ポケットモンスタードールズ   作:水代

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この世に悪ある限り下っ端は何度でも蘇る

 

 集合場所のフードコートへとたどり着くと、ほとんど同時に他のみんなもやってきていた。

「お父さん、お母さん、何食べるの?」

「パスタとか良いんじゃないかな、センリくんたちはどうするんだい?」

「ふむ、そうだな…………そっちに合わせても良い、よな?」

 一度こちらを振り返り自身と母さんに確認を取る父さん。頷くと、父さんもまたオダマキ博士に向かって頷いていた。

 全員で移動しながら適当な店を見繕い、席を見つけると座ってそれぞれにオーダーをする。

 

「そう言えば父さん」

「ん? どうしたハルト」

 何気なく、ウェイトレスの持ってきたお冷で軽く喉を潤しながら、こちらへと視線を向け。

「さっきチャンピオンに会ったよ」

 完全に硬直した。気づけば向かいで話をしていたハルカたちもオダマキ一家も会話を止めて、こちらを見やっていた。

「チャンピオンって…………まさか」

「うん、ホウエンチャンピオンのツワブキ・ダイゴ」

 驚き過ぎて逆にどんな顔すれば分からない、と言った様子の父さんに、まあ、と話を続ける。

「会ったって言っても、少し会話しただけで何があったわけでも無いんだけどね」

「話したのか?」

「うん…………偶然同じ物買おうとしてね、でもそれが一つしか無かったから」

「何を買おうとしてたんだい?」

 チャンピオンも買おうとしていた、と言う言葉に興味を覚えたのか、オダマキ博士が会話に入ってきて。

 

「メガストーン」

 

 告げた言葉に、笑みが凍った。

 

 

「な…………なな、なななななななな?! なんだってええええええええええええ?!!」

 

 絶叫と言う言葉が似あうほどに叫ぶ博士。だがそんな叫びもざわつくフードコートの中の雑音の一つと消えていく。

「どどどど、どこで売ってたんだい?!」

「南区画三階の石屋さん。進化に必要な石の中にしれっと混じっててびっくりしたよ」

「行かないと!」

「あ、お父さん?!」

 駆け出していく博士と、慌てて父親を追うハルカを見送る。

 残された母親は、あらまあ、と目を丸くしながら、けれどやがて仕方ない二人ね、と笑った。

 

 母親と言うのはどうしてこう誰も彼も器が大きいのだろう。

 

「ハルト」

 と、その時、父親に呼ばれ、振り返る。

 隣の席に座る父が自身をじっと見つめていることに何事かと首を傾げ。

 

「…………お前、知っていたのか」

 

 何のことか、と一瞬疑問に思うが、すぐに気づく。

 

「知ってるよ…………と言うか、もうすぐ使()()()()()()()()

 

 その言葉に、父の目が大きく見開かれ。

 

「全く…………いつの間に知ったんだか」

「ていうか父さんこそ知ってたんだ…………()()()()()

 

 メガシンカ。

 

 ポケットモンスターXYから実装された新システム。

 

 本来進化するはずの無いポケモンが戦闘中に突如進化する現象の総称。

 

 ゲームのシステム的なことを言えば、メガストーンと呼ばれる持ち物を持たせたポケモンを戦闘に出し、技コマンド画面の下側にあるメガシンカのボタンを押せばメガシンカ可能になる。

 メガシンカをしたポケモンはそれぞれ種族値が合計で100前後上昇し、特性なども変化する。

 

 全てのポケモンが進化するわけではない、と言うかメガシンカするポケモンのほうが少ない。

 

 それでも、このシステムによって、明らかに強さが変わった…………変わり果てたポケモンなどもおり、実装当時センセーショナルな話題としてファンの間では多くのメガシンカポケモンを使った戦術が構築されていった。

 劇的に強くなるとは限らない、持ち物が固定される、タイプが変化し弱点や半減なども変わって本来当たらないはずの攻撃が当たってしまうなどのデメリットもあったが、それでもこのシステムによって、対戦における戦いの幅が大きく広がったのは事実だろう。

 

「仮にもジムリーダーだぞ、それくらいは知っている…………もっとも、使える人間は限られるがな」

「ていうか使える人いるの?」

「ああ」

 父さんが呟き、懐から取りだしたのは…………。

「バランスバッジ?」

 トウカシティジムに挑戦し、勝利した者に与えられるポケモンリーグ公認バッジ。

 

 その原品(オリジナル)だ。

 

 ゲームだと分かりにくいが、ジムで勝つたびにもらえるバッジは、あれは複製されたものだ。

 と言っても偽物、とかそういうわけでなく、きちんと本物として扱われる。

 ただバッジは、ジムリーダーのみが持つ原品と、ジムリーダーが認めたトレーナーに渡す複製品の二種類があり、原品は当たり前だがたった一つ、ポケモンリーグが直々に作成し、ジムリーダーに渡した一つしかない。

 そしてジムバッジを複製する権利は、ジムリーダーだけが所有しており、他人が勝手にこれを複製すると、前世で言うところのお金の偽造と同じレベルでの犯罪行為となる。

 

「でもバッジがどうかしたの?」

「その裏だ」

 そうしてバッジを渡してくるので、裏返してみると。

 

「…………キーストーンだ」

「…………その通り」

 

 バランスバッジの裏にキーストーンが取り付けられていた。

 

「え、ていうことはさ」

 もしかしてこの親父様。

「…………使うの? メガシンカ」

「ああ、使うぞ」

 こくり、と頷く親父様だが…………だが!!!

