「ケキャキャキャキャキャキャキャ」
フーパが嗤った。
嗤い声が広大な空間に不自然なほどに響き渡る。
直後、火蓋を切ったかのように三体の伝説が動き始める。
“ じ か ん て い し ”
“ときのほうこう”
ディアルガが咆哮すると同時に
一切の予兆の無いノーモーションから突如の攻撃、さすがのレックウザも面食らう。
僅かに回避動作が遅れる、普通なら技を『溜め』ている間に回避動作に移るが故にその二、三秒ほどの『ズレ』が致命的な隙を生む。
「キリュアアアアアアアアアアアアアアアア!」
風を纏って攻撃を軽減しようとするが、それでも気休め程度の話だ。
同じ伝説というカテゴリーにいる存在なのだその威力は並のポケモンなど比するまでも無いほどに強力であり……。
「ドッスン!」
「ヌゥゥォォ!」
“リバースダメージ”
シキが投げたボールから放たれたハリテヤマがその盾となる。
ハリテヤマ自身が非常にタフネスであり、さらにシキが付与した異能はダメージの反転。
例え能力ランクを最大まで積んだ『はかいこうせん』であろうと受けきれる……はずだった。
超越種を相手にそんな理が通じるはずも無いのだが。
爆発したエネルギーをハリテヤマを抑え込もうとし……
どんな攻撃だろうと一回は受けてくれるだろうと育てられていたはずの盾は一瞬にして『ひんし』へと追い込まれる。
もっとも……そのくらいのこと、シキにだって予想できていたが。
動きの違いは知識の有無だったのだろう。
レックウザは目の前の三体がどういう相手なのか知らない。
だがシキは違う、かつて伝説というものを散々調べ尽くしたシキは目の前の三体、特にシンオウにおいて有名なディアルガとパルキアという伝説がどういう存在かを知っている。
初動の差はそこだった。
故にシキがやらねばならないことは。
「左、ディアルガ……時間を操るポケモン。右、パルキア……空間を操るポケモンよ。真ん中がギラティナ……ハルト曰く『反物質』を操るポケモンよ」
レックウザに前提となる知識を与えること。
そして。
「リュウウォォォ……」
頷くレックウザに敵の二の手、三の手が降り注ぐ。
“あんこくじかん”
「来るわよ!」
“くうかんしょうあく”
「グギャアァァ!」
パルキアの咆哮と同時に全身が硬直する。
「っ?!」
金縛りとかそういうのではなく、体の周りの空気を固められたかのように。
パルキアの能力と併せて考えるならば。
―――空間ごと固定された。
残念ながらシキ単体ではこれに抗うことはできないだろう。
レックウザすら身動きが取れなくなるほどの強力な力で固定されているのだ。
これが伝説のポケモンの力、そう驚愕する。
だからこそ、手はあるのだが。
「ジ……ジジ……」
シキの腰のホルスターから機械音のような『声』が聞こえる。
―――やれ。
その声の主に向かって、シキが心中で命令を発すると同時に。
ぱりぃん、と硝子の割れるような音と共に全身の自由が戻る。
「頼りになるわね、私の
対伝説存在。
伝説を倒すために作られた伝説。
伝説殺しの力を持つ者。
その名を。
「ギガ!」
“あくうせつだん”
“ギガインパクト”
直後に放たれたパルキアの必殺の技と、ギガの拳がぶつかりあう。
きっと単純なエネルギー量ならばパルキアの技のほうが圧倒的に上なのだろうが。
ギガの力は『伝説』の伝説たる所以を殺す。
故にその一撃は伝説の一撃と真っ向からぶつかりあい、相殺し得るのだ。
もっとも……
「こっちで勝手にサポートするわ……攻撃は任せたわよ」
「リュウォォ……オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
シキの言葉に、了承、とでも言うかのようにレックウザが咆哮を上げ、加速を始める。
“ガリョウテンセイ”
一秒にも満たない時間で最高速までギアを上げたレックウザが真っすぐにギラティナへと突っ込んでいき。
“シャドーダイブ”
空間に溶けるように消えていったギラティナに、レックウザの攻撃が空振りに終わる。
だが直後にレックウザの背後から飛び出したギラティナ、レックウザもそれを分かっていたかのように躱す。
反撃とばかりに『かみなり』を放ち、けれどそれを意に介した様子も無く反撃とばかりに『シャドーボール』を撃ちだす。
だが『かみなり』はフェイントだったとでも言うようにすでに溜めていた『しんそく』でギラティナの攻撃を回避し、超高速のタックル。
“あんこくくうかん”
