ロトム、以前にも言ったような気がするが、電化製品に憑りつくゴーストポケモン。
そして洗濯機に憑りついたロトムを。
ウォッシュロトムと呼ぶ。
『みず』『でんき』のタイプを持ちながら、特性“ふゆう”によって数少ない弱点を消し去り、高い耐久と『くさ』タイプ以外の全ての攻撃を等倍以下に貶めるタイプ相性、そして幅広いわざの取得範囲によって受けポケモンの中でも最上級の評価を受けているポケモンだ。
リップルとの相性は悪くない。『でんき』も『みず』も半減できる上に、最悪“おにび”を撒かれてもリップルはそもそも受けだし、攻撃技も割合ダメージが多いので『こうげき』の半減はそれほど痛くはない。
ただランターンの“10まんボルト”の威力が思ったよりあったらしい、見ただけでは分かりづらいが恐らくHPはすでに残り三割切っているだろう。
“ねむる”の切りどころか?
一瞬そう思ったが、けれど数の上でならば優位なのだ。
どうせなら少しばかり強気に言っても良いかもしれない。
「リップル“まとわりつく”!」
「ロトム“かみなり”!」
リップルがこちらの指示通りにロトムへと接近するが、残念ながら一瞬ロトムのほうが速い。
”かみなり”
「ピギュァァ!」
“らいうん”の中から雷が一条の光の柱となってリップルへと降り注ぐ。
あめが降り注いだこの現状、必中となった“かみなり”がリップルの全身を覆い尽くし。
「ぬうううああああああああああああ!」
リップルが雄叫びを上げて耐えきる。
そうして、リップルがロトムへとさらに接近しようとして。
「そら、
テッセンが呟き。
“かみなり”
二度目の閃光がリップルを襲う。
「っ! やっぱりそうか!」
名前からしてそうじゃないかと思っていたが、やはりそうだ。
トリガーは未だに詳細に分かったわけではないが。
“かみなり”を発生させあまごいの中、必中で打ち込む特技だ。
ここまでかかったターン数は五ターンと言ったところか。
未だに雨が続いている…………恐らくランターンの持ち物は『しめったいわ』だろう。
リップルだけで想像以上にターンが稼げている、しかも一体撃破している。
初手チークはやはり失敗だったな、と思う。
相手が『でんき』タイプなのは分かっていたのだから、最初からリップル、ないしイナズマでも良かったかもしれない。
“なれあい”によって、特性を上書きしたので良かったが、迂闊に“ちくでん”持ちでも残してしまっていたら、後々面倒になっていかかもしれないし、様子見と自身の中で定義づけた最初の二手は別にいらなかったかもしれないと思う。最悪その隙にチークがやられていたかもしれない。
まあ今回のジムの場合、チークの有無はそれほど大きいわけではないのだが、それでも大事な仲間だ、使い捨てるような真似は極力したくないし、自身の采配ミスで無意味に倒されてしまうのは避けたい。
やっぱ知識に偏りがあるんだよなあ、と思う。
対戦時代よく戦った相手ならばそれなりに知識もある、対処法も心得ているが、マイナーなポケモンだとほとんどタイプくらいしか知らないなんてこともある。
この世界に厨パなんて概念は無い。特技、裏特性のせいで本気でどんなポケモンだろうと化ける可能性がある。
それはつまり、対戦時代目にすることの無かったポケモンがリーグでは出てくるかもしれないと言うこと。
もっと勉強が必要かもしれない、と内心で思う。
そして、そんなことを考えながら視線を上げ。
「あー…………う…………」
リップルが崩れ落ちた。
「…………お疲れ」
ボールを掲げ、リップルを戻す。
読めてきた。
ロトムの『とくこう』種族値105は確かに高い。ランターンがどうだったかうろ覚えだが、それほど飛びぬけてはいないはずだ、それほど強ければ対戦でもっと出てくるだろうから。とは言ってもイメージ的に物理技を覚えているような感じはない、恐らく特殊型、となれば低くて70、高くても90くらいか?
