ポケットモンスタードールズ   作:水代

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対戦して思ったこと。


カロスルールは卑怯(卑劣なマンダ封じ


決勝戦開…………開…………始…………?

 ざわざわと、会場が騒めいていた。

 まあ当然、と言えば当然なのかもしれない。

 

 ここまで続いてきた決勝戦。

 

 その開始時刻になっても、相手トレーナーが現れないのだから。

 

「…………どういうこと?」

 

 正直、自分も困惑している。

 開始時刻からすでに十分が過ぎている。

 一回戦ならば不戦勝になっているような時間だが。

 

 年一度、ホウエン中から注目を集めるこのリーグ決勝が不戦勝などと、リーグ側もさすがに困るだろう。

 何よりも視聴者が誰も納得しない。

 そして、自身もそれでは困る、困るのだ。

 

 進めるのだから、良い…………と普通なら思えるかもしれない。

 リーグ優勝が何もせずとも手に転がって来るのだ。普通のトレーナーならそれでいい、棚ボタだと思うかもしれない。

 だが自身はそれは困る。

 

 一線級の異能トレーナーと戦う最高の機会なのだ、これは。

 

 チャンピオンと戦うために、自分なりに考えた条件。

 その一つ、異能トレーナーとの戦いに慣れること。

 

 どんな理不尽も、どんな不条理も、丸めて飲み込めるだけの胆力をチャンピオンと戦うまでに鍛え上げなければならない。

 自身は異能トレーナーとの対戦経験が余りにも無さ過ぎる。

 当然だ、異能トレーナーなんて早々いるものではない、ホウエン全体で見ても百といるかどうか、だ。

 数万人のトレーナーの中で、たったの百、である。

 

 そしてその中で、異能トレーナーの中でも格付けのようなものがある。

 

 有り体に言えば、どれだけ理不尽か、どれほど不条理か。

 

 その規模や力、強制力によって格が決まる。

 

 今日戦う相手は間違いなく、最高位の異能トレーナーだ。

 

 同時に、それ以外の能力も間違いなく一線級。

 

 ポケモンを従えるカリスマ性、深い読みを実現する思考速度、状況に対する的確な指示、そしてポケモンの能力を十二分に引き出す育成。

 言ってしまえば、チャンピオンと同じ万能型、と言ってもいいかもしれない。

 

 だがチャンピオンほどの完成度はまだ無い…………恐らくこれから先、さらにバトルを続ければいつか同じ領域までたどり着くのではないかとは思うが。

 

 つまり、チャンピオンに似たタイプなのだ、相手は。

 

 異能の性質は全く違っていても、チャンピオンを想定した戦いと言っても過言ではないほどに。

 

 今回、自身は普通の対策しかしていない。

 

 と言うか異能トレーナー相手に、それ以上の対策なんてできない。

 

 あとはバトルの中で、自分が見つけるしかない、相手の隙を。

 

 そして見つけた隙に致命の刃を差し込めるか。

 

 これはつまり、そう言う戦いだ。

 

 これから戦う相手にそれができないならば、チャンピオンにもできるはずが無い。

 だが逆に、これから戦う相手にそれが出来たならば、自身の刃はチャンピオンにも届きうる、可能性の刃となる。

 

 ……………………の、だが。

 

「…………どうするんだこれ」

 

 十五分経過、相手は来ない。

 会場のざわめきもピークに達してきていた。

 

 と、その時。

 

『静粛に』

 

 アナウンスが響いた。

 

 静かな、けれど耳に残る声。

 

 一瞬にして、会場が静まり返る。

 

『決勝戦についての説明を、ボク、チャンピオンダイゴからさせてもらうよ』

 

 アナウンスの主がチャンピオンだと言う事実に、会場のざわめきがまた大きくなりかけ。

 

『決勝戦の時刻を今からさらに三十分後に変更させてもらうよ。会場も、テレビの前のみんなだってこんな終わり方じゃ納得しないよね?』

 

 その言葉に、会場の随所で同意の声が上がる。

 

『ハルト選手も良いかな?』

 

 アナウンス席からこちらを見つめる視線に気づく、同時にその言葉で会場中がこちらを向き。

 両手で大きく丸を作る。

 

