ポケットモンスタードールズ   作:水代

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四天王フヨウ②

 

 対面不利、判断は一瞬。

 

「戻れシア、行けリップル」

 スイッチバック、と言うほどは速くは無い。あれは相手の先を読んで予め次のボールを準備しておかなければならない。だから相手を見てから交代、と言うのは無理だ。

 それでも手早く、何度も、何度も、手慣れている作業だ。

 目を瞑っていたって誰がどのボールに入っているかなんて分かる。

 投げたボールからリップルが解放される。

 

 “うつりぎてんき”

 

 同時、フィールドに雨雲が形成され、ぽつり、ぽつり、とやがて雨が降り出す。

 

「ひーちゃん! “テレキネシス”」

 

 同時、シャンデラの放つサイコパワーにより両者の体が浮き上がる。

「リップル“りゅうせいぐん”」

 一手遅れる形で、自身の指示が通る。

 リップルが両手を握りしめ。

 

「えい!」

 

 天に突き出すように拳を振り上げ、発せられたオーラが空中で弾け、流星を産み出す。

 

 “りゅうせいぐん”

 

 降り注ぐ流星がシャンデラを打ち据える。

 感覚的だがHP半分程度には入った、気がする。

 タイプ一致“りゅうせいぐん”と言うのはそれだけ強い技だ、例えリップルの『とくこう』に努力値を振っていなくても、そもそも種族値自体110とアタッカー並の高さを誇る上に、個体値は最高値。後は威力の高さが多少の『とくこう』の不利を補ってくれる。

 とは言うものの、シャルでも知っている通り、シャンデラと言うポケモンも中々耐久力がある。

 最初のメガジュペッタあたりなら八割は削れた気がするが、シャンデラでは半分が精々だ。

 そして“りゅうせいぐん”最大のデメリットとして反動で『とくこう』が2ランク下がる、と言うものがある。

 正直こう言う能力の下がる技は自身の現在のパーティでは一番使いづらいかもしれない。

 父さんのような、場の効果として発動するならともかく、自身のトレーナーズスキルでは能力変化の引き継ぎ、つまりバトンタッチと同じ効果を使用しているのだ。故に下がった能力は交代で打ち消せない、それを打ち消せば“つながるきずな”の効果も全て消える。

 そして、だからこそ、それに対策を立てるのがトレーナーとしての腕、と言うことだろう、

 

 “いやしのあまおと”

 

 絶えず降り注ぐ雨がリップルの全身を濡らす。それを心地よさそうに受ける今のリップルに()()()()()()()()()()()。そう言う風に仕込んだ。

 これで気兼ねなく“りゅうせいぐん”を連打できる。

 

 と、同時、向こうのシャンデラが持ち物を使って回復を計る。

 どうやら『たべのこし』を持っていたらしい。

 『たべのこし』の効果は毎ターン最大HPの1/8を回復すること。

 『たべのこし』なんて名前なのに、いくらでも使えていくら食べても無くならない不思議な道具である。

 

 半分は超えられた、となれば確一…………確実に一発で倒せるラインは抜けられたと考えるべきだ。

 とは言え、リップル…………ヌメルゴンの本領は『とくぼう』の非常識なほどの高さである。

 相手のシャンデラも伝説種含めてもトップクラスの『とくこう』の高さを誇っているが、それでも特殊技でリップルを落とすのは骨が折れるだろう。

 

 この対面は決して悪くは無い…………とは思う。

 だが、相手のやり口が良く分らない。

 

 “テレキネシス”ってなんだ?

 

 いや、何だ、と言う言いかたはあれだが、効果自体は分かっている。

 相手を『テレキネシス』状態にする技だ。この状態になっていると、受ける技が『じめん』技と一撃必殺技以外必中になる。

 ただシャンデラの使う技でそんなに命中の不安な技と言われると…………。

 

「あったな」

 

 だがこの状況で使うか? 『あめ』が降っているこの状況で? 『ドラゴン』タイプ相手に?

 さすがにタイプが分からない、などと言うことは無いだろう。こちらがどのポケモンかは分からなくとも、少なくとも“りゅうせいぐん”を使っておいて、ドラゴンじゃないなんてあり得ない。

 考えてはみるが、分からない。

 

「いや…………対面は悪くないんだ、行くか…………リップル!」

「おっけーだよ、マスター!」

「ひーちゃん、行くよ!」

「キシャシャシャシャ!!!」

 

 “れんごく”

 

 『おいかぜ』状態だけに心配していたのだが、案の定だったらしい。先手を取ったシャンデラから放たれた炎がリップルを燃やす。

「う…………くっ」

 炎に焼かれながらリップルが苦悶の表情を浮かべる。

「“れんごく”…………予想通り、と言えば通りだけど」

 

 何故この状況で?

