ポケットモンスタードールズ   作:水代

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連勤とか免許更新とか、原付の廃棄依頼とか、帰省とか、色々あって遅れました(


久々に帰省すると周囲が変わっているなんてよくあること

 

「…………ふう」

 

 一つ、目の前で男、カゲツが息を吐いた。

 アブソルを戻したボールをホルダーへと戻すと、とすん、と傍にあった椅子に座る。

 

「やるな、チャレンジャー」

 

 こちらを見つめ、にい、と笑う。

「楽しいバトルだったぜ、お前なら次に進む資格がある」

 そう告げ、背後を見やる。

 原作ならば次の四天王が待ち受けるだろう御殿へと続く通路。

「チャンピオンリーグの期間は一月(ひとつき)。今日から始まって、勝ち進めば」

 

 一カ月後、チャンピオンとの戦いになる。

 

 告げられた言葉に、僅かに身を固くする。

 ついに、その場所までたどり着いたのだと理解する。

 

 後、三人。

 

「次はフヨウ…………そうだな。負けた俺から一つアドバイスをくれてやるよ」

 

 ――――四天王はそれぞれがトレーナーとして得意とするものが違う。

 

「俺は読み勝つ力、フヨウは育てる力、プリムは異能の力、そしてゲンジは率いる力」

 

 そして、その全員が。

 

「ダイゴのやつからこいつを渡されている」

 

 手の中で弄ぶキーストーンをこちらに見せ、カゲツがそう呟く。

 つまり、ここから先、四天王全員がメガシンカを扱う、と言うこと。

 

「次のフヨウは強敵だぜ…………こと『ゴースト』タイプに限って言えば、他の地方含め、最高の育成家と言っても過言じゃねえ」

 

 ――――最も異能に近い育成。

 

「そう呼ばれるほどにフヨウの『ゴースト』タイプに関する育成能力はズバ抜けている…………精々気をつけろよ、お前ならもっと先に行ける。進み、戦いを楽しんで来いよ」

 

 その言葉と共に、自身はその場を後にする。

 

 次の戦いは一週間後。

 

 相手は。

 

 四天王フヨウ。

 

 ホウエン最強の『ゴースト』統一パーティだ。

 

 

 * * *

 

 

 勘違いされがちだが。

 リーグに挑戦するトレーナーは別にリーグ街に住まなければいけないと言ったルールは無い。

 ただ目の前にホウエンリーグ挑戦のための門があり、尚且つリーグ街でほとんど全て揃っているような状況だからこそ、リーグ街以外に行く意味が無い、と言うだけの話である。

 

 だから、意味があるのならば、別にリーグ街を飛び出すことに何の問題も無い。

 リーグ街からエアに連れられて飛び立ち、リーグ職員の事前の指示に従って航路を取る。

 うっかりチャンピオンロード上の山に近づくと、大量の『ひこう』ポケモンに襲撃されるので絶対に近づかないようにと言われたが、そんな危険な場所、放置するなよ、と言いたい。

 

「それで」

 

 空の上へ上へと昇り、やがてホウエンリーグやサイユウシティのある島の圏内から出た辺りでエアがぽつり、と呟く。

 

「どこに行くの?」

 

 そう問われ、そう言われれば行き先を告げていないことを思い出す。

 

「ミシロ」

 

 告げた言葉にエアがきょとん、とした。

 

 

 * * *

 

 

 春のリーグ予選が始まって以降、およそ数か月、戻っていなかっただけに、久しぶりの帰省は両親共に狂喜された…………うん、あの喜びようは狂喜である。いや、本当、いつかは独り立ちするつもりなのに大丈夫なのだろうかこの両親。

 と言うか父さんなんでいるのだろう、と思ったが。

 どうやらジムリーダーが忙しいのはリーグ予選が始まるまでの数か月の話であり、特にリーグ本戦が始まってからは比較的暇な時期が続くらしい。

 ジムリーダーも夏休みみたいなものだ、と苦笑しながら言っていた。

 

 そう言われるとこれまでも比較的夏は家にいること多かったかなと思い出す。 

 と言っても修行だなんだとすぐにジムに戻るので、あまり変わらない気がする、と言うのが正直なところだが。

 

