思ったより時間あったのでなんとか一話書けた。
注:この小説はポケモンの二次創作です。お間違いではありません。
『助けてくれえええええ!』
ナビの電話越しに響いてくる大音量に、一瞬意識が飛びかけた。
親父殿との勝負勝ってすぐのまだ朝早く、場所は102番道路の半ば。次々と勝負を仕掛けてくるトレーナーたちを根こそぎ倒しながら、その内段々向こうのほうから視線を逸らしだして暇をしだしたタイミングでの突然の電話。
はて? と思いつつそういやナビにそんな機能あったな、と思いつつもらったばかりのナビなのに一体誰が番号を知っているのだろうと思いながら表示されていた名前はオダマキの名。
博士? 一体何の用かな? と受信に切り替えた瞬間の第一声がそれである。
「は、博士? あの、どうしました?」
『た、助けてくれハルトくん』
「いや、助けて欲しいのは分かるんで、もうちょっと具体的に何があったかをですね」
そんな自身の言葉で落ち着いたのか、そ、そうだな、と博士が一つ呼吸し。
『ハルカが居なくなったんだ』
「…………は?」
告げられた言葉の意味を頭の中で浮かべ、理解する。
「フィールドワークですか?」
たしか彼女は父親に倣ってフィールドワークによく行くんだと出会った時に話していた気がする。
と言ってもまだポケモンも持っていないので、他の研究者の人たちか父親に同伴して、とのことだったはずだが。
『ち、違うんだよ。それが誰も知らないんだ! ハルカがどこに行ったのか、
それって、つまり。
「家出…………なんじゃ?」
ぽつり、と呟いた言葉に、電話の向こう側で絶叫が響いた。
『なななななななな、なああああああああああんだってえええええええええええええええええええええ!!?』
「いや、ミシロタウンでハルカちゃんがどこかに向かってたらそりゃ誰か気づくでしょ?」
『た、確かに…………あの子はいつも家の周りを歩き回っているし、研究所のほうにも良く来るから狭いミシロタウンの中ならどこにいても誰か顔をみているはず』
「誰も気づかない内にいなくなったってことは
もしそうでないとしたら…………もう一つの可能性だとすると、厄介なのだが。
『い、いやでもあの子に限って家出なんて…………』
「もしそうじゃないとしたら」
そう、もし家出じゃないとしたら…………自発的じゃないとしたなら。
「誘拐ってことになるのでは?」
自発的じゃないのならば、他人によって気づかれないように連れ去られたと言うこと。
それってつまり、誘拐以外のなにものでもないよな?
『ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ』
あ、これやばい、と思ってナビの音量を落とし。
『誘拐だってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!?』
「ぐわあああああ」
音量を落としても尚、それ以上の大音量が響き、思わずのけ反る。
余りにの騒がしさに、エアの入ったボールがガタガタと揺れるまるでうるさいと言っているようで、分かっていると言ってボールを二度、三度撫でると揺れが収まる。
「落ち着いてください、博士…………まずは自発的なのか、それとも誰か他人によってそれが為されのか、何か手掛かりはないんですか?」
『わ、分かった、探してみる…………取りあえずキミのお父さん、センリくんにも協力を頼むつもりだが、ハルトくんも一度戻ってきてもらえないかい?』
「正直五歳児に何ができるって話ですけど」
『藁にでも縋りたい気分なんだ…………それにキミは頼れる人間だと思っているよ』
五歳児に何故そこまで高い評価を与えているのかは謎だが、博士には恩があるし、それにまだ出会って数日だが友達が居なくなったと言うことであれば戻らないわけにはいかないだろう。
