冬が過ぎ、一年が終わる。
そうして春が来て。
「お誕生日おめでとう、ハルトくん」
「ハルカちゃんもおめでとう」
自身、ハルトがこのホウエンへとやってきてから、もうすぐ一年になろうとしている。
春の初旬、それが自身ハルトがこの世界へと生まれ落ちた日であり。
「全然気づかなかったねえ」
「あはは、そうだよねえ、まさか歳どころか誕生日も一緒だなんて、思いもしなかったねー?」
原作主人公的な補正だろうか、なんて一瞬考えて。
別にどうでもいいか、とすぐに切り捨てる。
「と、言うわけで、こっちからはこれ、安らぎの鈴だよ」
「わあ、ありがとう、こっちからはこれ、帽子だよ」
と言って渡されたのは原作主人公の被ってたような白い帽子。
ありがとう、と言いながら帽子を被ろうとして。
「…………あれ?」
「…………あれれ?」
ゴムを伸縮させたわけでもないのに、自身の頭よりもサイズの大きいせいで、帽子を被るとそのまま顔の半ばまですっぽりとはまってしまう。
「……………………ウツドンに食べられた人みたい」
「…………っぷ、ちょ、ハルトくん、てばあ」
呟いた一言に、ハルカが噴き出し、お腹を抱えて笑う。
「サイズが大きかったみたいだね」
「あははは…………ふ、ふう…………ふう…………ご、ごめんね、ハルトくん」
お腹を抑えながら呼吸を荒げ、謝ってくるハルカに。
「まあ大きくなったら使えるだろうし、それまで家に置いておくよ」
「う、うん」
恥ずかしそうにはにかみながら、ハルカが頷き。
「それじゃあ」
「…………まあ」
「フィールドワークだよ!」
「…………そうなるのね」
やっぱこの子、少しアレかもしれない。誕生日と言う子供ならウキウキのイベントを余裕スルーでフィールドワークの準備万端な少女の姿に、ちょっと変わってる、と言う印象がさらに深く焼き付いた。
* * *
フィールドワークと言っても、子供のやることである。
基本的には、ポケモンを遠くから観察するに留め、直接何かを採取したりなどはしない。
なので。
「……………………動かないね」
「しー、静かに、逃げちゃうでしょ」
口元に指を当てて、こちらを見つめる少女に僅かに嘆息し、再び視線を移す。
視線の先ではジグザグマが茂る草原を真下を向きながら器用に歩いている。
きっと特性はものひろいだな、なんて思いながらそれから視線を移し、ハルカを見る。
「…………変化無し、と」
研究レポ―トのつもりなのか、メモ帳にジグザグマの動きを逐一書き記している。
研究職、と言うのを自身は良く知らないのだが、こんなに退屈な仕事なのだろうか。
「だったらやっぱりなれっこないなあ」
自分には到底無理だ、と思いつつ呟いた一言は、けれど幸いなことに隣の少女には届かなかったらしい。
そう言えばと腰につけたボールを見る。今日は静かだなあ、エア、なんて思う。まあここでガタガタ揺らされるよりはいいだろう。あれでボーマンダと言う種族としてはかなり強力なポケモンなのだ、出した瞬間、この辺り一帯の野生のポケモンが逃げ出してしまう。
そうなると、隣の少女に怒られてしまうだろうし、それは遠慮願いたい。
それから一時間近く、ジグザグマがちょこまかと動くのをひたすら追い続け。
「…………ハルカちゃん、これ以上は止めない?」
「え? なんでなんで?」
進むジグザグマを追おうとするハルカの肩を掴んで止め、ハルカの前に立ち塞がって、そう告げる。
疑問符を浮かべる少女に、ジグザグマが進む先を…………背後を指さす。
そこにあるのは森だ。
ミシロタウンを覆う森。
かなり広範囲に広がる森だけに、その中の生態系は非常に大規模なものとなっている。
表層の浅いところならともかく、奥深くとなるとオダマキ博士のようなある程度権威のある学者が、探索隊を作って入るレベルの規模のものとなる。
少なくとも、子供二人で入るような場所ではない。
「これ以上は危ないから…………今日はここまでにして帰ろう?」
「…………うーん…………うーん…………うん、分かった」
しばし悩んではいたが、やがて頷く。
危険な場所には立ち入らない。ポケモンがいるから、と油断しない。
この辺は割と子供としては規格外だと思う。
子供と言うのは割と根拠の無い自信に溢れているものだ。
