ポケットモンスタードールズ   作:水代

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チャンピオンロード殺意高すひぎぃぃ

 

 轟々と川が流れる音が暗い洞窟の中に響き渡る。

 『いしのどうくつ』などと違い、ポケモンリーグ側で手が入れられているらしく、道はあちらこちらと補強されているし、水辺や高台の上には吊り橋のようなものも設置されている。明かりも松明があちらこちらと置かれており、光には困らなさそうだ。

 ナビに登録したチャンピオンロード内のマップを広げる。

 

 このマップにはチャンピオンロード内の全マップが記されており、しかもどの辺りにどんなポケモンが生息しているのかまで表示されている。

 このマップは受付をした時に全員に平等に渡されるものだ、故にこれ自体にアドバンテージは無い。

 

 何のためにこれをリーグ側が渡すのか、と言われると。

 

 道が大まかに分けて三つある。

 

 一つは危険な近道、一つは難あり苦ありの正道、一つは遠回りの安全道。

 

 有り体に言って。

 

 近道と言うのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 危険度は非常に高いが、最短コースでこの洞窟を踏破することができる。

 

 正道はそれなりに野生のポケモンも多く、近道よりも距離は長いが、道が舗装されており、比較的楽に進むことができる。

 

 安全道は主のテリトリーを迂回していく道だ。遠回りにはなるが危険度は少なく、出てくるポケモンのレベルもやや低めな傾向にある。

 

 ただし危険なのは何も野生のポケモンだけではない。

 

 近道は足場が悪く、下手をすれば崖や高台から落ちて大怪我をしたり、最悪死ぬこともあるし、川の激流に流され溺れることもある。

 

 正道は道こそ舗装されているが、けれど野生のポケモン襲来も多く、人の通りやすい道だからこそ、トレーナー同士のバトルも多い。

 

 安全道は最も安全だからこそ、実力者に待ち伏せに会いやすく、悪意の餌食になりやすい。

 

 どの道も一長一短であり、各々のパーティの力量と相談しながら進むことが重要となる。

 

 同時に、踏破できない程度の力量しかないトレーナーはここで落ちろ、と言うことでもある。

 

 入り口受付で洞窟内で死亡した場合、事故として扱い、リーグ側は一切の責任を負わないと言う誓約書を書かされているが、それは逆説的に言えば、本気で死を覚悟する事態もあり得る、と言うことである。

 

「チーク、周囲に敵は?」

「んー…………」

 

 ぴこぴこ、とチークの頭頂部の耳と、臀部の尻尾が揺れる。

「いないっぽいかナ?」

 まあまだ入り口からいきなり奇襲、とかそう言うことは無かったらしい。

「よし、行くぞ、リップル、俺の後ろを守っててくれ、チークは前を歩きながら索敵頼む」

「は~い」

「了解さネ」

 

 そうして三人縦に並んで歩きながら、マップを見やる。

 自身が通ろうとしているのは近道のほうだ。

 上手く行けば、三日ほどでチャンピオンロードを抜けることができる。

 だが危険度は非常に高い。

 足場も悪く、どこから敵が出てくるか分からない。

 

 とは言っても『いしのどうくつ』や『りゅうせいのたき』などの洞窟をある程度探検したことがある身としてはそれほど問題にもならないが。

 

 何事も経験だよな、なんて思いつつ、道を確認しながら歩いていく。

 そうして歩いていると、やがて三叉路へと出る。

 

「ん、ここか」

 

 ここがどうやら分岐点らしい。

 川に架けられた橋を渡る近道、真っすぐ舗装された土手道を進む正道、そして地下へと続く安全道、となっているらしい。

 

「近道は橋のほうか」

 

 少しだけ橋に触れてみるが、しっかりとした木造の橋だ、子供一人乗ったところで軋みもしない。原作のような吊り橋とかだと正直怖いものがあるが、この橋なら大丈夫そうだ。

 

 唯一不安なのは、手すりも柵も無いので倒れればそのまま川へとドボン、だが。

 まあ大丈夫だろう、と思い、歩みを進めようとして。

 

「待った、トレーナー」

 チークが静止をかけ、服の裾を掴み、足を止めてくる。

「どうした?」

「何かいるネ…………気をつけたほうがいいかもしれないヨ」

 

