ポケットモンスタードールズ   作:水代

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決勝戦前半

 ボールを握る。

 フィールドを挟んで向こう側にいる少年の姿を見据える。

「…………っ」

 瞬間、湧き上がる感情に思わず頬を染め、顔を逸らす。

 

 まさか自身がこんな感情を覚えるだなんて、夢にも思わなかった。

 

 とは言え、トレーナーならば、私情とバトルは別だ。

 少年とてここまで来た身だ、負けられない譲れない理由の一つだってあるのかもしれないが、それは自身とて同じ。

 

 負けない、負けられない。

 

 そう思っているのはこの本戦までたどり着いた時点で同じなのだ。

 そうでなければあのチャンピオンロードで折れている。

 故に、全力で勝ちに行く。

 

 とは言え、相手は決勝まで勝ち進んだ強敵だ。

 

 故に思考を巡らす。

 

 すでに五体、相手に見せてしまっている。

 

 …………いや、寝坊した自身が悪いと言えばそれまでなのだが。

 不戦敗すらあり得たのだから、このくらいのハンデで許されたのは良かったと言うべきか。

 だがそれでもすでに五体、相手に見せてしまっているのは痛い。

 

 とは言え。

 

「それで何か変わるわけでも無し」

 

 堂々と行こうか。

 

 正面から、突き進む。

 

 異能なんて使っていても、結局のところ自身のパーティ構成は力技ばかり。

 

 多少の絡め手はあっても最終的にパワープレイだ。

 

 やることなんて変わらない。

 

 ならば。

 

「…………行って、クロ!」

 

 ボールを投げた。

 

 

 * * *

 

 

 まずはクロ。

 種族はサザンドラ。

 自身の先発。

 

 と言っても、毎試合使っていれば相手だって分かっているだろう。

 

 その上で。

 

「チーク」

 

 出してきたヒトガタはいつもと同じ。

 と言っても、アレが何のポケモンなのか、自身には分からない。

 

 個人的に思う、ヒトガタポケモンの一番厄介なところだ。

 

 姿形が違い過ぎてそれが何のポケモンが分からない。

 ある程度の類似点、と言うか特徴があるのは分かっているが、それでも余りにも違い過ぎる。

 

 チーク、と少年が呼ぶポケモンは、恐らくタイプ的には『でんき』。

 

 相性は…………悪くない、はず。

 

 こちらに対策を打ってきているかとも思ったが、少年の試合は毎回あのポケモンが先発登用されている。

 他のポケモンも控えと入れ替えている様子は無いので、どうやら固定パーティで戦っているらしい。

 固定パーティは総じて練度が高い、同じ面子が全試合で戦い続けているのだから当然と言えば当然。

 だが代わりに役割がある程度固定されているため、同じ試合運びになりやすい。

 

 と、なれば、他の先発が居なかっただけ、と見るべきか。

 

「一手様子見、かしら」

 

 くい、とハンドシグナルでクロへと指示を出す。

 こくり、とクロが頷き。

 

 “みつくび”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 空から大量の流星が降り注ぐ。

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 地表、バトルフィールドを流星が抉りながら相手ポケモンへと降り注ぎ。

 

「チーク」

 

 少年の声がぽつり、と響く。

 

 瞬間、降り注ぐ流星をものともせずに相手ポケモンが飛び出し。

 

 “ほっぺすりすり”

 

 クロに触れた瞬間、クロがびくり、と体を痙攣させる。

「無傷っ…………フェアリータイプ?!」

 『でんき』タイプだと思っていたが予想が外れた?!

