ポケットモンスタードールズ   作:水代

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そしてまたショタロリが増える

 

 

「一つはハルカちゃんのマギーやこっちのエアたちでこの場所を守ること」

 

 ヒトガタでなおかつ、ある程度レベルもあるマギーや技の構成や努力値振りまで完全に決まっておりあとはレベルだけの状態のエアたちならば、あの程度の敵ならば単独でもそう問題にはならないだろう。

 幸いにして、ここはミシロタウンからそう遠く無い。ゾロアが生息していることから分かるように、101番道路、つまりコトキタウンとミシロタウンの中間地点だ。

 さすがにゲームのように徒歩数十歩とか言う距離ではないが、それでも歩いて二十分もかかりはしない。

 

 可能か不可能かで言えば可能だが、いつ来るかもわからない敵を待ち続けるのはかなり骨が折れるだろうことは予想に容易い。

 

 まあそれでもハルカならやると言うのだろう、他に方法が無ければ。

 

「で、もう一つは」

 

 ただこっちはこっちで、何か言われそうだなあ、とは思ったが、まあ選択肢として提示する。

 

「こっちに捕まること」

 

 告げた瞬間、少女の視線がきゅっと細められる。

 

「アンタらも私たちを捕まえようとしてるわけ」

「え、いや、別にいらないけど? ねえ?」

「うん、そうだね」

 

 少女の問いに、あっけからんと答え、隣のハルカにも同意を求めるとあっさりと頷く。

 そんな自身たちの様子に、少女が拍子抜けした、と言った様子で目を瞬かせる。

 と言うか、いらない、って言われたことにすこしショックを受けているようにも見えた。

 

「ち、違うの?」

「だってもうパーティメンバーなんて固定してるし、これ以上は別にねえ、図鑑のために捕まえるにしても別にヒトガタである必要なんて無いし」

「あたしは別にトレーナーを専門に目指してるわけじゃないしね、一緒に来てくれるなら歓迎するけど、無理についてきてなんて言わないよ」

「…………っ!」

 

 ハルカの呟いた台詞に、少年のほうがぴくり、と反応したように思えたが…………一体なんだろう?

 

「そう…………そう、ね…………」

 

 少女は少女で少年の僅かな変化に気づく余裕も無さそうだった。

 後ろでゾロアたちが二人を不安そうに見つめる。

 

「もし…………もしアンタたちに捕まったとして、もう野生に戻れないの?」

「戻りたいなら戻してあげるよ、と言うか、ハルカちゃん、博士に頼んでゾロアたちの保護する場所って確保できない?」

「え? あ、それいいかも。うん、お父さんに頼んでみる、お父さんもきっといいよって言うよ!」

 

 にっこり笑ってそう告げるハルカに、少女が呆気に取られたようにぽかんとして。

 

「どうする?」

 

 そう尋ねると、少女がこちらを見て、それから群れのゾロアたちを見て。

 

 数秒悩み、そして口を開く。

 

「私は…………」

 

 

 * * *

 

 

「ゾロアの群れ!!? いいよ、いいね、勿論オッケーだとも! すぐに作ろう、私が頼んでおくさ!」

 興奮した様子の博士を見ながら、ほらね、とハルカが笑う。

 それを見て少女…………ルージュが呆れたような表情をする。

「本当にこれで良かったのかしら」

 思わず、と言った感じで呟いた一言。それから視線を横に向けて。

 ぼうっとした様子でハルカを見つめる少年…………ノワールを見て、また一つため息を吐く。

 

 結局、二人は自身たちに捕獲されることを選んだ。

 

 少なくとも、ゾロアの群れが保護され、いつかゾロアークの元に戻されるのならば、と言う条件でだが。

 別にこっちはそれでも構わなかったので、了承し、いざボールに入れようとして。

 双子の片割れ、少年がハルカのところに向かい。

 

 “ぼ、僕…………はるかおね…………ハルカさんがいい”

 

 そう告げた。

 そのことで割と少年と少女にひと悶着あったが、ゾロアたちがよくある姉弟喧嘩だと言う感じの様子だったのでしばらく放っておいて。

 結局、少女は自身のところへ、少年はハルカのところへ行くこととなった。

 

