そらをとぶ使えるようになると行動範囲がいっきに広がる
靴紐をしっかりと結び、肩にかけるようにして下げたリュックの位置を直す。
「それじゃあ、母さん」
振り返り、こちらをニコニコと見つめる母に笑みを見せる。
「ええ…………ハルちゃん」
母もまた自身の名を呼び。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
玄関を抜け、家を出て。
「…………さて、行こうか」
「…………そうね」
隣に並ぶエアに一つ呟き、エアもまた返す。
それが自身のミシロからの旅立ちだった。
* * *
四年経ち、十歳となった誕生日の翌日。
どこぞの初代主人公に倣って、この日と決めていた。
五年、育ってきたミシロタウンは、すでに自身にとっての故郷と呼んで差し支えない。
親しくなった人間も多く、狭い街だけに住人全員が自身の知り合いと言える。
だから、昨日のうちに挨拶は終えた。
残念ながら父さんはジムの仕事で朝から出ていってしまったけど。
“次に会う時は…………ジムでだな”
そんな言葉を投げかけられた。それが父さんなりの激励だと知っていたから。
“バッジをいただきに行かせてもらうよ”
そう返すと、苦笑しながら出て行った。
ハルカ、博士とも昨日のうちに挨拶は済ませた。
“頑張ってね! あたしはここでお父さんと待ってるから”
“いってらっしゃい、次に会うときを楽しみにしてるよ”
二人とも笑って別れを告げ、そうして。
* * *
「うへえ」
「…………うわあ」
ここに来るのも二度目か、118番道路。熱帯地域かつ雨が良く降っているため、エアで飛んでもらうのも苦労する。
だがもう少しの辛抱だ、と思う。
118番道路を抜け、119番道路へと入る。
道中でトレーナーの姿をちらほらと見るが、高速で地表すれすれを飛行中の自身たちに追いついてくるトレーナーは居ない。
「エア、夕方までには着きたいけど…………行ける?」
「んー…………この調子なら行けるわ」
エアの返事を頼もしく思いながらも、さらに飛んでいき。
そうして夕方、エアの宣言通り、ヒワマキシティにたどり着く。
五年前は素通りした地域だったが、それでも特徴的な街なので覚えている。
木の上に家を建てている街、と言うかなり変わった街だ。
原作だと移動するのに梯子の上り下りが多く、無駄に時間がかかってイライラした。
しかもいざジム行こうとすると何かが邪魔で通れないと言われる。
「まあ今は関係ないだろ」
もしいたら…………その時は。
「ふ、ふふ」
「ハルト…………なんか、顔が怖いわよ」
おっと、ちょっと危険な妄想が膨らんでいた。
「ふう、危うく想像の中でヒワマキシティが火の海になるところだった」
「……………………一体何を想像していたのよ」
秘密、なんて呟きつつ、ポケモンセンターへと入る。
「とりあえず今日はセンターで一休みしようか。あとでみんなで御飯でも食べに行こう」
そうして明日は。
「…………行くよ、ヒワマキシティジム」
ジム戦だ。
* * *
ヒワマキシティジムは『ひこう』タイプを専門とするジムだ。
原作では面倒な仕掛けとトレーナーのバトルに邪魔されながら進んでいたが、現実にあんな面倒な仕掛けは無い。からくりだいおうの屋敷ではないのだから。
あんな面倒な仕掛けで挑戦者が行き詰まったら、それこそクレームものである。
だから原作とは違い、広いジムの中、いくつかのフィールドがあってそこでトレーナーたちがバトルをしている。
受付があったので、そこでジム戦申し込みをすると、受付のお姉さんが対戦受理と同時に、すぐに対戦会場への案内をくれる。
「頑張ってね、ぼく」
これでも十歳になって、多少背も伸びたのだが、相変わらず子供扱い…………いや、十歳は子供か。
この扱いも仕方ないのかもしれない。どうせこのお姉さんも、子供が背伸びしてジムに挑戦しにきただけとか思っているのだろうし。
背伸びかどうか…………これが試金石となるだろうと思う。
少なくとも、自身は本気でポケモンリーグの頂点を目指している。
そのための力を身に着けたと思っている。
だが、実際にリーグ関係者と戦った経験はほぼ無い。
父さんとはたまにバトルしていたが、当たり前だが真面目に戦いはしても本気でやることは無い。
だから、ここが最初の通過点にして、最初に確認。
「…………果たして俺たちがこの世界に通用するのか」
その最初の第一歩。
だから。
「……………………………………あれ?」
「………………………………え?」
戸惑う自身とエア。
案内された先でバトル専用のフィールドが張られていた。
そこでやってきたジムトレーナーたちと戦っていたのだが。
「……………………あれ?」