自分なら大丈夫、自分に何かあるはずがない。
そんな保証どこにも無いのに。
それでも大丈夫、と無謀なことをしやすい。そのせいでこの世界における、子供の死亡率と言うのは意外と高い。何せ、前世と違って街の外にはポケモンと言う時には友となりうるが、時として人に牙を剥く、明確な危険があるのだ。
だからこの場面で素直に引けるハルカを、素直に凄いと思える。
ホント、お守の必要なんて無いよな、なんて思う。
実はオダマキ博士から、もしもの時ハルカが危ないことをしないように見てやってくれ、と頼まれているのだが、博士の想像を超えてハルカが優秀である。
自身と同じ五歳…………じゃなかった、今日で六歳か。
六歳の子供が自分を弁えている、と言う辺りでもう普通じゃないよなこの子も、と思う。
森の奥へと消えていくジグザグマを見送りながら、それじゃあ俺たちも帰ろうか、と振り返り。
ズサァァァァァァァァァ
背後から…………森の中から出てきた何かが、自身の背後へと迫って…………。
「うわああああああああああ!?」
「待てええええええええええ!!」
「え」
「あ」
そして自身の正面…………つまり、子供たちの進路に顔を出していたハルカと真正面から向き合い。
ごつん
「きゃっ」
「あいたぁ」
ハルカが尻もちを着き、子供の内の一人が転ぶ。
「ハルカちゃん、大丈夫?!」
「あ、うん…………大丈夫だよ」
起き上がり、ぱんぱん、とお尻の砂を払ってハルカが目の前に倒れる子供…………少年を見やる。
黒っぽい、それが印象的だった。
黒髪と黒い着物のような服。頭頂部からぴょこん、と跳ねたアホ毛の先は紅く染まっており、着物のほうも裾や袖、襟や模様など、一部が紅のラインが入っており、紅いニーソと何故か下駄と言う組み合わせ。
ここまで見事なまでにツートンカラー、それだけに、髪留めとその瞳だけがエメラルドブルーで際立っている。
年齢は…………多分、自身たちと同じくらいだと思う。背はそれほど変わらない。
と、言うかなんで着物?
カントーのジムリーダーエリカを見ればこの世界にも着物があるのは分かるが、森から出てきてなんで着物?
疑問符いっぱいの自身を他所に、ハルカが少年の傍にしゃがみ。
「大丈夫?」
声をかける。
「あ……うぅ……」
声をかけられた少年が呻きながら顔を上げ。
間近のハルカとばっちり視線を合わせる。
直後。
「あ、あわわわわわわわわわわ」
ぼんっ、と沸騰しそうなほどに顔を真っ赤にしながら少年が飛びあがり、慌てる。
そして。
「すきありー♪」
げし、と後ろからやってきたもう一人の子供が少年を蹴り飛ばす。
「あははは、なに突っ立ってんのよアンタ…………って、誰こいつら?」
「あわわ…………うう…………痛いよ、おねーちゃん」
「無防備晒してるほうが悪いわね…………で、誰こいつら?」
おねーちゃん、と呼ばれたことから、目の前のこの子は少女なのだろう。
区別し辛い…………そんなことを思うが仕方ないことだろう、何せ。
少年と少女の容姿はまるで同じだった。
双子、つまりそういうことなのだろうと思う。
それにしても服装まで同じか、髪留めの位置が右側か左側かくらいしか違いが無い。
ただ似ているのは容姿だけ。
目が余りにも違い過ぎる。
おどおどとしてどこか頼りなさげな少年の目と比べ、口元を釣り上げながら何か企んでいるかのように笑う少女の目はどこか
「今、二人ともこの森から出てきた?」
場が少し落ち着いたところで、二人に問いかける。
その問いに、二人が頷き。
「そうだけど? ていうか誰?」
三度目の同じ疑問に、ようやく答えを返す。
「こっちはハルト、あっちは」
「ハルカだよ」
「…………はるか…………おねーちゃん…………」
自身の言葉に繋げるようにハルカが名乗ると、少年が頬を染めて何かをぽつりと呟く。
「はーん、ハルトとハルカねー…………この森にそんなのいたっ…………け…………」
少女が訝し気な表情で呟きながら、段々と語気を弱めていく。
まるで何かに気づいたかのように。
そうして。
「人間?!」
「え?」
「は?」
「うぇぇぇぇぇぇ?!」
少女が驚いたように叫び、その意味が分からず自身とハルカが首を傾げ、そして少年が驚愕に絶叫した。
いや、待て…………この森から出てきた、だと?
