最初に言っておくことだが、クリスマスドールズと違って特別編ついてない。つまり普通に本編の続きくらいに思ってていいです。
クリスマスの時にも言ったような気がするが、このポケモンの世界は地球にあった文化やイベントというのが多い。
ただし文化や風習としては根付いていてもその『由来』というのは割と適当なのだが。
クリスマス……というか12月25日を祝い日とする風習はある。
何でもクリスマスの夜には世界中のデリバードが良い子にプレゼントをくれる、だとかなんとか。
デリバードのモチーフになったであろう地球で言うところの『サンタ』のような存在をポケモンに当てはめ、デリバードの伝承と合わせて12月25日を特別な日とする、そういう文化、風習がある。
ただその由来は地球における宗教色のようなものは一切なく、そういう言い伝え、伝承、で済まされている。具体的な由来などはみんな知らないし、知ろうともしないのだ。
メタなことを言うならばポケモンという世界を作ったスタッフは地球の人間なのだから身近な文化を『元ネタ』にした、というだけなのだろうが、果たしてその創作の世界が現実と化している今の現状、それが事実なのかどうかも分からない。
まあそれはどちらでも良いのだが。
本日2月14日。
地球で言うところのバレンタインデーではあるが、この世界でもバレンタインは存在する。
しかもチョコを贈るほうの風習として。
案の定由来は誰も知らないし、気にも留めない。まあ自分だってそこに関してそこまで熱心に知りたいというわけでも無いので別に良いのだが。
個人的に言わせてもらえれば別に好きな人に何か贈りたいのに一々口実をつける必要も無いだろうと思う。
好きな人に好きということに、それを言っていい日悪い日なんてものは無いし、バレンタインだから何か特別なのかと言われればそれは皆が『特別である』と思っているだけであって2月14日はただの2月14日でしかない、別に2月14日になったからいきなり世界が変わるわけでも無いのだから。
だがそれは余りにも情緒の無い話だ。
少なくともそれを特別に思っている人たちがいるのだから、バレンタインを特別な日と思う『共通認識』があるのだからそれは皆にとっては特別な日なのだ。
まあそんなどうでも良い前置きはさておいて。
実を言うと毎年毎年、この時期になると家族みんなからチョコを貰っている。
去年まではまあ『そういう関係』では無かったので普通のチョコだったが、今年は全員と『そういう関係』になってしまったわけで、去年までとは違う部分も当然出てくる。
…………。
改めて考えるとスゴイことやってるな、と思わなくもない。
エアに、シアに、シャルに、チークに、イナズマに、リップル……それにシキ。
一応この世界……というかポケモン協会のある地方における法律的なものとして人間とポケモンの婚姻は可能ではあるが、基本的に人とポケモンとの婚姻に関して数に制限は無い。
というよりこれに関して通常の婚姻とは別の契約になる、と言ったほうが良いだろうか。
人とポケモンの絆に特別性を見出すための儀礼的な意味合いの強い契約であり、実効力が何かあるか、と言われると実のところそれほど無かったりする。
条件の一つとして『自分の手持ち』であることが挙げられるが、この条件を満たしている時点で婚姻相手のポケモンと一蓮托生のようなものだし、婚姻をするほどに絆が深いなら早まった真似をするようなことも無いだろう、というのもある。
何よりも人とポケモンとでは血を残すことができない以上、通常の婚姻とは別物であるとするしかない。
それ故に人間同士の場合とは別カウントということになるので仮に全員と結婚したとして重婚には当たらない。可能不可能で言えば法律的には可能である。
というか逆に血を残せないポケモンと結婚するから人間とはしません、となると人口の減少になりかねない。今となっては、だが大昔はポケモンとの結婚は『普通』のことだったし、本気でポケモンに恋してポケモンを生涯愛する人間だっていたのだから。
で、倫理的にはどうなのか、と言われるとこれが案外アリなのだ。
元より原種のポケモンと結婚する人間というのも世界中を探すと少数派ではあるがいるのはいるのだ。