 否、確かいたはずだ、両方兼ね備えたポケモンが。

 

「デデンネっ!」

 

 完全に読み違えた。

 てっきりプラスルかマイナンあたり、あってもせいぜいピカチュウ程度だと思っていた。

 ホウエンに生息しないポケモンだけに意識の外にあった。そうだ、自身だってホウエンの外から来た身のくせに何をその可能性を除外していたのだ。

 一手目を完全に間違えた、しかもクロの持たせた道具は…………。

 

「こだわりメガネなんて持たせるんじゃ無かった」

 

 一手目で確実に相手に致命傷を叩き込むための必勝の策は、いきなり自身を窮地に追い込む。

 だが、まだだ。まだクロがやられたわけでも無い。

 

「チーク」

 

 次の指示を出そう、と思考を巡らせた瞬間。

 

「あいサ」

 

 “つながるきずな”

 

 “ボルトチェンジ”

 

 デデンネの少女がクロを蹴る、と同時にその姿がボールの中へと吸い込まれていく。

 

 そして。

 

「さあて…………お披露目だ、行くぞ、エアァァァァ!!!」

 

 少年が次のボールを投げる。

 

 出てきたのは。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 咆哮を上げる青と赤の少女。

 

 同時。

 

 少女の手に持つ琥珀色の石が輝きに包まれる。

 

 

 ゲ ン シ カ イ キ

 

 

 同時、少女の全身が光に包まれ。

 

 ()()姿()()()()()()()()

 

 赤く、青く、そして白く。

 人の形ではない、異形、怪物、文字通りの四足の竜。

 知っている、と言うか見た事がある。カロスにもあれはいる。

 ボーマンダと言う名のドラゴン。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 翼が細く長く変わって行く。

 それは完全に空を飛ぶためのものでは無い。

 しいて言うならば、それは鎌だろうか。

 鋭利に砥がれた、空気を切り裂くための翼刃。

 通常は高さ1.5mのその体はさらに大きく、優に高さ3m、横幅に至っては10mへと迫るではないかと思うほどの巨体へと至り。

 その顎の真横辺りから二本の大きな牙が正面へと伸びている。

 その手足には薄っすらと模様のような物が光っており、良く見ればそれは文字のようにも見えた。

 

 正直言って、それは自身の知るボーマンダと言うポケモンとはまるで別物であった。

 

 と、言うか、ヒトガタポケモンが本来の種族の姿へと変化する、と言うこと自体が理解できない。

 例えば、メガシンカ。それでも確かにヒトガタポケモンは進化する、だがそれはヒトの姿を保ったままの変化だ。

 目の前の存在のように、ヒトガタが原種へと変化すると言う事例は聞いたことが無い。

 まして原種の姿からさらに大幅な変化が起こるなど、前代未聞である。

 

 何よりも分からないのは。

 

 自身はメガシンカしたボーマンダの姿を見た事がある。

 だが目の前のそれはメガボーマンダとは似ても似つかない別物だ。

 

 ()()()()()()()()?!

 

「……………………っ」

 

 考えても仕方ない。

 もう様子見なんて言ってられない。

 無理矢理にでもこちらのペースに引き込む。

 

「戻って、クロ」

 

 ボールを差し向け。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 “しっそうもうつい”

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 “ドラゴンハント”

 

 

 ボールがクロを回収するよりも早く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「しまっ?!」

 

 その行動が意味することを理解した時には最早遅い。

 

「ルゥオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!」

 

 咆哮を上げるボーマンダが振り上げた(かいな)がクロ目掛け振り下ろされ。

「ギャアアアアゥゥゥァァァァァァァァ!!?」

 致命的な一撃にクロが悲鳴を上げ、()()()()()()()

 

 そして。

 

 “りったいきどう”

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な…………あっ」

 

 振り下ろされた一撃がクロを大地に叩きつけ。

 

「ギュ………………グル………………ア…………」

 

 叩きつけられたクロが目を回し、動かなくなった。

 

 

 * * *

 

 

「………………………………………………………………………………」

 

 口を閉ざす。

 

 強い。

 

 ただその言葉だけが浮かんで来る。

 よく考えられた戦術である。

 恐らくは()()()()()()()()()の組み合わせ。

 “きゅうばん”の特性や“ねをはる”等のわざが無いとあのバカげた威力と合わさって当たった時点で詰み、と言って良いかもしれない。

 そして残念ながら自身の手持ちにそんな都合の良いわざや特性を持ったポケモンはいない。

 恐らく相殺しても命中した時点で強制交代がかかる、交代際を追撃してくるので、二撃目は相殺も出来ない、守ることも出来ない、無防備に食らうしかない、と言う厄介さもある。

 

「……………………ふ、ふふ」

 