 

「やあああああああああああああああ!!」

 

 “りゅうせいぐん”

 

 自身の思考を断ち切るように放たれた掛け声からの“りゅうせいぐん”がシャンデラを吹き飛ばす。

 かなりのダメージ、次はもう受けられない、と見ていいだろう。

「いっ……たあ……」

 っと、リップルが辛そうな表情を浮かべる“れんごく”の追加効果で『やけど』状態になっているのだろうと予測する。中々に痛いダメージだが。

 

 “うつりぎてんき”

 

 ざあざあと降り注ぐ雨がリップルの体を癒していく。

「あー…………気持ちいい~」

 目を細め、笑みを浮かべるリップルの表情が安らぎに満ちていく。

「…………あらら?」

 フヨウが笑みを浮かべたまま、首を傾げる。

「雨…………あっ」

 どうやらリップルの種族に思い当たったらしい。

「あちゃあ」

 失策、と言うのは分かったのだろう。この対面自体は完全に失敗している。

 ヒトガタの奇襲性、とでもいうものがここに来て発揮されていた。

 同時『おいかぜ』が切れる。これで恐らくリップルのほうが速いはず。

 

「まあ…………仕方ないか、ひーちゃん」

 

 “ソウルドレイン”

 

「キシャシャシャ」

 フヨウがシャンデラに声をかけると、同時。

 リップルからふわり、と何かシャボン玉のような何かが抜け出し、そのままシャンデラへと吸い込まれていく。

「うっ…………」

 僅かにリップルが顔を歪める。

 何か不味い、そう直観的に感じ取り。

「リップル! 落とせ!」

「ひーちゃん、最後に一仕事、お願いね」

「やああああああああ!」

「キシャシャシャ!」

 

 “りゅうせいぐん”

 

 『おいかぜ』が切れた今、こちらのほうが速い。放たれた三度目の“りゅうせいぐん”が今度こそシャンデラを撃ち抜き、吹き飛ばし、その体力を根こそぎ削り取る。

 これで二体目、そう考えた瞬間。

 

 “ろうそくのともしび”

 

 炎が場に吹き荒れた。

 降り注ぐ雨をも蒸発させるほどの勢いで、シャンデラに灯る炎が吹き荒れ。

 

「キシャシャシャシャシャシャ!!!」

 

 “めざめるパワー”

 

 収束した力が放たれる。

 

「“めざめるパワー”?!」

「ポケモンによってタイプが変わる珍しい技だけどねー…………ある程度育成が得意だと、タイプだって任意なんだよ」

 

 となれば勿論タイプは。

 

「『こおり』タイプ…………弱点突かせてもらうから」

 

 放たれた一撃。これまでのシャンデラの中でも最大威力の一撃。

 

 けれど。

 

 “うるおい”

 

 ぬるり、とリップルが滑る。

 放たれた一撃を受け、吹き飛ばされ。

 

「あいたたた」

 

 いともたやすく起き上がる。

 

「…………あ、あれ?」

 

 さしものフヨウも、これには驚いたのか、笑みを崩して目を見開いた。

「あ…………危なかった」

「ほんとだよ、マスター」

 

 呟くと同時。

 

 “ソウルドレイン”

 

 ごっそりと、リップルの中から何かが抜けていく。

 抜けた何かがシャボン玉のような形となってシャンデラのほうへと誘われ。

 

「キシャ…………シャシャ…………シャ…………」

 

 シャンデラが嗤い、そのまま倒れ伏す。

 

「ぐっ…………あ…………ああ…………」

 

 リップルも倒れこそはしなかったが、突如崩れ落ち、膝を着いている。

「っ、戻れリップル」

「お疲れさま、ひーちゃん」

 

 互いにボールを回収する。

 何をやられた、と言うのは良く分らないが、リップルがちょっと戦えないレベルで弱っているのは感じられる。

 実質やられた、と考えていいだろう。

 『ゴースト』タイプは特殊アタッカーが豊富なだけに、リップルのような極めて強力な特殊受けの存在が居なくなったのは厳しい。

 

 とは言え実質5-4。

 依然有利は続いている。

 

 と同時に疑問が沸く。

 先ほど戦っている時には気づかなかったが。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言うこと。

 