だが後退するギラティナの背後に突如現れた闇がギラティナを呑みこみ、直後にパルキアの隣に現れる。
どうやらパルキアがいる限り致命打を打つ前に退避させられてしまうらしい。
“あんこくじかん”
さらにディアルガの咆哮によって『時間を加速』されたらしいパルキアとギラティナの二体から雨霰とばかりに攻撃が飛んでくる。
時折パルキアによって『空間固定』が飛んでくるのも厄介だった。シキがレジギガスに命じて打ち消してはいるものの、やはり僅かな時間とは言え動きが止まってしまう故に、レックウザはすでに数発の被弾を許している。
とは言え根本的なレベル差があるのでまだ致命的なダメージとは言えない。
それでも少しずつ少しずつ削られて行っているのが分かる。
レックウザ自身何も言わないが、僅かな焦りのようなものが感じられるのがシキにも分かった。
そしてそれ以上に気になるのはフーパである。
ここまでの戦闘の中でフーパは一切の手を出してこない。
ケタケタとただ嗤うだけで、目の前で起きる一切の事象にまるで興味がないと言わんばかりに。
気にはなる、警戒もしている、だが現実的な脅威というなら伝説三体のほうがよっぽどなのも事実で。
「もどかしいわね」
あと一手、何かあれば。
そう思わずにはいられなかった。
* * *
地上のか細く小さな命たちを守りたい。
そう願ったのは果たして正しかったのだろうか。
二度に渡る怪物たちとの戦いによってレックウザは知った。
地上に生きる命たちは自分などとは比べ物にならないほどにか弱く、か細く、儚いのだと。
吹けば飛ぶ蝋燭の炎のようなか細い命脈。
実際、レックウザが居なければ地上はすでに二度、全ての生命が息絶えていただろうことは間違いかった。
龍神が『守護者』となったのはそんな理由だった。
高い高い空の上から地上を見つめながら地上の命の『祈り』を感じれば守るために地上へ降り立つ。
その度に地上の命に『感謝』と『畏敬』を与えられ、その度に『守りたい』という気持ちを強めていく。
なまじ力があったから、理を超えるほどの強大な力を持っていたが故にレックウザの救済の手は広かった。
多少力があったところで『個』が守れるものなんて両手で広げた範囲に過ぎないというのに。
レックウザはその手を大きく広げた、広げて、広げて、ホウエンの全てを包み込むほどに広げ過ぎた。
いつからだったのだろう。
『守る』ことがレックウザによって当たり前となってしまったのは。
『守りたい』のではなく、『守らなければならない』と思うようになってしまったのは。
長い間、地上を災禍から守り続けていたからか、いつからかレックウザは『守護者』で有り続けることに拘っていた。
ずっとずっと、地上を守ろうと戦い続け、その度に感謝と畏敬の念、そして何よりも守り神としての
少しずつ、少しずつ、積もっていく重み。
けれどレックウザという存在はどこまでも強大であり、絶大だった。
グラードンとカイオーガという怪物二体が封じられている状況でレックウザに敵うものなど存在しなかった。
否、例えグラードンやカイオーガが復活したとしても、レックウザならば止められる。そういう自負も無いわけでも無かった。
だが逆に言えば、レックウザは最後の砦だった。
このホウエンの地を守る最後の番人だった。
レックウザが敗北すれば守り切れないことになる、それを示していたからこそ、レックウザは絶対に負けなかった。
負けるわけにはいかなかった。
そうやって少しずつ、自ら重荷を背負っていた。
一瞬たりとも気を緩めることは無かった。
グラードンとカイオーガが封印されてからもずっと。
十年と時が経ち。
百年と時が経ち。
千年と時が経っても。
レックウザは『守護者』であり続けた。
そうすることでしか地上の命たちに『必要とされない』と、そう思ったから。
* * *
「は……?」
目の前で起きたことが現実として認識できなかった。
嘘でしょ、とそんなシキの心中を無視するかのようにソレは暴れ狂っていた。
「ケキャ! ケキャキャ! ケキャキャキャキャキャ!」
上も下も右も左も無いこの空間で互いの位置を激しくずらしながら戦っているのだ、必然的にフーパを背にすることも僅かながらあった。
とは言えフーパが動き出せばすぐに分かるようにこちらもシキが警戒を怠らずレックウザのカバーをしていたのだが。
激しい戦いの最中、一発、パルキアの放った攻撃が流れ弾としてフーパのほうに飛んでいった。
嗤いながら戦いながら見るだけだったフーパが激変したのは流れ弾に被弾した直後のこと。
