ポケットモンスタードールズ   作:水代

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タイトルのネタ切れ感(


石を落とした、すとーん、なんて

「なんだろうねえ?」

 顕微鏡らしき機械で自身の渡したビー玉ほどの小さな玉を観察した博士は首を捻りながらそう呟いた。

「恐らく琥珀…………だとは思うけれど、専門外な分野だけに絶対、とは言えないかな」

 覗き穴から顔を上げ、こちらを見て困ったように博士が告げる。

「興味深いのはやはり中の模様だね…………琥珀だとすれば遥か昔に混入した何かなのだろうけれど」

 かちり、と顕微鏡の隣に置いたパソコンを操作すると、画面中央に石の写真が表示される。

「これが模様を正面から見た写真、そして視点を九十度回転させ…………」

 かち、とマウスを一度クリックすると、次の写真が表示される。

 同じ石の写真、ただし模様らしきものはなく、真ん中に細く黒い線が一本入っているだけに見える。

「と、まあ見てもらった通り、生物などではなく炭のような黒い物が広がって模様になっている…………つまりこれは本当の本当に、琥珀に描かれた模様なんだよ」

 

 模様を拡大すれば、それは文字にも見える。ただこんな文字は知らないし、だからこそ模様としか言いようが無い。

 

「ただこの模様の付き方は偶然、と言い切るにはやけに整い過ぎている感じはあるね」

 琥珀と言うのは植物の樹脂が長い時を経て化石化したものだ。だから、生物の死骸などが入っていることは偶にはある。ポケモンの中にも琥珀から取りだした遺伝子を元に再生したポケモン、と言うのも存在する。

 だからこそ、余計に分からない。炭か何かが琥珀にかかったとして、こんな綺麗な模様になるものだろうか。だが人為的、とも言えない。何せ何万年前の太古の化石だ、意図的と言うのはまずないだろうとは思う。

 だが自然に出来上がる模様としては複雑過ぎる。一遍たりとて模様が崩れた場所が無く、見ただけではっきりと分かるほどに整っている。

 だからこそ、謎が謎を呼ぶのだが。

「それに、これが森の中に落ちていた…………と言うのはやけに不自然な話だね」

 先ほども言ったが、琥珀は太古の化石の一つだ。

 山中や崖など、地層が出来上がっている部分から見つかるならともかく、森の中に転がっていた、と言うのはどうにもおかしい。

 

「誰かが落とした…………? 石自体の不自然さもあるし、それも決して否定しきれないけれど。けどそれだと別の意味で不自然だし」

 

 独り言のように呟く博士、やがてこちらを見て。

 

「とりあえずどうしよう? 専門じゃない僕じゃあほとんど分からないことだらけだけど、知り合いの研究機関に頼んでみるかい?」

「…………そう、ですね」

 少し考え、けれど首を振る。

「まあちょっと気になる、程度のものだし、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですから」

「そうかい…………?」

「はい、ありがとうございました、博士」

 礼を述べ、石を博士から受け取り、研究所を後にする。

 

「…………うーん、何なんだろうな、これ」

 

 家へと戻る道中、空に向かって石をかざし、日の光を透かしながら石を見つめる。

 きらり、と光る琥珀色の水晶のようなそれは、中で幾重にも光を乱反射しながら輝いている。

 

「……………………どっかでこんなの見たような」

 

 正確にはこれ自体を見た覚えは無いが、これに似たようなものを何かで見たような。

 しかもここ十年の話ではない、恐らく前世で…………となると、実機での話だろうか。

 だが十年も前の話、しかも一度終わったストーリーをいつまでも詳細に覚えていられるはずも無い。

 少なくとも、ストーリーで重要になるようなアイテムではないはずだ、重要なものならば覚えているはずだし。

 

「と言うかストーリーで重要なアイテムって二つの玉だけだよなあ……………………ん?」

 

 玉…………べにいろのたま、あいいろのたま。

 その二つの名前と共に何か思い出しそうで…………。

 

「……………………何だっけ?」

 

 けれどふっとは出てこない。

 少し考えてみるがけれど結局答えは出ない。

「…………まあ今はいいか、すぐにどうこうって話でも無いし」

 少なくとも、ストーリーは二年も後の話だ…………今のところは。

 唐突に原作が早まる可能性は決して捨てきれないので、備えだけはしているのだが。

 

 はっきり言って、グラードンとカイオーガに勝てる要素がまるで見当たらない。

 

「…………実機はその辺、当たり前のようにバランス取って修正されてるんだよなあ」

 