 あの時確かに『おいかぜ』は切れていたはずだ。

 現実的に考えて、『すばやさ』ランク2段階積んでいる時点で同じ種族値の相手より2倍速で動けるのに等しい。例えば相手のシャンデラに努力値が降ってあったとしてもおかしくはない。『インドメタシン』ならばぶっちゃけミナモでもキンセツでもそれこそリーグ街でも売っている。

 だから素の『すばやさ』で負けている可能性は決して否定はできないが。

 それでもほぼ同速度…………ややこちらが速い、と言ったところか? なのは理解できない。

 と、考えれば一つ思うことがある。

 

「トレーナーズスキル、か」

 

 恐らく、自身に似た――――。

 

「あなたとアタシは似てるよね」

 

 思考を巡らす自身に、フヨウがふと呟く。

 

「あなたもアタシも、トレーナーズスキルの根源はきっと同じ」

 

 即ち、絆。

 

「正直ね、驚いたんだ。ポケモンリーグに来る人で、そこまでポケモンが大好きな人がいるんだって」

 

 だからこそ。

 

「負けられない、大好きだからこそ、負けて欲しく無い、勝たせてあげたい、勝ちたい」

 

 けれど、そんなもの。

 

「こちらだって同じだ…………負けない、勝たせたい、自身の仲間を、家族を、勝たせてやりたい。負けられない、負けたくない」

 

 呟き、フヨウが笑う。

 

「アタシは育てることは得意。でもカゲツくんほど読み解く力も無いし、プリムさんみたいな異能も無い、ゲンジさんのように率いる力も無い」

 

 ボールを片手に持ち、フヨウが続ける。

 

「アタシが出来るのは育てること、あなたが超えるべきは、アタシがこの子たちと育んできた時間、そして絆」

 

 ボールを持った手を振りかぶり。

 

「見せてみて、あなたとポケモンたちの絆。もしそれがアタシたちを上回ると言うなら」

 

 投げた。

 

「この戦いで証明してみせてよ!」

 

 

 * * *

 

 

「行って、ミミちゃん!」

 相手が出すのは、メガヤミラミ。

 硬い上に、シアの“アシストフリーズ”で『こおり』付かないあたり、状態異常無効化でもあるのかもしれない。さらには盾で受けたダメージをこちらにも反射してくる、と言う糞仕様。

 ならば、札を切るのはここだろう。

 

「落とせ、シャル!」

 

 シャルの入ったボールを投げる。

 

「あわわわわわわ、なんか凄そう」

 

 メガシンカポケモンの威圧を受けて、シャルがびくりと縮こまるが、いざ相対すれば、少しだけ相手にビビりながらも。

 

 “かげぬい”

 

 影が飛び出す。飛び出した影がメガヤミラミへと延びて。

 

「ここ!」

 

 “スイッチバック”

 

 メガヤミラミがフヨウの左手のボールへと戻り。

 

「行ってみょんちゃん!」

 

 右手で投げたボールから出てきたのは。

 

「ミカルゲ?!」

 

 場に出てくると同時、シャルの影にその身を絡めとられ。

 

「落とせ、シャル!」

 

 “シャドーフレア”

 

 放たれた一撃が、その身を燃やし尽くす。

 

「オゥ…………ヒョ…………」

 

 場に出てそのまま焼かれ、倒れ伏すミカルゲに、一体何のために出したのか、一瞬首を捻り。

 

 “えんさのねん”

 

 びゅん、と。

 『ひんし』のミカルゲから抜け出した黒い影のような何かがシャルへと纏わりつく。

「わ、わわわわわ、ああわわわわわわわわわわ?!」

 

 突然の事態に慌てるシャルに一喝する。

 

「落ち着け! シャル」

 

 とは言え、こっちだって何が起こったのか理解できない、と言うのが本音だ。

 

「今度こそ、ミミちゃん!」

 

 ミカルゲを戻し、投げたボールから再びメガヤミラミ。

 

 “せいしんとういつ”

 

 場に出た瞬間、盾に隠れ目を閉じるメガヤミラミ。

 同時、メガヤミラミに向かって再び、シャルの影が伸び。

 

 “かげぬい”

 

 その動きを縛る。

「何をやろうとしたのか知らないが」

 どうやら無駄みたいだ、そう呟こうとして。

 

「…………ご、ご主人様ぁ」

 

 シャルが、ふいに声を上げる。

「どうした?」

 何気なく尋ねた言葉に、シャルが泣きそうな声で答える。

「…………攻撃、できなくなってる」

 呟いた声に、一瞬、理解が追いつかなかった。

 

