「…………ふう」
体が内まで温まって行くのが心地よかった。
逆に首から上だけは涼し気な夜の風に吹かれ、涼しさを感じる。
「…………良いなあ、温泉」
本戦受付を終わらせて翌日。探索がてら街を歩く。さすがはリーグ街、と言うべきか。他では滅多にお目にかかれないような物もあり、あれやこれと
フエン温泉リーグ出張所、とか言う旅館があったので、少し寄ってみたのだが。
「…………あ”あ”あ”~」
癒される。
いや、十歳児ボディは回復力も高いので、一晩久々にベッドでぐっすり眠り、体の疲れはほとんど残ってはいないのだが、精神的な疲れと言うのが思ったよりもあったらしい。
肩の力が抜けていくのが良く分る。
「心が洗われるぅ~」
このまま溶けてしまいそうなほどに、体中が弛緩していく。
と、その時。
がらっ、と、入り口の戸が開かれる音がする。
「ん?」
誰か来た、と言うのは分かる。だが誰が来た?
昨日リーグ受付で確認したが、本戦登録最短は自身だった。そして今朝もう一度確認したが、次の通過者はまだ現れていない。
と、なるとリーグ本戦参加者ではない。
だったら従業員か誰かか、日は沈んではいるが、まだ営業時間内のはずだが…………掃除か何かか?
ぺたぺた、と素足で石の床歩いてくる音に、そんなことを思いながら、ふと振り向き。
「おや…………? 覚えのある顔だね」
全裸のチャンピオンが目の前に仁王立ちしていた。
「…………………………………………………………」
タオルなど必要無いと言わんばかりに何もかもが剥き出しのチャンピオンがそこにいた。
「やあ、たしかいつかのミナモデパートで出会った子だね? ボクのことは覚えてるかな?」
ぶらーん、ぶらーん、と…………何がとは言わないが揺れていた。
「さ」
「さ?」
「三万返せえええええええええ!!!」
ここで叫ばねば負ける、直感が囁いた。いや、何にだよ、と言う話だが。
そうして余りのことに半分思考を止めていたが、後になって思う。
少しは前隠せよ、と。
* * *
「ここはボクもお気に入りの温泉なんだ」
湯船に入って、何故かわざわざ自身の隣にやってくるチャンピオンに、はあ、と曖昧な返事を返す。
「リーグ本戦の時期に入らないとリーグ街は本格稼働しないし、かといって入れば本戦出場トレーナーが増えてボクみたいなのは動きづらくなるからね、毎年本戦受付が始まって最初の一週間くらいだけ味わえる特権みたいなものさ」
はは、と笑いながらチャンピオンがそう呟く。
あけっぴろげ(意味深)なチャンピオン様である。
「いやいや、それにしてもまだ受付開始から六日目だって言うのに、キミはもうチャンピオンロードを抜けてきたんだね」
「…………まあ、そうですね」
何だこの状況、としか言いようの無いのだが
「この日数、と言うことは最短ルートを通ってきたのかい?」
「え…………あ、はい」
「あははは、本当にあそこを通ってきたんだ、あそこにはボクの育てたポケモンも何体かいたはずだけど、良くこんな短期間で通ってこれたね」
…………今なんつった。
「…………まさかあのハガネール」
「ああ、ギガイアス乗っけてるやつかい? あれはボクが育てて放流したポケモンの一匹だよ」
ギガイアス…………そうか、そのせいか、ハガネールが“じゅうりょく”なんて覚えないのに、何故その強化版みたいなわざを使うのか謎だったのだが、ギガイアスがいたのか。暗かったので見つけることはできなかったが、どこかにいたらしい。
「ふむ、出会ったのはハガネールだけかい。あとは入り口付近にボスゴドラ、地下通路に“つじぎり”特化のハッサム、ギギギアルと組んで相手を磁力で行動不能にしたまま“だいばくはつ”してくる自爆特化のレアコイルに、あとは五匹一組の群れになって巨大な生態系作っているアイアントたち…………ボクが仕込んだのはまあ精々これくらいだよ」
「十分過ぎる?! むしろもう、これ以上ないくらい殺意に溢れてる!!?」
ん? とチャンピオンが首を傾げる。
「そうかい? 四天王たちなんてもっとすごいの投げてたけどね…………ゲンジなんて暗視対応したガブリアスの特異個体の群れを地下に放流して大繁殖させてたけどね」
「あれお前らのせいかよ四天王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
四天王もチャンピオンもガチで殺しにきていた件。
「その様子だと苦労したみたいだね」
くす、とチャンピオンが笑う。
「でもね」
けれどそれも、すぐに消える。
「そのくらい突破できないなら、この地を踏む資格すらない」