 

 ちょっと待って欲しい。

 

 今脳裏に最大級の悪寒が来ている。

 

 一つ前提を覚えておいて欲しい。

 

 親父様は『()()()()』タイプ専門のトレーナーである。

 

 そのため、ケッキング、ケンタロス、カビゴン、ドーブルなど『ノーマル』タイプのポケモンを集中して集めている。

 

 そうして再び思い出して欲しい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『ノーマル』タイプで。

 

 メガシンカするポケモンで。

 

 割とガチ思考な親父様のガチなポケモン。

 

「た…………タブンネ…………とか」

「む? 違うぞ」

 

 最後の希望だった呟きは、あっさりと断たれる。

 

 残ったのは…………。

 

「メガガルウウウウウウウウウウウウウウウウウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 絶叫した。

 

 いや、むしろ。

 

 発狂した。

 

 

 * * *

 

 

 メガガルーラ。

 

 そのまんま、メガシンカしたガルーラだ。

 

 冗談抜きで一時期、対戦環境を一色に染め抜き、対戦してもメガガルーラ同士の殴り合いしか起こらないので『ガルモン』なる蔑称まで生み出してしまった悪魔の存在である。

 余りにも強すぎ、普通に戦っているとほぼ詰むため、対策必須と呼ばれるポケモンの中でも最上位に位置する。

 

 前世では何度となく戦ったことのある相手だ。

 戦って、負けて、戦って、負けて、戦って、負けて、戦って、負けて、負けて、負けて、負けて。

「自重しろ親父いいいいいいいいいいいいいい」

「何がだ」

 何故この世界のポケモンリーグはあの化け物を出禁にしないのだろうか。あんな伝説よりも化け物染みた怪物野放しにしていいのか。

 

 と言うかこの親父、ガチパがシュッキンオウに、ケンタロスに、メガガルーラって…………。

 正直、趣味で作った自分のパーティよりガチな気がする。

 

 と言うかだ…………。

 

「ガルーラに…………裏特性、覚えさせてるの?」

「当たり前だろ?」

 

 何を言ってるんだ、と言わんばかりの親父様の態度に、思わず白目を剥きかけた。

 

 

 * * *

 

 

「戻ってこないね、博士たち」

「お前のせいだろうに…………だが確かに少し遅いな。ハルト、少し様子を見てきてくれないか?」

「ん、分かった」

 どうやら調理にはまだ時間がかかるようだし、行って呼んでくる分にはまあ間に合うだろう。

 お腹空いた、とばかりに腰のボールが揺れるが、はいはいとそれを宥めつつ、席を立って走る。

 

 一階のエスカレーターを昇って行き、すぐ隣の昇りエスカ―レーターに乗って三階にたどり着く。

 石屋は確かこの先だったはずだ、と歩き出そうとして。

 

「…………へへ」

 

 目の前に一人の男が立ち塞がった。

 

 全身が紅く、角のようなデザインのついたフードを被った男。

 

「…………お前」

「よう…………クソガキ」

 

 いつかのマグマ団の男がそこにいた。

 

「ついて来い…………もし来なければ、お前のお友達がどうなるか、分かるだろ?」

 

 お友達、と言う言葉に脳裏にハルカを思い出す。

 

 この先…………まさか。

 

「お前っ」

「おっと…………こんなところで暴れて、回りに人がいっぱいいるぜ? いいのか?」

「………………………………」

「分かったならついてきな」

 

 数秒沈黙し、やがて男の後を追う。

 

 そうして従業員通路と書かれた扉を潜り、さらに階段を昇って。

 

 屋上へと出た。

 

 ごう、と風が吹きすさぶ。

 

「くく…………ようこそ、ってか」

「ハルカちゃんは? それに…………博士は」

 

 自身の言葉に男が視線を向ける…………自身の後方へと。

 振り返る…………そこに。

 

「博士、ハルカちゃん」

 

 縄でぐるぐる巻きにされ転がされている博士と、同じく縛られたハルカの姿。

 どうやら気絶しているらしい…………それとも眠らされたのか、恐らくポケモンのわざだろうと予測する。

 

 振り返る…………どうやら不意打ちはしてこなかったらしい。

 警戒して、いつでもボールを抜けるようにしていたのだが。

 