 チークの言葉に、周囲を見渡す…………何もいない。

 だがチークの言葉を疑うわけじゃない、一歩、橋の上から足を戻す。

 視線を向けた先は…………川の中。

 

 轟々、と相変わらず流れの激しい川である。飛沫のせいで中の様子は伺えない。

 

 けれど。

 

「いるんだな?」

「いるヨ、アンテナにビンビンきてるネ」

 

 ぶらんぶらん、と尻尾を揺らし、ぴこぴこと耳を動かしながらチークがそう警告してくる。

 ボールを構え、スイッチを押す。

 

「来い、イナズマ」

「…………ん、はい!」

 

 イナズマを呼び出し、激しく水飛沫を上げる川を指さし。

 

「“10まんボルト”」

 

 情け容赦の無い痛撃を川へと解き放つ。

 イナズマの指先から放たれた電撃が川へと飛び込み。

 

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「ぐぎゃああああああああああああああああああ!!!」

 

 絶叫を上げ、川の中からギャラドスが飛び出してくる。

 

「あぶね…………迂闊に渡ってたら横合いからパクリ、かよ」

 

 この橋の作り、絶対リーグのやつら狙ってただろ…………殺意高いな。

 なんてことを考えつつ、全身に負ったダメージに悶えるギャラドスへと、イナズマにもう一度指示を出す。

 

「落とせ」

 

 “きあいだま”

 

 イナズマの放った拳の一撃がギャラドスを再び川へと押し戻し、そのままギャラドスが川を流されていく。

「倒さないのかイ? トレーナー」

「別のやつの邪魔してくれるかもしれないしな」

 まあ四倍弱点の一撃喰らったから、割と死にかけな気もするが。まあそれならそれで別に構わない。もう邪魔されないと言うことではあるし。

「チーク、どうだ? まだ何かいるか?」

 それより、ギャラドスを排除した今、他に何かいるか、チークに尋ねる。

 チークがその耳と尾を盛んに揺らし、周囲を見やる。

「いや、大丈夫だネ」

 そうして振り返ってそう告げると、一つ頷き、イナズマをボールへと戻す。

「行くぞ」

 そうして橋を渡って行く。

 

 川から何かまた来るかと少しだけ身構えたが、チークの言葉通りもう何もいなかったらしい。

 無事橋を渡り終え、さらに道を進んでいく。

 

「うーん?」

「どうした、チーク?」

 そうして進んでいるとチークを首を傾げていたので、尋ねてみると。

「野生のポケモンの気配がしないヨ? ここってそんなに少ないのかナ?」

「んー…………多分だが、主のテリトリーだからじゃないのか?」

 そんな自身の言葉にチークがなるほど、と頷きながらさらに進んでいく。

 

 暗い洞窟内、松明で視界が確保されているとは言え、外の様子が全く分からないため今が一体何時なのか、ナビで見ればすでに洞窟に入って数時間が経過している。

 

「…………時間の感覚がおかしくなりそうだな」

「そうだね、空が見えないから余計にそう思っちゃうよねえ」

 洞窟の天井を見上げながら呟いた言葉に、リップルが後ろで同意とばかりに頷いた。

 時間帯としてはそろそろ昼過ぎと言ったところか。

 

「少し休憩しようか」

 

 正直、歩き疲れた部分もある。

 これまでの旅を振り返ると大概エアに乗って飛んでいたのでそのツケだろうか。

 まさか十歳児で運動不足と言うのも不味いだろうし、今度から少しは運動すべきか。

 

 周囲を見渡すと、ちょうど良さそうな岩場がある。

 

「チーク、あれ大丈夫?」

 

 うっかり座ってゴローンだった、とか言うオチが無いようにチークに確認させ。

 

「ういうい、大丈夫、ただの岩だヨ」

 

 チークがオッケーサインを出したところで、岩場で身を休めることにした。

 

 

 * * *

 

 

