたくないよね」
「まあ、安心しろ…………と言っても良いのか分からんが、少なくともジム戦用に調整されたポケモンたちに裏特性は無い」
その辺りはジムリーダーたちの暗黙の了解のようなものらしい。
「と言うか、だ」
そんな余裕が無い、と言うのが正しい。
そんな父の言葉に首を傾げ。
「裏特性なんて、そう簡単に作れるものじゃない…………絶対に必要なのは明確なイメージだ」
だがそれが難しい、と父は言う。
「そのポケモンをどうしたいのか、どうさせたいのか、具体的な案とそしてそれに必要だと思われる訓練、それらが上手く合致して初めて裏特性になる。だがいくつもの選択肢の中から正しい方法を見出し訓練させることがどれほど難しいか分かるか」
そして何よりも。
「正しい訓練と明確なイメージ。それを上手くできたとして…………結局特性を発現させるのはポケモンだ。ポケモンが何かを掴むことができるかどうか。そのためには何百、何千と言う実戦の中でわざを磨くしかない。だからこそ、簡単な話じゃないんだ」
リーグ上位ならば誰でも仕込んでいる…………裏を返せば、リーグ上位に入るほどのめり込んでトレーナーやらないと絶対に覚えさせれない、と言うことか。
それは…………何とも。
「…………面白いなあ」
「……………………ほう」
呟いた一言に、父さんが目を細める。
「やはりハルト、お前…………リーグ目指すのか?」
「…………うん、そうだね。さっきまでそんなに興味無かったけど」
今は、面白そう、そう思っている自分がいる。
ゲーム時代、四天王とチャンピオンとはストーリー進行上の高い高い壁だった。
それまで戦ってきたトレーナーよりも一段レベルが上の猛者たちをしかもタイプがバラバラで五人も勝ち抜かなければならないストーリー最後の壁。
ストーリー後の外伝ややり込み要素を考えればそれで終わりとは言えないが、少なくともそれらに勝てばストーリーに一つの区切りをつけることのできると言う意味で、やはり最後の壁だ。
多くのシリーズがあったポケモンだが、どのシリーズをやったって、初めて四天王に挑戦する時のドキドキは同じだろう。本当にこのパーティで大丈夫なのか、最後まで戦い抜けるか、レベルは足りているか。
何度も、何度も、何度も。考えて、考えて、考えて。
そうしてやれる、そう思って初めて四天王へと挑んだ時、自身の気持ちは確かに
例えゲーム…………虚構のデータだけの世界の話だろうと、感じた気持ちは同じ現実のもの。
「……………………ふふ、ふふふ」
あの時と同じ感情がこみ上げてくる。
楽しみだ、楽しみだ、楽しみだ。
勝って、負けて、戦って、戦って。
いつの間にかそれも無くなっていた。
一度勝てる、と分かってしまえばそれはただの格下に成り下がるから。
だから、忘れていたんだ。
こんな気持ち。
通信による対人戦は、挑戦、と言うよりも互いのパーティの実力を確かめ合うような感覚だった。
勝てば嬉しいが、負けたなら負けたでダメだった部分を考え、修正。次勝てるようにする。
相手はいたが、上も下も無い、横同士の戦い。
だから、久しぶりである。
本当に久しぶりだったのだ。
「ドキドキする、わくわくする」
こんなにも心躍るのは、本当に久しぶりだ。
主人公ポジだから、きっといつかポケモンリーグも挑戦するかもしれない。
その程度の感情しか無かった。
6Vポケモンが6体いて、しかも厳選も個体値も努力値も持ち物の考えていないやつら相手に、真面目に戦うのもなあ。
なんて…………そんなバカなこと、心のどこかで思っていた。
見下していたのだ、戦ってもいないのに。ゲーム時代の中途半端な知識を引きずって。
だから、負けた。
知らなかったから。ここが現実だなんて、本当は何も分かっていなかったから。
だから、父さんに負けた。
負けた、負けた、負けた。
知らなかった…………負けたら悔しいだなんて。
ゲームの中ならば、負けてもそれほど悔しさは無かった、あるのは次どうすれば勝てるかを考えるだけの作業。
趣味パであることは自覚していた。けれど、だからと言って勝ちたくないわけでも無かった。
それでも勝てない相手がいるのも分かっていた。だからどこか諦めがあったのも事実。
厨ポケ使いの廃人には勝てない、そんなイメージは確かにあった。
