メ ガ シ ン カ
その全身を光が包む。まるで孵化直前の巨大な光の卵のように。
直後、光がひび割れる、ぴきり、ぴきり、とそれを皮切りに光が次々とひび割れていき。
ぱりん、と砕け散る。
そうして、砕け散った光の粒子を舞わせながら、現れたのは一人の少女。
「ルォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
メガボーマンダ…………エアの咆哮に、洞窟中が、山中が震えあがるような錯覚すら一瞬覚え。
“ファントムキラー”
直後、
「行かせるかかああああああ!!!」
“おんがえし”
振り払うように繰り出したエアの一撃が、ガブリアスとぶつかり合う。
「
「グオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアア!」
“ファントムキラー”
“おんがえし”
互いの一撃と一撃のぶつかり合い。互いに弾け合う手と手。
すなあらしの中、相も変わらず視界は悪い。
だが目の前に相手がいるこの状況ならば視界の悪さなど問題にもならない。
だがこの状況で打てる手は互いに互角の一撃。
けれど互角にやりあっているその原因は。
「くそ、レベル差か!」
種族値云々よりもエアよりもさらにレベルが高いのが最大の要因だろう。
レベル130…………? 否140…………下手をすれば。
「もっとか」
レベル差は最低で20と見ておいたほうが良いだろう。
先ほどもチークが先んじたが、あれは恐らく距離と予備動作…………つまり優先度の差、と言ったところか。
千日手を崩す手は…………エアのほうが持っている。
“おんがえし”は予備動作の少ない…………ゲーム風に言えば優先度を高くしやすいわざだ、実際にゲームについていたわけではないが。
もう一方のわざ“すてみタックル”は“すてみ”と称する程度に勢いの必要なわざだ、つまり加速が必要になる。
半面ガブリアスも下がりたがっている。今のガブリアスのわざは余りにも
だがそれでもここで打ち合っているのは、下がれば下がった分だけエアが前に出るからだ。
前に出る
だからガブリアスとしてはエアのほうから引いて欲しいのだ、それに合わせて自身も引けば安全に距離を産み出せる。
つまるところ互いに必要なのは速さだ。
そしてそのためには助走…………つまり僅かでも良い距離が必要になる。
たった二、三メートルの距離でもエアならば
恐らく向こうも技本来の威力が増すだろうが、それを補って余りあるほどの威力がこちらは叩きだせる自信がある。
ああ、それだけならば下がっても良かった…………
だが当然ながらそれを出来ない理由がもう一つある。
ずばりこの“すなあらし”だ。
たった二メートル…………それだけの距離を離せば途端に“すなあらし”に視界を隠される。
そうなれば最悪だ。
“すなあらし”に紛れての奇襲。正直、エアが食らっても『ドラゴン』タイプだろうあのわざは致命的なダメージになるのは容易に予想できるし、それ以上にこれは競技では無い、野生のバトルである以上、
それが原作との違い。いや、現実的に考えれば当たりまえのことなのかもしれない。
ポケモンは人間を襲う。
原作でもポケモンを持たずに草むらに入ろうとすれば止められていたが、現実ではそれがより顕著である。
だからこそ、この均衡を崩すのは賭けだ。
エアが“すてみタックル”で相手を捉えるのが速いか、それとも相手が“すなあらし”に隠れこちらに致命の刃を届かせるのが速いか。
だからと言って、このままでは“すなあらし”にエアが
だからこそ賭けの危険性をどうにか減らせないか、そう考えてみるが。
現状エア以外の手持ちを失った自身にどうにかできるはずも無く。
「…………くそ、頼む、エア」
エアに全てを託すしかできない。それがもどかしい。
「ふん…………任せなさい」
それでも、鼻を鳴らしながら不敵に笑むエアの姿に。
「アンタは私が守ってあげる」
一瞬にして不安が吹き飛んだ。
* * *
反撃の兆しはそう時間を置かずやってきた。
“ファントムキラー”
“おんがえし”
三度、四度と繰り返した打ち合い。