転移によって放たれた『サイコキネシス』がパルキアの体を捉え拘束し、『あくのはどう』が乱射される。
身動きの取れない状態から放たれた攻撃の数々に拘束されもがいていたパルキアの動きが鈍り。
ぴきり、ぴきりとフーパが空間を歪め攻撃を放つたびにパルキアの周囲から軋むような音が聞こえ始め。
そうして。
“じげんほうかい”
ぱりぃぃん、と硝子が割れるような音と共に空間に『孔』が開き、パルキアが飲み込まれていく。
悲鳴を上げながら虚空へと消えていくパルキア。
そうして『孔』が徐々に塞がって行き。
―――後には何も残らなかった。
「……は?」
そうとしか言い様が無い。
呆然であったし、唖然とするのも当然だろう。
レックウザすら驚きに動きを止めてしまっているのだから。
だがそれ以上に異常だったのはディアルガとギラティナである。
目の前でパルキアがフーパにやられたというのに、一切気にも留めずにこちらへと襲いかかってくるのだ。
機械染みたその様相は余りにも生物らしさが欠けていて、余りにも異様だった。
さらに言うならばフーパもだ。
パルキアが居なくなった途端にまた元の位置に戻ってこちらを見るだけでディアルガやギラティナに加勢しようともしない。
一体こいつら何なのだろう、そんな疑問と不安がシキの内心に渦巻く。
とは言えだ、三対二で押され気味だったとは言え拮抗していたパワーバランスもこれで二対二。
フーパが動かない以上はこちらが一気に優勢になったことは間違いない。
それをレックウザも悟ったか、一気に決着をつけんと動き出す。
そして。
「ギシャアァァァァァ!」
不利を悟ったか、ギラティナが叫びを上げて……。
「っ!? レックウザ!」
何かやるつもりだ、それに気づくと同時に叫び。
レックウザもまたそれに気づいて
けれど。
ふっと、その全てを闇へと変えたギラティナがそのままディアルガへと吸い込まれていき。
“あんこくぶっしつ”
ディアルガの全身が『黒』に染め上げられていく。
同時にその全身から発せられる圧が増していく。
「不味い……何か分からないけど、凄く不味い気がする」
呟く言葉に力は無い。
ただただ視線の先で膨れ上がっていく気配に背筋が凍るような感覚だけがあった。
そうこうしている内に染め上げられた『黒』がディアルガの目前へと集められていく。
やばい、やばい、やばい、とシキの脳裏で危険信号が続けざまに発せられる。
あれを撃たれたら間違いなくシキは死ぬ。そんな予兆がある。
それこそギガを盾にしても防ぎきれないだろう、そんな予感。
不味い、不味い、不味い。
焦りばかりが増していき、タイムリミットは刻々と近づく。
そんな中で。
「キリュウウウウウオオオオオオオオオオオオ!」
レックウザが前に出た。
まるでシキを庇うかのように、その巨体でシキをすっぽりと隠すとディアルガを強く睨みつけ。
「っ……ギガァァァァァァァァ!!!」
それが通じるか否か、ほとんど咄嗟の賭けではあったが。
それでもその状況で選択肢なんて他にあるわけが無かった。
故にこそ
“じかんていし”
“ ダ ー ク ノ ヴ ァ ”
直後に放たれた『黒の必殺』が急速に近づく。
そうして『黒』が手の届く距離まで近づいた瞬間に、レジギガスが拳を放った。
“ギガインパクト”
パルキアの必殺の一撃と引き分けたほどの強烈な一撃だったが、一瞬『黒』が揺れる程度の効果しかなくそのままレジギガスが『黒』に呑まれる。
そうして次に立ち塞がったのはレックウザ。
“とうりゅうもん”*1
それは『守護者』としての矜持から至った一つの境地。
自らよりも小さい『命』を決して絶やさせない、守り抜く。そう決め、立ち塞がった龍神がその全身で余すことなく『黒』を受け止める。
同時に。
“さかさまマジカル”
本来ならばどちらもシキの異能が通じるレベルの相手ではない。
だが『黒』は先に放ったレジギガスの一撃が揺らがせている。『超越種』の力を一時的に抑え込んだ今の状態ならば不可能ではない……かもしれない。
故にそれは賭けだった。
第一に本当にレジギガスの一撃でシキの異能が通るようになるか。
第二にそもそも使用する異能はそれで良いのか。
第三に。
……それをレックウザが受け入れてくれるか。
レックウザもまた超越種、しかもディアルガたちよりもさらに上位の存在だ。
故に『黒』を揺らがせ、このフィールドが通るようになったとしても、レックウザが跳ねのければ途端にフィールドは崩れ落ちるだろう。