そしてこの世界にそんなやつらは居ない。自身たちが苦労して行ってきたことを、この世界のやつらは知りもしないでただ狭い世界の頂上に立っている。
そんな傲慢なことを考えていた。
狭い世界に立っていたのは自分のほう。
何も知らず、何もかも分かったフリをして。
そしてあったことも無いやつらを嘲っていた。
知らなかった、知らなかった、知らなかった。
「知らなかったよ」
本当、知らなかったのだ。
「
ここは、ポケモンの世界。
けれども。
ここは現実。
ここにあるのは事実。
虚構は無く。
システムも無いのに。
画一的なものなどあるはずも無い。
「安穏と生きようかと思っていた」
だってこの世界は退屈が過ぎる。
このちっぽけな世界で、6Vと言う暴力を振りかざせば、あっという間に何もかも壊れてしまう。
「平穏で良いと思っていた」
自身の大切な彼女たちはここにいる。
無理に外に出て行く必要も無い。どうせこの世界で手に入るものなんて、意味なんて無い。
「けどもう無理だ」
理解してしまった、この世界がどこまでも残酷で過酷な現実であると。
理解してしまった、ゲームの知識など半分も通用しはしない現実なのだと。
理解してしまった、自身のちっぽけな想像よりもずっと強くて大きな現実なのだと。
「
こんなにも心を躍らせる世界がある。
こんなにも心を弾ませる戦いがある。
こんなにも心を揺り動かす生き方がある。
「だったら、もう俺にはそれ以外を選ぶことなんてできない」
つまり。
「ポケモントレーナーになって頂点を目指す以外の選択肢なんてありはしないんだよ、父さん」
そんな自身の言葉に。
「……………………そうか」
父は…………笑った。
* * *
エア、シア、シャル、チーク、イナズマ、リップル。
自身が持てる六体のポケモンが自身の部屋にいた。
「
そして部屋に集めた彼女たちに向かって、そう告げた。
言葉の意味を理解できず、目をぱちくり、とさせる彼女たちに、笑って告げる。
「意味が無いと思っていた」
笑う。
「退屈だと思っていた」
笑う。
「簡単だと思っていた」
嗤う。
愉しくて、愉しくて、仕方ないと。
「でも、この世界の頂点はそんなに簡単でも、退屈でも、無意味でも無かったみたいだ」
故に、告げる。
自身の大事な大事な仲間たちに、宣言する。
「ホウエン地方のチャンピオンを目指す」
だから全員。
「ついてこい」
そんな自身の言葉に、彼女たちは一瞬驚いた表情をして…………。
と言うわけで主人公にモチベーションができました。
そしてオリジナルシステム「裏特性」と「技熟練度」解禁。
タグにオリジナル設定、とついてるように、こういうのこれから次々出てくるので止めるのならここでやめるが吉。
ここから先読み進めるなら、普通のポケモン二次と全然違うことを了承した上で読みましょう。
実際問題、殿堂入りしてやり込み終わると、もう厳選作業と対戦くらいしかやること無くなってくるからなあ。新しい世界で、しかも新しいシステム導入されて、自分の予想とは全く違って強いやつらが出てくると思うと…………やっぱり楽しいと思う。
チートで無双ってのもいいかもしれないが、やっぱ勝負ごとは「勝てるかなあ、負けるかなあ」ってレベルが一番楽しい。
どうでもいいケッキングのねむる熟練度講座
ねむる Lv1 HP100%回復
ねむる Lv2 HP120%回復(20%余剰)
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ねむる Lv10 HP200%回復(100%余剰)&余剰エネルギー蓄積
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ねむる Lv20 HP600%回復(500%余剰)&余剰エネルギー蓄積&目を覚ました時余剰エネルギー100%×1ターン 特性をやるき に変更=かいみん
裏特性:かいみん ねむるを使ったねむり状態から目覚めた時、5ターンの間、特性がやるきになる
特性発現条件:ねむるの熟練度が一定以上の時、ねむるを使って目を覚ますを十度以上戦闘中に行うこと
と言う感じに、本来のわざの効果+αをつけて、さらにそこから派生させたようなイメージ。