「分かりました、取りあえずはミシロタウンに戻ります」
『すまないね、助かるよ』
通話を終え、ボールを手に取り。
「と、言うわけでエア」
ボールからエアを出す。
「ひとっ飛びお願い」
「まあ仕方ないわね」
ばさっ、とエアの両側の髪が揺れると、ふわりとエアが浮く。
そうして自身を後ろからしっかりと抱き寄せると。
「目、瞑ってなさい」
「了解っと」
言われた通り、目を瞑った瞬間、ぐんと急速に加速し、全身にGがかかる。
と言っても、加減して飛んでくれているのか、思っていたよりも体に負担らしきものは無かった。
ゲームだと、そらをとぶ、の秘伝技が無いとポケモンに乗っての空中移動はできなかったが、当たり前だが、現実でそんな制限あるはずがない。
とは言うものの、ある意味ゲームも間違ってはいないのだ。
簡単に言うと、秘伝マシンそらをとぶ、とは技術だ。
そしてジムバッジとは
つまり、ジムバッジを持っていない現状、本当に空を飛んだ場合、犯罪になる。
けれど…………
空を飛ぶを覚えさせているわけではないので、やや運転は荒いが、そこはエアが気遣ってくれているので安全運転で進めている。
エアが目を瞑れ、と言ったのは飛行の勢いで地表で土煙が舞っているので念のため目を瞑れ、と言っているのだ。
元々ボーマンダと言う種族はレベルが上がるとそらをとぶ、を自力で覚える種族だ。
空を飛ぶことは当たり前のように熟せる。秘伝マシンなど必要ないくらいに。
ある意味、技の枠を使わずに秘伝技を覚えているようなものである。
そうして体感だが数十分ほど時間が経った頃。
ゆっくりとエアが減速していくのが感じられた。
やがて完全に速度を落としきり、勢いを止めて。
「着いたわよ」
その言葉に目を開くと、目の前にミシロタウンが広がっていた。
「やっぱ飛ぶと早いねえ」
「風情が無いって言って止めたのはアンタでしょ」
ジト目でこちらを見てくるエアの視線を笑って誤魔化す。
「さて、まずは母さんに挨拶、と行きたいところだけど…………研究所だろうね」
恐らくそこに博士が待っているはずだから。
腰に巻いたベルトからもう一つのボールを外し、シアを外に出す。
「ふう、やっぱりボールの外は解放感がありますね」
一つ呼吸し、吐き出す。なんだろう、それだけの光景なのに、シアレベルの美人さんがやると絵になるな、と思う。
まあそれはさておき。
「それじゃ行こうか、エア、シア」
「りょーかい」
「ええ」
そうして三人で研究所へと向かった。
* * *
「もう来たのかい?!」
研究所へと入ると、すぐにオダマキ博士がこちらに気づき驚きの声を上げる。
「それより、何か見つかりました?」
「いや…………残念ながら手掛かりらしい、手掛かりは」
唇を噛みしめ、娘の心配をする博士の様子に、どうしたものかと思う。
探すにしても手掛かりが無さ過ぎる。
どうしたものかと悩むが答えは出ない。
「マスター」
と、その時、シアがこちらに声をかけてくる。
「一度その娘さんが最後に目撃された場所に向かってみては?」
「なるほど…………確かにそれはあるかもしれない」
「そちらのお嬢さんは…………いや、今はいい。ハルカが最後に確認されたのは自宅だよ」
自宅、つまりいつの間にか家から抜けでていた?
でも確かあの家は一階にオダマキ博士の奥さんがいつもいたはずだ、博士がいつ帰ってきてもいいようにと寝る時以外はだいたい玄関入ってすぐのリビングにいる。
「奥さんもハルカちゃんが出かけるところを見てないんですか?」
「ああ…………家内も最初は居ないことにすら気づかなくてな、朝食の席にいつまでも来ないハルカを部屋まで探しに行ってそこで初めて気づいたらしい」
「自室、か」
だとすると誘拐と言うのは難しいかもしれない。住人のいる家に侵入し、二階にいる娘を浚う…………そこまでする意味などあるのか?
