ポケットモンスタードールズ   作:水代

28 / 254
戦って飯食って寝てまた戦うのが原作的トレーナーの日常

 

 

「こいつも持ってないなあ」

 

 段々と面倒になってきたなあ、と思いつつ、それでも作業は止めない。

 いや、これを作業と呼ぶのはかなり厳しいものがあるのだが。

 

「さすがにちょっと可哀想になってきたんだけど」

 

 エアがジト目でこちらを見ながら呟くが、ダメダメと呟いて続行を宣言する。

 

 ダメージを与えて気絶させただけ、別に殺したわけでも無いし、そのうち回復するだろうが、それでも海の上にペリッパーの大群がぷかぷかと浮いている光景は中々に壮絶だと思う。

 ペリッパーだけではない、あまいミツに吸い寄せられてやってきた大量のポケモンたちが目を回し海に浮かんでいる光景は一種地獄絵図だった。

 

「キバニアが来たら全員狩られるわね」

「まあそこは自然の掟、と言うことで」

 

 ゲーム時代確率は5%と言う割りにサーチャーのお蔭でけっこう簡単に手に入ったイメージがあるのだが、現実ではそうもいかないらしい。

 

 何が、と言われれば。

 

 廃人御用達し、最早厳選作業、努力値振り作業の後の最後のレベリングには必須と言われるチートアイテム。

 

「出ないなあ…………しあわせタマゴ」

 

 つまりそういうことだ。

 

 

 * * *

 

 

 オメガルビー・アルファサファイアから新しく追加されたシステムで、“揺れる草むら”と言うのがある。

 まあ別にこれは草むらに限ったわけではないのだが、とにかくランダムエンカウントでポケモンが出現するフィールドである程度歩いていると、ポケモンのシンボルが出現する。

 歩き方も忍び足、と言うのが実装されており、忍び足でゆっくりとシンボルに近づき、接触するとエンカウント。

 

 そこで出てくるポケモンは、タマゴわざを覚えていたり、V個体が確定したり、夢特性を所持していたり、レベルが高かったりと通常とは違う特殊なポケモンが出てくる。

 

 この方法でしか出会えないポケモンもいたりして、まあオメガルビー・アルファサファイアの特徴的な機能の一つと言える。

 

 ポケモンサーチと呼ばれるこの機能を使うと、出現したシンボルが何のポケモンなのか、今何レベルなのか、タマゴわざを覚えているか、V個体はあるか、特性は何か。

 

 どんなどうぐをもっているか、そんなことまで戦う前に分かってしまう。

 

 しかもシステム仕様に連鎖機能と言うのがあって、シンボル化したポケモンを逃すことなく接触し、倒すか捕獲するかすると連鎖が始まる。

 連鎖が始まった時の特徴として、サーチ機能が非常に高確率で成功する、と言うのがある。

 

 つまり虫よけスプレーなどを使えば、連続して同じポケモンとだけ戦い続けることが可能となるのだ。

 

 つまり何が言いたいかと言えば。

 

 この機能を使えばゲーム時代、ポケモンがたった5%程度の確率でしか持っていない貴重な道具をかなり簡単に入手することができたのだ。

 と言うか割と乱数次第でぽこぽこ低確率のはずの道具が出てくるので、そこまで確率を意識せずとも集めることができたりする。出ない人はとことん出ないが。

 

「だから簡単だと思ったんだけどなあ」

 

 しあわせタマゴ。

 

 オメガルビー・アルファサファイアを準拠としたこの世界だと、ペリッパーと言うペリカンを模したポケモンが低確率で持っている。実際、それでゲットしたトレーナーも確かにいるようだ。

 ただかなり確率が低いので、基本的に貴重品扱いであり、持っているトレーナーはかなり少ない。

 

 因みにだが、この世界。こう言ったゲームでは自分で入手するしかないどうぐも実際にはけっこう売っていたりする。

 トレーナーと言うのは実はけっこう金が溜まる職業だ。ゲーム時代には無かったが、この世界でポケモンバトルはトレーナーにとっては真剣勝負であり、それを見る側からすれば娯楽のようなものだ。