「…………私一人で行けたわね」
対戦相手が代わる代わるやってくるが、どれもエアが軽く一蹴していく。
その余りの呆気なさに思わず戸惑う。
「…………思ったより、強くなってた?」
「そうかもしれないわね」
認識を改める、どうやら自身で思っていた以上に強くなっていたようだ。
トウカジムだと割と当たり前のようにレベル70代が出てくるので、ここもそうかと思ったらのだが。
「あれだね…………トウカジムのトレーナーたち付き合わせ過ぎたね」
日々強くなっていくエアたちと一か月毎日のように戦っていたのだ。あれからはもう行っていないが、それでも十分レベルが上がるだけの経験が積んでいたのは想像に難くない。
そうして五人、六人とトレーナーを倒したところで。
こつん、こつん、と足音を響かせて。
その女が出てくる。
「こんにちは」
知っている。
「…………こんにちは」
そのインパクトのある、奇抜な服装。
背中が大きく開いたライダースーツにも似たその不可思議な女の名は。
「ではまず、ようこそヒワマキシティジムへ。改めまして私がジムリーダーのナギです、よろしく」
「ハルトです…………こちらこそ、よろしく」
「ふふ…………良い目ですね、それにヒトガタポケモンとは珍しい」
ジムリーダーのナギが自身と、そして隣のエアを見て笑う。
「すでにこちらのトレーナーも六人、倒されていますし。もしそちらがよろしければ、ジムリーダー戦を開始してもよろしいでしょうか?」
そんな提案に思わず目を瞬かせる。
どうやらちょうどジムリーダーの手が空いていたらしい。
ああ、都合が良い。
「構いません」
「そうですか…………ではお若い挑戦者さん。こちらからもう一つ提案よろしいでしょうか?」
「え…………?」
さあジムリーダー戦、となるかと思っていたのだがさらに待ったがかかった。
「実はあなたのことはセンリさんから聞いています、ハルトくん」
「父さんから?」
「ええ、まだ子供ながらとても優秀な子だと…………ジムトレーナーとの戦いも見せてもらいましたし、どうやら戦うまでも無く、このフェザーバッジを与える相応しいトレーナーだと思います」
「…………それで?」
「ふふ、そう身構えないでください…………だから提案ですよ」
スカイバトル、と言うのをご存じですか?
そんな一言に、目を丸くした。
* * *
スカイバトルとは、ポケモンXYから導入された試みの一つ。
故に出せるのは飛べるポケモンに限られる。
この場合、うちから出せるのは。
「エアか」
残念ながらその他5人は不可能だ。
だが不可思議なことが一つ。
ORASでスカイバトルと言うシステムは無い。
実装されはしたが、たった一作限りで終わってしまったシステムなのだが、どうしてそれをナギが提案してくるのか。
「その顔、どうやらご存じのようですね、お若いのに本当に知識高いようで。ですが知っているならば話は早いですね。私はこのスカイバトルを
その言葉に、何となく理解する。
「ホウエンにはまだスカイバトルは知られてない…………だから広めたい、なるほど」
「スカイバトルは通常のバトルとはまるで違う戦いが起こります。空の上での戦い…………何と素晴らしいのでしょうか」
楽しそうに呟きつつ、それからエアを見据える。
「そちらのポケモン…………どうやら『ひこう』タイプのポケモンと見受けます。ヒトガタですので何のポケモンと言うのは分かりませんが、けれどどうやら相当に強い様子。是非とも私のチルタリスと1対1のスカイバトルをして欲しいのです。勿論、勝敗に関係なくバッジは今渡します、それだけの資格をすでにアナタは見せてくれましたから」
告げ、バッジを取りだしたナギに。
「後で良い」
首を振る。そんな自身に、おや? とナギが不思議そうにする。
「後で、とは?」
「だから」
にぃ、と口元が弧を描き。
「アンタに正面から勝って、奪い取って見せる」
「…………この戦いにバッジは関係ないと言ったはずですが?」
「勝てばどっちでも同じことだろ?」
「負ける可能性だってあるのでは?」
段々、ナギの表情も笑みが浮かんで来る。
「はあ?」
一歩、足を進め。
「
拳を握り。
「
ぴん、と指を立て。
「ふふ…………なるほど、それは確かに。ですがそれはこちらも同じこと…………この『ひこう』タイプのジムのジムリーダーとして負けるわけにはいきません」
振りかぶり。
「エア!」
「ミチル!」
真っすぐ、突き立てる!!!
「「行け!!!」」
「ルオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ルウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ!