「要件は分かるよな?」

「復讐しに来たってわけか…………大人げない」

「くく、あの後、あの森からヒトガタが消えた…………てめえの仕業だろ、大人しく渡せば許してやるぜ?」

「冗談…………ルージュは渡さない、お前らこそとっとと帰って大人しくグラードン復活の準備でもしてろよ」

 まあそれも自身が邪魔するけどな、と暗に呟き。

「あん? グラードン? なんだそりゃ」

 訝し気に呟く男の言葉に、ハッとなる。

 

 そう言うことか、とようやく自身の大きな勘違いに気づく。

 

 だがまあ今はそれは良い。

「まあ…………全部片づければ問題無い」

 呟く自身に、男がニィと笑ってボールを掲げる。

「さあ、今度こそてめえをぶっ飛ばしてやるぜ、ガキ」

「この間、エア一人で散々にやられた癖になんでそんな余裕なんだか」

 呟く自身の言葉に、男が嗤う。

「知りたいか? それはな」

 そうして。

 

 パチンッ、と男が指を慣らすと。

 

「へへ」

「くくく」

「っふ」

 

 三人の男たちが、後ろの扉からやってくる。

 

「…………四対一、ね」

 

 つくづく大人げない、と思いながら。

 

「これはただの制裁だ。俺たちマグマ団に逆らった生意気な餓鬼に対するただの制裁」

「へへ…………精々足掻いてくれよ」

「くくく…………ヒトガタ持ってるんだってな、お前を倒したら俺たちが有効活用してやるよ」

「っふ…………さあ、それでは」

 

「「「「行かせてもらうぜ」」」」

 

 四人がボールを投げる。

 

 そうして出てきたのは。

 

 いつかも見たし、戦った黒い大きな犬のようなポケモン、グラエナ。

 

 体の半分以上を占める大きな口が特徴的な蝙蝠のようなポケモン、ゴルバット。

 

 宝石の付いた岩の上に白い綿のような体毛で覆われた頭が生えたようなポケモン、メレシー。

 

 ニタニタと不気味な笑みを浮かべる黒い影のようなポケモン、ゲンガー。 

 

 グラエナで『いかく』して、ゴルバット、ゲンガーで“じしん”を無効化し、“おんがえし”もゲンガーで受け止め、使っても無いが、偶然か分からないが“りゅうせいぐん”もメレシーが無効化。

 

 割とガチでエアを仕留めに来ているな、と言うのが自身の印象。

 

 だから。

 

「実戦テストだ…………エア」

 

 自身の一番の相棒をボールから解放する。

 

「やるのね?」

「ああ…………やるよ」

 

 だから、これが必要だろう。

 

「エア」

「なに…………って?!」

 

 エアに近づき、それを見せる。

 

 指輪だ、紐を通し、首から下げれるようにした指輪。

 指輪には丸く小さな石が取り付けられている。赤と青で構成された不思議な模様。

 Sの字を引き延ばしたかのようなその模様の石は、つい先ほど見たばかりのものと非常に酷似していた。

 

 エアへとさらに一歩近づき、その首に紐を通してやる。

 真赤になりながらも大人しいエアに苦笑しつつ。

 

「これと後は…………」

 

 そうして。

 

「…………偶然、って怖いよなあ」

 

 懐から取りだしたのは。

 

「返すの忘れてたよ、父さん」

 

 バランスバッジ。

 

 そしてその裏に取り付けられているのは、キーストーンと呼ばれる特殊な石。

 

「行けるな」

「…………当たりまえ!」

 

 一瞬で戦闘へと思考を切り替えたエアが、いつも通りのキリっとした表情へと戻り。

 

「なら…………蹂躙しろ、エア!」

 

 呟きと同時。

 

 自身が持つバランスバッジが…………否、そこに取り付けられたキーストーンが輝きに包まれていく。

 

 

「ぐ…………るあああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 キーストーンの輝きに共鳴するかのように、エアの首に下げられた指輪が発光し、エアが光に包まれる。

 

 

 そうして。

 

 

 メ ガ シ ン カ !!!

 

 

 卵の殻を破るかのように、光が割れ…………。

 

 

 そうしてエアが…………()()()()()()()がその姿を現した。

 

 

 




ついに来たよ、メガシンカ!

因みにメガシンカシステム。作者非常に好きです。

パーティ6匹の中でたった一匹だけに使える、と言う辺りに非常に特別感を感じる。

マンダがメガシンカ対応してるって知った時は小躍りした。



因みにメガガル持ってます、ただ対戦じゃ使いません。
某執筆妖怪とやってみて、3Vs3で初手メガガルで4ターンで3縦するとか、対戦面白くなかったので(
メガガルは自分の中では出禁になりました。

あ、でもガルガブゲンはスーパーシングルで大活躍してくれてます。
お蔭でBP稼ぎもはかどってる。

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