そもそもポケモンような人類の隣人の存在しなかった地球においてさえ本気で動物と婚姻をする人間がいるのだからペットなどよりさらに隣人の意味合いの強いこの世界におけるポケモンとの婚姻というのは、地球における国際結婚……よりはさすがにマイノリティだが同性愛などよりはメジャーだったりする。
そしてトレーナーなどが特にそうなのだが複数のポケモンを手持ちにしている場合、その扱いには非常に気を使う必要がある。
先も言ったがポケモンとの結婚というのは無くは無い、くらいに認識される程度には実在するのだ。
当然その中で起こったトラブルというのもそれなりにあるわけで。
一番多かったのが婚姻を結んだ相手のポケモンを大切にするあまりに他のポケモンたちの扱いがおざなりになったりすること。
他にも複数のポケモンに好かれていてるのにその中から一体を選んでしまったせいでパーティが半壊してしまった、なんて事案も過去にはあったらしい。
先も言ったが人とポケモンとの婚姻というのは血を残すことが目的ではない以上通常の婚姻とは意味合いが異なる。
だから人間同士と同じような枠に当てはめて考えると逆に惨事を引き起こしかねないと、ポケモンとの婚姻に関してはかなり規制が『緩く』設定されているのだ。
自分の場合に当てはめると通常の意味での婚姻はシキとすることになる。
その上でエアたち6人とは『ポケモンとの婚姻』という扱いで通すことになるわけだ。
ただそうすると今度はエアが『妊娠』した、というのは色々問題になる……のかもしれない。
もしかするとならないかもしれない。
ヒトガタという存在が余りにも例外的過ぎて、その極々例外的な少数派のために既存の法が変わるか、と言われれば微妙なところではある。
まあ将来のことは将来考えれば良い。
万一の時は引っ越せば良いのだ。
ホウエンなどは一夫一妻は普通かもしれないが、一夫多妻の地域というのはそれなりにある。特にポケモン協会の管理から外れた地方ほどその傾向が強い。
と言うわけでそこまで将来に関して心配はしていないのだが、それはそれとして。
バレンタインである。
正直今までこの日に対して特別何か思うことは無かった。
エアたちは……まあ毎年律儀にチョコレートをくれたのでその気持ちは受け取っていたが、それだけと言えばそれだけで、自分からバレンタインという日に何かを期待したことも無かった。
今までは。
すでに彼女たちとの関係性は変わっている。
ただの家族から、最愛の相手に。
故にバレンタインという行事に対しての思い入れというのも多少変わって来るわけで。
―――期待、してるのかな?
自分で考えておいてなんだが、そんなことを自分で考えるとは思わなかった。
変な表現になるのだが、自分がそんな風に思うとは思わなかった。
少なくとも過去の自身ならば無かっただろうことで。
変わったのだろう、と思った。
変えられたのだ、と思った。
彼女たちと心を通わせて。
彼女たちと心を繋げて。
恋という感情を知ったから。
* * *
鍋の中、湯煎でドロドロに溶けたチョコに少量のクリームを混ぜていく。
ヘラで焦げることのないようにゆっくりと、けれど手を止めずに混ぜ続けていく。
「そろそろかしらね」
余り時間はかけていられない。
何せ自分を抜いてもまだ五人も使うのだから。
比較的早起きのシアは朝食の用意に忙しいが、用意が終われば同様に使いたがるだろう。
それにシアが用意を終える頃にはチークやリップルも起き出すだろう。
イナズマは昨日も遅くまで部屋で作業をしていただろうし、シャルは単純に早寝遅起きなので後回しにできるとしてもエアが一人でゆっくりと調理していられる時間はそう多く残されてはいなかった。
幸いにして一番時間がかかるであろう部分は昨日の内に済ませているので、後はそれほど時間はかからないはずだ。
「ちゃんと混ざってるわね」
焦げついた様子も無く、混ざり具合にムラも無いのを確認すると鍋の火を止めて、湯煎していたチョコのボウルを取り出す。
直接持とうとして湯煎によって熱されたボウルの熱さに思わず手を引っ込める。
「っつ……ってそうよね、もうこういうのダメなのよね」
未だに慣れない体の変化に戸惑いながらも厚手のクロスでボウルの縁を掴み、鍋の中から引っ張り出す。
