「スイリュウでは…………そのヒトガタの相手は荷が重いね、完敗だよ」
苦笑しつつ、ミクリが自身の目の前までやってくる。
「だが見事だったよ…………キミならばこのレインバッジも相応しい」
差し出されたのはルネシティジムを制覇した証、レインバッジ。
ゲームならば最後に手に入れるはずのバッジだが、これで二つ目。
「特技だけでなく、まさか裏特性まで身に着けているとは…………どうやら、ホウエンリーグを目指していると言う言葉、嘘ではないようだね」
「ええ」
「と、言うことは…………あと一つも?」
「…………そっちはまあまだ、です」
なるほど、とミクリが頷く。
「あれはトレーナーとして、一つの境地であるからね…………まあ私からは特に言うまい。キミのことは中々に面白く思ってはいるが…………アイツの顔も立ててやらないとね」
「アイツ…………?」
「ふふ…………ダイゴ、キミが倒そうと言う男の名前だ、知っているかい?」
そう言えば、ダイゴとミクリはゲーム本編でも知り合いだったか、と思い出す。
当たりまえだが、すでに十年前のゲームの内容だ。システム的な部分はしっかりと覚えてはいても、シナリオについてはあやふやな部分もある。軽くストーリーの流れだけは記録してはあるが、この世界でどこまで信用できるのかも分からない以上、余り当てにしてはならないだろう。
「一度お会いしましたよ…………メガストーン、持っていかれました」
「…………ああ、アイツが言っていた子供と言うのは」
どうやら自身のことをミクリに話していたらしい。
「覚えていてくれたようで…………光栄です、とでも言えばいいんですかね」
「ふふ…………アイツが石のこと以外で珍しく楽しそうに話すトレーナーと言うのも久しくいなかったからね。誇ってもいいんじゃないかい?」
むしろ忘れていてくれたほうが油断してくれそうで楽なんだけどなあ、とか思ったり。
ところで。
ここまでの会話の中で一つ覚えの無い単語があっただろう。
特技。
それが自身がエアに、そしてチークに、イナズマに、シアに、シャルに、リップルに仕込んだ技の正体。
ヒワマキシティジム戦で、エアが使った“かりゅうのまい”。
今回の戦いでチークが使った“なれあい”、イナズマの“わたはじき”。
それら全て、特技と呼ばれるものだ。
有り体に言えば。
“合成技”だ。
原作ポケモンにおいて、1ターン内にわざを二つ使うことはシステム上不可能であった。
だがこの世界において、ターンなんてものは無いし、相手が攻撃したから自分の番、自分が攻撃したから相手の番、なんてそんなプロレスみたいな仕様は存在しない。
だから何度でも連続して攻撃しても良いし、使えるなら
勿論、できるのなら、だが。
はっきり言って容易なことではない。
元々技の枠が四つに限定されているのは
つまり一つ使うだけで、全力を振り絞っているレベルの行動なのだ。それを二つ同時、と言うのがいかに至難であるか察せられると言うものだ。
だが、何度も何度も何度も何度も、使い続けそれを
その状態でもう一つ、技を使うのだ。
だがそれだと二つのわざを同時に使うだけだ。当たり前だが、技の枠四つの内の二つを使っていることになる。
だから…………
そうすると元となったわざを忘れても、それが一つのわざとして習得するため。
二つのわざの効果を一つの技の枠を使って発揮できてしまうのだ。
当たり前だが、こんな反則的なもの二つも三つも積めはしない。
ただでさえ、ポケモンのキャパギリギリを要求するような行為なのだ、二つ目を覚えようとしても、一つ目を忘れさせない限り覚えさせることはできない。
そしてなんとこの“特技”。
考案者はあのダイゴである。
メタグロスの放つ極悪な必殺パンチ。
コメットパンチ。
あれに恐るべきことに。
サイコキネシスを合成したらしい。
その名も。
“ブラスターパンチ”
一撃であの耐久力の怪物ボスゴドラを『ひんし』に追いやるほどの威力らしい。
単純なわざの威力だけではなく、恐らく裏特性などなんらかの秘密があるのだろうが、それにしても恐ろしい威力である。
存在を知った時は、本当に何なんだこの世界、と思ったものだ。
裏特性と言い、特技と言い実機にあったら
最早相手の型、だとか育成論だとか、完全に吹き飛ばしてしまう。
少なくとも、自身が前世でやっていた対戦のセオリーなどほぼ投げ捨ててしまったほうがいいレベルだ。
勿論、それらを扱えるのは極一部の才能豊かなトレーナーに限られてしまうわけではあるが。
自身がそれらを出来ているのは、前世での実機でやっていた経験、そして蓄えた知識。