 捕まえたならば、と言うことで二人のニックネームを考え。

 

 双子と言うことである程度の統一性を持たせようとした結果、(ルージュ)(ノワール)となった。

 

 まあ二人ともそれなりに気に入ってくれたようで良かった。

 

「発情しやがって、愚弟が」

 

 ぺっ、と唾を吐き捨てるような仕草に、こらこらと呟きながら。

「それじゃ、まあ…………帰ろうか、うちに」

 自身と同じくらいの背丈の少女、ルージュの手を引く。

「あ、ちょ、ちょっと!」

 博士とハルカにそれじゃあ、と挨拶しながら研究所を出て、徒歩一分ほどの我が家へと到着する。

「ここが我が家だよ」

「分かったから、放しなさいって」

 そう言えばずっと手を取っていたな、と今更に思い出しつつ、少し恥ずかしそうなルージュに我が家を紹介する。

「それと、今日からはルージュの家でもあるから、まあ気楽に過ごして」

「他の群れを見つけるまで、だからね! 分かってる?」

 分かってる分かってる、と呟きながら玄関を開き。

 

「ただいまー」

 

 新たな家族を連れて、自身の居場所へと帰った。

 

 

 * * *

 

 

「ふむ」

 

 手の中のボールを弄びながら、目の前の光景に一つ息を漏らす。

 

「仕上がってきた、かな?」

 

 呟きと共に、ぶん、と隣に少女…………エアが戻って来る。

「それなりに、ね」

 

 現在地、いしのどうくつ。またか、と言われるかもしれないが、自身なりに考えた結果この場所である。

 と言うか実は以前からちょくちょく来ていたりする。

 

「ただアレが無いせいで、まだ練習の域を出ないのが問題か」

「……………………まあ、気長に待ってあげる」

 

 エアが手の中で、赤と青、二色の不思議な模様の描かれた石を弄ぶ。

 

「うーん、そうだ、エア」

「なに?」

「ついでだし、それもちょっと加工してもらうか」

 

 エアの持つ石を指さし、そう告げる。

 その言葉にエアが不思議そうな表情をする。

 

「まあいいから」

 

 不思議そうな表情のエアから石を預かる。

 

「それより、次、行こうか」

「分かったわよ」

 

 誤魔化されたことにやや不服そうながらも、エアが頷き。

 

 いしのどうくつ、そのさらに奥へと進む。

 

 今回は先ほども言ったが、以前のようなレベリングのためではない。

 そのため、以前のように無意味に挑発して敵を引きつけるのではなく、()()()()だけを倒すようにしている。

 

「サーチャーに反応無いね」

 

 最近、博士が試作したポケモン図鑑の新機能の一つだ。と言うか原作オメガルビーでもあった、周辺に隠れているポケモンを探すための機能である。

 まだ試作と言うことで、精度のほどは微妙だったりする。見ればはっきり分かるはずの潜んでいるはずのポケモンに反応しなかったり、反応したかと思ったら別のポケモンだったり。

 ただそれでも、この暗い洞窟内で自力で探すよりは大分マシであり、それまでよりも効率が随分と上がったのは確かだ。

 

「もう少し、奥に進んでみる?」

「…………そうだね、そうしてみようか」

 

 エアの提案に頷き、さらに進んでいく。

 と言っても退路は常に気にしている。

 以前はここでチークとイナズマに襲われたが、あれは本当に間一髪だった。

 

 今だから言うが、あの時もしチークを見つけるのが遅れたら、イナズマがチークを無視していたら…………ほんの少し運が悪ければ、あそこで全滅していたかもしれない。

 

 チークがこちらに迫った時、誰かを襲う前に見つけられたせいで、被害にあったのがシアだけで済んだし、そのことに焦ったイナズマがチークがやられる前に、自身の守りを固める間も無くパーティを分断させるために動いたし、チークがこちらを無視してエアに走っていたらエアがマヒさせられてイナズマが先にコットンガードを積んでしまい、こちらのじしんの威力も大幅に下がり、先にエアがやられていただろうが現実にはそうはならなかった。