互いの指示に、エアとチルタリスが、同時に飛び出した。
* * *
スカイバトルでは普通のバトルと違って、特殊なルールがある。
当たりまえのことだが、スカイバトルは空中で戦う特殊なバトルだ。
故にだが。
相手の翼を集中攻撃したり、凍らせたり、麻痺させたり、焼いたり。
とにかく相手を飛べなくして地表に叩きつけても勝ちなのだ。
それは逆を言えば、こちらがいくら強くとも、飛べなくされたら負けだということ。
確かに通常のバトルとは違う、相手を単純に倒せば良いのではない、そして相手を見る。
チルタリス。
たしか原作でも使っていたジムリーダーの切り札だ。
嫌な予感がする…………チルタリス、そしてスカイバトルと言う状況。
故に…………この四年の間に生み出した、新たなる境地を早速披露する時が来たようだ。
「エア!
「ミチル! “れいとうビーム”!!」
やっぱりかああああああああああああ!!!
心中で絶叫する。
チルタリスと言う特殊寄りのアタッカー。そしてスカイバトルと言う環境。
正直、そっちから提案しておいて、まさか、と言う思いはあったのだが。
いきなり翼凍らせて飛べなくしての敗北を狙ってくるとはさすがに思いたくなかった。
だがそれはそれで、本気で勝ちに来ていると言うこと。
そしてこの状況になったと言うことは。
「ルオオオオオオオオオオオオオ!」
「ルアアアアアアアアァァァァァ!」
エアが咆哮を上げ
直後、チルタリスの“れいとうビーム”が直撃する。
狙ったのかそうでないのかは分からないが、エアにとても耐えられるはずの無い攻撃。
だが。
「ぐ…………ガアアアアアアアアアアアア!」
「なっ?!」
苦し気ではあっても、けれどエアがまだ動く。
そして。
「一撃で決めて見せろ、エア!」
“おんがえし”
上昇した『すばやさ』で接近し、そして上昇した『こうげき』で放たれた一撃は。
「ち…………るぁぁぁ…………う…………」
あっさりと、空中に舞っていたチルタリスを地上へと叩き落とした。
* * *
ホウエン地方ポケモンリーグの開催は、毎年春だ。
と言ってもやや夏に近い時期であり、自身の誕生日から言えば一月以上先のことでもある。
だが、たった一月だ。
もし自身が今年、リーグに出るつもりならば、単純に言って今のままでも問題無い。
ホウエンリーグトーナメントは誰でも参加できる。
子供だろうが、大人だろうが、老人だろうが、犯罪者だろうが。
ただ強ければ良い。
他のシティで独自に開かれる大会の中にも歴史や権威のある大会も確かにある。
それでも、ホウエンリーグトーナメントが。
ポケモンリーグがトレーナーの聖地と呼ばれるのには、それだけの理由がある。
それだけの隔絶がある。
誰だろうと参加は自由だ。
だが参加者の九割九分が予選で消える。
歴史も、権威も、資産も、犯罪歴すら関係無い。
ただただ強さだけを追い求め、強さだけで全てが許されるその場所。
サイユウシティにて開かれる予選大会の狭き門を潜り抜けたほんの一握りのトレーナーがチャンピオンロードを抜けてたどり着いた先。
ポケモンリーグ。
そこに待つのは、本戦会場。
そしてそこで優勝を決めた者だけが与えられる挑戦権。
四天王、そしてその先に待つチャンピオン。
別にそれ以外の機会に戦えないわけではないが。
それでも。
チャンピオンの座を賭けた戦いは、殿堂入りトレーナーとなるためには。
この道しかない。
細く、狭く、長く、そして険しいこの道しかないのだ。
バッジが八つあれば。
この内の予選をスキップしていきなり本戦から出ることができる。
それだけの意味がバッジにはある。
だがそれも予選までに登録を済ませておいた場合のみ。
つまり、一か月だ。
あと一か月で、全てのジムバッジを揃える。
そのために、最初に決めたことがある。
負けないこと、誰にも、何にも。
負けず、絶えず勝利し続けること。
言うは易く。
けれど行うは難しい。
だが、ホウエンの頂点を目指すのならば。
ホウエン地方数万のトレーナーの頂点を目指すのならば。
ただの一度だって負けてはならない。
自身が走るは、そんな修羅の道。
まずは、最初の一勝。
「フェザーバッジ…………ゲットだよ」
戻って来るエアに、満足気に頷きながら、人知れず呟いた。
仕事忙しくて明日書けないなら、今日書けばいいじゃん、と言う謎の発想。
と言うわけで、皆さまの予想を裏切っての10歳編三章。
ポケモンリーグに挑戦してまいります。
そして今回使ったわざの解説は多分、次回。