『うん、ハルト選手も納得してくれたみたいだね…………と言っても、このままじゃ不公平だ、開始時刻に来ないのに何のペナルティも無しじゃ示しもつかない、そこで』

 

 一旦、言葉を区切り。

 

『試合開始前にシキ選手は選出するポケモンを五体、公開することを義務付ける、これが決勝を行うための条件だ』

 

 勝手にそんなこと言っていいのだろうか、とも思うが、相手がここに来てない時点で不戦勝だ、と自身が訴えればそれはそれで通ってしまうので、最低限の線引き、と言うことだろうか。

 実際のところ、最初から手持ちの情報が分かっていれば、大分読みやすい、と言うのは確かにある。

 だがそれだけで試合が決まってしまうほどではない。

 あくまで有利と言う程度であっても覆せないほどでない。

 なるほど、確かにそれならばペナルティを課しながら最小限のハンデで済ませることができる。

 

 そして五体、と言うのもまた際物だ。

 

 手持ちは全部で六体、その内の五体だから、一体だけは隠せることになる。

 

 その一体は果たしてパーティの中核か、要か、それともエースか、切り札か。はたまたこちらへのメタかもしれない可能性もある。

 

 五体晒すことで、余計に残る一体が意味深になってくる。

 もしかしてそれはブラフで、晒した五体の中に、こちらへの切り札が混ざっているのかもしれない。

 

 手持ちを公開しても、特性も、持ち物も、技も分からなければ、裏特性もトレーナーズスキルも分からないのだ。そう言うことだってできるかもしれない。

 

 とは言ったものの、それも全て相手がくれば、の話。

 

 試合が行われない以上、ここにいても仕方ない。

 階段を下り、自身に割り当てられた控室は西側通路を歩いたところにある。

 南側からぐるっと回って西側へ。

 ついでに落ち着くために飲み物でも買うか、と西側からスタジアムを出て傍の自販機へと向かう。

 

 そうして。

 

「…………ここどこ?」

 

 途方に暮れたような表情の少女がスタジアム入り口とは反対側を歩いているのが見える。

 

 歳の頃十二、三くらいのまっ黒なツインテールの眼鏡をかけた小柄な少女。

 髪と同じ黒のTシャツに、動きやすさを重視したような紺のハーフパンツ。

 足に履く白かったはずの運動靴は、すっかり履き古してやや汚れている。

 

 覚えがある…………と言うレベルでは無い。

 

「…………いや、いるじゃん」

 

 自身の対戦相手がそこにいた。

 

 

 * * *

 

 

 朝が弱いのは自身の最大の弱点だと思っている。

 

「ああ、もう! クロ、起こしてよ!」

 

 自身の叫びにボールの中でクロが無実だ、とでも言うようにカタカタと震える。

 実際のところ、ボールの外鍵を外し忘れていたのは自分なので冤罪と言えば冤罪だ。

 モンスターボールのロック機能は二重になっており、内鍵と外鍵の二つがある。

 まあ、鍵、と表現しても別に中に鍵穴があるわけではないので、あくまで比喩だが。

 

 開閉スイッチを押すと、この両方の鍵が外れて中からポケモンが強制的に排出される。

 そしてもう一度スイッチを押せばポケモンが収納させ、両方の鍵がかかる。

 基本的にはこれでもいいのだが、外鍵を外しているトレーナ―と言うのは実はけっこう多い。

 外鍵を外していると、森の中や洞窟など、咄嗟の状況でポケモンが自発的にボールから飛び出し行動してくれるからだ。

 

 もう一度言うが自身は朝に弱い。

 

 寝坊などしょっちゅうだ。

 だから一人旅を好むのだが、こう言う時間が指定された日と言うのもたまにはあるのでそう言う時は手持ちのポケモンの一体であるクロに起こしてもらっているのだが。

 昨日に限ってボールの外鍵を外し忘れ、目を覚ませば決勝戦開始直前である。

 

「ああ! もう!!!」

 

 さすがに今日ばかりは自身の体質を恨む、慌てて支度を整え、部屋を飛び出していく。

 幸い自身の泊まるホテルからコロシアムは近い。走ればギリギリで決勝戦に間に合う。

 

 なのだが。

 

「…………ここどこ?」

 