 故にそれを利用して商業をするものはいる。

 なのでこの世界ではポケモンバトルの大会と言うのはあちらこちらで年中ちょこちょこあったりする。

 そう言った大会で優勝すると百万単位の金が転がり込んだりするし、そうでなくともいい成績を残せば企業がスポンサーとなってくれたりする。

 

 ポケモンはある意味人間の隣人であり、人類とこの世界を二分している存在だ。

 どうあっても人間の商売とポケモンの関係は切り離せないものであり、そうである以上、ポケモンを使って戦うことを専門とするポケモントレーナーと言うのは実際、色々な場面で重宝する。

 そうでなくとも、自社の名を背負ったトレーナーが活躍すればそれだけその会社の名も高まる。

 

 ポケモンバトルと商売、そして人間社会と経済は割と密接に繋がっていたりする。

 

 だから、ゲームだと手に入らなかった品も、普通に売られている…………割高で。

 

 しあわせタマゴ級の品となると数百万はくだらないだろう。

 それは勿論トレーナーの中でも下のほうや中堅程度では手の届く値段ではない。

 だがトレーナーの中でもそう言った大会で優勝できるトップを走る勢は基本的に金を持っている連中からすれば、例え数百万払ってでも欲しい一品であり、それを払えるだけの金がある連中でもある。

 こうしてトップオブトップのブルジョワジーを対象にした高額商品の売買と言う商売が成り立つ。

 

 そしてだからこそ、それを専門とするトレーナーと言うのも成り立つ。

 先の例を言えば、ペリッパーを探し捕まえ、しあわせタマゴを持っていればそれだけで数百万の大金が転がり込んでくる。故にそう言ったポケモンが持っている貴重などうぐを探しだすことを専門とするトレーナー…………と言うかむしろもうハンターみたいな人たちもいる。

 

 と言うか自身が今やっているのはむしろそれだろう、と思う。

 

「うーん…………もうちょっとだけ粘ってダメなら、今日はもう戻ろうか」

「そうね…………さすがにちょっと疲れたわ」

 

 そんなエアの言葉に、ふむ、と顎に手を当てて数秒思考し。

 

「やっぱり負担大きい?」

「負担…………て言うほどじゃいわね、でもやっぱり一々気を使わないといけないし」

 

 ふわり、と浮き上がり…………その場でくるくると回転する。

 

「あ、来た…………エア、頼んだ」

「はいはい…………次こそあるといいわね」

 

 瞬間、エアがその身を回転させながら空へと飛びあがっていく。

 その眼下には、ふよふよと海の上を飛ぶペリッパーの姿。

 

 そしてペリッパーが海に浮かぶ気絶した仲間たちに気づき、一瞬、動きを止めた瞬間。

 

 “そらをとぶ”

 

 エアが急降下、一瞬のうちにペリッパーに迫り、すれ違い様にペリッパーへと一撃当てる。

 

 跳ね飛ばされるようにペリッパーが空を舞い、どぼん、と海に落ち、そのまま浮かび上がって来る。

 

「…………完全に通り魔だね、これ」

「やらしてるのアンタじゃない」

 

 いつの間にか戻ってきたエアが、自身の呟きに返してくる。

 だが先ほどまでと違い、その手には小さな卵のようなものが握られている。

 

「ほら、これじゃないの?」

「おお! これだよ、これ!!」

 

 ポケモンの卵とは違い、何の模様も無い真っ白な卵。

 以前どうぐ図鑑で見た“しあわせタマゴ”そのものである。

 

「ようやく見つけれたね」

「ホント苦労したわ」

「まあまあ、良いレベリングになったでしょ?」

 

 ふん、とそっぽを向くエアを他所に、手の中のしあわせタマゴを見る。

 これ一つで数百万。

 

「エア」

「何よ?」

「もう一個くらい見つけない?」

「いい加減にしなさい」

 

 そのまま襟元掴まれたまま強制帰還された。

 

 欲張り、ダメ、絶対。

 

 

 * * *

 

 

 ゲーム時代もそうだったが、現実でも共通していることとして。

 

 野生のポケモンを倒すよりも、トレーナーのポケモンと戦ったほうが得られる経験値は多い。

 

 故に、101番道路、102番道路、104番道路など近場で行けるところにパーティを連れて赴き、片っ端からトレーナーに戦いを仕掛け、仕掛け、仕掛け、仕掛け、仕掛け。

 

