ミナモシティ二日目、夕方。
みんなで御飯にしようと二家共にホテルの豪勢な食事に舌鼓を打ちながら一日の出来事を話していく。
珍しく小食だったエアに、大丈夫なのかと声をかけても、曖昧に笑うだけで、良く分らなかったが、本人が大丈夫だと言うので放っておいた。
あと何故かシャルも食べる前からお腹いっぱいと言っていたのだが、お小遣い程度の金は渡したが、そんなに食べたのだろうか、なんて思いつつ二日目の夜が過ぎていく。
ミナモシティ三日目、朝。
朝から全員でミナモシティ最大の目玉と言えるだろう、ミナモデパートに来ていた。
ホテルからはやや遠いところにあったが、この世界で初めて見たかもしれないバスがあり、それに乗ってミナモデパートへと向かう。
ゲームだと高いビル、程度の外観だったがこの世界ではとんでも無い規模の敷地に建てられた大規模ショッピングモールと言った感じの外見で、さすがにこれほどの規模のものはカイナシティでも見なかっただけに、ハルカと二人思わず唖然としてしまった。
中もゲーム時代ではゲーム内で使うどうぐやわざマシン、ひみつきちグッズなどしか無かったが、当たり前だが現実ではもっと幅広い商品が並んでいる。
集合場所として敷地南端にあるフードコートの一角を指定し、それぞれがお昼までの自由な時間を過ごす。
自分もこの機会に珍しいどうぐや他にはないものをありったけ買っていく。
途中、同じトレーナーズショップでばったり出会った父さんが自身の買った商品の数々を見て、どこからそんな金が出てくるんだと言った視線で見てくるが、ちゃんとバトルをして巻き上…………もらった賞金から出ている。
ちょっと高かったけど、やっぱあってよかったなあ…………“こううんのおこう”。
コトキタウンから東、ゲームだとなみのりが無いといけない道だがエアに水面ギリギリで飛んでもらいながら進むとカイナシティまでかなり近道になる。カイナシティの市場に“おこう”を売っている人がいるのだが、その中に“こううんのおこう”と言うのがある。
ゲーム内での効果は簡単で“戦闘後得られるお金を2倍にする”だ。
因みに9800円。
つまり“おまもりこばん”と同じ効果のどうぐである。
家に戻ったらお袋様が“おまもりこばん”をくれて、思わず泣き崩れそうになったのは余談だ。
ゲーム時代のように、これを持たしてトレーナーと戦ったからと言って別に賞金がいきなり二倍になるなんて都合の良いことは残念ながら起こらない。
けれどこれらのどうぐは現状で自身が知っている限り、最も凄まじい効力を持つ。
ならこれを持たせるとどうなるのか、と言うと。
元の賞金にプラスして最低1円以上の追加が発生するようになる。
良く分らない? まあそうだろうとは思う。
つまり元の賞金が1000円の場合、賞金の最低価格が1001円以上になる。
大したことが無い?
そう思う?
本当に?