何よりも。
自身の手持ちの彼女たちが6Vであることが大きい。
個体のVは才能の証だ。
6Vとは即ち天稟。天性の才。
その溢れんばかりの才覚を持って、自身の足りない育成を補っている。
故に自身に他のポケモンたち以外にこれを仕込むことはできない。
だが逆に。
ヒトガタに何かを仕込む、と言う点において自身よりも経験の多いトレーナーはいないのではないかと思う。
そもそもからしてヒトガタを持っているトレーナーなど数少ない上に、その中で
まして。
パーティ全員がヒトガタ、など前代未聞と言って過言ではない。
ヒトガタを育成した経験値ならば、誰にも負けるつもりは無いのだ。
* * *
「やれやれ、それにしてもまさか、親子揃って私に勝つなんてね」
肩を竦めて苦笑するミクリ。
「親子…………ああ、五年前の」
冬のジム対抗戦。
トウカシティジムvsルネシティジムの戦い。
その最終戦、ジムリーダー対決。
ケンタロスとマリルリのぶつかり合い。
制したのは…………
「見てたのかい?」
「裏特性の参考に」
告げた言葉にミクリが僅かに目を見開く。
「そんなに昔から?!」
さすがに驚かれた。まあ当然な気もするが。
「父さんから聞いてはいたので」
「ふふ、あの人も気が早い…………だがそれを受けて見事に裏特性を作り上げたキミの腕も素晴らしい」
「残念ながら俺の仲間のお蔭ですよ…………ヒトガタじゃなければできなかった」
「そのヒトガタを従えるのもキミの才覚、何も恥じる必要は無い」
少し照れた。頬を掻く。
「これをキミに渡しておこう、ひでんマシン“たきのぼり”。いずれ必要になる時があれば使うと良い」
そうして渡された『ひでんマシン』を鞄に納め。
「では、次のキミの活躍を期待するよ」
そんなミクリの言葉に見送られ、ルネシティジムを出た。
「私の出番無かったじゃない」
「勝てたんだからいいじゃん、エア」
「ったく…………私のこと移動手段だと思ってんじゃないわよ」
少し不貞腐れたようなエアに苦笑しながらその手を取る。
「そんなこと思ってないよ、それにエアに連れてもらって空を飛ぶの好きなんだけどなあ?」
「……………………ふ、ふーん」
頬を赤らめながらそっぽを向くエアを、可愛いなあこいつ、なんて思いながら。
「次はトクサネジムかな、エア、お願いね」
「し、仕方ないわね、それなら連れてってあげるわよ」
相変わらずチョロいっすわエアさん。
うちのパーティのエースの相変わらずの純真さに内心でそんなことを呟いた。
* * *
トクサネシティは、ルネシティより北東の島にある街だ。
トクサネ宇宙センターと言うホウエンで唯一宇宙と言うものを研究している場所があることで有名だろう。
トクサネジムは原作だとホウエンのジムで唯一ダブルバトルを仕掛けてくるジムだ。
ジムリーダーはすでに双子であることは確認しているので、恐らく今回も同じだろう。
ダブルバトルとして安定なのはチークとイナズマのコンビだが、ルネジムで戦わせたばかりだ、今回は休ませるとして。
「ふむ……………………」
数秒思考し、空を見上げる。
ルネシティジムはジムトレーナーとの前哨戦が無かった分、かなり早く終わった。
まだ昼直前と言ったところか、少し空腹感を感じてきた。
「昼飯前に軽く終わらせるか」
呟き、ジムへと入る。
「ま…………今回に限って言えば、余裕だわな」
* * *
結果だけ先に言ってしまおうと思う。
ジムリーダーたち唖然である、まあ当然だろう。
相手は何も行動していない。行動させなかった。
出したのはエアと
タイプ相性を無視してメガシンカして上から殴れるエアと、『エスパー』タイプである相手の弱点をつける『ゴースト』タイプのシャル。
『ぼうぎょ』が低いルナトーンをエアが、『とくぼう』が低いソルロックをシャルが相手取れば当然の結果と言える。
当然ながら弱点タイプや能力値の低さなど使っている本人たちが一番良く認識しているだろう。
本来ならばそれをさせないのがジムリーダー、否、トレーナーの役割であるのだが。
「かげぬった」
ソルロックとルナトーン、ジムリーダーたちが出してきた二体のポケモンの
シャルがその影を踏みつけた瞬間。
トレーナーがいくら指示を出そうと、けれどソルロックもルナトーンも動かない。
否。
それこそが自身がシャルに仕込んだ物。
自身が全員に仕込んだ裏特性の中で、最も凶悪だと思っているもの。
それこそがシャルの裏特性。
* * *
呆然とする双子を起こし、ジムバッジとジム専用わざマシン“めいそう”をもらうとジムを出る。