「ハルト」

 

 マイファザーからお呼び出しがかかりましたとさ。

 

「はい、父さん」

 

 何と言ったものか、と頭を悩ますパパっちだったが、しばし目を瞑り、やがて開く。

 頭の中で思考をまとめたようで、先ほどよりも落ち着いた様子で口を開いた。

 

「この辺りのトレーナーたちを狩りつくしている子供、と言うのはお前のことか?」

「別に歩いてたら向こうがバトル仕掛けてくるから戦ってるだけですが?」

 

 何か? と言った自身の様子に、父さんが深く悩まし気なため息を吐く。

 

「子供がむしポケモンを捕まえてトレーナーの真似事をすることは…………まあよくあるからいいとしてだ、見た目で格下と侮った連中も悪いが、それでもやり過ぎだ。ジム戦予定がいきなり無くなったから何事かと思ったら、全員が全員、五、六歳くらいのヒトガタを使う子供にぼこぼこに叩きのめされて自信を無くしたと言っていたぞ」

「別にこっちはエアしか出してないのに…………」

 

 因みにわざを含め、今改良中なので以前とは大分違っている。

 その調整のような面も含めて、色々と試していたのだが。

 

「ハルト」

「はい」

「ポケモンバトルがしたいのか?」

「まあ有り体に言えばそうです、はい」

 

 数秒父さんが考え込み。

 やがて、口を開く。

 

「明日からうちのジムに来い」

「え…………?」

「俺は忙しいからできないが、ジムのやつらに手が空いた時に相手をするように言っておいてやる」

「…………いいの?」

 それはそこそこ職権乱用のような気もするのだが。

「少なくとも、お前の実力はある程度知っている、ジムトレーナーたちにとっても良い相手になるだろうし、それに何より…………これ以上ジムに誰も来なくなるとそれはそれで困る」

 

 ジムはあくまで通過点、誰も通らない通過点に意味など無いのだから。

 

「…………………………」

「まあ負けた程度で怖気づくようなら、それまでと言ってしまえばそれまでだ。だが無意味に追い払う必要も無い。それに、俺に勝つことで才能を芽吹かせるトレーナーだっているかもしれん」

 

 故にジムリーダーは戦い、そして負けることこそが大切なんだ。

 

 今初めて、現実の…………ジムリーダーとしての父親を見たような気がした。

 

 設定でだけは知っていたはずの誰か、今は自身の父親であるはずの人。

 

 でも、今は。

 

 今だけは。

 

「そう言う考え方、かっこいいね、父さん」

 

 ジムリーダーセンリがそこにいた。

 

「…………そうかあ? いやあ、照れるなあ」

 

 一瞬で消え去ったけど。

 

 やはり親馬鹿…………どうしようも無いくらいに、子供にデレデレである。

 

 

 * * *

 

 

 ゲームにおけるトウカシティジムは、五番目に戦うジムである。

 

 ゲームではストーリーの展開上、どうやってもそれ以前にも、それ以降にも戦えない場所であり、ジムトレーナーとも、ジムリーダーとも戦えるのはその一度だけだった。

 

 けれども、現実ではそんなことは無い。

 

 まあ普通のトレーナーがすでにバッジを取ったジムでまた戦うのは難しいものがある、ジムには毎日のように挑戦者が来るのだ、一人のトレーナーにばかりかまけていられない。

 だから普通は…………無いのだ。

 

 自分のように、ジムに対してコネでも無ければ、だが。

 

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしくお願いするよ」

 

 各ジムと言うのはそれぞれ特色を生かした内装をしているが、トウカジムはノーマルタイプ。故に普通に道場風の部屋作りとなっている。

 ただ一つの部屋につき二つの出口があり、それぞれ別々のトレーナーがその先で待ち構えている、と言った感じである。

 

 板張りの床がぎしり、ぎしりと鳴って、自身としては前世の学校の体育館を思い出す。

 少しだけそれを懐かしいと感じながら、ボールを取りだす。

 

 端の一室を丸々借りて、朝からずっとこうしてバトルをしている。

 

「行け、エア」

「行くんだ、オドシシ!」

 

 互いにポケモンを繰り出す。

 