 

 あの場面は本当に危なかった、一歩間違えればあそこで死んでいたかもしれない。

 

 そう思えばこれから向かう場所がとても恐ろしいものに思えてくる…………が。

 

「…………なに?」

「いや、何でもないよ」

 

 エアが居てくれるならば、問題無いだろうと思える。

 本当に、この少女が居てくれなければ自身はどうなっていただろう、とそんな風に本気で思う。

 そもそも、エアが居てくれなければ…………あの時、ミシロタウンで自身と出会ってくれなければ。

 

 本当に、どうなってただろうなあ。

 

 そんな風に思えば。

 

「エア…………ありがとう」

 

 そんな言葉が無意識に零れ出ていた。

 

「何がよ?」

「…………ふふ、なんでもないよ」

 

 隣を歩く少女の手をぎゅっと握る。

 瞬間、少女の顔を真っ赤になるが、気にせず歩く。

 ただ手を繋いだだけで、不安も何も全て消し飛ぶ。

 

 ふいに、笑みが零れ出る。

 

「な、なによぉ」

 

 顔を赤くしながら、語尾が弱くなっていく少女のことが酷く愛おしくて。

 

「なーんでもないよ」

 

 まだ一つ、誤魔化しながら、少女を握る手の力を強めた。

 

 

 * * *

 

 

「シア」

 

 一言呟けば、少女がはい、と答える。

 

「“ねがいごと”」

 

 シアが指示通り“ねがいごと”をして。

「ギェェ!」

 野生のジグザグマがシアに“たいあたり”する。

 その繰り返し。

 

 ただわざには全てPPと言う使用に対しての回数制限があるので、それが尽きれば。

 

「れいとうビーム」

 

 一撃でジグザグマが沈む。

「じゃあ今日はこれでお終いだね」

 お疲れ、とシアに声をかければ、お疲れ様です、と返って来る。

 ミシロタウンは目と鼻の先だ、すぐにたどり着き、そのまま家へと戻る。

 その道中、シアがあの、と声をかけてくる。

 

「最近ずっとこんなことばかりしてますが、これは一体何の意味が?」

「んー…………まあ、色々かな。とりあえずさ」

 

 みんなの完成形が見えてきたから、今はまずその下積みだよ。

 

 そんな自身の言葉に、シアが首を傾げる。

「かんせい、けい…………ですか? それって、裏特性のこと、ですよね? 申し訳ありませんマスター、今のところ何も感じないのですが」

 と、そんなシアの言葉に、ああと一つ頷く。

「まだ何も思いつく必要無いよ…………シア、仲間のこと、大事に思ってる?」

 そんな自身の言葉に、シアが頷く。

「当然です」

 そしてそんなシアの言葉に、満足気に頷き。

 

「なら今はそれでいいさ…………シアなら後は切欠さえあれば閃くはずさ」

 

 そんな自身の言葉に、シアが首を傾げた。

 

 

 * * *

 

 

 正直困った。

 

 それが自身の本音。

 

「あ、あの…………ご主人様?」

 

 腕を組み考える自身に、おずおず、と言った感じでシャルが声をかけてくる。

 ミシロタウンのすぐ真下、森のすぐ傍のやや開けた野原がある。

 子供たちからすれば絶好の遊び場所なのだが、残念ながら現在ミシロにいる子供は自身とハルカの二人だけである、それだけでもう察して欲しい。

 そしてそんな野原に二体のポケモン。片方は自身の手持ちの一匹、シャル。

 そしてもう一匹が。

 

「ピッポ!」

 

 ピンク色の丸っこい頭に、白いリボンのようなしょっかくの生えたポケモン。

 

 ゴチムである。

 

「なんか閃かない?」

「あ、あう…………そう言われても…………」

 

 わざわざオダマキ博士に頼んで一匹用意してもらったのだが、先ほどからどうにも手応えがないと言うか、梨の礫と言うか。

 

 これは…………どうすればいいのだろうか。

 正直、これ以外の訓練方法が何も思い浮かばない。

 

