けどこの小説ではジム就任最初から家族をホウエンに呼んでる設定にします。
Q.なんで単身赴任じゃなくなったの?
A.原作より親馬鹿を拗らせてしまったから(
ホウエン地方に来たのが五月の下旬だったか。
春の季節と言うだけあり、くさタイプのポケモンが少しずつ野生に姿を現し始めていた。
そして季節は廻り、夏。みずタイプのポケモンたちは暑さにうな垂れ、庭先で水遊びを始める季節。
季節は廻り、秋。山が色を変える季節。山に住むポケモンたちが冬を越すための準備をいそいそと始める季節。
そして季節は、冬。
「……………………………………」
「なんでエア不機嫌なんでしょう?」
「寒すぎて、屋根の上にいられないかららしいよ」
少し不機嫌そうに部屋のソファに体を預けるエアを見ながら、シアの問いに答えると、シアがくすりと笑った。空色のダッフルコートと赤いマフラーに身を包みながら、ソファの上で体を震わせるその姿はどこか愛らしさを感じる。
そしてシアは、いくら部屋の中とは言え、いつもと変わらない肩から先が丸出しの露出高めの服装で、正直かなり寒そうなのだが、本人は至って平気そうな顔をしている。
やはりこおりタイプのグレイシアだから、と言うことなのだろう。反面、夏場の熱さにはかなり参ってしまっていたようだったし。
そしてドラゴンタイプのエアは、この寒さのせいで毎日一歩も外に出ず、家の中で不機嫌そうに本…………と言うか漫画を読んでいる。
前世で言うところの九十年代ジャンプ漫画みたいな、熱血的なバトルものが好きらしい、前に本屋に行った時は男と男の殴り合いの友情、とかに目を輝かせていた…………因みに腐った意味ではない。
その方面に適正がありそうなのは、驚くことにイナズマである。
お、おとこのこどうしのゆうじょう…………とか顔を赤くして呟いていたので、その方面に堕ちているわけではないが、多少なりとも興味はあるらしい。トレーナーとして、そして男として、早急に正しい方面への矯正が必要であると感じた瞬間でもあった。
因みにそのイナズマだが、チークに拉致されて一緒に遊びにでかけている…………言いかたがおかしいかもしれないが、見たそのままの光景を言ったらそうとしか言いようが無いのだから仕方ない。
そして家の庭ではシャルが雪遊びをしている。いつもの服装では寒いので、青紫色のダッフルコートと、黒のマフラーを巻いている。その姿は完全に雪にはしゃぐ子供そのものである。
そんなシャルを後ろからニコニコと見守っているのはリップルである。半年以上過ごしていて気づいた事実だが、リップルは恐らく自身の手持ちの中で一番精神年齢が高い。そのせいか、半ばパーティのお守り役みたいなポジションに自然と収まっている。そんなリップルもまた白を基調としたダッフルコートを着て、淡いエメラルドグリーンのマフラーを巻いている。
ダッフルコートとマフラーは、イナズマのお手製だ。
あの腐りかけ少女、意外とファッションとかそう言うのが好きらしく、自分で手縫いで色々作ってしまう器用な手先をしている。服飾関係だけ言えば、シアどころか、母さんよりも達者だ。
ただヒトガタポケモンの服とは、ある意味毛皮や鱗の一部であり、そう簡単に着脱できるようなものでは無く、そのため、服の上から身に着ける物でないといけないと言う縛りに本人からすれば納得のいかないものがあるらしいが。
冬も近づき、段々気温も下がってきたある日、イナズマがパーティ全員分と自身の分のコートとマフラーを作ってきた。聞いたところ、夏くらいから少しずつ用意していたらしい。
イナズマの部屋の中を見ると、服や毛糸が大量に置いてある。と言ってもきちんと整頓されているが…………時折散らかっているのもチークが遊んだ影響である。
そう言うわけで、コートとマフラーのお蔭で比較的暖を取れたチークがイナズマを連れて外に遊びにでかけ、ほのおタイプだけあって、割と体温高めらしいシャルは余り気にせず庭先で遊んでいる。
逆に厚着をすると弱ってしまうシアは受け取るだけ受け取って、ほとんど袖を通してはいないようだが、クローゼットにハンガーで大切に吊るしてあるのは知っている。
そしてエアはエアで、最近はほぼ常時身に着けている。脱ぐのは風呂に入る時か寝る時くらいだろうか。
それから…………。
「なんで
「さあ……………………とくぼうが高いからでしょうか?」
白雪積もる気温一桁の庭で、厚着こそしているものの、全く寒そうな気配一つ見せない自称ドラゴンタイプには首を傾げるしかない。それともエアが特別寒がりなんだろうか?