 当初考えていた勝率は8割。確かに強いトレーナーではあるが、それでも異能を込みで戦えば早々負けるはずないと思っていた。

 

 だが、ここまでの状況を見れば、自身が一方的にやられている。

 

「………………………………ふふふ」

 

 ()()()()()()()()

 

 そう思うのは自身の悪い癖だろうか、否、ポケモントレーナーならば誰だってこんなものだろうと思う。

 次のボールを手に取り。

 

「戻れ、エア」

 

 少年…………ハルトがボーマンダを戻す。

 

「……………………へえ」

 

 目を細め、嗤う。

 ここで引く? 様子見? 否、そう言った感じではない。

 ここまで力押しで来たのに、今更リードを取ったくらいで引くようなトレーナーなら、その勢いでそのまま押し返せる、が。

 どうやらそういった様子では無さそうだ。

 

 と、なれば何らかの制限でもあるのだろうか?

 

 なるほど、そう考えれば先ほどの攻防も納得が行く。

 つまり時間をかけれないから、なるべく早く敵を一方的に叩ける状況を無理矢理に作り出す構成か。

 と、なればこちらのやることも決まった。

 

「来て、ルイ!」

「行け、リップル」

 

 こちらはジバコイルのルイ、そしてハルトは白と紫のヒトガタ。

 相変わらず何のポケモンか分からない。と言うか予選では出ていなかったポケモンだ。

 この場面で出てくると言うことは…………アタッカー、か?

 それともワンクッション置いて、受け、か。

 

 僅かに思考し。

 

「ルイ、“ミラクルバリアー”」

「リップル」

「はいはいっと」

 

 “ミラクルバリアー”

 “まとわりつく”

 

 ルイが目の前に透明な壁を生み出すと同時に、相手のヒトガタがルイへと迫り。

 ぐにゃぁ、と明らかに人体の構造上それはおかしいだろ、と言いたくなるような奇怪な曲線を描きながらルイへと絡みつき、締め上げる。

 

 交代を封じられた…………()()()()()

 

「ルイ“10まんボルト”」

「リップル“りゅうせいぐん”」

 

 ばち、ばちばち、とルイの体に電気が溜まって行き。

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “10まんボルト”

 

「ぐっ」

「ギ…………キィ」

 技の出は向こうが速くとも、密着している分、一瞬ルイのほうが先に当てた。

 ばちばち、とヒトガタに電流が走り。

 

 “はんぱつりょく”

 

 ルイの裏特性により絡みついていたはずのヒトガタの体が一瞬で弾かれ、ハルトの手元のボールへと戻って行く。

 だが、すでに出したわざは止まらない。“りゅうせいぐん”が降り注ぎ、ルイの体力を削る。

 とは言うものの『はがね』タイプのルイには『ドラゴン』わざは半減だ、多少のダメージはあってもHPの半分も削れていないだろうと予測する。

 そして強制的に押し戻されたヒトガタの代わりに出てきたのは。

 

「わっとっと」

 

 紫の髪の少女。予選で一度出ていた、確か『ゴースト』タイプのポケモンだったはずだ。

 と、ヒトガタが出てきた瞬間、ヒトガタの影が突如長細い立体となってルイへと伸びる。

 

「ルイッ」

 

 短く叫び、ルイがそれを避けようとするが、一瞬早く影がルイへと絡みつく。

 

 “かげぬい”

 

「シャル」

「はい」

「ルイ!」

「…………!?」

 

 ハルトの声にヒトガタが応え、その手の中に黒い炎を産み出す。

 と同時、自身の叫び声にルイが応えようとして、けれど動かない。

 

“シャドーフレア”

 

「ルイ!」

「ギィ……………………ッ?!」

 

 ヒトガタが放つ黒い炎、けれどルイは動かない、()()()()

 燃える、その黒影が、燃えていく。

 そして。

 

「ギ…………グ…………」

 

 がしゃん、と。

 ルイが地に落ちた。

 

 

 * * *

 

 

 思考を加速させる。

 

 状況は4-6。

 

 確実に追い詰められている。

 

 勝てる、と思っていたはずの勝負。

 だが実際蓋を開ければどうだ。

 

「なるほど」

 

 どうやらまだ見くびっていたようだ。

 もっと、もっとシビアに、読みを深く深く、深く。

 

 影に捉えられればゲームオーバー。

 ならどうする?

