「まあ、あれだわ」
四天王。
ポケモンリーグが招集した、チャンピオンへと至るまでに挑戦者が戦うべしと定めた四人のトレーナー。
その誰しもがトップクラスのトレーナーであり、ポケモンリーグが認めたその地方最強の四人。
今代の四天王は、歴代でも最難関だと言われている。
それは四人のそれぞれが別々の特徴を持った
「まず最初に、ようこそチャレンジャー、ってな」
バトルに必要なトレーナーとしての能力を大別するならば、三つ。
一つは何よりもポケモンを用意する能力。
一つはポケモンに指示を聴かせる能力。
一つは相手の行動を読み抜く能力。
簡単に言い変えれば。
育成する能力と、統率する能力と、読み勝つ能力だ。
前世で聞いた言葉を借りるならば、育成型、統率型、指示型、と言ったところか。
「それ以外にも色々言いたいことはあるが」
それに加える例外が一つ。
言うなれば、異能型。
残念ながらこの世界において、トレーナーの異能は実機時代と違い、フレーバーで済まない実効力が存在する。
故に、この例外を付け加えた四つをトレーナーを大別するための分類として。
「全部後回しだ…………少なくとも」
四天王はこの四種の頂点を担う存在と言えよう。
そしてその四天王のトップバッター、最初の関門にして最も多くの挑戦者たちを蹴落としてきた最難関。
四天王カゲツ。
それが、今自身の目の前にいる男の名である。
「俺はもう火がついちまったぜ!」
それが戦いの始まりを告げる一言だった。
* * *
「任せた、チーク!」
「はいさネ!」
「いくぜえ、グラエナァ!」
「ぐるるるるうううう!」
互いがボールを投げ。
カゲツが出したのはグラエナ。やはり実機と同じ『あく』統一パっぽい。
実を言うと、チャンピオンに比べ、四天王と言うのは外部への露出がかなり少ない。
全国中継されるリーグ予選、本戦に比べ、チャンピオンリーグは極端に関係者が減る。
挑戦者、四天王、チャンピオン。それだけだ。
リーグ街の最奥、そこに佇む巨大な扉。その先を歩いていけば、待っていたのは砂塵舞う御殿へと続く廊下。
原作でもこんな感じの道あったよなあ、と思いつつ。
進み、御殿の扉を開いた先にはバトルフィールド。
そこに立っていたのは一人だけ。
そう、四天王との戦いは、原作のように四天王と挑戦者二人だけの戦いとなる。
チャンピオンもまた同じことではあるが、チャンピオンのダイゴは長年君臨し続け、メディアでの露出やエキスビジョンマッチなどでの活躍もあり、パーティの傾向などいくつかの情報の露出はある。
だが四天王は逆にそう言った類のものがほぼ無いので、実機時代の知識だけで考えていいものか悩んだのだが。
どうやらそれもいらぬ心配だったらしい。
と、なれば。
『あく』タイプのグラエナと『フェアリー』タイプのチーク。
相性は悪くない。唯一、いばる、にだけは気をつけなければならないが。
と、その時。
「グルアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!」
“いかく”
“かんきょう”
ばくおんぱ、でも放たれたのかと言うほどの大音量に、部屋中がびりびりと震動する。
余りの勢いにチークが一瞬怯む。
特性の“いかく”か。とすぐに気づく。実機だとただの嫌な特性、だが現実的にはこれほど恐ろしいとは。
一瞬だがトレーナーである自身まで委縮してしまうほどの迫力。
だから、初っ端から切る。
“つながるてとて”
「落ち着けチーク…………俺たちがいる」
「…………ふう、うん、大丈夫さネ」
僅かに震えていたチークの足、その震えが収まり。
「余計なことされる前に行け!」
「グラエナァ! もう一発ぶっこめ!」
互いの指示が飛び、チークが飛び出そうとして。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
“がんつけ”
“ほえる”
グラエナの絶叫が響き渡る。
と同時、チークが足を止め。
「む、無理!」
こちらへ飛び込むようにボールの中へと戻る。