『竜』の体だった時ならばこの程度の熱さに触れた程度何ともなかったはずなのだが、熱湯によって熱っせられたボウルは今の『人』に限りなく近い体では火傷してしまう程に熱かった。
不便だなあ、とは思う。
最初は小さな変化だったが日に日に体の変化は大きくなっていく。
かつては空を自在に飛び回っていたというのに今はもう浮かぶことすらできなくなっている。
自分の数倍は重かっただろう物でも軽々と持ち上げられた強大なパワーは失われ、今の自分の力など外見相応の少女の力しか残されておらず。
何より伸縮機能を失い、モンスターボールに入ることもできなくなった今のエアはすでにポケモンという存在の定義から外れてしまっていた。
空を飛ぶことが好きだった。
それはボーマンダという種族の血に刻まれた本能のようなもので。
だからこそ、もう飛ぶことができないという事実に思うことが無いわけではない。
だがそれでも、それでも、だ。
それ以上に、なのだ。
「ただの感傷よね」
もう失ってしまったのだから、今更嘆いたところで何になると言うのか。
何よりも自身はそれに関して、一切後悔していない。
こんな体になったことも、こんなことになったことも、何一つとして後悔は無いのだ。
失くした物は多い、だがそれ以上に得た物は多い。
「馬鹿な話よね」
―――好きな人と同じ歩幅で歩きたい。
たったそれだけのことを得るためにエアはその身に宿していた力の全てを失って、それでもたったそれだけのことが何よりも大切なのだ。
たったそれだけのことがエアたちにとっては何よりも難しくて、けれど何よりも欲していて。
だからきっとシアも、シャルも、チークも、イナズマも、リップルだって一瞬だって迷わないだろう。
すでにそうなったのか、まだそうなってないのかはともかく、いつか皆エアと同じような体になってしまうのだろう。
「っと、折角溶かしたのにまた固まっちゃうわね」
余り熱すぎるのも困るが、冷えるとそれはそれでまた固まってしまう。
そうすると再度湯煎して溶かさないといけなくなるので余計な時間がかかってしまう。
少し慌てながら先日焼いておいたクッキーを用意し、さっとチョコの中を潜らせてバットに並べていく。
一番手間のかかるクッキーは昨日の内に焼いていたのでさほど手間もかからず作業を終える。
後はチョコが固まるまで置いておくだけだ。
「あむ」
味見とばかりにバットに並んだクッキーを一つ取って口にする。
クッキーにもチョコにも甘さ控えめな物を作ったせいかチョコの風味の中にほんのり甘味を感じる。
多分シャルあたりからすると物足りなさを感じるのだろうが、エアは辛い物のほうが好きなのでこんなものだろう。
何より贈る相手のハルトが甘すぎるのが苦手なのでこれくらいで良いだろう。
ハルトの味覚というか好みというのはエアにかなり近しいのでだいたいエアの好みで出すとハズレが無くて助かっている。
「ま、こんなものよね」
後は冷えて固まったチョコクッキーを用意しておいた袋に入れてリボンでラッピングの一つでもすれば完成と言ったところ。
作業を終え、手慣れた手つきで片づけを始める。
すでにシアと何度となく行ったことだ、今更戸惑いも無い。
ほんの数年前までこうして自分が調理場に立ち、料理するなんてこと考えもしなかったが、全くもって変われば変わるものだと苦笑する。
「ふふっ」
幸せだなあ、なんて思っていたら知らず知らず笑みが零れていた。
とくん、と胎の内が脈打った気がして、腹部に手を当てる。
「どうなることやら」
エア自身、自らの体が今どうなっているのか見当もつかない。
自身の内側に新しい命が宿っていると言われても実感は無いし、果たして生まれてくるのが一体『何』になるのか、そもそも無事に生まれてくることができるのか、わからないことばかりで。
それでもまあどうにかなるだろう、と思っている。
楽観的と言われようとも。
能天気と言われようとも。
ずっとそうしてきたのだ。
ずっとそうやって通してきたのだ。
いつも、いつも。
大好きな人と共に、無茶を押し通してきたのだ。
だから。
今度だって何とかなる。
心の底からそう信じているのだ。
本当はヒロイン7人を一人500字くらいでさらっと書いてアンケートしたかったんだけど、がっつり2000字近く行ってしまったので3話分割して投稿予定。