「ふう…………ちょっと疲れたね」

 岩に座りながら、靴を脱いで軽く足を揉む。固くなってしまった足裏の筋肉がほぐれ、少しだけ足が軽くなる。

「チーク、悪いけど周囲の警戒お願い」

「了解だヨ」

「リップル、バックパックから水筒出してもらっていい?」

「はいは~いっと」

 転がしたバックパックからリップルが水筒を取りだし、こちらに渡してくる。

 それを受け取り、蓋に中身を注いでいく。

 薄暗い洞窟を照らす松明の明かりを映す透明なそれは、まるで冒険ものの映画のワンシーンか何かのようで。

「まあただの水なんだけどね」

 くい、っと注がれた『おいしいみず』を一気に呷り、一息に飲み干す。

「…………はあ、人心地ついた」

 一つ息を吐くと、じとり、と全身が汗ばんでいることに気づく。

 洞窟内で、しかも川が流れているため温度自体はそれほど高くは無いのだが、空気が湿っぽい。

 湿度の高さからか、肌に感じる空気もべたついているようだった。

「よっと」

 多少高さのある岩から飛び降り、バックパックからタオルを取りだす。

 手早く汗を拭い、ナビで時間を見やればすでに時刻は午後一時を過ぎている。

「お昼ご飯にでもしようか」

 呟くと同時、腰に付けたボールの一つがやたらと揺れ出す。

「分かってる、分かってるから暴れるなよエア」

 相変わらず食べることには目の無いやつだと、僅かに呆れつつ。

 バックパックの中からお弁当箱を取りだす。

 湯で温めるだけで食べれる、前世で言うところのレトルト、と言ったところだろうか。

 レンジじゃなく火にくべる、と言ったあたりが実にこの世界らしい。旅人向けの品と言ったところだろうか。

 小型鍋に川で汲んだ水を入れ、火にかけてしばらく待つ。

 沸騰してきたら弁当箱を一つ投入。鍋のサイズ的に一人分ずつしか作れそうに無い。

 最初の一つはまあ、食いしん坊に食べられることとなるだろうから、自身が食べれるのはそれ以降となりそうだった。

 そうしてしばらく温めて取りだす。軽く水をかけて容器を冷やし、蓋を開けてみれば。

「うーん…………美味しそう」

 キノコのリゾットか何かだろうか、が弁当箱に詰まっており、実に食欲を刺激する香りが漂う。

 同時にボールの揺れがさらに大きくなる。

「分かったから、慌てるなよ」

 呆れつつ、ボールからエアを出し。

「ほら、熱いから気をつけてな」

「いただきます!」

 差し出した弁当箱を受け取ると、一瞬の躊躇も無くエアが一緒に渡したスプーンを使って一心不乱に食べ始める。

「…………うーん、豪快」

 見ているだけで笑みが零れる食べっぷりに、レトルトとは言え、作ったほうとしても気分が良い。

 

 そうして、エアの姿を眺めながら二つ目の弁当箱を湯煎していると。

 

 

「ぐあああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐ…………な、なんだ?!」

 思わず耳を抑えて顔をしかめる自身に。

「はぐはぐはぐ…………ん、ぐぐ…………ん! ハルト! すぐに片づけなさい!」

 一瞬で弁当箱の中身を掻きこみ、飲み込んだエアがすぐさま立ち上がり、警戒態勢を取る。

 どう考えてもただ事じゃないのは理解していたので、エアの言葉に従い、リップルと二人で簡易キャンプをテキパキと片づける。

「よし、チーク、状況は?」

 大よそ片づけ、すぐさま周囲の警戒を頼んだチークの元へと行く。

 チークは視線を一か所へと固定したまま、警戒して動かない。

「…………トレーナー…………近づいてきてるよ」

 チークのその言葉に、眉根を潜め。

「エア、一度戻って…………リップル、荷物担いで」

 エアをボールへと戻し、リップルにすぐに動けるように備えさせる。

 

 ずどん、ずどん、と。

 

 重い足音が響いてい来る。

 

 そして。

 

 

「ぐあああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 現れた影の放つ、最早衝撃波としか言いようの無いその咆哮に、両耳を抑えて蹲る。

「トレーナー!」

 チークがすぐさま後退し、自身を庇うように立つ。

「な…………んだ…………これっ…………」

 余りの衝撃に、頭がくらくらとする。正直、今にも気絶してしまいそうだ。

 

 そうして視線を上げ。

 