 お隣さん一家もどうやらテレビでリーグ本戦を見ていたらしい、戻ってきたその日にやってきて一緒に祝ってくれた。

 そう。自身にとってそれは通過点に過ぎなかったかもしれないが、ホウエンリーグ優勝、と言う結果は確かにそこにあるのだ。

 当たりまえだが、簡単に…………と言うかどれほど努力しても早々勝ち取れるものでは無いし、その意味は大きい。

 そしてポケモンが中心となったこの世界においてホウエンリーグの知名度と言うのは前世で言うところのオリンピックよりも高い。

 そしてそこでの優勝、と言うのは結果的に自身の知名度を遥かに高めていたらしい。

 そもそもミシロタウン自体が他所と比べれば悪く言えば田舎な、良く言えば小規模で長閑な場所だ。

 元々街全体で近所付き合いしているような場所だけに、自身が戻ったことはあっという間に広がり、テレビで自身の優勝を見た近所中の人たちがやってきて一日目は大変だった。

 前世のように同じ街に居て顔も知らない人間などいくらでもいる、と言ったようなこと、この街だとほぼ無い。街の大半の人間は顔見知りだし、こちらに引っ越してきたばかりの頃から何かと世話を焼いてくれた人たちばかりであり、それだけにやってくる人たちを無碍にもできず、その対応だけで初日は潰れてしまった。

 と言ってもそれほどたくさん人の住んでいる街でも無いし、翌日からはまた平穏な日常に戻る。

 

 久々のミシロの空気に、癒されながら、朝から遊びに来たハルカと散歩しながら街を散策する。

 

 と、ふと見慣れた景色の中に見慣れない家を見つける。

 

「…………あれ? ねえ、ハルカちゃん、こんな家あったっけ?」

 隣のハルカに尋ねれば自身の視線の方向を見て、ハルカが、ああ、と声を上げる。

「ハルトくんが出て行ってすぐに建てられたお家だよ」

 

 へーと呟きながら、新しく建てられた家を見る。

 ポケモンと言う存在のお蔭か、この世界における建築技術と言うのは現代と比べて遜色無い、どころかサイズによっては前世よりも遥かに高い時もある。

 特に一家数人程度が住む家は、前世よりも小さい傾向にあるので本当に一月あれば建てられてしまうこともある。

 何せゴーリキーたち『かくとう』ポケモンを使えば、前世では重機を使わなければ運べない、立てられないような柱や壁など重い資材も容易に運べるし、組み立てられる。

 材料もコンクリートなども無いわけではないが、割合木造も多く、そう言った事情もあるらしい。

 

「ミシロもちょっとずつ人が増えてきたね」

「そうだね。前もハルトくんたちが来たしね」

 そんなハルカの言葉に、そう言えばもう早くも五年になるのか、と思い出す。

 と言うか元々ジョウトの生まれなんだよなあ、と考えるが。

「もうすっかりミシロのほうが故郷って感じだなあ」

「そうだったら嬉しいな」

「うん、ハルカちゃんもいるしねー」

 向こうではまだ同年代の友達、と言うのが居なかったのでこちらでハルカと出会えたのは僥倖だったと思う。

「うん、私もハルトくんと友達になれて嬉しいよ」

 そんなことを屈託の無い笑顔で告げるハルカに、思わず自身も笑みを浮かべた。

 そして道端でそんなことを話していると。

 

 がちゃり、と目の前の家の玄関が開かれる。

 

 そして、中から出てきたのは。

 

「大丈夫だよ、父さん。今日はなんだか、体調も良いから」

 家の中の誰かに向かって話しかける、一人の少年。

 恐らく歳の頃は自身たちよりもやや下、だろうか?

 薄緑色の髪に、青い瞳。そして白いシャツと長ズボンの少年。

 

「……………………は?」

 

 思わず、声が出る。見覚えがある、いや、無い。

 少なくとも、自身はこの世界で彼に出会ったことは無い。

 

 だが見覚えがある、見た事がある、知っている。

 

「本当に大丈夫かい? ()()()

 少年を追って出てきた少年の父親と思わしき男性が、少年の名を呼ぶ。

 

 ()()()、と。

 

 

 * * *

 

 

 ORAS真のライバルこと、ミツルくん。

 

 お隣さんがどちらかと言うとお助けキャラ的だったのに対して、最初は弱々しい後輩的だったのに対して、最後は主人公と同格のトレーナーへと成長し、バトルをしかけてくる。

 一度目がキンセツシティ、この時は大したことの無い相手で、余裕で倒せる。

 だが二度目、チャンピオンロードの終点に立っているのだが、気づかず進んでしまってレポート書き忘れて消耗したまま戦って真面目に敗北したのはプレイヤーもあるいはいるのではないだろうか。

 

 ライバル、と呼ぶには初代と違ってそれほど戦う回数も多いわけではない。むしろお隣さんのほうが良く戦うと言っても良い。

 

 だがそれでも、ORASでライバルと言われると、やはり彼になる。

 

 そんなミツルくんだが、初期設定では病弱で、トウカシティの実家からシダケタウンの叔父の家に引っ越す、その時にポケモンを一緒に連れて行きたいと思い、センリに頼んでポケモンを捕獲しに行こうとし、その時やってきた主人公がそれを手伝う、と言った流れであった…………はずだ。

 いや、もうなんか後半病弱キャラどこいった、と言うか殿堂入り後のはっちゃけ具合が酷すぎて初期のキャラとか印象薄いんだけど、まあとにかくそう言う設定があるはずなのだ。