けれど少しずつ、目の前の相手の様子が変わってきているのに気づく。
「ハルトっ!」
「分かってる!」
エアの呼びかけに、頷く。
分かっている、分かりやすいほど明確に、ガブリアスの様子が変わってきている。
「グウウウウ…………オアアアアアアアアアアアアア!」
「だから!」
“ファントムキラー”
“おんがえし”
「アイツを殺す前に」
「アアアアアアアアアアアアアア!」
“ファントムキラー”
“おんがえし”
「私を超えていけえええええええええええええええええええええ!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
“エース”
“おんがえし”
“ファントムキラー”
エアの一撃がガブリアスの一撃に
振り切ったエアの一撃がガブリアスに突き刺さり、その身を吹き飛ばす。
「エア!」
「分かってる!」
その巨体故に下がったのは二、三メートルほどに過ぎない。
だがそれだけの距離があれば十分だ。
「ルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
スカイスキンによってさらに強化された全身で放つ一撃。
「グ、グルオオオオオオオオオオオオオ!」
後退したガブリアスが前を向いたその時。
すでにエアはその眼前に迫っている。
“らせんきどう”
“すてみタックル”
螺旋の軌道を描いたタックルがガブリアスへと突き刺さり。
その巨体が吹き飛ばす。
ズダァァァァン、と洞窟への中へと吹き飛ばされたガブリアスが地を転がり。
「グ…………グルオォォォォ」
こちらを睨みながら起き上がる。
だが動きがどこか鈍い。ダメージはしっかりあるようだった。
けれどまだ動く、油断はできない。
そう、思った瞬間。
「グ…………グルォ?!」
ガブリアスが突如動きを止める。
その全身が震える。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
絶叫する、絶叫し。けれどどうにもならないとばかりにその震えが増していく。
直後、その全身が徐々に光に包まれていく。
ゲンシカイキが解除されようとしている。
徐々に減じていくその威圧感に、直観的にそう理解した。
同時にガブリアスが最後の力を振り絞り、こちらへと迫り…………。
「エア」
「…………仕方ないわね」
自身の視線に、エアが一つため息を吐き。
「殺さない程度にやるわよ、ちゃんとね」
“りゅうせいぐん”
エアの手から放たれた球形の気が宙で弾け、ガブリアスの体を次々と射抜く。
『ドラゴン』タイプのわざだけに効果は抜群だったようで、最後の力も使い果たしたガブリアスが倒れ。
その全身が一瞬光に包まれたかと思うと、その後には少女だけが残された。
* * *
「ぐ…………」
ガブリアスが呻きながら震える両手で、何とか上半身を起こそうとし…………崩れ落ちる。
それでも顔だけはこちらへと向け、鋭い視線を自身を射抜く少女を見据えながら。
モンスターボールを向ける。
「…………なんかこの絵面ひっどいなあ」
「…………犯罪的ね」
構図だけ見れば完全にアウトな気がする…………いや、待て相手はポケモンだ。
隣でエアがぼそっと何か言った気もするが、それもきっと気のせい。
「まあ、勝ったのは勝ったんだし」
かちり、とボールのスイッチを押し。
「そう言う世界だしね」
ひょい、とボールを少女へと投げ。
「そういう事で」
かたり、かたりとボールが揺れ。
「ガブリアス」
ぴたり、と止まった。
「ゲット」
* * *
チャンピオンロードを抜け、山の中腹あたり、整備された山道を辿っていると、やがて滝が見えてくる。
「おー…………なんか原作でもこんなの見た気がする」
正直もうそんなに覚えてないけど、なんて呟きながら。
それでも、何となしその光景に感動しながら、さらに歩いて進み。
やがて彼岸花らしきものが咲き乱れる光景が広がって来る。
「…………うん、これは覚えてる」
原作イベントに確かにこんなのあったな、なんて。
何となくノスタルジックな気分に浸りながら咲き乱れる彼岸花を眺めながらさらに進み。