むしろ、自分から夜のうちに出て行ってしまった、と考えたほうが自然のようにも思える。
「一度ハルカちゃんの部屋を見せてもらってもいいですか?」
挨拶に行った時に通してもらって見た事があるが、普通の女の子の部屋だったはずだが。
「ああ、行ってみようか」
そうしてオダマキ博士も連れて博士の自宅へと向かう。
玄関を潜ると奥さんがいて、心配そうな眼でこちらを見てきた。
「アナタ…………ハルカは」
「まだ分からない…………今ハルカの自室を確認してみようと思って来たんだ」
「…………そう」
「博士、調べるだけならこちらでやるので」
「…………済まないね」
不安そうな表情で赴く奥さんのことは気がかりだが、オダマキ博士に任せることにする。
エアとシア、二人を連れて二階への階段を上って行く。
いくつか部屋があるが、一度入ったこともある部屋だ、間違いようも無い。
部屋の扉を開けるとつい一昨日見たばかりの部屋。
「……………………どう? 二人とも」
「…………特に何も感じないわね」
「こちらもですね」
ポケモンの観点から見れば別段異常は無いらしい。
ただし、自身の観点から見れば、少し違和感を覚える。
「…………たしかここ」
ベッドの下のほう、前に来た時彼女が見せてくれたもの。
「……………………無い」
彼女が、ハルカちゃんがお守りのように大事にしていた。
それに、よくよく見ればあちらこちら。
「割とマメな性格だったみたいだね、ほら、クローゼット、一着一着ちゃんとハンガーにかけてある」
「それがどうかしたの?」
不思議そうに首を傾げるエアに、いくつもの服がかかっているハンガーを掻き分けて。
「どう思う?」
「…………?」
いまいち意味の分からないと言った様子で戸惑うエア、まあそうだろう。
人間の姿をしていても、あくまで彼女たちはポケモンだ。しかもこの間までほとんど野生化していたのだ、分からないのも無理は無い。
そして最後に感じた違和感。
「……………………」
「窓がどうかしたの?」
「カーテン…………あるのに、かかってないね」
「は? それが何かあるの?」
「…………なるほど、まあ推測程度なら立ったかな」
それで具体的に何がどうと言うわけでも無いところが辛いのだが。
「とりあえず降りてみようか」
疑問符を浮かべる二人を連れて一階に降りる。
「ハルトくん…………何かわかったかい?」
「えっと…………その前に奥さんに一つ聞きたいんですが」
「何かしら?」
「
その問いに、奥さんがこくりと頷く。
「あの子が居なくなった時のままよ、何も動かしたりはしていないわ」
なるほど、と一つ頷き。
「じゃあもう一つ」
一呼吸置き。
「
その言葉に、奥さんが僅かに驚いた様子を見せた。
「え、ええ…………
「ハルトくん…………もしかして」
「ええ…………まあ」
その言葉に、二人の目が見開いた。
* * *
トウカシティはそれなりに大きな街である。
そもそもシティと言う名のついている以上、ミシロやコトキタウンとは比べものにならない規模を誇る。
トウカシティはポケモンジムがあることでも知られており、全国からトレーナーが集まる街でもある。
故にその人の流れは雑多であり、街は常に煩雑している。
センリはトウカジムのジムリーダーである。
朝から息子に負けて、嬉しいやら誇らしいやらと完全に親馬鹿全開のままその息子が道半ばまでしか歩いていない中でまだジム関連の仕事があるセンリは急いで街へと戻ってきていた。
トウカジムはトウカシティの中心部のほうにある。割と広い街ではあるが、それでも人の住んでいる円周部とジムなどの施設が密集した中心部と別れているので、そう迷うことも無くジムのほうへとたどり着く。
コトキタウンで起きていた異常事態も解決し、その報告も上げなければならないと思いつつ、ジムへと入ろうとして。
「……………………ん?」
視界の端で、子供がひょこひょこと歩いていく姿を見かけた。
「…………ハルカちゃん?」
それがミシロタウンの自宅の隣人の娘さんであると気づいた時には、すでにその姿は雑踏の中へと消えていった後であった。
センリの元に少女の失踪を告げる連絡が入ったのはその数分後であった。
何故か唐突な推理小説展開。
と言っても大した謎でも無いけど。
次回からはちゃんとポケモンするんでご安心を。
あとそらをとぶ、ですが。
そらをとぶ→自動車教習
ジムバッジ→自動車免許
空→公道
地面→私道
イメージこんな感じで考えれば、分かりやすい。