だがヌメルゴンの『とくぼう』種族値は150だ。
対戦で何度かヌメルゴンと戦ってきたこともあるが、あれを特殊アタッカーで落とすのは本当に苦労する。と言うかタイプ一致で抜群技でも半分超えるかどうかと言ったレベルのふざけた守りをしている。
半面物理技にはそれほど強く無いのでエアで上から強引に叩いて行っていたが、それでも時には落としきれず“りゅうせいぐん”で手痛い反撃を受けることもあった。
そのヌメルゴンが、そのリップルが。
いくらあれだけ電撃を浴びたからと言って
威力が高いのか、それとも…………『タイプ』相性を無効化しているのか。
恐らく、エアと似たものを持っていると思う。
それが裏特性ならまだ良い。
もしそうでないとするならば…………。
「ついに来たか…………
呟いた言葉にテッセンが口元を釣り上げる。
* * *
トレーナーズスキル。
技の発展形である“特技”。
特性の対となる“裏特性”。
そして。
指示の究極とされる“トレーナーズスキル”。
特技、裏特性が下地を整えるためのものとすれば。
トレーナーズスキルは整えた下地を120%に発揮させるためのトレーナーの
そう、異能でも無ければ特別な訓練でも無い。
けれどただの指示ならば『スキル』などと称されることは無い。
「…………行け、イナズマ」
「はいっ!」
そうして豪雨降り注ぐフィールドにイナズマが登場し。
“ か み な り ”
雷雲から落雷が降り注ぎ、イナズマが雷に撃たれる。
予想通り…………あれだけターン数を稼いで“かみなり”一発落として終わり、確かに強烈ではあるが。
エキスパートたるジムリーダーがその程度なわけがない。
二度目、三度目…………下手をすれば雨が止むまでずっと雷が落ち続けるかもしれない。
「むむむ」
体に感じる軽い痺れに唸りながらもぴんぴんとしているイナズマ。
「なるほど…………『でんき』タイプ以外への『でんき』わざが半減、無効化されない、そんなところか」
「ほうほうほう…………中々良い観察力をもっとる。気づかんやつは素直に『じめん』ポケモンを出してきて一撃でやられとるがな」
ふふふ、と含み笑いをするテッセンに、厄介な…………内心で呟く。
下手をすると。
『ドラゴン』『ひこう』を持つエアだが、もしこの『ドラゴン』の半減が無効化されるのなら『ひこう』によって二倍弱点となる。
メガシンカをすれば一撃耐えれるかもしれないが、出した瞬間落ちてくるあの“かみなり”は、メガシンカのタイミングとずれて先に当たる。
向こうがどこまで計算しているのか知らないが、こちらのエースが半ば封じられている。
しかも、だ。
この雨はまだまだ止む気配を見えない。
と言うことは『ほのお』わざも半減する、つまりシャルのメインわざも一つ封じられているのだ。
趣味パだけにタイプや弱点などが偏っているのも自覚はしているが、中々に厄介な状況だ。
少なくとも、三体目いかんによってはかなり不利な状況になるのは覚悟しなければならないだろう。
おいおいまじかよ、と思う。
六対三でこれか?
「くふっ…………くふふ」
頂点目指すとほざいて? この程度?
「くふふふ」
「マスター?」
そ ん な わ け が な い だ ろ!!!
「あーもう。なにお行儀よくゲームみたいなことやってんだ俺…………イナズマァ!」
「ふぇっ、あ、は、はい!」
「
「ふわぁ?!」
「ほう、大きく出たの」
出来る、出来る、出来る!!!
「“10まんボルト”!」
「ロトム“ハイドロポンプ”!」
イナズマの放つ“10まんボルト”とロトムの“ハイドロポンプ”が互いの中間で激突し、盛大に爆発する。
「捕まえろ!」
「…………っ?! は、はい!」
一瞬の空白、直後に自身の考えを理解したイナズマが弾けるように飛び出す。
“でんじかそく”
弾けるよう加速し、ロトムへと近づき。
「蹴り飛ばせ!」
「やあ!」
片足を振りかぶり…………一気に振り抜く。
べきん、とロトムの憑依した洗濯機が妙な音を立てる。
「ピギュァァ?!」
わざですら無いイナズマの行動に驚くロトムに、けれどイナズマが容赦なく追撃をかける。
「捕まえろ」
片手でロトムの体を持ち。
「ぶち抜け」
残った片手で“きあいだま”を振り抜く。
命中がいくつだろうと、この密着した状況で外すはずが無い!
べこん、べきん、ぼこん、と洗濯機があちこち壊れ、部品が弾け、歪む。
「ぬわあああああああああああああ?! わし特製の『へんけいきこう』があああああああああ?!」
目の前で壊れていく洗濯機にテッセンが悲鳴染みた声を上げる。
何だ? と一瞬思ったが、関係無い。
「そら“10まんボルト”!!!」
「やああああああああああああああ!」
イナズマが全力を振り絞り放つ“10まんボルト”がロトムへと襲いかかる。
「ピギュアアアアアアアアアアア?!」
先ほどよりも大きな声で悲鳴を上げながら、ロトムがのたうち回る。
「ロトム?! ぐ、う“ハイドロポンプ”!」
「
ロトムがわざを使うよりも先にイナズマがロトムの顔…………目と目の間を辺りを踏み抜き、地面に叩きつける。
ばきん、とまた一つ嫌な音と共にロトムの体から部品が零れ落ち。
ロトムはひるんでうごけない!