咄嗟にバトンだけは渡したようだが、肉食動物に怯える草食動物のような有様になってしまっている。
“ほえる”はポケモンの本能に訴えかけてくる技だ。こればかりは仕方がない。
問題は。
「あわ、あわわわわ、ぼ、ボク?!」
強制交代で引きずり出されたのがシャルと言うことだ。
“かげぬい”の発動タイミングがずらされた。それだけでシャルの強みが半減している。
とは言ったもの、強制交代持ち…………しかも。
「…………読みのカゲツ、か」
今代の四天王について分かっている数少ない情報の一つ。
四天王それぞれが各タイプのトレーナーの頂点に立っている、と言うこと。
カゲツはその中で、読み勝つことを得意とするタイプだ。
読みのカゲツ、とはつまりその名の通り、読みを得意とするトレーナーの頂点と言うこと。
引くに引けない。初っ端から厄介な状況だと思う。
だが、グラエナの種族値、そしてこちらのトレーナーズスキルによる積み状況を考えれば決してこの対面は不利ではない。
ならば。
「シャル、行け!」
「今っ、グラエナァァァ!」
「グルウウウウウウラアアアアアアアア!!!」
「は、は…………いぃ…………?!」
“ぬけがけ”
“かみくだく”
シャルがその両手に炎を生み出す一瞬の虚を突き、グラエナが接近しそのアギトを開く。
「なっ…………はやっ」
単純な『すばやさ』ならば勝っている、だが恐らく…………優先度の差を付けられた。
ならば、手札を切るのは。
「ここだ! 耐えろ!」
「砕け!」
「グラアアアアアア!!!」
「負け…………ない、からあああ!」
『あく』タイプの攻撃は『ゴースト』タイプを持つシャルには2倍ダメージ、だが。
“キズナパワー『ぼうぎょ』”
初っ端から札を切る。何があろうとここでシャルを落とされるわけにはいかない。
手痛いダメージをもらったシャルだが、それでも耐えて手の中の炎を撃ちだす。
“シャドーフレア”
黒い炎がグラエナを燃やし尽くす。元々『とくぼう』だってさして高くも無いのだ、シャンデラの一致技を受けてグラエナが立っていられるはずも無く。
「グラ…………ラ…………」
グラエナが倒れる。
「くく…………やるなあ。なら、次だ!」
カゲツが笑い、次のボールを投げる。
出てきたのは。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「で……か………………」
「さあ、行くぜ」
一瞬次の手を考え。どう考えても一択しかないことを悟る。
「戻れ、シャル!」
シャルをボールに戻す。『ほのお』『ゴースト』わざしかないシャルではあのサメハダーに有効打は出せない。
ならばここは。
「シア!」
代わりに投げたのは、シアのボール。
「そら、“つじぎり”だあ!」
「ギシャアアアア!」
“わるのきょうじ”
“つじぎり”
巨大サメハダーが回転するようにシアに迫り、その背びれで深く切り裂く。
「ぐっ…………ま、まだ、まだ…………です」
シアが苦痛に顔を歪めながらも、立つ。
「大丈夫か、シア」
「だ、大丈夫、ですよ、マスター」
思わずかけた声に、シアが笑う。
回復するか…………?
否、ダメだ。
シアの役割はそうではない。
傷は試合後回復すればいい、今はとにかくバトルに集中だ。
「シアっ、狙っていくぞ」
「はい!」
「サメハダー!」
「ギシャアアアア!」
互いの指示と同時、互いが動き出し。
「はっ?!」
「なっ!!?」
さすがにこんなもの予想外が過ぎる。
“わるのきょうじ”
“かえんほうしゃ”
サメハダーの口から噴き出た業火がシアを飲み込み。
「シア!」
「…………っ、な、なんと、か」
トレーナーズスキルによって『とくぼう』を2段階上昇させていたお蔭か、辛うじて耐えきる。
だが、何だ今のは。
サメハダーが“かえんほうしゃ”?
あり得ない、絶対にあり得ない。
そんなこと出来るはずが無い。
もしかして噂に聞くデルタ種とか言うやつか?
否、待て、待て、待て。
何か忘れてないだろうか?
何か、重要なことを一つ、忘れていなかっただろうか?
