「マグマ団、潰そうか」
「「「「「「「…………………………」」」」」」」
ふと呟いた一言に、全員が沈黙した。
博士とハルカを連れてフードコートへと戻り、そこで軽く事情を説明しつつ、キーストーンの着いたバランスバッジを父さんに返却する。
その際多少怒られはしたが、それでも無事で良かったと安堵のため息を吐いていた。
そしてその隣でオダマキ父子が奥さんに死ぬほど怒られていた。
曰く、研究にばかり目が行って猪突猛進だから悪い相手に浚われるんだ、とか、毎回フィールドワークで野生のポケモンに襲われて研究員に助けてもらってるのは誰だ、とか小さい頃からフィールドワークばかりしてないで少しは他にも目を向けろだとか、ハルトがいなかったどうするつもりだったのだ、とか。
博士もハルカも奥さんには勝てないらしい、しゅん、となってうな垂れていた。
マグマ団について父さんから詳細を聞かれたが、正直に分からないと言っておいた。
実際のところ、自身にも
勘違いしていたのだ…………と言うより忘れていた、と言うべきか。
自身の知っているマグマ団と言うのは
伝説のポケモングラードンを復活させ、世界に陸地を増やすことで人類の発展を目指す集団。
実際のところ、やることが過激なだけでその思想自体は別に悪だなんだと言うほどのものでは無い。
少なくとも歴代悪の組織の中で、マグマ団とアクア団は一番まともな思考をしている、と思う。
だがそれは六年は後の話である。
原作におけるアクア団、マグマ団の活躍と言うのはグラードン、カイオーガの存在、そしてその復活方法を知ったからこその行動だ。
その存在を知らない…………もしくは知っていても一部の人間のみであり、まだ組織だってその復活に動いていない今の状態のマグマ団、アクア団がどんな活動をしているのか、と言うのは自分にも分からない。
だからこそ、知らない、と言った。
そして同時、心の中で。
“いつか叩き潰すけど”とも。
* * *
旅行は三日の予定だ。
最終日にマグマ団と言う余計なイベントが発生してしまったが、それでも全体的には楽しめた旅行だった。
仲間との絆も深まった気がするし、新しく入った仲間とも仲良くなれた気がする。
そして帰りの船の中。
両親共に船の中を散策に出かけてしまったため、残ったのは自身と手持ちたちだけ。
その中でふとした思いつきのように、零した一言。
「マグマ団、潰そうか」
「「「「「「「…………………………」」」」」」」
ふと呟いた一言に、全員が沈黙した。
自身の知るゲームのストーリーに照らし合わせると、後六年、ホウエンは比較的平和を保ち続ける。
それはつまり、自身が自由に行動できる期間でもあると言える。
とは言っても、それを鵜呑みにしても良いものかとも思う。
ここはゲームの世界じゃない、現実なのだ。
ゲームでは設定された台詞を喋るだけだったキャラクターたちも、現実では一個の人間として考え、行動している。
大よそゲーム時代の設定に沿っているため、言動に関してはゲーム時代とそれほどの差異は無いとしても、それでも必ずしもゲームと同じような流れになるとは限らない。
そもそもこの世界がオメガルビ―、アルファサファイアどちらのゲームのストーリーを主軸に進むのか、それともどちらとも違う独自の展開が巻き起こるのか。それすら分からないのだ。
最悪、グラードン、カイオーガ両方蘇ったりして、なんて昔は思ったが、あれだって本当にその可能性は無いわけではない。
「と言うわけで、どっちか片方は確実に潰しておきたいんだよね」
グラードンならあいいろのたま、カイオーガならばべにいろのたまがあればまだ対処は可能になる。
この二つのアイテムはそれぞれグラードンとカイオーガを目覚めさせるために使われ、その捕獲後には持ち物として使えるようになり、両者の“ゲンシカイキ”を引き起こすキーアイテムとなる。
これがもしルビーサファイア版のグラードン、カイオーガならば自身がここまで焦ることも無かったかもしれない。
作中でもとんでもない天候異常として描かれはしていたが、それでもまだマシなレベルであったのだと、まだ生身でも対処できるレベルであるように描かれていたからだ。
だが、オメガルビ―アルファサファイアのグラードン、カイオーガは
それがそのメガシンカと言うシステムから派生し、ORASから新たに追加された
ゲンシカイキしてしまったグラードン、カイオーガは最早人間にどうにかできるレベルでは無くなる。
あれは最早環境破壊…………と言うより、生物を殺しつくすための生体兵器に近い。
何せ、ただそこに
グラードンかカイオーガか、殺し合い生き残ったほうだけがこの世界にたった一体の生物として君臨することとなる。
…………まあその前にレックウザがやってくるのだろうが。
それでも、少なくとも、ホウエン地方が壊滅の危機なのは間違い無い。
何せ目覚めただけでルネシティ周辺の海域全てがその“特性”の効果範囲に収まっていたのだ。
そもそもレックウザは本当にアレらに勝てるのか。
もしも原作の設定を
レックウザではゲンシカイキしたグラードンにもカイオーガにも勝てないのではないだろうか。
そう言う危惧がある。
* * *
そもそも何故自分がそんな面倒なことやらなければいけないのだろうか。
初代赤、緑、青、二世代金銀、四世代も五世代も。
伝説のポケモンが
と言うか…………今のうちに『べにいろのたま』と『あいいろのたま』押さえておけばいいのではないだろうか。
…………いや、あれは確かにグラードンとカイオーガを目覚めさせることができるが、それでも決定打にはならない。
ぶっちゃけた話、あんなものなくとも、目覚めさせるだけなら何らかの
と、言うか…………グラードンとカイオーガってどこにいるのだろう?