「っと…………そろそろだね」
ふと時計を見やれば、すでに時刻は午後三時。
そろそろ始まる頃合いだろう、とテレビのスイッチを入れて。
『さあ、今年もこの時期がやってきました』
聞こえてきたアナウンサーの声に、ああちょうど良かったと呟く。
『春に始まったポケモンリーグ予選、夏に行われた本戦。そして秋に行われたチャンピオンリーグ。そして冬に始まるのは、エキシビジョンマッチ“ホウエン地方ジム対抗戦”だあああ!』
わあああああああ、とテレビの向こう側から観客の盛り上がる声が上がる。
『春、夏、秋と続く激戦に次ぐ、激戦。そして毎年の最後を飾る〆のバトル、今年も盛り上がって行こうぜえぇぇぇ!』
テレビの向こうでアナウンサーの叫びに同調するかのような観客の声。
そうして、一度放送が終わり、会場の準備を整えるポケモンリーグの作業員たちが忙しなく作業を進める。
ざわざわとした会場の熱気がテレビの向こうからでも伝わってきて、見ているだけで楽しくなってくる。
しばらく作業員たちの忙しない姿を見せられていると、会場上の電光掲示板が起動する。
『それでは、今年も冬の寒さも吹き飛ばす、熱いバトルに参加するホウエンを代表するジムの選手を紹介していくぜ!』
そうして掲示板に表示されたのは、ジムの名前と扱っているタイプ、それからメンバーの名前と戦績が一人ずつ上げられていく。
『お次はこいつだあ、みずタイプのポケモンを専門とするルネシティジム、新進気鋭の若きリーダーミクリィィィ!』
そうして次々とゲーム時代に知った名前が挙げられていく。
とは言っても、カナズミやムロ、フエンジムやトクサネジムなどいくつか知らない名前のリーダーもいるが。
そうして。
『ジョウト地方アサギより遥々やってきたノーマルタイプ専門トウカジムの新リーダー!』
そしてそこに映されていたのは。
『センリィィィィィィィ!!』
父さんの映像だった。
* * *
各ジムからジムトレーナー二名+ジムリーダーによるポケモンバトル。三対三の勝ち抜き戦だ。因みにトーナメント方式でなく、総当たり戦方式で時間が余りにもかかりすぎるので、使用するポケモンは一人三体に絞られている。
エキシビジョンの名から分かる通り、公式戦でも何でもない、勝っても負けても特に何かあるわけでも無い。あくまで、チャンピオンリーグ終了後の余興としての祭典だ。
故に、本気でやるも、やらないも各ジムに任せられている。
とは言うものの、過去この祭典で本気を出さずとも、手を抜くことをしたトレーナーは居ない。
当たりまえの話だが。
それはトレーナーにとって当たり前の鉄則だ。
故に、各ジムのジムトレーナー同士が戦い、ジムリーダーが戦い。
テレビの向こうでは
「……………………」
ゲーム時代とは違うと分かっていても、その余りに迫力に、息を呑む。
ゲームならばわざによって起こる現象は全てただの
だが現実ではほのおタイプのわざを出せばフィールドが燃えるし、こおりタイプのわざを出せば凍る。じしんやじわれを使えば、フィールドが崩れるし、いわなだれやがんせきふうじで投げた岩はフィールドに転がって残り、それを利用して戦うポケモンもいる。
自由度のスケールが違う。
ゲームのような殴り合いのようなイメージを持ったままでは、発想力で負ける。
それを理解する、それを思い知らされる。
そして、いよいよ。
『さあ、これは! 新進気鋭の若干十八歳のジムリーダーと新しく就任したジムリーダー同士の戦いだあ』
トウカシティジム対ルネシティジム。
先発のジムトレーナー同士の対決を制したのはルネシティジムのトレーナー。
だがトウカジムの次発が相手の先発を倒し、二番手対二番手。
今度はトウカジムが二番手対決を制し、トウカシティジムトレーナー対ルネシティジムリーダーの対決。
勝負は一瞬で終わった。
二番手対決で消耗が激しかったのもあるが、それ以上に。
ミクリの先発で出てきたホエルオーが異常だった。
試合の開始宣言と共に互いのポケモンが場に出てくる。
そして
と び は ね る
超重量級のホエルオーがわざが届かないほど高く高く跳びあがるその様は、圧巻の一言に尽きる。
そして。
し お ふ き
そして。
ヘ ビ ー ボ ン バ ー
超重量級のホエルオーが、しおふきでさらに勢いを加速させながら降り注ぐ。
い ち げ き ひ っ さ つ
そんな文字が頭の中に浮かんだ気がした。
一撃で
そして超重量の巨体に潰された哀れなポケモンは当然ながら一撃で気絶した。
「父さんはどうするんだろう?」
例えば自分ならば、あのホエルオーに大してどんな策を考える?