 

 だと言うのに。

 

 …………なんで一家揃ってミシロに来てるの。

 

 しかも、原作は約二年後。引っ越しするにしても二年もフライングである。

 そう言えば、自身たち一家の引っ越しも七年早かったよなあ、と考え。

「…………まあゲームじゃないんだから、そうもなるか」

 と、一人呟き、納得する。

 

 久々に帰ってきて、思わぬところで原作キャラに会ってしまって驚いた感じはあるが。

 まあここは現実なのだ…………何でもかんでも設定通りにはいかないのだろう、と思うことにした。

 

「あ、あの」

 

 と、一人そんなことを考えていると、声をかけられる。

 視線を上げると…………目の前のミツルくんがいた。

「え…………あ、み…………何かな?」

 思わずミツルくん、と呼びそうになったが、よく考えたらここは初対面だ。

 余り人物に関してはメタ知識は考えないほうが良いかもしれない、と思う。余計な先入観を持ってしまうことになりかねない。

「えっと、それで俺に何か用かな?」

 気を取り直し、改めて問い直すと、ミツルくんが、弱々しくこくり、と頷く。

 はて、一体何だろうと内心疑問に思う。

 

「あ、あの…………ハルトさん、ですよね?」

「俺、名前言ったっけ?」

 何故知っているのだろう、と考え。

「その、この間、テレビで見ました…………リーグの決勝戦、すっごく感動しました。こ、この町に住んでるって話には聞いてたけど本当だったんだぁ」

 ああ、それでか、と自身の知名度に関して改めて思い直す。

 まあリーグ自体の知名度もあるし、それを十歳…………公認トレーナーの最年少で突破した、と言うのも余計に自身の名を高めているのだろうと思う。

 

 まあここから先、ずっと付き纏う話だ。

 

 何せ、今からチャンピオンを目指そうとしているのだから。

 

 チャンピオンリーグの内容自体は基本的に非公開ではあるが、さすがにチャンピオンの交代があるのならばポケモンリーグから公表があるので、結果だけは分かるのだ。

 

「ぼ、ボク…………その」

 

 たどたどしく、言葉を選ぶように、ミツルくんが視線をさ迷わせ。

 

「応援してます、その、チャンピオンリーグ、頑張ってください!」

 

 何かを言おうとし、けれど言葉を飲み込んで代わりに出した、と言ったような風だったが。

「あー…………うん、ありがとう。頑張るよ」

「でもハルトくん、帰ってきたってことは負けたの?」

 そして見事なタイミングで、ふと思いついたと言ったような様子でハルカが呟き。

 ぴきり、と目の前でミツルくんが固まる。

 まあもし一戦目に負けて帰ってきた相手に今の言葉かけたのなら、完全なる嫌味である。

「え、あ、あの、その、違くて、えっと、えっと」

 完全に慌ててしまったミツルくんに苦笑しながら。

「大丈夫、負けてないよ…………ハルカちゃんも、昨日言わなかったっけ?」

「あれ? そうだっけ?」

 どうたったかな、と首を傾げるハルカ。あの様子だと完全に頭からすっぽ抜けていたらしい。

「ってことは、勝ったんですか? 四天王に」

 負けてない、と言う言葉にミツルくんが安堵したようにため息を吐き、同時にその意味を理解して少しだけ興奮したように顔を紅潮させて問うてくる。

 

「まあそうだけど、少し落ち着いて」

「凄い、四天王に勝つなんて。やっぱりハルトさんはボクの憧れで…………っあ」

「凄いね、ハルトくん。憧れだって」

「いや完全に失言だったって顔してるのに、触れてあげるのもどうかと」

 

 目の前で先ほどとは別の意味で顔を紅くしているミツルくんと隣で呑気なことを言うハルカ。

 

「あ」

 

 一つ忘れていた、と思わず声を上げると、二人の視線をこちらを向き。

 

「知ってるかもしれないけど、俺はハルト。こっちはハルカちゃん…………キミの名前は?」

 

 そう告げれば、名乗っていなかったことを思い出したミツルくんがはっとなり。

 

「挨拶遅れました、一月前にトウカシティから引っ越してきました、ボクはミツルって言います」

 

 ぺこり、と丁寧な挨拶。

 

 それが自身とミツルくんのこの世界での出会いだった。

 

 




ホウエンリーグ本戦の視聴率平均78%
ラジオ中継もしているので実際の視聴者数はもっと増える。
ホウエン地方の約8割の人間がハルトくんの名前を覚えたと言っても過言ではない。

割と子供に夢を与えているハルトくん。
最年少トレーナーが優勝とか実際そうなってもおかしくはないよなあ、とか思いながら書いてた。

そしてフライング登場のミツルくん。別名ランニング王子M。

さしてオチも無く次はフヨウ戦。



追伸:今日は待ちに待ったサンの発売日だ。

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