オメガルビーではグラードンが、アルファサファイアではカイオーガが海底洞窟に眠っていたが。
もしこの世界が両方混じっているとすると。
海底洞窟の最奥で二体並んで眠っているのだろうか…………想像してみて、思わず噴き出す。
お前ら仲良いじゃねえか!!
と言うのは冗談で、恐らく三世代目のエメラルド版のように、グラードンがえんとつやまに引っ越ししている可能性が高い。
となると、えんとつやまでのイベントは絶対に阻止しなければならない。最悪それだけでグラードンが復活するかもしれないし。
しかしこうなると…………復活を阻止するより、復活した時どう対処するか、を考えるべきか。
絶対に必要なのは『べにいろのたま』と『あいいろのたま』。
これをグラードン、カイオーガに奪われたら詰む、と言って過言でない。
となると、二つの玉を事前に確保しておくのは、復活阻止の邪魔にもなるし、有りな選択肢かもしれない。
問題はあの二つはおくりびやまの頂上にあって、しかもそれを守っている夫婦がいる、と言うことだ。
渡してくれるだろうか…………いや、無理じゃね?
原作だってマグマ団、アクア団が片方の玉を奪ったからこそ、なし崩し的に渡した感じだったし。
やっぱりどっちか片方…………と言うか両方潰しておくのが平和のためのような気がする。
まあその場合、エピソードデルタが早まりそうな気もするが。
「取り合えず、面倒だけどしばらくマグマ団とアクア団を潰すことに専念しようか」
そんな自身の言葉に、七匹の視線を突き刺さる。
「何?」
「何って…………いきなりそんなこと言われたって、驚くしかないでしょ」
ため息を一つ吐きながら、エアがそう呟くと、他六匹も頷く。
「そうかな? まあいいや、簡単に説明しようか」
ふむ、と一つ頷き。
「このままだとホウエン地方が壊滅するから今からちょっとずつ動いていくよ」
そう告げた。
「「「「「「「………………………………」」」」」」」
返ってきたのはまたもや沈黙だった。
* * *
夕日が水平線に沈んでいく、最後の一時。
船から見える水平線は夕焼けに彩られていた。
もうすぐカイナへと着く。そこからはまた例のチルタリスに乗ってミシロへと戻る予定だ。
もうあと一時間も無い船旅に、何となく寂しさを感じる。
夕日に照らされる海、と言うシチュエーションがそうさせるのだろうか、ノスタルジックな感傷にも似た感覚。
「…………私は」
水面に反射する夕日に照らされながら、一緒にやってきていたシアが呟く。
「マスターがやりたいようにすれば、良いと思います」
こちらを見つめながら呟くシアの表情は…………けれど夕日に照り返っていて良く分らない。
シアの言葉に無言を貫く、その内にシアが続きを口にする。
「けど、エアは…………きっと」
その先を口にすることなく、シアが去っていく。
きっと、言いたいことはみんなあったのだろうと思う。
その証拠に、すぐに次がやってきた。
「マスター」
「今度はシャルか」
眩い夕日に目を細め、手で日の光を遮りながらシャルがやってくる。
「あのね…………マスター」
口を開き、けれど止まる。
数舜、何を告げるべきかシャルが迷い。
「…………ボクは、みんながいれば…………マスターがいてくれるなら、どこにだって行くよ」
俯き、絞り出すようにして、声を出す。
「けどね…………きっとエアは、それを否定すると思う」
シャルにしては珍しく、言うだけ言って去って行く。
その背をぼんやりと眺めていると、次がやってくる。
「やっほートレーナー」
「あ、あの、マスター」
今度はチークとイナズマ。
「お前らまで…………なんだ?」
「トレーナーは、トレーナーのやりたいようにやる、アチキらはそれについてくだけ、まあそれもいいさネ」
「…………でも、少しくらい、我が儘、言わせてほしいです」
チークが笑い、イナズマが見つめる。
「私は…………私たちは、良いんです、マスターがやりたいようにやってくれれば、それで良いと思いますから」
「でもネ、エアはきっと納得しないから。何やるにしてもちゃんと納得させてあげないとダメだヨ?」
言いたいだけ言って、二人が去って行く。