先ほどと同じはずの笑み。
けれど今はどこか、底冷えするような冷たさを感じ、思わず温泉の浴槽へ半分顔を沈める。
「ふふ…………少しだけ、面白くなってきたよ。あの日キミは確かに頷いたね、頂点を目指すのかと言うボクの問いに」
チャンピオンが…………ダイゴが自身を見つめ、ふっと笑う。
「少し遊ばないかい?」
トレーナーくん。
* * *
チャンピオン。
地方リーグの頂点。
たかが地方と侮るなかれ。
この世界の地方とは言わば、前世で言うところの国のようなものだ。
一地方のチャンピオンとは、つまり。
ホウエン地方数万のトレーナーの頂点であり、最強の存在であると言うこと。
言葉にすれば簡単ではあるが、言葉で見るほど簡単なことじゃない。
ゲームのようにレベル60、70程度で勝てるのは予選一回戦までだ。
レベル100、つまりカンスト。
それが
裏特性、トレーナーズスキル、特技、戦術、戦略。
そして育成。
足し付け加えるべき要素は無数に存在し、それら全てを付け足してようやく
本戦で激戦を繰り広げ、他を圧倒し優勝し、そしてその上に立つ四天王たちを四人全員倒し、最後にチャンピオンと戦い、これに勝つ。
そうして新しいチャンピオンは生まれる。
チャンピオンダイゴはかつて、このリーグ予選、本戦で勝ち抜き、そうして四天王を下し、前チャンピオンをその座から引きずり下ろし。
五年以上もの長きにわたってその座を守り抜いてきた不動の王者である。
「少し遊ばないかい?」
そう告げたチャンピオンと共に、旅館を出て十分ほど歩いたところにあったのは。
「…………空き地?」
「一応、仮想スタジアムってとこかな」
グリーンネットで四方を区切られた前世で言うところのグラウンドのような場所。
「ちょっと手狭だけど、遊ぶにはちょうどいいと思わないかい?」
遊ぶ、とはつまり、そういう事なのだろう。
「…………良いんですか? 本戦前に、チャンピオンがこんなところで遊んでて」
「ふふ、構わないさ…………どうせ、本戦が終わってチャンピオンリーグが始まるまではボクたちの出番は無いからね」
微笑み、ボールを掲げるチャンピオン。
「…………まあ、いいか。どうせ本戦勝てば同じこと」
「そうさ、予習とでも思えば良い」
随分と余裕なことだ、と少しだけイラつく。
有り体に言えば、舐められているのだ。
情報はやるから次に戦う時まで少しは対策して楽しませてくれ、と暗にそう言われている。
「今三体しか手持ちがいなくてね、まあそっちは全員使ってくれて構わないよ」
その考えを裏付けるかのように、余裕そうな表情でそんなことを告げてくるチャンピオンに。
「……………………舐めんなよ」
険しい視線でチャンピオンを睨む、けれどチャンピオンは涼しい顔を崩さず。
「なら倒して見せればいいさ…………ヤイバ!」
「ぶち殺せ! チーク!」
互いがボールを投げる。
こちらはデデンネのチーク。
そうして、相手は。
「エアームドか」
原作と同じ、先発はエアームド。
ただし、その強さは原作の比ではないと予想できる。
一手目…………思考する。
いつもなら真っ先に“なれあい”と行きたいところだが、正直エアームドの場合、どちらかと言うと受けのイメージが強い。
『すばやさ』を比較すればまず負けることは無いので、一手様子を見る、と言うのはありかもしれないが。
「チーク!」
「ヤイバ、撒け」
以心伝心、ではないが、大よそ名前の発音だけで指示の使い分けができるようにしている。ほんの1秒にも満たない差だがその数舜が勝負を分けることだってある。
だがそれは向こうも同じだったようだ、さすがに鍛えられている、と言うべきか。
チークが走り出し、エアームドへと近づいて。
エアームドが目の前のチークを無視して、その両翼を大きく振り払う。
“ステルスロック”
“まきびし”
右の翼からは尖った石片が次々と飛び出し、宙に固定される。
左の翼からは“まきびし”がばら撒かれ、足場を埋めていく。
「設置技の同時使用?!」
いきなりの変化球…………いや、エアームドと言うポケモンの役割としては間違ってはいないが。
“ほっぺすりすり”
一瞬遅れてチークが迫り、金属の体にその頬を擦りつける。
その場から動かない、それだけに時間差で先手を取られてしまった。
この辺りがゲームとの違いだろうか。
「チーク! そのまま戻ってこい!」
そして、だからこそ、こう言う手も打てる。
“ボルトチェンジ”
接触しているのなら、そのままゼロ秒で打てる。
ゼロ距離からの接触技ならば時間だってゼロに決まっていた。
エアームドを蹴った勢いで、そのままボールの中へと戻って来るチーク。