即座にその意味を理解する。
「ヒトガタ?!」
「えぇ?!」
「っち、バレたか」
「あわわわわわわわわわわわ」
即座に臨戦態勢に入る少女に、慌てふためくばかりの少年。
「まだ子供だし、どうせ大したポケモンなんてもってないでしょ…………私たちなら余裕よ」
あっはっはっはっは、と高笑いする少女に、無言で腰のモンスターボールを取りだし。
「エア、頼んだ」
十秒かからなかった。
* * *
「それで…………どうするの?」
目の前で地面に伸びている双子を見ながら思わずハルカに尋ねる。
「え、ええ…………? 別にあたしは捕まえようとか思ってないよ?」
野生のヒトガタって言うのも珍しいしね、と告げるハルカに、自分だと返答する。
ぶっちゃけた話。
自身はすでに六体揃えているし、ハルカはそもそも積極的にポケモンを集めているわけではない。
故に、ヒトガタとか珍しいポケモンがいても、捕まえる必要性が特に無いのだ。
別に六体以上揃えてはいけない、と言うことも無いが…………ただその場合、あの六人の誰かを外す必要がある、と言うことになる。
世界を超えてまでついてきてくれた彼女たちを今更パーティから外すのも気が引けるので、実際のところ自身はこれ以上主力となるポケモンを増やすつもりは無かったりする。
ただ、倒して目の前でいつでも捕まえれる状態だと、このまま放置も勿体ない気がするのも事実である。
「いらないなら俺がもらうぞ」
不意に。
ひゅん、と。
目の前の双子に向かって。
ボールが投げられた。
「エア!」
咄嗟の呼びかけに、自身の後ろにいたエアが素早くボールを弾く。
弾かれたボールが投げた本人の足元へと転がる。
それは男だった。
全身が紅く、角のようなデザインのついたフードを被った男。
「…………マグマ団!!?」
思わず零れた声に、男がほう、と驚いた様子でこちらを見る。
「なんで俺たちのことを知っているんだ、このガキは…………」
胡乱気な表情でこちらを見て。
「まあいいか…………取りあえずそこのヒトガタは俺がもらう、邪魔するな、餓鬼」
告げた言葉に。
「だ…………誰が、あんたなんか!」
気づけば少女が立ち上がっていた。震える体を無理矢理起こしながら、男を睨む。
「いつもいつも逃げられていたからな、弱ってる今がチャンスみたいだな、今日こそはゲットさせてもらうぜ」
「ぜったいに、お断りよ!」
「…………おねえ…………ちゃん?」
少女が声を荒げ、その声に少年が目を覚ます。
そうして少年が少女の視線の先を見つめ。
「ひぅっ」
びくり、と男を見て怯える。
「ケケ…………ヒトガタが二人、いいねえ。こいつらを手に入れれば俺は強くなる、そうすれば幹部にだって」
にぃ、と嗤う男の笑みに、少女が怒りの表情で男を睨み。
「待った」
「そうよ!」
自身と、そしてハルカが男と少女を遮るように立つ。
足を踏み出そうとした男は自身たちが立ち塞がったことに足を戻す。
そうして、面倒そうな表情で投げやり気味に告げる。
「どけ」
「「嫌だ」」
自分の言葉を一蹴された男が不快そうに頬を釣り上げ…………。
一瞬、自身の足を前に出しかけたが、傍にいるエアを見て、止める。
先ほどの行動で、恐らくエアがポケモンである、と気づいたのだろう。
と言うかこの男、一体いつからこちらを見ていたのか。
「っち、ヒトガタか…………まあいい」
エアを見て、一瞬憎らし気に見つめるが、けれどすぐに嗤う。
「
「 あ”ぁ ? ! 」
耳に届いた言葉に、思わず変な声が出てしまった。
と言うか、気のせいだろうか…………今。
「エアを…………なんだって?」
「ケケ…………俺が勝ったら、そのヒトガタももらっていくぜ」
ぷつん、と自身の中で何かが切れる。
「ケケ、イケェ! グラェナァ!」
「ぶち殺せ! エア!」
絶叫した。
祝:六歳児になりました。
新しいヒトガタポケモン登場。
やっぱあれだ、擬人化絵あるとすっごい筆が乗る。
だって昨日3時間かけて5000字ちょい書いたの今日は1時間半だもの。
擬人化絵見てるとなんか話のネタが浮かび上がってくるの(
因みに何の擬人化かは分かったかなあ?