けれど。
「キリュウウゥゥゥアアアアアアァァァァァァ!」
フィールドは無事形成され、レックウザは『黒』の一撃を受け止める。
直後、衝突の勢いのままに『黒』が弾ける。
否、弾けるなんて生やさしいものではない、それは爆ぜて……爆発していた。
空間が震えるほどのとてつも無い威力を秘めた大爆発だった。
例え伝説種であろうと、この一撃を受けて無事に済むはずがない、そう思えるほどの超大規模な爆発だった、が。
「グルゥゥゥゥゥ……」
龍神は見事受け止めていた。
逆にディアルガは放出した力が莫大過ぎて疲労の色が見えた。
それを好機と取った龍神は急速に飛び出す。
『しんそく』で加速しながら飛び出したレックウザに対するディアルガの足取りは重い。
“じかんていし”
“ときのほうこう”
だが『時間操作』はディアルガの根本の能力である。
疲労した現状でもそのくらいは容易い。
同じ伝説種の一撃、しかも弱点タイプへの一撃だ。
いくらレックウザだろうと直撃すれば怯みくらいはしただろう。
本来ならば。
“さかさまマジカル”
相性逆転のフィールド内以外だったら、だが。
ディアルガの犯した致命的なミスはそこだった。
疲弊していたせいか、それとも単純に力に驕った結果か。
ディアルガはレックウザを見てはいたが、その後ろの小さな人間を見ていなかった。
確かに異能者だろうと人間では伝説種にはその力は通じないかもしれない……万全の状態ならば。
今しがた超越種が疲弊するほどの大量のエネルギーを放ち、しかも直後にやってくる龍神を迎撃するために疲弊した体に鞭うってさらに能力を発動していなければ、通じていなかっただろう。
或いはパルキアならば『空間干渉』を得意とするパルキアならばフィールドを形成するタイプのこの異能の影響を振り切っていたかもしれない。
だがディアルガの得意とするのは『時間操作』。
フィールド形成を妨害する力は無く、形成されたフィールドを破壊しようにも
いくつもの要因が重なった奇跡的な状況で、シキの『反転』の異能が効果を為す。
放たれたディアルガの一撃をものともせずにレックウザがディアルガへと迫り。
“ ガ リ ョ ウ テ ン セ イ ”
『ひこう』技は『はがね』タイプに『こうかはいまひとつ』。
で、あるが故に。
“さかさまマジカル”
今この状況においてそれは『こうかはばつぐん』へと裏返る。
「リュウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
叫びを上げながらの渾身の一撃がディアルガへと突き刺さり、吹き飛ばす。
吹き飛ばされたディアルガが悲鳴を上げて、そして。
止め時を見失って久々に7000字近く書いてしまった。
まあいいや、これで前哨戦は終わりです。
次回からいよいよフーパ戦だよー。
因みに今回の伝説3匹の簡易データ
じかんていし:自分の技の優先度を+7する。場にいる限り、全体のターン数が進まなくなる(ターン経過で解除される効果のターン数が解除されなくなる)。
くうかんしょうあく:自分の技が相手に『必中』する。攻撃技が命中した時、必ず急所に当たる。
はんぶっしつ:相手と同じタイプの技を繰り出す時、タイプ相性が『こうかはばつん』になる。自分と同じタイプの技を受ける時、タイプ相性が『こうかはいまひとつ』になる。
あんこくじかん:『ダーク』タイプのポケモンが繰り出す技の優先度を+2する。
あんこくくうかん:『ダーク』タイプのポケモンの『かいひ』ランクを+2する。
あんこくぶっしつ:味方の『ディアルガ』か『パルキア』の全能力ランクを2段階上昇させ、能力を上昇させたポケモンがダーク技『ダークノヴァ』を繰り出す。この効果は1度しか発動できない。この効果を使用した時『ひんし』になる。
ダークノヴァ 『ダーク』『非接触全体特殊攻撃技』『必殺技』
効果:威力350 命中100 優先度-7 相手の特性に関係なく攻撃できる。攻撃後、100%の確率で自分の全能力ランクが2段階下がる。
威力350×2(ダークタイプ)×1.5(タイプ一致)=1050
そして全体技、相手は死ぬ。
因みに野生バトルなので全体技食らうとトレーナーも普通に巻き込まれるよ。
レックウザいたからセーフだったけど。
あ、因みに当然だけどレックウザのデータはダークタイプ時から変わってます。半分くらいは同じなんだけどね。ダークレックウザは『攻撃型』で通常のレックウザは『防御型』がコンセプトなんだよ、あの種族値で(