そんな思考を遮るように。
「撃ち抜き、ます!」
シアの指先から放たれた冷気の光がサメハダーを襲う。
“アシストフリーズ”
「ギシャアアアアアアアアア…………ァァァォォォオオオオオオオオオオオン?!」
『みず』の半減相性でさえなお、サメハダーに絶叫させるほどの大ダメージ。
待て、今何かおかしかった。
「あーあ…………バレちまった」
「…………………………そういう事かよ!」
歪む、目の前で、サメハダーのその姿が歪み。
「“イリュージョン”か!!!」
やられた、完全に騙された。どうして忘れていたのだ、実機時代でも使っていたではないか。
ゾロアーク…………つまり、ルージュたちと同じ種族。
特性は…………“イリュージョン”。
味方に化ける、ゾロア系列のみが持つ固有の特性。
完全にしてやられた、つまり自身がサメハダーだと思っていた相手はずっとゾロアークだったのだ。
出すポケモンも、指示も、何もかもが間違っていた。
ここで出すべきはリップルだった。
相手のゾロアークは『こおり』ついている。
収支で見れば相手はもう死に体、と言ったところではあるが、こちらも痛いダメージを受けている。
あの“かえんほうしゃ”が真に奇襲だった。完全にこちらの予想の遥か上を行かれた。
読みで上を行かれる、と言うのは本当に厄介だ。
それでも渡り合っているのは、ひとえに6Ⅴと言う彼女たちの才能とレベル120と言う限界を超えた強さ故。
だがそれでも綱渡りだ。
もっともっと、シビアに思考を回さなければ、どんどん押し込まれていくだろうことは容易に想像できる。
「シア」
「はい」
“アシストフリーズ”
交代は…………恐らくしないだろう。と予想したが、やはりだ。
シアの放った冷気の光が再びゾロアークを襲い。
「オォ…………ン…………」
氷漬けから解放されたゾロアークが倒れ伏す。
「おっかねえ、おっかねえ」
カゲツが笑いながら次のボールを手にし。
「戻れシア、行けチーク」
「今度こそお前の番だぜ、サメハダー!」
次のボールを投げる一瞬の間にシアを回収し、代わりにチークを出す。
「お、残らねえのか…………ほう」
一瞬、カゲツが目を細め、足元をとんとん、と二度叩く。
表情を見るに思考している時の癖のようなものだろうか。
やがて、にぃ、と笑みを浮かべると告げる。
「サメハダー“かみくだく”だ」
「チーク“なれあい”」
自身の指示にチークが走り出そうとして。
一瞬の間、先を制したサメハダーがチークの勢いを潰し、その大きな口を開き、凶悪な牙を覗かせる。
“ぬけがけ”
“かみくだく”
「いったああああああああああああああああい!」
肩近くまで噛み付かれたチークが、僅かに放電してサメハダーを振り払う。牙の抜けたその全身から血が滴る。
「それでも…………お仕事完了さネ」
“なれあい”
チークのわざにその特性が上書きされ、『こうげき』が下がる。
と同時に、チークがごそごそと服のポケットから『オボンのみ』を取りだし、ひょい、と口に放り投げる。
もぐもぐと口を動かし、美味しかったのか笑みを浮かべ。
「ふっかーつ!」
むん、と両腕を突き上げて元気さをアピールする姿に、ほっと安堵する。
それでも服のあちこちに付着した血の跡に、顔を顰める。
「チーク」
「はいサ!」
「むう…………こっちか? サメハダー!」
「キシャアアアアア!
サメハダーがこちらの様子を一瞬伺ったようだったが、チークが走り出すと同時、向こうも動き出す。
先ほどと違って、先手はこちら側。
「ここで、いっけえ!」
“きずなパワー『こうげき』”
“ほっぺすりすり”
その全身に電撃を纏わせ、サメハダーに引っ付いたチーク。そしてチークから流れる電流にサメハダーが苦悶の叫びを上げ。
「トレーナー、次は交代封じと回復封じも欲しいさネ」
「き…………しゃあ…………」
いくらチークの『こうげき』が低かろうと、それ以上にサメハダーの『ぼうぎょ』が低ければダメージも出るし、そもそも『でんき』わざは『みず』タイプには2倍ダメージ、そこにさらに『こうげき』2ランクと
「…………おう、まじか」
さしものカゲツもこれには驚いたようだ。
ヒトガタと言う外見から何の種族か非常に分かりにくいハンデがあっても、それでもチークがサポートだとここまでの流れで理解していただろうだけに、この一発は大きい。
初めて一手、先を取れた、その手ごたえが感じ取れた。
グラエナ 特性:いかく 持ち物:メンタルハーブ
わざ:いばる、ほえる、かみくだく、じゃれつく
裏特性:かんきょう
特性“いかく”発動時、自身の『こうげき』を2段階上げる。
専用トレーナーズスキル(A):がんつけ
“ほえる”の優先度を+2に変更する。
ゾロアーク 特性:イリュージョン 持ち物:いのちのたま
わざ:つじぎり、ナイトバースト、かえんほうしゃ、きあいだま
裏特性:ようかいへんげ
“イリュージョン”の対象を味方か、バトル中自身が相対したことのあるポケモンに変更する。
専用トレーナーズスキル(A):せんぺんばんか
自身のタイプと特性を“イリュージョン”の対象と同じにする。ただし“イリュージョン”が解除された時元に戻る。
サメハダー 特性:かそく 持ち物:こだわりハチマキ
わざ:アクアジェット、かみくだく、フェイント、こおりのキバ
裏特性:きょうぼう
自身の接触技の威力を1.5倍にするが、相手に与えたダメージの1/3のダメージを自身も受ける。
専用トレーナーズスキル(P):ロケットスタート
自身の『すばやさ』ランクが上がった時、『こうげき』ランクも同じだけ上げる。
トレーナーズスキル(A):ぬけがけ
ターン開始時『物理』『特殊』『変化』の一つを選択する。相手がそのターン使用するわざが選択した分類と同じだった時、自身のわざの優先度を+1にし、急所ランクを上げる。
トレーナーズスキル(P):わるのきょうじ
“ぬけがけ”を発動しなかったターンのみ、自身の『あく』タイプのポケモンの全能力を1.2倍にする。