そうして。
「…………到着、と」
舗装された道と両脇にずらりと続く石壁。
道なりに進むこと五分ほどで、それが視界に入る。
「…………来たよ」
中央にモンスターボールのロゴの入った巨大な赤い柱の建物。
「ここまで来るのにちょうど五日」
考えうる限り、ほぼ最速で来たと思う。
チャンピオンロードを抜けるためにした苦労を思えばどうにも感慨深い。
「けどまだまだ」
ここからが本番だ。自身はまだ
「取りあえず受付だけでも済ませないとね」
独り呟き、そうしてその入り口の扉を潜った。
* * *
ポケモンリーグには何でもある。
なんて言葉がある。
ゲーム時代には聞かなかった言葉だが、現実で考えればなるほど道理だと納得する。
何せこれから最低一か月、本戦で勝ち進めば二か月以上、最後まで勝ち残れば三か月もの時間をこの場所で過ごすことになるのだ。
ポケモンセンターやフレンドリーショップなどポケモン関連の施設は当然のこと、ホテル、旅館などの宿泊施設や喫茶店、レストランなど飲食店、その他服飾店から娯楽施設までトレーナーのための施設まで含めて本当に幅広い数の施設がこのポケモンリーグと言う
その施設の種類の幅たるや、あのキンセツシティにすら匹敵するほどだと言われている。
そしてそれらを利用できるのは
年に一回、この時期のためだけに
ポケモンリーグがこの時期のためだけに事前に用意したそれら施設はどれもこれもが通常では味わえないような最高ランクのものであり、それらを使用できるのは一部のリーグ関係者や本戦出場者だけの特権だと言われている。
この一部のリーグ関係者と言うのはたった五人を指す。
つまり。
チャンピオンと四天王。
ポケモンリーグがトレーナーのためだけに作ったトレーナーのための街。
リーグを入って受付を済ませ、本戦出場を決めた選手たちが真っ先に案内されるのは、そんな楽園のような場所だ。
「…………毎度思うけど」
広がる光景に、圧倒されながら思わず呟いた一言は。
「ポケモンリーグって儲かるんだなあ」
自身の正直な感想だった。
* * *
疲れた。それが最初の感想だった。
ポケモンセンターに手持ちを全員預け、自身は近くのホテルで部屋を借りることにする。
時刻としてはすでに午後三時と言ったところか。
この街、とにかく施設が多いせいで無駄に迷ってしまった。
ポケモンセンター探すのに三十分は無駄にした気がする。
「くそがあ…………ミアレシティかよお」
実機時代の話だが初めて行った時にポケモンセンター探して迷ったことなど、何となく思い出す。
取りあえず今日はもう休む。三日もあの地獄のチャンピオンロードにいたのだ、精神的にも肉体的にもかなり疲弊しているのを自身で理解している。
それが終わったら…………。
「一日か二日くらい休養がてら街を回ってみようかな」
本戦で負けたらその時点でリーグを去ることになる。つまりこの街は使えなくなる。
とは言っても負ける気などないのだが、今の内に何があるかくらいは知っておいたほうが良いだろう。
「何か役立つ施設あればいいんだけどな」
なんて考えながら。
ふと窓の外を見る。
広がる街の光景。
ゲーム時代とは随分と違うが。
街の奥には門がある。
本戦が終わるまで決して開かれることの無い門。
つまるところ。
チャンピオンリーグ。
そしてその先に待つのは四天王と。
――――チャンピオン。
「…………やっとここまで来た」
それは夢へと至る入り口だ。
その入り口に立つための挑戦が一か月先に始まる。
「…………勝つこと」
夢を見続けるための条件。
「勝ち続けること」
必要なのは。
「それだけだ」
備考:ゲンシカイキするとヒトガタがポケモンの姿に戻ります。解除すると人の姿になります。
さらに幼女、ゲットだぜ。
ポケモンリーグはパライソだった?
ダイゴさん実は毎年リーグ街で石の展示会を開催。
と言うわけで、次回からポケモンリーグ本戦やっていこうと思う。
実はまだ完全には相手決まってないんで、某妖怪じゃないけど感想に戦術だけでも乗っけてくれたら出すかも。
道具パ、とドラゴンパ、だけは今決まってる。