 ポケモンの種族値、と言うのは大よそこの世界でも実機と同じと言うことが分かっている。

 だが実機では高くても野生のポケモンなんて40、50が精々だったのに比べ、この世界では当然のようにレベル80、90、100なんてのが生息している。

 まあそこまで高レベルとなると、さすがに主クラスであり、そうぽこじゃかと居るわけではないのだが決して居ないわけでも無い。

 と言うかルージュだって言ってみれば、野生のゾロアークのレベル100だ。

 自分が散々育成したので、天然物、とは言い難いが、けれど野生のポケモンと言う意味では決して間違っちゃいない。

 

 さて問題なのは。

 

 伝説のポケモンと呼ばれる二体が、果たしてその範疇で収まっているか、と言うことである。

 

 前提として、最近の自身は一つ、疑念を持っていることがある。

 

「エアのやつ…………なんかまた強くなってる気がするんだよなあ」

 

 自身のパーティのエース、エアは四年前の時点ですでにレベル100を達成していた。

 実機ではレベルの上限は100で固定されており、この世界でも基本的にレベル100が上限と思われている。

 つまりエアは四年前の時点で、能力値自体は完成をみている、と言うことに他ならない。

 

 だが最近になってエアの動きがまた一つ、鋭くなっていると思う。

 単純に体の動かし方が良くなった、とか技術的なものならばいいのだが。

 

 力が強くなっている、守りが堅くなっている、動きが素早くなっている。

 

 それが目に見えて違いを見せてきている気がする。

 耐えるはずの無い攻撃を耐えたり、倒せるはずの無い一撃で倒したり、躱せるはずの無い攻撃を躱したり、追いつけるはずの無い相手に追いついたり。

 

 種族値の問題で僅かに『すばやさ』で負けているはずのチークを、エアが抜いた、と言う時点で何かおかしいと思い始め。

 

 そこでようやくマルチナビでエアの情報を読み取った結果。

 

 名前:【ボーマンダ】

 タイプ:【ドラゴン】【ひこう】

 レベル:【ERROR】

 能力:☆☆☆

 

 レベルがエラー表記を出していた。

 どういうことだと、思わず首を傾げ、博士を尋ねた。

 博士曰く、図鑑の表記範囲から逸脱してしまっているとのこと。

 そして図鑑のレベル表記範囲は1~100。

 

 つまり、確実にレベル100を逸脱している、とのことらしい。

 

 博士に聞いたが、他に前例は無いらしい、いや、発覚したのがこれが初めて、と言うだけの可能性は決して捨てきれないが。

 そうして博士がエアの能力値を元に図鑑の対応表記幅を修正し作った最新版ポケモン図鑑で計測したエアのデータがこれである。

 

 名前:【ボーマンダ】

 タイプ:【ドラゴン】【ひこう】

 レベル:【100(112)】

 能力:☆☆☆☆☆☆

 

 レベル112。実機の上限を完全に超えている。

 と言っても、これはエアのレベル100の時の能力と、現在の能力を比較し、ボーマンダと言う種族の能力を参考にしながら作ったものであり。

 ボーマンダのレベル100の能力をこれくらい、とすると、今のエアのレベルは恐らくこのくらい、と言う曖昧なものであることは否めない。

 つまり、図鑑上のレベルは100だが、能力値的にはレベル112分くらいの能力がある、と言うデータが出ている。

 

 それはつまり。

 

 ポケモンはレベル上限100を超えてさらに能力値を上昇させる、と言うことに他ならない。

 

 そしてここまでを前置きとした上で、先ほどの伝説のポケモンの話に戻してみよう。

 

 かつて大陸を生み出したグラードン、海を作ったカイオーガ。

 

 二体の伝説のポケモンは果たして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 エアがレベルの上限と言うある意味の強さの制限を突き抜けたため、そんな思考が自身の中で巡り始めた。

 正直、伝説種の種族値と言うのは馬鹿げて高い。

 

 まして、ゲンシカイキされてしまっては最早バランスブレイカーと呼べる領域にあるほどだ。

 実際、プレイヤー同士の対戦でも伝説種は使用禁止であり、特定のルールの元でしか使えない。

 そのくらい強力で凶悪な伝説のポケモンが、レベル100を超えて野生にいる可能性。

 

「…………悪夢じゃね?」

 

 だが実際にその可能性は高いのだ。

 太古の昔、グラードンとカイオーガは戦いあっていた。

 だが太古にはその二体以外のポケモンもいたはずだし、野生のポケモンでも強いポケモンなどいくらでもいるはずなのに、伝承にはグラードンとカイオーガ以外にはレックウザの名前しか出てこない。