「来い、イナズマ!」
「は、はいっていたいたたたた」
入れ代りにイナズマを出すが、ステルスロックとまきびしに体中を傷だらけにされる。
「くそ…………面倒な」
「ふふ…………厄介だろ? こういうのは」
ダイゴが不敵に笑み。
「ヤイバ」
「イナズマ! 撃て!」
イナズマがその指先に電撃を纏い…………。
“まきびし”
“まきびし”
それより速くエアームドがさらに追加の設置を行う。
最早まきびしで地面が埋め尽くされているのではないか、と言うレベル。
と、同時にイナズマの充填で完了し。
“10まんボルト”
放たれた電撃がエアームドを捉える。
「ギェェェェァァァ!」
弱点技である電撃に、エアームドが苦し気に吼え。
けれど落ちない。
「…………弱点タイプの特殊攻撃で、落ちない?」
「…………ふふ、どうしてだろうね」
純粋にレベルが高い…………と言うのは余り考えられない。お互いにすでにカンストしているはずだ。
いや、むしろヒトガタである分、こちらのほうが高いかもしれない。
ヒトガタポケモンはレベルの上限が他より高い。
そのことに最近になって気づく。エアが上限を超えていたのは知っていたが、他の五人も少しずつ、ではあるが
決定的だったのはチャンピオンロードだろう。以前に経験値は数でなく質の問題だと言ったが、あれほど濃密な体験をしたのだ、その経験値は凄まじいものだったようで、現在パーティーの平均レベルは110を超えている。
だから、レベル差と言うのは考えにくい。
だったら…………もう一つだろう。
「トレーナーズスキルってことか。それが」
だったら、こちらもそれ相応にやるだけだ。
「イナズマ、貯めろ」
“じゅうでん”
「ヤイバ」
“どくどく”
変化技まであるのかよ、と思いつつ。
「ぶちかませ!」
「回復しろ」
同時に指示を出し…………そして。
“はねやすめ”
“10まんボルト”
『すばやさ』の差でエアームドが先手を取る。
“はねやすめ”は体力を半分回復する、だけでなく『ひこう』タイプをそのターンのみ喪失する。
つまり。
「ふふ…………まだまだいけるね」
「グェェェェァ!」
『でんき』タイプが弱点でなくなる、等倍で放てばいかに“じゅうでん”していても、同じことだ。
猛毒がイナズマを蝕む。苦痛に顔を歪めるイナズマに、内心歯噛みしながら。
「もう一発貯めろ」
“じゅうでん”
「これで全快だね」
“はねやすめ”
イナズマがさらに“じゅうでん”をし、エアームドが“はねやすめ”で失ったHPを全て取り戻す。
そして。
「ぶん殴れ!」
「ヤイバ」
“きあいだま”
「アアアアアアアアアアアアアア!」
イナズマの拳が唸りを上げて振るわれる。
放たれた“きあいだま”がエアームドを確実に捉える。
“はねやすめ”によって無くした『ひこう』タイプが戻るタイミングは、ゲームならば1ターンだったが、現実ならば
そして“でんじかそく”によって『すばやさ』はエアームドを抜いた今ならば残っているのは『はがね』タイプ。
“でんじかそく”によって『とくこう』が三段階積まれた今の状態ならば、ぶち抜ける!
そう、考えて。
「グェェェェ!」
“きだいだま”が直撃しながらぴんぴん、としているエアームドが吼えた。
「…………は?」
「ふふ、狙いは良かったよ、でもね」
ボクには通じない。
不敵にチャンピオンは笑い、指示を出す。
「さあ、ヤイバ、そろそろ次の相手をしようか」
“ふきとばし”
呆然とする自身を他所に、エアームドの放った一撃が、イナズマの体を押し戻し、ボールへと戻る。
そうしてその衝撃で弾かれたように次の一匹が場に押し出された。
正式タイトル:温泉と来れば…………王者の裸
トレーナーズスキル:はがねのせいしん
『はがね』タイプを持つポケモンの『ぼうぎょ』と『とくぼう』を高いほうの能力と同値にし、『ほのお』『かくとう』『じめん』わざを半減する。
ヤイバ(エアームド) Lv100 特性:するどいめ、がんじょう 持ち物:ごつごつメット(今回は無し)
わざ:ステルスロック、まきびし、ふきとばし、はねやすめ、どくどく
裏特性:りょうよく
場の状態を範囲とするわざを2回使用できる。
もっと速くふきとばせって?
ダイゴさんのナメプだよ。
ダイゴさんの分かりやすいひどさ。
エアームドの種族値で分かりやすく言うと。
ぼうぎょ140、とくぼう70がぼうぎょ140、とくぼう140、になる。
ほぼヌメルゴン並のとくぼう、そりゃ2倍弱点くらいじゃ簡単には落ちない(
あと感想にパーティ案くれた皆さまに感謝。
お蔭で大分まとまりました。