「んー…………取りあえずもうちょっと頑張ってみようか」

「そ、そんなあ」

 

 涙目なシャルの姿に、少し可哀想そうかなあとは思うが、けれど実際のところ、この状況でシャルに何か掴んでもらうしかないので、もうしばらく放置することにする。

 

「…………他に何か、考える必要あるかなあ」

 

 呟きつつ、半泣きで引き下がろうとしても足が一歩も動かない様子のシャルを見ていた。

 

 

 * * *

 

 

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

 食べる、食べる、食べる、食べる、食べる、食べる。

 

 リサイクル、リサイクル、リサイクル、リサイクル、リサイクル。

 

「…………自分でやらしといてなんだが、凄い光景だな」

「あむあむ…………ん? あ、トレーナーじゃん」

 

 一心不乱にオレンのみを齧ってはリサイクルで戻していくチークに声をかけると、チークはこちらを見て笑った。

 シャルがあわあわしている場所から少し離れた場所、そこにレジャーシートのようなものを広げて、その上に大量のオレンのみが転がっていた。

 

「ふう…………お腹いっぱい。ちょっとイナズマ連れて外走り回ってこようかなあ」

「イナズマは別の訓練してるからちょっと待て」

「なあに、一緒になって走ればいいのサ」

 キシシシ、と笑う少女に、まあ好きにすればいいと告げ。

「その前に、少しここ片づけるか」

「んじゃあ、アチキはイナズマのところに」

 こそりこそりと場を去ろうとしたチークの襟を掴み。

「お前も一緒にやれ」

 

 この後二人でめっちゃ掃除した。

 

 

 * * *

 

 

 じじ、じじじ、ばちちちちちちち

 イナズマの全身から電気が溢れる。

 

 “じゅうでん”

 

 そしてそこから。

 

 “こうそくいどう”

 

 『すばやさ』を上げるわざを積んで。

 こてり…………と、イナズマが倒れる。

 

「む、難しい…………ど、どうすれば」

 

 起き上がり、困ったように首を傾げる。

「お、やってるな」

「あ、マスター…………と、ちーちゃんも」

「やっほー」

 手を上げ、挨拶するとイナズマが笑みを浮かべる。

 シャルやチークのいた場所ともさらに少し離れた場所。

 二人がそれほど場所を使わない分、イナズマが一番場所を広く使っていた。

 

「あの、マスター…………やっぱり難しいですよこれ」

 

 困ったような表情をする、イナズマに。

「まあ分かるとは言わないが、多分慣れだと思うぞ、まだ時間はあるから、頑張ってみてくれ」

 月並みな台詞だなあ、とは思うが、さすがにポケモンの感覚なんて分かるはずも無い。

 自分には指先から放電することも、空を飛ぶことも、氷を生み出すことも、影を操ることもできないのだ。

 

 だからこそ、ポケモン自身が掴むしかないのだ、その感覚を。

 

「手探りなのは分かってるが、それができたらお前らはもっと強くなれる」

 

 それだけは。

 

()()()()()()()

 

 だから、頑張ってみてくれないか?

 

 そう問う自身に、イナズマは。

 

「分かりました、マスター」

 

 柔らかな笑みを浮かべ、そう答えた。

 

 

 * * *

 

 

 ぱしゃぱしゃ、と水が跳ねる音が聞こえる。

 

「…………はあ~、気持ちいいね~」

 

 自宅の庭でプールに身を沈ませながら心地よさそうに呟くのが、リップル。

「ホントお前、何のためにやらせてるのか分かってる?」

「分かってる分かってる~」

 ホントかなあこいつ、と思いつつ。

 

「んふふ~…………マスターもリップルと一緒に入るぅ~?」

 

 楽しそうにそう誘ってくるリップルに。

 

「お前と入ると抱き枕にされた挙句に全身滑らされるから嫌だよ」

 

 呆れつつ、呟いた。

 

 

 




そろそろ全員分の裏特性をちょっとずつばらしていきたいところ。



ところで裏特性に続く新システム『特技』が実装されます。
と言うかすでに軽く出ているのをちゃんとシステム的に作り直すって感じですけど。

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