まあ数字だけ見ればそう思うだろう。
これの恐ろしいところは。
一度金蔓として有名なお坊ちゃまと戦って勝ったことがあるが、戦闘後お坊ちゃまはこう言った。
“参ったよ…………これが賞金の5000円…………と言おうかと思ったけど、ここまで完膚なきまでに負けてしまっては仕方ない、これをキミに上げよう”
と言って、黒い高そうな財布を直で渡してきた。
因みに中は札がぎっしりで、軽く二十万くらいは入っていた。
その後何度か別のトレーナーと戦ったり、戦闘後に話をしてみたりで、何となく程度に分かったことを言うと。
“こううんのおこう”と“おまもりこばん”は
相手の意思とか、思考とか、そう言ったものを誘導し、使っている人間が得られる金銭を上昇させる。
ぶっちゃけた話。
運だとか運命だとか、そう言ったものにまで干渉しているのではないか、と言うのが自身の予測。
ポケモンに持たせて戦闘させないと効果を発揮しないし、あくまで自分の意思で払おうとする時にだけ干渉するのも検証したが、それでも運だとか運命だとかそんな形の無いものにまで干渉できる時点でもうこれいったい何なんだ、と言う話である。
まあ、二十万巻き上げて翌日にはさらに倍額入った財布を持っていたお坊ちゃまには正直戦慄すら覚えたが。
ゲーム時代ならそこにわざやシステムアシストも合わせて十分程度で十万、二十万軽く稼げるのがオメガルビーと言うゲームだったが、現実でもかなり無茶苦茶だったことは取りあえず言っておく。
と言うわけで実は予算は潤沢だ。
片っ端からわざマシンを購入していく。どうやらちゃんと使い回し可能なタイプらしい、値段は十倍近いが、それでも使用回数を考えれば全然安い。
驚くことに“みがわり”や“どくづき”、“ジャイロボール”などゲームだとマボロシの場所でないと手に入らないわざマシンも普通に売ってあり、財布の中身はどんどん目減りしていく。
父さんに一度止められたこともあって、もうこの間ほどの荒稼ぎができない以上、あまり使い過ぎるのもどうかと思ったが、けれど便利なものは便利だ。
こういう旅先で買った物は輸送が不便かと思うかもしれないが、ゲームでもあった通り、パソコン一台あれば実家まで送れる世界である。
どうぐ、だけでなく、非生物ならば基本的に転送システムでパソコンに出し入れができる。
ある一定方面では元の世界よりも便利なこの世界だった。
「……………………?」
首を傾げる。
ちりちり、と首の裏辺りに違和感を覚える。
手で触れてみても特におかしな感じは無い。気のせいかな、と思いつつ振り返っても見えるのは人込みばかり。
「…………何だろう?」
分からないならまあいいか、と流し、次の場所へと向かう。
「…………ここは、石売り場か」
ポケモンの進化において、石と言うのはかなり重要だったりする。
“ほのおのいし”“かみなりのいし”“みずのいし”“リーフのいし”“つきのいし”の初代に出てきた五つの石。
第二世代金銀から出てきた“たいようのいし”。
第四世代ダイヤモンド・パール・プラチナから出てきた“ひかりのいし”“やみのいし”“めざめいし”の三つ。
現状分かっているだけでも、九つ、ポケモンの進化に関係する石がある。
さらに特定一部のポケモンにだけ関連するアレも…………石が関連しているし…………。
「けっこう色々あるなあ」
進化に関係する石だけかと思ったら、なんか宝石とかも含めて色々あるらしい。
実はこの世界、宝石の値段と言うのがそう高く無い。決して安くは無いが、けれど前世と違い、ポケモンを使えば探すのも、作ることすらそう難しくない…………と言うかコストが安く済むので、前世と比べるとかなり値は下がっている。
半面、隕石の値段と言うのは凄まじく高い。何せ、未知の鉱石かつ、運が良ければ宇宙の因子がついて回る物質である。見て楽しむものでは決して無いが、研究価値としては凄まじい値になる。
因みに拳大の隕石を見つけれたら家が一軒立てれる。そこに未知の物質でも付着していればさらに一生遊んで暮らせるだけの金が手に入る。
まあ…………未知の物質って、下手したらデオキシスが生えてきそうではあるが。
ゲーム中でも石屋と言うのが実はある。
XYかORAS限定ではあるが、いくつかの選択肢が出てきて、大半は“かたいいし”や進化の石なのだが、中にはとんでも無いものもあって…………。
「…………まじか」
目の前の台に鎮座する白を山吹色で挟んだようなSの字を引き延ばしたような模様が入った丸い石があった。
知っている、自身はこの石を知っている。