 それはつまり、グラードンとカイオーガにはレックウザ以外まるで太刀打ちできなかったと言うこと。

 

 まず天候を操る能力が凶悪過ぎて、戦うことすらできない、と言うのもあるだろうが。

 それでもグラードンの特性下だろうと『ほのお』ポケモンなど、戦うことはできるだろうし、カイオーガも『みず』ポケモン、特に深海に棲むポケモンならば地上でどれほど雨が降っていようと戦えるはずなのだ。

 にも関わらず、二体の伝説は互いに殺し合い、世界が滅ばん勢いで暴れ回った。

 

 それは単純に二体が強すぎたからだ、と言う可能性を自身は考えている。

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 下手をすればレベル150、否、200と言う可能性もあるのではないだろうか、と予想している。

 

 そして…………最悪の可能性だが。

 

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 オメガルビー、アルファサファイアでは伝説種と準伝説種と呼ばれるポケモンは必ず3V…………個体値が三つ、最高値に固定されていた。

 だがゲーム時代から疑問だったことがある。

 

 準伝説…………つまり幻のポケモンはまだ良い、ラティオスやラティアスなど公式が複数いることを明言しているポケモンもいるから。

 だが伝説はそれに当てはまらない、たった一体のみ、世界に一体のみのオンリーワンだ。

 太古より現代までひも解いても、伝説種が複数実在したと言う話は一切ない。

 

 つまり、伝説のポケモンとは固有存在だ。

 

 たった一匹だけのオリジナルモンスター。

 

 だとすれば。

 

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 一体しかいないのに、種族も何もないし、個体値とは一体何と比べているのだ、と言う話だ。

 

 グラードンとカイオーガについて…………以前からずっと伝承を集め続けている。

 少しでも()()()()()()()()情報が知りたくて。

 少数ではあるが、ゲームで出ていた情報以外にも伝説のポケモンの情報はあった。

 そして集めれば集めるほどに、なんだこの怪物、と思ってしまう。

 

 この前エアに臆病者、と言われたがまさしくその通りだ。

 

 備えても備えても、足りないと感じる、まだ足りない、まだ足りない、こんなものじゃ足りない。

 

 伝説種と言う怪物の姿を頭の中に思い描き、その影に怯えている。

 

 まだ目を覚ましてもいない、動きもしない存在に、けれど確かに訪れる未来に恐怖している。

 

 まあ結局のところ。

 

 自身の立ち位置をポジション、程度にしか考えていなかった時点で、最早未来は決していたのかもしれない。

 

 二年後になってそう思うことになることを、今の自身はまだ知らない。

 

 

 * * *

 

 

 トレーナーズスキルの獲得は、意外と順調だ。

 と言うか、ある程度構想が見えてきた、と言うべきか。

 実際のところ、ヒントらしきものはあったのだ。

 

 父さんとの戦い、トウカジムでの戦いの最中にエアと何かが繋がったような感覚があった。

 感覚とかそんなものでは無い、見えない何か…………例えるならば。

 

 絆、とか。

 

 恐らくそれは自身の本質なのだろう。

 臆病者の自身の本質。

 恐らく自身にとって切り札の一枚となるだろうトレーナーズスキルはまだ未完成ながら、少しずつ完成へと近づいてきている手ごたえがあった。

 

 それからもう一つ、裏特性が一つしか獲得できないもののために切り捨てたはずの技術がある。

 

 構想だけはあったのだが、どうやらトレーナーズスキルと言う物について父さんから習った限りでは、それも出来そうだ。

 

 これで二つ。

 

 自身の目指す場所は頂点。チャンピオンだ。

 

 故に。

 

 対ダイゴ対策となるようなスキルが一つ欲しい、と思う。

 

 歴代チャンピオンの中でも、ダイゴのテレビへの露出は割と多い。

 単純にチャンピオン、と言うだけでなく、デボンコーポレーション社長子息、と言うもう一つの顔の影響も大きいのではないだろうか。

 そのお蔭か、いくつか情報は集まっている。

 

 トレーナーズスキル“はがねのせいしん”

 

 それがダイゴがもっぱら使用するパッシブ型のトレーナーズスキル。

 

 詳細な効果は不明だが。

 

 『はがね』ポケモンをより強固にするスキル、らしい。

 

 最硬のチャンピオン。

 

 それがダイゴを示す、最も分かりやすい言葉であった。

 

 

 




最近更新が不定期になってきているのが申し訳ない。
どうにも不眠症で起きていても頭がぼーっとする上に、仕事が忙しい。

九月にはもう少し更新頻度あげれるようにしたいところ。



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・レベル上限の解放

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