 

 簡単だ。

 

「行って、ララ」

「ハピ!」

 

 ボールを投げる。出したのはハピナスのララ。

 と同時に再び影が伸び、ララを絡めとる。

 だがハルトの顔は優れない。それどころか苦々しそうにしている。

 それでもヒトガタに指示を出し。

 

 “シャドーフレア”

 

 黒い炎がララを襲う。

「ピィ…………ハピッ!」

 だが大して効いた様子も無く、ララが再び動き始める。

「ララ“いやしのはどう”」

 

 自身の指示にララがその小さな手を相手のヒトガタへと向け。

 

 “リバースヒール”

 “いやしのはどう”

 

 放たれた“いやしのはどう”がヒトガタへと命中し。

「っ…………あ…………」

 がくり、とヒトガタが膝を着く。

 “さかさ”の回復技がダメージとなって一気にHPを半減させる。

 そして攻撃技と違い、最大HPに割合依存する回復技は何度撃とうと威力が変わらない。

 

 つまり。

 

「戻れシャル」

「戻ってララ」

 次が致命の一撃となる。それが何となくでもハルトにも察せられたのだろう、だからこそ読める。

 

「行って、ドッスン」

「エア!」

 

 互いがボールを投げ。

 こちらが出したのはハリテヤマのドッスン。そして向こうに再び出てきたのは先ほどのボーマンダ。

 

「ドッスン“はらだいこ”」

「エア! やれ!」

 

 自身の指令にドッスンが動きだすより早く、相手のボーマンダが駆ける。

 

 “しっそうもうつい”

 

 ぐんぐん、と速度を増し一息の間にドッスンへと迫ったボーマンダがその腕を振り上げ。

 

 “リバースダメージ”

 

 “ドラゴンハント”

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 振り下ろされた一撃がドッスンを吹き飛ばす。

 そしてドッスンがこちらのボールへと押し戻され。

 

 “リバースダメージ”

 

 “りったいきどう”

 

 “デッドリーチェイサー”

 

 二度目の攻撃がドッスンを襲い…………。

「空振りご苦労様」

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 “リバースダメージ”。個人的に最も使い勝手が良いと思っている異能スキル。

 読んでそのまま。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 これで二手。

 自身の猛攻が無駄だったことを悟ったハルトが顔をしかめる。

 やはり先ほどのボーマンダはある程度時間制限のようなものがあると予想できる。

 そして押し戻されたドッスンに代わり、次に出てきたのは。

 

「…………あら、来ちゃった」

 

「ギャイアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 自身の切り札の一つ、アーケオスのケイオスだった。

 

 

 




名前:エア(ゲンシボーマンダ)) Lv150 性格:いじっぱり 特性:しっそうついび、オールドタイプ 持ち物:????
わざ:「かりゅうのまい」「デッドリーチェイサー」「りゅうせいぐん」


特性:しっそうもうつい
毎ターン『すばやさ』ランクを1段階上昇させる。物理技を使用した時『すばやさ』の半分を『こうげき』に加算する。自身が攻撃技を使用した時、相手が交代するならば、交代前の相手を攻撃し、わざの威力を2倍にする。

特技:デッドリーチェイサー 『ドラゴン』タイプ
分類:ガリョウテンセイ+ドラゴンクロー
効果:威力130(120) 命中:100(90) このわざがはずれた時、自身の最大HPの1/4の反動ダメージを受ける。

裏特性:りったいきどう
相手が交代を行う時、交代前の相手を攻撃できるわざを使用できる。

専用トレーナーズスキル:ドラゴンハント
自身の直接攻撃するわざが命中した時、相手を強制交代させる。




不利に追い込まれたことでさかさまさんが本気出し始める。
と言うことで今回はあえて敵視点でやってみることにした。
今までハルトくんと戦ってきた相手の視点でやってみえ一つ分かったことがある。


シャルが手に負えねえ(チート過ぎだろこのシャンデラ

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