値札を見る…………三万円。
「「買った!!」」
思わず呟いた一言は、どうしてか同じ言葉が隣からも聞こえて。
伸ばした手が、隣から伸びた手を触れ合う…………。。
「あっ」
「えっ」
互いに、思わず引き戻し…………隣を見やる。
チャンピオンの ダイゴが あらわれた
「…………………………………………………………………………………………」
「……………………やあ、こんにちは」
公式イケメンスマイル。
ハルトはめのまえがまっしろになった。
眩しいぜ。
* * *
「へえ、キミもトレーナーなんだね」
「ええ、まあ」
石屋のすぐ近くのベンチに座りながら、チャンピオンに買ってもらったジュースを片手に話す。
…………なんだこの状況。
「ボクとしてはどうしてもこれが欲しいんだけど…………譲ってもらえないかな?」
そう告げるダイゴの指が摘まむのは、先ほど見つけた不思議な模様の丸い石。
とりあえず、と言うことで自身が代金を払って手に入れておいたのだ。
「石集めが趣味なんでしたっけ」
告げた言葉に、ダイゴが目を丸くする。
「おや、何で知っているんだい? キミとボクはどこかで出会っていたかな」
原作でも見たことのある、片方の腕でもう片方の肘を持ちながら顎の下に手を当てるポーズ。
なんか目の前でやられると様になっていて、余りのイケメン度の違いに嫉妬すら起きない。
「テレビで見ただけですけど…………ホウエンチャンピオンの名前なら、当たり前に知ってますよ」
「…………おや、バレてしまったかい」
やれやれ困ったな、なんて全然困って様子も無く余裕そうに呟くその姿。
“ホウエンチャンピオン”ダイゴ。
それが目の前の青年の肩書と名前だ。
何度となく、この季節…………ポケモンリーグトーナメントの開催される春になるとテレビで見る。
圧倒的な強さで持って頂点に君臨するホウエン地方のポケモントレーナーたちの頂点。
そして。
だからこそ、つい聞いてしまう。
例えそれが無意味に警戒を煽ると分かっていても。
「使うんですか…………その
「…………………………………………」
呟いた言葉に、返事は無かった。ただただ驚いたように目を見開いていた。
数秒、沈黙が続き…………やがて、ダイゴがくく、と笑い出す。
「まさかキミのような子が知っているとはね…………いや、本当に驚いたよ。こんなに驚いたのなんて、生まれてこのかた初めてかもしれない」
苦笑しながら呟く。けれどその瞳から、笑みが消えていることに、すぐに気づいた。
「キミは…………頂点を目指しているのかい?」
ダイゴが問う。問うた言葉に、寸断置かず。
「
はっきりと頷く。
「…………………………………………」
「…………………………………………っぷ、くふふ」
互いに見つめ合い、沈黙が続く。それを破ったのはまたしてもダイゴからだった。
「そうかい…………本気なんだね。ならライバルには秘密にしておこうか」
秘密、と言ったその言葉に、けれど答えは出ているようなものだった。
ダイゴが立ち上がる、すでに用は無いと言っているようだった。
「…………そうですか」
ゲームではソレのイラスト、と言うのは実は無い。
公式が作った玩具が存在するのだが、それを見る限り多種多様なメガストーンにおいて、それぞれの違いと言うのが配色の違いしか無い、と言う時点でどれがどれかなんて分かりっこ無い。
だからそれが
「メタグロスナイトか…………なら面倒だなあ」
呟いた一言に、ダイゴが振り返り。
「ふふ……………………キミがやってくるのを楽しみにしているよ、トレーナー君」
一度ふっと笑って、そのまま今度こそ振り返ることなく去って行く。
「…………あれが、ホウエンチャンピオン」
ゲームでは何度となく出会ったし、戦って勝ったこともある。
だが、そんな生易しいものじゃない。
あれは怪物だ。
理解する、ゲームが現実となったこの世界において。
ホウエン地方数万のトレーナーの頂点に立つ存在。
それが並の存在ではないことは分かっていた。
だが、ただ向き合っただけで感じる存在感。
あれは本物だ、と脳が理解する。
「……………………楽しくなってきた、本当に」
勝てるのか?
そんな疑問が脳裏を過り。
「勝つんだよ」
笑って呟いた。
「……………………あ、金払ってもらってない」
それから余計なことも思い出した。
公式イケメンさん登場。
メガストーンも出したし、次回ついにアレについても語れるぞい!
バレバレと分かり切ってても、それでもアレで押し通したんだ、一人くらいは驚いて欲しい。