ポケモンとは、どれほど超常的であろうと生物である。
ロトムに脳なんてものがあるのか知らないが、自分よりサイズがでかい相手に顔を蹴り抜かれれば大抵の生物は怯む。
『いわ』タイプのポケモンであろうとも口の中に『ほのお』わざを受ければ苦しむし、『はがね』ポケモンでも『ノーマル』わざでさえ目に受ければ痛がる。
タイプ相性とはあくまで外皮、外殻に通りずらいとかそう言う問題であって、急所に攻撃されれば当たりまえのように痛いし、苦しい。
ポケモンバトルにルールなんてものあってないようなものだ。
都市部で開かれる大会ならまだしも。
ジム戦、そしてポケモンリーグにそんなものありはしない。
唯一“トレーナーを故意に攻撃してはならない”と言うルール以外はなんでもありだ。
故に、実機ならまずありえないようなことでもこの世界では当たり前のようにある。
「“10まんボルト”“10まんボルト”“10まんボルト”!!」
バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ バ チ
イナズマが電撃を放つごとにその身に電気を帯びていく。
帯電した電気が火花を放つほどにまで帯びた電気は、イナズマの力を加速度的に増していく。
顔面を踏み抜かれて怯んだロトムが動こうとして。
「ぶち抜け! トドメだ!」
“ き あ い だ ま ”
起き上がり様に振り抜かれた拳から放たれた“きあいだま”が再びロトムをジムの床に叩きつけ。
「ぴ…………ぴぎゅ…………」
ロトムが目を回して動かなくなる。
「うむ、よく頑張ったぞ、ロトム…………しかし荒々しい指示ながら、途端にポケモンたちの動きも良くなったのう」
「縛りプレイは嫌いじゃないけど、マゾゲーは嫌いなんだよ」
気づけばいつもの…………素の口調で返していたが、もうどうでも良い。
「最後じゃ…………決めてみせい!
ボールから放たれ現れたのはシビルドン。
ウナギか何かに似ているが、サイズは段違いだ。
それにしても。
「よりにもよってそれかあ」
「……………………」
ちらり、とイナズマを伺うとイナズマが無言でシビルドンを見つめ。
「うらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「あー…………」
全然関係無いが、デンリュウとシビルドンと言うポケモンの種族値を比べると、非常によく似ている。
と言うかデンリュウがやや耐久が高くでシビルドンが攻撃型。
同じ『でんき』単タイプに同じ鈍足でアタッカー。
だがデンリュウに無くて、シビルドンにあるのが。
“ふゆう”
なんとこのウナギ、弱点が『じめん』しかないのに、特性で『じめん』わざが当たらないのだ。
この時点で両者の使い勝手が明確に差が付き始める。
そしていつしか人は言うのだ。
…………デンリュウ入れるくらいならシビルドンで良くね?
そしてイナズマは激怒した!!!
あの邪知暴虐のウナギもどきを必ず殺さねばならないと決意する!!!
「死ねええええええええええええええええええええええええ!!!」
あのイナズマが、あの気弱で控えめな少女が、怒りに身を任せ、目前にシビルドンへと殴りかかる。
「ぶぉ?!」
殺気の籠った視線に射抜かれ、一瞬シビルドンが悲鳴染みた叫びをあげて動きを止める。
そして。
「吹っ飛べええええええええええええええええええ!!!」
“ き あ い だ ま ”!!!
最早ただのパンチなのだが、それはともかくシビルドンが“きあいだま”をぬるり、と躱す。
まるで本物のウナギのようなヌルヌルした動き。
空中でくるりと一回転してシビルドンが姿勢を正し。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
“ き あ い だ ま ”
アッパー気味に振り上げられた
ズダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァl
散々“でんじかそく”によって高まっていた『とくこう』から放たれた“きあいだま”がシビルドンを吹き飛ばし
「…………………………お、おう」
「……………………………………」
思わずそれしか言えない自身と絶句しているテッセンを前に。
「……………………頑張りました」
ぐっと握り拳を可愛らしく作るイナズマの姿が、何故か今だけは恐ろしく思えた。
裏特:うき(雨季)
“あまごい”の継続ターンが2倍になる
特技:らいうん(雷雲)
分類:あまごい+かみなり
効果:5ターンの間、天候を『あめ』にする。このわざの使用後『でんき』わざが使われるたびに『たいでんパワー』を貯める。『たいでんパワー』カウントが10以上になった時、以降のターン開始時に相手に『かみなり』が使用される
持ち物:しめったいわ
…………誰かもう分かるな?
裏特性:へんけいきこう(変形機構)
テッセンが自ら作った“ロトム専用家電”。毎ターン開始時に全てのフォルムの中から任意のフォルムに“変形”することができる。
技術、と言うのとはまた違うけどこういうのも裏特性になる。
まあ今回日の目は見なかったけど。
裏特性:ヌルヌルボディ
直接相手を攻撃するわざや『かくとう』タイプのわざを50%の確率で避ける
トレーナーズスキル:かんでん
天候が『あめ』の時『でんき』タイプ以外のタイプ相性によって『でんき』わざが半減・無効されなくなる
どの辺が指示なのかは…………まああまごいのなんやかんや?
まあそんな感じ?
フレーバー特性:シビルドン絶対に殺す電竜
この特性を持っているデンリュウがシビルドンと対峙した時、『こうげき』『とくこう』『すばやさ』を最大ランクまで上昇させ、全てのわざの優先度を+2し、さらにわざがはずれた時、追加でもう一度同じわざを繰り出す。
…………いや、巻きとか言わないでね(
ぶっちゃけ書きたいことがロトムのとこで終わってたり。
因みにこういう「わざ以外のラフプレイ」と言うのはリーグ行くとよくある。
一例ではあるが「フラッシュで相手の命中さげながらトレーナーを目潰しして正常な指示ができなくさせる」とか。