 見やる。

 

 大きく口を開けた、怪獣風の出で立ちのポケモン。

 

 知っているポケモンだ。

 

 名は。

 

「バク……オング……」

 

 ゲームでは多少面倒、と言った程度のやつだったが。

 洞窟と言う閉所と音と言う組合わせ。

 

 それがひたすらにバクオングを極悪化していることにすぐに気づく。

 

「くそ…………だったら」

 

 そうして、手を打とうと、ボールに手をかけ…………。

 

 

「ぐるぎゃあおおおおおおおううう!!!」

 

 

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「んなっ?!」

 

 突然の事態に、思考が一瞬止まる。

 

 そうしている内に、バクオングを吹き飛ばしたポケモンが姿を現す。

 

「ぐるう…………ぐぎゃあああああおおおおお!」

 

 全身を覆う鋼の鎧が特徴的なそのポケモンは。

 

「ボスゴドラ?!」

 

 とんでも無い大物が出てきたと内心で呟く。

 

 現れたボスゴドラは、こちらを一瞥し、けれどバクオングへと向かって歩く。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!」

「ぐるぎゃあああおおおおおおううううううううう!!!」

 

 バクオングとボスゴドラ、互いが互いを攻撃し合う。

 

 その超威力、必殺の応酬を呆然と傍から見ていると。

 

 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 地鳴りのような音と共に、天井に亀裂が入る。

 

「うげっ…………走れ! リップル! チーク!」

 

 正面やや外れたところでは二匹の巨大なポケモンたちが暴れ回り、その余波だけで天井や壁に亀裂が入っていく。

 二匹の脇を抜けるような形で走り抜け。

 

 直後。

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォォン

 

 天井が崩落し、元来た道が塞がれる。

 

 それでも二匹は暴れるのを止めない、このままではチャンピオンロードが崩れ去る勢いで暴れ回る。

 

「走れ! 走れ!! 止まったら生き埋めにされるぞ!」

 

 理解する、ようやく理解する。

 

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 つまり今起きているのはそういうことなのだ。

 

 二体の主による縄張り争い。

 

「畜生があああああああああああ」

 

 そして近道ルートとは、その縄張り争いの真っただ中を潜り抜けるルートに他ならないのだ。

 

「殺意高すぎだろ!!! クソがああああああああああああああ!!!」

 

 絶叫しつつ、走り続ける。

 

 止まったら死ぬ、それだけが足を進めた。

 

 




主でも何でも撃破して進む?

うん、いいんじゃない?




戦 っ て ら れ る 状 況 な ら な あ !!!



チャンピオンロード殺意に溢れてて、書いてて最高に楽しい。


近道⇒道が舗装されておらず、足場が悪い、主のテリトリーを突っ切るコース。

正道⇒道がしっかりと舗装されており、歩きやすい。ただし野生のポケモンの襲撃も多く、人が良く通るためバトルも頻発し、連戦になりやすい。

安全道⇒主のテリトリーを遠回りするため、レベルの低いポケモンが出やすい割合安全な道。ただしここを通ると言うことは実力に自信が無いと言ってるようなものなので、ここで待ち伏せするトレーナーもいたりする。


どこ通っても危険しかねえなチャンピオンロード!!!

それでも最短がダントツ危険だわな。
バクオングとボスゴドラとギャラドスの覇権争いの真っただ中潜り抜けるしな(
え? ギャラドス? あの程度でリタイアするわけないじゃん。頑張って泳いで戻って来るよ?

因みに争いに負けた主が正道に迷い出たり、覇権争いから逃げ出した大量の野生のポケモンが安全道になだれ込んだりして、結局どれも最悪なのは変わりないけどな!!!

ホント、チャンピオンロードは地獄だぜ。

因みに原作でも洞窟の途中から外に出れてそこから空飛んでサイユウシティ戻れたけど、そこから空飛んでリーグ目指すと洞窟表層、山のほうに棲んでるウォーグルとバルジーナの群れに撃ち落とされて今日のお昼ご飯にされるけどな!

ここが地獄の一丁目なのだ。

因みに三丁目はチャンピオンと四天王の棲むリーグ(

まあ伏魔殿と言い変えてもいい(

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