跳ねているのならば…………イナズマにかみなりでも仕込む?
あるいは、エアで飛んで避けてしまえば…………。
考えながら、テレビを見つめ。
そうして、センリ対ミクリの戦いが始まる。
* * *
「行け…………ゴンスケ」
「ゴーン!」
センリがボールを投げ、現れたのは…………カビゴン。
「ルーオ!」
「ホェェェェェァァァ!」
ミクリが出したのは、先ほどと同じホエルオー。
「ホァァァァァァァァ!」
そして、ミクリの指示も待たず、ホエルオーが先ほど同様、空高くへと跳ねる。
「ゴンスケ! はらだいこ」
「ゴォォォ!」
ぼん、ぼん、とカビゴンが自身の腹を叩いて音を鳴らす。
直後、ごごごごご、とカビゴンの全身が隆起していく。
筋肉が怒張し、膨れ上がる。滑らかでシャープな曲線を描いていた腕がでこぼことしたものへと変わっていく。
そうして、ホエルオーが空からダイブし始める。
し お ふ き
その背から多少の水が噴き出し、落下を加速させていく。
そうして。
ヘ ビ ー ボ ン バ ー !!!
「ゴンスケ!」
センリが、名前を呼ぶ。
それだけで、十分だった。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
右手と、左手、左右の手が別々に引き絞られていき…………。
ギ ガ イ ン パ ク ト !!!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
衝撃と衝撃がぶつかり合い、ステージの地面の亀裂がさらに深くなっていく。
そして。
「ゴォ…………グォォォ!」
一瞬倒れそうになるがなんとか態勢を立て直したカビゴンに対して。
「…………ホェ~」
完全に目を回すホエルオーがそこにいた。
* * *
「おう、まじかよ」
さすがに目をぱちくり、とさせざるを得ない。
あのバカみたいな威力のヘビーボンバーを
躱す方法、そもそも撃たせない方法はいくつか考えたが、そう言う考え方は無かった。
と言うか。
「なんだあのカビゴン」
ギガインパクトの威力が異常過ぎるだろ、と言いたい。
恐らくだが、あれも裏特性、と言うやつなのだろう。
裏特性の存在を知って半年近く経つが。
未だに自身は明確なイメージを持てていない。
そもそも、今のパーティは
それは抜けも多くある、と言うかバランスを考えればメンバー選考からやり直さざるを得ないのは知っていはいるが。
それぞれ個別に見れば、大よそわざや特性など、コンセプト通りの作りをしているために、それなりに完成してしまっている部分がある。
完成度の高さ、低さはともかくとして、余剰部分、と言うのがあまりないため、何を詰め込んでも余計にしかならない恐れがあり、だからこそ悩む。
裏特性はある程度トレーナーの任意のものを作り出すことができる。
だからこそ、多数ある選択肢の中から、トレーナー自身が選択しなければならない。
たった一つ、付け足すソレを。
弱点を補うのか、それとも長所を伸ばすのか。
はたまた…………。
試合を通じて本当に見たかったのはこれだ。
裏特性、と言うものに対して、まだまだ知識不足が多すぎる。
だからこそ、ジムリーダーが…………ポケモンリーグでも上位の実力を持つトレーナーたちが競い合うこのバトルを見たかった。
自身は未だに明確なイメージを持てては居ない。
だが、ある程度、本当にある程度だが漠然としたイメージはできつつある。
あとはそれをどう形にしていくか。
「…………二番手は」
テレビの中でミクリが二つ目のボールを取り…………。
――――――――投げた。
と言うわけで、今後出てくるだろうバトル模様についてのチュートリアル。
恐らく野生のポケモン相手ならプロローグみたいな感じに、トレーナー戦は今回みたいな感じにかなり自由度高くやっていきます。
ゴンスケ(カビゴン) 特性:あついしぼう 裏特性:うでじまん
因みに裏特性の習得条件をゲームっぽくすると。
まず前提条件を満たす。
かいみん、に例えると、ねむるのわざをだいたい500回前後使って熟練度上げたら、今度はねむる⇒起きるを戦闘中に合計10回やった時点で閃き判定が出て5%くらいの確率でポケモンが裏特性を閃く。
閃かなかったらまた10回くらいねむる⇒起きるを繰り返す。
因みに習得条件の難しさはそのまま裏特性の技術力の高さになっていくので、難易度高いほどチート気味になっていく傾向がある。