 直後、メガヤミラミの影の拘束が解かれる。

 

 そうして。

「“バークアウト”」

「シャル…………くそ!」

 何かを指示しようとして、けれど空回った思考でいくら考えても何も出てこず。

 

 “たましいのきずな”

 “バークアウト”

 

 ――――きゅうしょにあたった

 

「ぐ……………………ご、ごめ…………な…………さい」

 一瞬の隙を突かれ、放たれた一撃にシャルが沈む。

 

 “ふういん”と“かなしばり”辺りの裏特性、もしくはトレーナーズスキルか。

 

 直後にその可能性に気づく。

 

 バカだ、完全にバカをやらかした。

 自分で考えていたではないか、早々に対策は考えられる、と。

 だが、だからと言って、こんな簡単に狙ってくるのか?

 あのタイミング、スイッチバック、と言うのはあらかじめ交代の用意をしておく必要がある、咄嗟に出来るはずも無い。

 と、なれば。

 

 メガヤミラミでまんまと釣りだされた。

 

 相手だってシャルがどれだけの脅威か分かっていた。

 

 否。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことなのだろう。

 

 やらかした、やってしまった。

 

 メインアタッカーと相手の推定アシストを交換されてしまった。

 

 相手の残りのポケモンは三体。

 

 一体はメガヤミラミ、もう一体はフワライド。

 

 そして残るは…………恐らく。

 

「……………………きっついなあ」

 

 呟き。

 

 そして、そのまま終盤戦へと入る。

 

 





シャンデラ 特性:ほのおのからだ 持ち物:たべのこし
わざ:シャドーボール、れんごく、テレキネシス、めざめるパワー(氷)

裏特性:ソウルイーター
相手が受けたダメージ分だけ相手の最大HPを減少させ、自身の最大HPを回復する。

専用トレーナーズスキル(A):ろうそくのともしび
自身が『ひんし』のダメージを受けた時、自身の『とくこう』ランクを12段階上昇させ、攻撃技を使用する。攻撃後『ひんし』になる。



ミカルゲ 特性:プレッシャー 持ち物:ラムのみ
わざ:おいうち、ふいうち、おにび、おきみやげ

裏特性:ハイプレッシャー
自身が場にいる間、相手は一度出した技を出せなくなる。

専用トレーナーズスキル(P):えんさのねん
自身が『ひんし』になった時、相手は最後に使用した技をバトル中使えなくなる。





専用Tスキル(A):かげはみ
“かげぬい”が成功した相手を対象とした相手の全能力を1段階下げ、自身の全能力を1段階上昇させる。さらに相手を対象としたトレーナーズスキルの対象を、以降自身に変更する。この効果は戦闘終了時まで続き、自身が『ひんし』でも発動する。また相手が『ゴースト』タイプだった時“かげぬい”が無効化されず、相手の最大HPの1/2のダメージを与え、与えたダメージ分自身のHPを回復する。



裏特性:うるおい
弱点タイプで攻撃されそうな時、そのターンのみ自身のタイプを『みず』へと変える。タイプが変わった時、自身のHPを1/4回復する。

専用トレーナーズスキル(P):うつりぎてんき
自身が戦闘に出た時、天候を『あめ』にする。場に出ている限り、毎ターン50%の確率でターン中のみ天候『あめ』になる。天候が『あめ』の時、ターン終了時に自身の状態異常を回復し、味方の場の設置物を除去する。

専用トレーナーズスキル(P):いやしのあまおと
天候が『あめ』の時、毎ターン開始時自身の最大HPの1/8回復する。また自身や相手の特性、技の効果で能力が下がらなくなる。



修正の入った裏特性、トレーナーズスキルも載せとく。

専用トレーナーズスキルは基本的に一匹に着き一つ。
それを二つ作れる、と言うところが6Vの6Vたる所以。

だからこの破壊天使いい加減止めろよ(
と言うわけで、ほぼシャルちゃんのためだけに作ったおんみょ~んさんです。



サンムーンすっごい楽しいね。
チャット住人があかいいと出なくて苦労してたから、ぬこぬこ物拾い部隊で頑張ってたらRコラッタの色違い出てきてびびった。
ミミッキュも色違い欲しくて粘ってたけど30連鎖でまさかの事故死させてしまったのでもう諦める。海外産個体が出てくるのを待ちます。

今回の厳選すごい楽ですね。タマゴ作るの早いし、生まれるのも早い。
ケンタロスでお姉さんに突撃する激突孵化とか毎度のことだが、厳選作業で気が狂ってるわ(

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