「ぬふーん…………みんな真面目だねー」
「…………っ?! リップル、いつの間に居たんだ」
そして次に来るかな、と思ってたらいつの間にか背後にリップルがいて、自身を見て笑う。
「ぬふふ~、マスターもまだまだ甘いねえ」
「何がだよ」
「結局みんな不安なんだよ。それをマスターだけが気づいてないんだ…………いや、マスターが気づかないことこそが不安なのかなあ。とにかくさ、中途半端にしか思えないんだよ」
どういう意味だ、そう尋ねようとして。
「…………いねえ」
すでにそこにいなかった…………いつの間に消えたのだ、しかもここは船の甲板、非常に見晴らしは良いはずなのに。すでにどこに視線を向けてもリップルの姿は無かった、まるで霞か何か虚空に溶けて消えてしまったかのように。
相変わらず生態と言うか正体が不明なやつである。
夕日が、地平線へと消えていく。
薄暗い、夜の闇がゆっくりと世界を覆おうとしていた。
とん、と背後で音がする。
振り返ってみれば。
「…………ハルト、いたの」
帽子とスカートを抑えるエアの姿。
ふと上を見上げる、甲板周辺に柱のようなものは無い、だとすれば。
「…………あっちの屋根から落ちてきたの?」
「ん? そうだけど?」
船の船内、三階まであるその船内の一番上、操舵室らしき場所のさらに屋根の上。
甲板から見れば優に十数メートルはあるほど高い高い場所。
しかも甲板から百メートルくらいは離れているはずなのだが、飛びながら降りてきたらしい。
「自由だなあ」
思わず呟いた一言に、エアがふん、と鼻を鳴らす。
「……………………」
「……………………」
そうして互いの言葉が途切れると、途端に沈黙に包まれる。
ざあざあと波の音だけが響き。
「…………ねえ」
やがて、エアがその重い口を開く。
「なに?」
「さっきの話」
「…………マグマ団の話?」
そう、とエアが頷く。
その表情は、怒っているようでもあり、泣きそうにも見え、それでいて悲しんでいるようにも見える無表情と言う何とも不思議な表情であった。
「一つだけ聞きたいのだけど」
「なに?」
僅か一秒、エアが口を開くのを躊躇い…………けれど告げる。
「なんでハルトがしないとダメなの?」
告げられた言葉に、けれど意味が分からず首を傾げる。
「マグマ団とか、アクア団とか、グラードンとかカイオーガとか、ホウエンの危機だとか…………何でそんなものにハルトが関わる必要があるの?」
そうして言葉にされたことによって、ようやくエアたちと自身の認識の違いを理解する。
自身は…………主人公だ。
と言うのは別に正確じゃない、正確には原作主人公ポジションだ。
だから無意識的にそれに関わらなければいけないと思っていた。
自身がやらねば、誰がやるのだろうと思っていた。
それに。
もし自身が動かない場合、世界が違えば自身と同じポジションのハルカちゃんにそれらが全て降りかかる可能性も考えていた。
だから、無意識的に関わることを決めていた。
きっと…………リップルの中途半端とはそれなのだろう。
自身がやろうとしているのは、将来巻き込まれる
何が何でも関わって解決
ただ何となくこのポジションならやらなければいけないんだろうなあ、と思っていた程度のこと。
「…………別にさ、正義感でどうこうってわけじゃないんだ」
きっと。
「俺はさ…………この世界、気に入ってるんだ」
突然生まれ落ちて、訳も分からず生きてきて。
そして。
「お前らと出会って…………触れ合えるこの世界が好きなんだ」
今や自身にとって最も大事と呼んで差し支えない彼女たちの存在。
それを許容してくれるこの世界が。
「守りたいんだ…………義務感でも無ければ、正義感でも無い」
ただ。
「
本当に、それだけの話なのだ。
当初のサブタイ:マグマ団死すべし、慈悲はない
これはこれで面白そうだったが、さすがに二章最後の話にこれはひどいと思って止めた。
と言うわけで二章終了。
あと要望のあったキャラ紹介だけ夜に投稿して三章に移ります。
あと連絡事項。
今日何故か休みだったけど、お盆は仕事がすさまじく忙しいので、更新止まるかも。