 気づけば、見知らぬ場所。

 見知らぬ景色。

 迷った、すぐにそのことに気づいた。

 

 どうやら慌て過ぎて、道を一本間違えたらしい。

 道中で対戦相手のことを考えていたのも不味かったのだろうか。

 

 不味い。

 

 恥ずかしいので人には言えないが。

 

 自身は極度の方向音痴なのだ。

 

 二週間、毎日地図を片手に通い続けてホテルからスタジアムまでの道をやっと歩けるようになった、と言うのに。

 引き返せばいいだろう、と思うかもしれないが。

 

「…………どっちが、どっちよぉ」

 

 最早自分がどこから来たのかすら分からない。

 

 気づけばスタジアムの影も見えない(右手をご覧ください)。

 

 車道はずっと続いており、反対側には商店街のようなものも見える(だから右)。

 

 あそこで誰かに聞いてみればスタジアムの場所も分かるかもしれない(だから右見ろって)。

 

 そうと決まれば、と一歩、車道へと足を踏み出し。

 

「おいっ!」

 

 突如背後からかけられた声。

 と、同時に手を後ろへと引かれ。

 思わず数歩、後ろへとたたらを踏み。

 

 ぶうん、と目の前を車を一台通り過ぎていく。

 

 あのまま飛び出していれば轢かれていたかもしれない。

 その事実に気づき、さあ、と血の気が引く。

「大丈夫!?」

 手を握ったままの声の主が自身にそう尋ねる。

「えっと…………だ、大丈夫」

 答え、振り返り。

 

 見る、見る、見る。

 

 視線が合う。

 

 少年の青い瞳が自身を見つめ。

 

「……………………………………っ」

 

 その綺麗な色に見入る。

 

 余りに唐突に。

 

 余りにあっさりと。

 

 十三年の人生の中で、初めて。

 

 一目惚れ、と言うものを経験した。

 

 

 * * *

 

 

 対戦相手を連れてスタジアムへと向かう。

 と言っても、目と鼻の先なのだが、何故彼女は反対方向へと向かおうとしていたのか。

 問えば北口からしか入ったことが無いので、西口から見た風景の違いに、それがスタジアムだと認識できなかったらしい。

 最早それは方向音痴とか以前に認識の障害か何かなのではないか、と思うのだが。

 

 まあとにかく、無事相手トレーナーをスタジアムに連れ。

 

 いよいよバトルができるようになる。

 

 その前に遅参のペナルティが相手トレーナー…………シキへと課せられる。

 

 道中で何故か名前で呼んでくれ、と言われたのだが一体何だったのだろう。

 堅そうな印象、と言うかこれから戦う相手なわけだが、あのフレンドリーさは一体…………?

 

 まあとにかく、シキが手持ちの中から五つ、ボールを投げる。

 

 出てきたのは。

 

「…………何?」

 

 サザンドラ。

 これは良い、知っている。

 

 ジバコイル。

 これも良い、事前情報にあった。

 

 ハリテヤマ。

 知らない、これは知らない。一度も見た事が無い。

 厄介なのが出てきた、特性がどれも優秀だが“あついしぼう”だった場合、シャルとシアが半分無効化されているようなものだ。

 シャルの場合、それでもごり押しできないことも無いが、相手が“じしん”などを覚えていた場合、一気に窮地に陥る。

 

 それから次が。

 

 ハピナス。

 またもや情報に無い相手だ。最悪の特殊受けが出てきた。

 何気に自身のパーティは、エア以外物理アタッカーが居ないので、存外これは厄介かもしれない。

 

 そして最後に。

 

「ギィアオオオオオオオ!!!」

 

 ()()()()()

 

「……………………は?」

 思わず目を見開く。

 何故そんなポケモンが入っている。

 いや、知ってはいる。どんなポケモンか知ってはいるのだ。

 

 何せ数少ない、特性がマイナスに振り切ったポケモンだ。

 

 特性“よわき”

 

 自身のHPが半分以下になると『こうげき』と『とくこう』が半減する、と言うどうしようも無い特性を持っているポケモンだが。

 

「…………………………いや、待て」

 

 半減?

 

 つまり。

 

 ()()()()する?