「エア、そらをとぶ!」

「オドシシ、とっしん!」

 

 互い全力で戦い。

 

「よろしくお願いします」

「ああ、お願いするよ」

 

 勝ち、次の相手と戦い。

 

「エア」

「プクリン!」

 

 勝ち、次の相手と戦い。

 

「エア」

「メタモン!」

 

 勝ち、次の相手と戦い。

 

「エア」

「ラッキー!」

 

 そうして半日ずっと戦い続けていれば。

 

「中々いい経験値になったな」

「さすがに、疲れたわよ…………」

 

 さしものエアもへとへとになり果て、ぐったりとした様子で道場に座り込む。

 

「まあ、明日からしばらくエアはお休みだよ」

「ん? どういうこと?」

「とりあえず、エアは良いところまで上がったからね、次はシアだよ」

 

 図鑑アプリを使ってエアの情報を調べる。

 

 

 名前:【ボーマンダ】

 タイプ:【ドラゴン】【ひこう】

 レベル:【76】

 能力:☆☆☆

 

 

 元々、りゅうせいのたきでボーマンダを倒した時点で25かそこらにはなっていた、その後もチークやイナズマとの激戦に加え、親父殿とのタイマンバトルの後からはちょくちょくレベリングや裏特性のための訓練をしていたし、いつぞやのマグマ団との戦いに、過日にはペリッパーを大量に狩ったし、さらに先日までは近場のトレーナーと片っ端から戦い、挙句今日は一日中エアを使って戦っていたのだ、こうもなる、と言うものである。

 

 他五匹もレベリングをしてはいるが、まだ全員四十程度と考えると、やはりエアだけ頭一つ飛びぬけている。

 

 まあ多分大丈夫だろう。

 

 エアに持たせた“しあわせタマゴ”の存在を思い、口元を釣り上げる。

 

 努力値を考える必要のない、あとはもうレベリングだけの状況だ、後は“しあわせタマゴ”を持たせて戦って戦って戦い続ければ年内に全員のレベリングを終えることだって夢じゃないかもしれない。

 

 それが終わったのならば…………。

 

「…………本格的に裏特性…………極めないとね」

 

 呟く言葉は、けれど誰の耳にも届かず、虚空へと消えた。

 

 

 




と言うわけでチートアイテム確保。

ちょっとだけ解説。


あまいミツ:使うと群れバトルと言う野生のポケモンが一度に5体出てくるバトルが起こる。“あまいかおり”でも同じことができる。主に努力値振りに使われる。
ゲームでは場所によって群れバトルで出てくるポケモンの種類が決まっていたが、現実ならばかなり無作為にポケモンを呼ぶことがきる。

しあわせタマゴ:持たせたポケモンが戦闘で得られる経験値が1・5倍になると言う廃人御用達しのチートアイテム。これがあるかないかで、レベリング作業のマゾさがまるで違ってくる。

経験値差:野生のポケモンよりトレーナーのポケモンのほうが同じポケモンでも経験値が高くなる。理由は良く知らないが、この世界だとトレーナーの戦術通りに戦うポケモンと戦ったほうが野生の本能のままに戦うポケモンより、より多くの経験を積むことができるから、と思ってる。

そらをとぶ:極めたらガリョウテンセイにならねえかなあ、とか思ってる。エアちゃんにガリョウテンセイを覚えさせたいだけの人生だった。でも最終的にスカイスキンに効果乗らない分、すてみタックルのほうが強い人生だった。悲しみに彩られた人生。

トレーナー狩り:六歳児に負けたらそりゃ泣く。というか実機で考えれば、まだ序盤で道端の短パンこぞうがいきなりボーマンダとかグレイシア、シャンデラ使って殺しに来ると考えれば…………しかもその短パンこぞうが毎日移動してると考えれば。
恐らくプレイヤー全員クソゲーと叫ぶ。

ぱっぽまじぱっぱ:アニメでも原作でもかっこいい男の中の男センリ。サカキさんも嫌いじゃないけど、調べてもっと好きになったパッパである。

エアちゃんLv76:しあわせタマゴは強かった…………あと、ジムでポケセンでPP回復しつつ二十人かそこら相手してたらそりゃレベルも上がる。しかも上位のほうは普通にレベル50,60出してくるし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。