「あっさり終わったなあ」
自分とシャル二人で作り出した裏特性だが、本気で初見殺し過ぎる。
ポケモンリーグ本戦で使っていればいずれこの裏特性も知られてしまうだろう。
何せ効果が明確過ぎる。初見殺しではあっても、その一度で完全に理解されてしまうだろう。
「と言うか実際、やらせてみたはいいけど、本当にできると思ってなかったんだよなあ」
“かげふみ”と言う特性がある。
その特性を持つポケモンが戦闘に出ているだけで『ゴースト』タイプか“かげふみ”を持っているポケモン以外は交代ができなくなる、と言う特性だ。
シャンデラの特性は“ほのおのからだ”、“もらいび”、“すりぬけ”の三つだが。
幻の夢特性“かげふみ”が実は存在した
何故かもしれない、かと言えば。
有り体に言って存在しないからだ。
ゲームの中でいくら探そうとそんなもの存在しない。
正確には第五世代、ブラック、ホワイトのシャンデラの夢特性が“かげふみ”だったのだが、この時点でシャンデラの夢特性は解禁されておらず、続く第六世代でシャンデラに夢特性が追加されたがその時にはすでに“すりぬけ”に変わっていた、と言う話らしい。
つまりデータの中にはあっても、実際には存在しないのだ。
ただ、公式が一度は“かげふみ”を使える、と定義したのだ。
もしかすると
そうしてやってみたら滅茶苦茶苦労したが案外できてしまったのが“かげぬい”だ。
幻の特性をさらに発展させて裏特性として持たせた、“すりぬけ”と強化された“かげふみ”を両方持つシャルは間違いなく、実機にいたら怪物であり、現実でも最強のシャンデラと言えるだろう。
これが出来なければ“ちいさくなる”の効果を2倍くらいにする裏特性でも作ってみようかと思っていたが、あくまでシャルの役割を特殊アタッカーと定義するなら、相手の動きを止め上から殴れる今の裏特性のほうが良いと思ったのだ。
「エアもだが…………お疲れ、シャル」
ぽんぽん、とボールを叩いてやると、ぷるぷるとボールが揺れる。
何度褒めても慣れないからなあこいつ、きっとボールの中で顔を赤くして照れてるんだろうなあと思うと、思わず笑みが零れる。
「うし…………バッジも三つめ、いっちょみんなで御飯でも食べに行くか」
「ホント?!」
告げた瞬間、エアが目を輝かせ、そして腰のボールたちが揺れる。
この食いしん坊どもめ。
もう一度笑った。
裏特性:かげぬい
自身か相手が戦闘に出てきたターン、自身が相手より先に行動した時、そのターンのみ相手は行動も入れ替えもできない。ただし特性“かげふみ”を持っているか『ゴースト』タイプには無効。
習得条件:特性“かげふみ”を取得し『ふういん』『のろい』『あやしいひかり』の熟練度を最大まで上昇させ、戦闘中相手の全てのわざを『ふういん』し『のろい』を使い『あやしいひかり』で『こんらん』させるを百度。
特技:かりゅうのまい 『ほのお』タイプ
分類:ほのおのきば+りゅうのまい
効果:『こうげき』ランクと『すばやさ』ランクを1段階上昇させる、3ターンの間ほのおをまとった状態となり『こおり』タイプの攻撃を半減、『みず』タイプの攻撃が弱点となり、『こおり』状態にならない
特技:なれあい 『ノーマル』タイプ
分類:あまえる+なかまづくり
効果:相手の『こうげき』ランクを2段階下げ、相手の特性を自身と同じにする
特技:わたはじき 『くさ』タイプ
分類:わたほうし+コットンガード
効果:自身の『ぼうぎょ』ランクを2段階上昇させ、さらに5ターンの間相手全体の『すばやさ』ランクを2段階下げる
因みに最初は「自身か相手が戦闘に出てきた時、そのターンのみ相手は行動も入れ替えもできない」だった。
いや、強すぎだろ、無条件に1ターン行動不能かよ、チートだろ、出禁確定って言われたし、自分でもこれはひでえって思ったので色々条件を縛った。
だってそのころのエアの裏特性って「HPが1/3以下の時ひこうわざの威力を1.2倍にする」だったし、他のも似たようなのだったので、シャルだけ強すぎだろってエアを上方修正したり、シャルを下方修正したりでバランスとった。
因みに今の説明だと分かりづらいかもしれないけど。
自分より早い相手でもトリル使って一度戻して、もう一回出せば発動します(
ただし一度の戦闘で1体につき1回だけ。何回も発動してたらバトルにならんし、書いてても面白くないですしおすし。
作者的裏特性やばいランク(A~E5段階)
Aシャル
Bエア、リップル
Cイナズマ、シア
Dチーク
E
作者の偏見大きく入ってます。あと使い方次第で結局はどれもチート。