 

「…………いや、まさか」

 

 まさか、とは思う。

 だが思い出して欲しい。

 

 理論も理屈も無いのが異能だ。

 

 ならば、可能なのかもしれない。

 

 シキについて書いたレポートを思い出す。

 あの時注意事項に確かこう書いたはずだ。

 

 注意事項:下降能力を反転させる、と言うトレーナーズスキルと三つ首で威力を下げる代わりに三度の“りゅうせいぐん”を打てるサザンドラの組み合わせで、1ターン目で“りゅうせいぐん”を無効化できなければ6段階『とくこう』を積まれることになる。チークでほぼ無効化できると予想できる。ただし、まだほぼ手札は切ってない様子なので、かなりの強敵と思われる。

 

 下降能力を反転させる

 

 もしこれが特性にまで影響するのならば。

 

 HPが半分以下になった瞬間。

 

 『こうげき』と『とくこう』が()()()する。

 

 つまり。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 




今回だけ、先に読者に情報公開しておく。存分にネタバレを見ると良い。



クロ(サザンドラ) 特性:ふゆう 持ち物:こだわりメガネ
わざ:りゅうせいぐん、あくのはどう、かえんほうしゃ、だいちのちから

裏特性:みつくび
自身が使用する『ドラゴン』タイプのわざの威力を半減するが、攻撃回数を3回に変更する。

専用トレーナーズスキル:しょうりのほうこう
相手を倒した時、「最大HPの1/3を回復」「自身の『ぼうぎょ』『すばやさ』を1段階上昇」「自身の『とくぼう』『すばやさ』を1段階上昇」のいずれかの効果を得る。




ルイ(ジバコイル) 特性:じりょく 持ち物:ひかりのねんど
わざ:ミラクルバリアー、めざめるパワー(炎)、10まんボルト、みがわり

特技:ミラクルバリアー 『エスパー』
分類:リフレクター+ひかりのかべ
効果:5ターンの間、味方への物理・特殊技のダメージを半減し、攻撃技が急所に当たらなくなる。持ち物が『ひかりのねんど』の時8ターン続く。

裏特性:はんぱつりょく
『でんき』わざが命中した相手を強制交代させる。



ドッスン(ハリテヤマ) 特性:こんじょう 持ち物:くろおび
わざ:インファイト、ばかぢから、はらだいこ、はたきおとす

裏特性:りきし
自身の『かくとう』わざで相手が『ひんし』になった時、相手を強制交代させる(次に出すポケモンをランダムに選出する)。

専用トレーナーズスキル(A):リバースダメージ
ターン開始時発動、発動ターン中互いへのダメージをHP回復効果に変える。



ララ(ハピナス) 特性:いやしのこころ 持ち物:こうかくレンズ
わざ:ちいさくなる、いやしのはどう、うたう、いやしのねがい

裏特性:ヒーリングボイス
『うたう』で相手を『ねむり』状態にした時、『ねむり』状態の間、毎ターン最大HPの1/4回復する。

専用トレーナーズスキル(A):リバースヒール
ターン開始時発動、発動ターン中互いへのHP回復効果をダメージに変える。



ケイオス(アーケオス) 特性:よわき 持ち物:いのちのたま
わざ:もろはのずつき、げきりん、ついばむ、じしん

裏特性:きょうそう
特殊技・変化技を出せなくなるが、物理技を使用した時、自身の『こうげき』『すばやさ』に『とくこう』の半分を加算して先攻後攻、ダメージ計算する。

専用トレーナーズスキル:きょうらん
HPが半分以下の時、相手の攻撃技以外のダメージを全て無視する。自身の攻撃の反動を受けなくなる。


???? 特性:???? 持ち物:????
わざ:????

裏特性:????

専用トレーナーズスキル:????



トレーナーズスキル(P):いかさまロンリ
味方の下降効果が上昇効果になる。

トレーナーズスキル(A):????

トレーナズスキル(A):????

トレーナーズスキル(A):????



全部公開するとは言ってない。
特に最後の一体は読者に驚いて欲しくて頑張って隠しているからハルトくん相手に出てきたら存分に驚いて欲しい。

と言うわけで喜べよ、おら。
人間のヒロインだよ、初めてだよ。
四章レギュラーになるから可愛がってあげてね?

ハルカちゃん? あの子とミツルくん四章の主人公だよ?

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